DX戦略とは? 導入メリットや成功させるポイントを紹介
近年、あらゆる製品やサービスのデジタル化が進んでいるなかで、DXが注目を集めています。DXは、デジタル技術によって企業風土やビジネスモデルを変革していくことですが、業務のデジタル化と混同しがちです。
多くの企業がデジタル化には取り組んでいるものの、DXを達成しているケースは少ないといわれます。そこで、本記事では「DXとはそもそも何か」、「DXを全社的に進めるDX戦略とは何か」を解説しつつ、DX戦略のメリットや成功させるポイントなどを紹介します。
目次
DX戦略とは
DXとは、「デジタル・トランスフォーメーション」の略で、デジタル技術による変革を意味します。また、経済産業省がまとめた「DX推進ガイドライン」では「サービスや製品のデジタル化を進めることでビジネスモデルを変革して、企業の経営方針の転換やグローバル展開等へのスピーディーな対応を可能とするもの」と定義しています。
単に業務のIT化・デジタル化に取り組むだけでなく、ビジネス環境の激しい変化に対応した新しいサービス・製品を創出したり、企業文化やビジネスモデルを変革したりするのがDXです。企業のDX戦略とは、このDXを達成するために中長期的なロードマップを策定し、全社的に取り組んでいくことです。
参考:総務省
「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」の策定
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei07_02000106.html
DX戦略の必要性
DX戦略が必要とされているのには以下のような理由があります。
「2025年の崖」を克服して経営損失を防ぐため
現在、さまざまな企業で取り入れられている既存システム(レガシーシステム)は、老朽化・複雑化して運用やメンテナンスのコストが年々増大しています。さらに、ハードウェア、ソフトウェアともに、重要製品の製造中止やサポート終了が起こることで、現行機能の維持そのものが困難になっています。
また、機能の全体像を知る従業員が高齢化したり、退職したりして、ブラックボックス化しており、更新におけるリスクも高まっています。経済産業省によると、こうした既存システムが刷新されないことで、2025年までにIT人材やサポートの終了による経済損失は、最大で12兆円に上ると予想されています。そのため、現在、多くの企業がDX戦略によるシステム刷新に取り組んでいます。
厳しさを増す市場の変化に対応するため
近年、すでに先行してDXに取り組んでいる企業が競争力を一気に高め、市場のビジネスモデル自体を刷新するというケースが増えています。
たとえば、モノを「所有」するのではなく、マッチングアプリなどを利用して「シェア」するといった、顧客ニーズの変化に対応した企業が、市場で大きなシェアを獲得するといったケースです。既存のビジネスモデルにこだわらず、顧客ニーズの変化に柔軟に対応して市場での優位性を確保するためにも、DX戦略が必要です。
DX戦略のメリット
DX戦略には以下のようなメリットがあります。
業務の効率化と生産性の向上
電子印鑑の導入、経理業務や健康管理業務のクラウドシステム化、パソコン業務を自動化するRPAの導入など、デジタル化によって紙をデータにして一元管理できるようにしたり、業務の一部を自動化したりすることで、管理コストは大幅に削減され、業務も効率化できます。
デジタル化の過程では、業務を棚卸しして、無駄な業務や費用対効果の低いシステムを洗い出していくため、無駄なコストや手間を刷新することができます。DXでは、デジタル化によって空いた人員・リソースを、企業のコア事業や新規事業に集約することで、企業全体の生産性や利益を高めることもできます。
また、業務のデジタル化によって、残業時間が減ったり、テレワーク(リモートワーク)がしやすくなったりすることで、従業員の働き方改革の実現やモチベーションの向上にもつながります。
事業継続性を確保できる
現在、多くの企業が、BCP(事業継続計画)を策定しています。これは、災害など不測の事態が起きたときに、損害を最小限にとどめ事業を継続させる方法を計画しておくことです。このBCPにおいて、DXの推進はとても重要です。
たとえば、DXの推進によって、取引先を巻き込んで電子印鑑を導入すれば、災害で出勤できずにハンコがなくても決済をおこなうことができます。同じように、普段から業務にクラウドシステムを導入したり、テレワークに対応したコミュニケーションツールやセキュリティシステムを構築したりしておくことで、オフィスが被災しても、各人が自宅などから業務をおこなうことができます。
《参考》
BCP(事業継続計画)とは? その目的や災害対策に向けた方針作成手順を解説
https://www.staffservice.co.jp/client/contents/management/column021.html
新しい価値を生み出すビジネスモデルの創出
モノからコトへ、所有からシェア、対面営業からオンライン営業といったように、顧客のニーズやビジネスを取り巻く環境は、急速に変化し続けています。こうした動きに柔軟に対応していくためには、販売データやカスタマーサービスに関するデータを自動収集し、AIを使って解析して、顧客のニーズに合った商品・サービスを開発するといった取り組みが重要になります。
たとえば、自動車配車サービスのUberのように、最新のスマートフォンアプリの技術を活用し、個人が好きなときに、好きな場所で、目的地までの移動手段を確保できるような仕組みを作り、新たな顧客体験(市場)を創出するといったケースがあります。
また、営業面でも顧客情報をデータ化して分析したり、Webコンテンツやメールを使ったマーケティングをおこなったりすることで、顧客の購買タイミングに合わせてアプローチをおこなうことができます。
DX戦略の対象例
具体的に、どのような業務にDXを導入しやすいのかを見ていきましょう。
バックオフィス
デジタル化による業務効率化の一丁目一番地が、経理や人事、総務、法務といったバックオフィスです。営業といったフロントオフィスでも、バックオフィス的な事務作業は発生するので、ひいてはフロントオフィスの効率化にもつながります。
人事評価システムをデジタル化し、従業員の成果や目標を一元的に見える化することで、従業員のモチベーションの可視化や、改善点の把握ができます。
また、見積書・請求書・発注書・契約書といった取引関連書類をペーパーレス化し、クラウド上で管理することで、業務の効率化やコストの削減につながります。また、書類を置いていた社内スペースの有効活用などができます。
フロントオフィス
顧客と直接やり取りをおこなうフロントオフィスでは、顧客へのアプローチ、コミュニケーションの部分に営業支援ツールなどを導入することで、顧客のニーズやタイミングに合った提案などが可能になります。
サービスを利用している既存の顧客とのコミュニケーションでも、たとえば、カスタマーセンターに集約される顧客の意見や評価、クレームなどを分析し、営業現場や開発部署に連携することで、営業のトークやタイミングを見直したり、製品・サービスを改善したり、顧客のニーズに合った新規開発をおこなったりすることができます。
顧客情報管理ツールを活用することで、顧客のニーズやタイミングに合ったメルマガを配信したり、顧客の状態を詳細に把握したりすることで、解約率の低下や、アップセルにつなげることができます。また、営業に関する提案書・企画書などは、書き手によって成果に差が出やすいものです。こうした営業に関連する書類は、効果のあった事例を基に書式をテンプレート化すれば、すべての営業担当者の書類作成能力を向上することができます。
DX導入までのステップ
DX戦略を進めていくための、基本的な手順を紹介します。
① 導入後に実現したい目標・ビジョンを明確にして、社内に周知する
ただ単に最新のデジタル技術・ITツールを導入するだけでは、DXを成功させることはできません。まず、どの事業分野でどのような新たな価値(新ビジネス創出、即時性、コスト削減など)を生み出すことを目指すか、そのために、どのようなビジネスモデルを構築すべきかといった、明確な目標や経営戦略、ビジョンを作成します。その上で、全社的な取り組みにするために、経営者自らがリーダーシップを発揮し、積極的に周知をすることが大切です。
② 導入する対象を決め、体制を整備する
目標・ビジョンを達成するために、デジタル技術・ITツールを導入したり、業務の最適化や業務フローの見直しをおこなったりする分野を決めたら、実際に導入した際の効果を具体的に算出します。
各担当部門がDXに挑戦できるマインドを醸成することも重要です。そのためには、社内のDXを推進する部門を設置するなど、サポート体制を整えることも重要です。
③ 導入後のシステムの効果検証をおこなう
導入したデジタル技術・ITツールを扱う従業員がストレスを感じていないか、部門全体として効果が上がっているか、それが企業全体のビジネスモデルの変革につながっているかをチェックします。
DX戦略を成功させるポイント
DX戦略を成功させるポイントを紹介します
最初はスモールスタートから
最初から企業全体のデジタル化を進める必要はありません。事業や組織によってはアナログの方が相性のよい場合もあるため、デジタル化との親和性が高いバックオフィスなどから少しずつ変革を進めることがポイントです。小規模のDXでノウハウを貯めて、それを横展開したり、全社的なDX戦略に反映させたりするのがよいでしょう。
注意点としては、あくまで企業全体のDX戦略を意識し、連動して進めていくことです。各部門ごとに、必要なDXを個別で進めていった結果、いざ全社的なDXを進めようとしたときに、部門同士の連携が取れなかったり、企業が目標とするビジネスモデルの変革と合致しなかったりする場合が出てくるためです。
DXに対応できる人材、支援サービスの確保
最新のデジタル技術やITツールに精通している人を、社内で確保するのは難しいケースがほとんどです。既存の組織体制ではデジタル化への対応が難しい場合には、DXに詳しい人材を招き、DX推進部門に入ってもらうのもよいでしょう。
また、企業に合ったDX戦略の策定を支援してくれる外部サービスもあります。既存のビジネスモデルやシステムの見直し、目標の設定や、現場の意見集約などは、客観的な視点が必要だったりします。専門家による第三者からのアドバイスを提供してくれるサービスを利用するのも一策です。
もっとも重要なのは従業員の理解
DXの失敗事例としてよくあるのが、導入したものの、従業員が新しいツールについていけずに効果が上がらなかったり、新しいビジネスモデルに共感できずにモチベーションが低下したりするケースです。これは、導入したツールの使い勝手が悪かったり、従業員が「既存のツールやアナログな手法の方が慣れている」といった新しいツールに適応しようとしなかったりすることが原因です。
こうした事態を防ぐためにも、DXを本格的に進める前に、経営者が従業員に対し、DXによって企業が達成したい目標は何か、その達成のためにどのようなデジタル化が必要かといったことを丁寧に説明し、理解させることが重要です。
また、経営層と現場の従業員とで、DXに対する意識のギャップをできるだけ埋めてから、実際の導入に進むようにしましょう。導入した後も、実際にツールを運用する従業員に対し、運用方法を丁寧にレクチャーしたり、使い勝手の部分でアンケートをおこなったりするなどのアフターフォローが大切です。
まとめ
ここまで紹介してきたように、DX戦略は企業によってさまざまです。同じ業種・規模、同じような課題を抱える企業事例をそのまま踏襲しても、企業によって実情は微妙に異なるため、必ずしも成功するわけではありません。
DX戦略を成功させるためには、市場環境の変化や顧客のニーズ、競合他社の状況、そして新しいデジタル技術やITツールなどの情報を集める必要があります。また、ビジネスモデルの変革は、大きなエネルギーを必要とします。そのため、経営者が率先してDXの意義を社内に周知し、取り組む姿勢を見せ、関係する従業員を巻き込み、全社的な取り組みにしていくことが重要といえそうです。
《ライタープロフィール》
山本淳(やまもと・じゅん)
ライター/フリー記者(政治・経済)
早稲田大学中退後、テレビのニュース番組やネットメディアの記者を経験しフリーに。記者歴15年。一次情報をもとにした正確性と、専門家や当事者へのヒアリングをもとにした現場感をモットーに、記事を執筆。