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変形労働時間制とは? 1ヶ月・1年の違いやメリットデメリット、残業の扱いをわかりやすく解説

変形労働時間制とは? 1ヶ月・1年の違いやメリットデメリット、残業の扱いをわかりやすく解説

変形労働時間制とは、一定期間内における労働時間を柔軟に調整する制度のことです。本来、労働基準法では、1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならず、それ以上労働させる場合は時間外労働として残業代を支払う義務があります。
 
しかしながら、業種によっては繁忙期などで労働時間が増加することもあります。逆に閑散期は法定労働時間よりも短くなることもあるでしょう。そこで使用者は変形労働時間制を導入することで、週や月ごとにバラつきがある場合にも労働時間を柔軟に調整することが可能になります。

本記事では、変形労働時間制度のメリットやデメリット、導入の流れまで詳しく解説します。変形労働時間制の導入を検討している企業のご担当者は、ぜひ参考にしてみてください。


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変形労働時間制とは?

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変形労働時間制とは、業務の繁閑や特殊性に応じて、使用者が調整をしながら労働時間の配分をおこなう制度です。

変形労働制には、1週間単位・1ヶ月単位・1年単位と分かれており、事業者の業務実態などに応じて、適切な労働時間制度を選択します。

たとえば、月初や月末あるいは特定の週が忙しい場合は、1ヶ月単位の変形労働時間制を利用し、特定のシーズンや月が忙しい場合は、1年単位の変形労働時間制を採用します。具体的には、春先が繁忙期の引っ越しドライバーや、冬が書き入れ時のスキー場、さらに月ごとに業務量が異なる教員にも適用されています。

使用者は業務量に応じて労働時間を調整することで、余計な残業代を支払わずに済むようになります。ただし、変形労働時間制を導入した場合でも、法定労働時間を超えた分は時間外手当(残業代)を支払わなければなりませんので注意しましょう。

なお、厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、変形労働時間制を採用している企業の割合は全体の59.3%となっており、平成30年の調査時(60.2%)よりも0.9%減少しています。

種別ごとの内訳では、1年単位の変形労働時間制を採用している企業割合は31.5%、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用している企業割合は24.0%となっています。
参照:令和5年就労条件総合調査結果の概況|厚生労働省

類似する制度との違い

変形労働時間制と混同されがちな制度に「フレックスタイム制」「裁量労働制」があります。変形労働時間制は、あくまでも使用者が労働時間を臨機応変に運用する制度です。

一方、フレックスタイム制や裁量労働制は、労働者がそれぞれに合った形で労働時間をフレキシブルに運用する制度です。今一度、それぞれの違いを正しく理解しておきましょう。

・フレックスタイム制

フレックスタイム制は、労働者の裁量で出社時間・就業時間を決めて働く変形労働時間制の一種です。一定の期間において必ず勤務が求められる時間帯(コアタイム)に勤務していれば、自由に出勤・退勤が可能です。

・裁量労働制(みなし労働制)
裁量労働制は、実際に働いた労働時間の長さではなく、「あらかじめ定めた時間分を働いたとみなす」労働時間制度のことで、みなし労働制とも呼ばれます。

たとえば、研究・開発職や専門職などは時間的な制約を設けることで、かえって作業効率を下げてしまうことがあります。日によって遅くまで研究に没頭することもあれば、リフレッシュのために休憩を長く取ることで作業効率が上がることもあります。

このように、裁量労働制は働き方を個人の裁量に委ねる際に導入されます。裁量労働制を導入した使用者側は、仮に1日8時間(みなし労働時間)の契約を交わした場合、実際の労働時間にかかわらず8時間分の報酬を支払えば良いことになります。

近年テレワークが普及したことで、時間や場所に縛られない自由な働き方として裁量労働制が注目を集めています。一方、裁量労働制は過重労働の温床になりやすいという点も念頭に置いておきましょう。

・シフト制(交代勤務制)
シフト制(交代勤務制)は、24時間稼働している工場や病院、あるいは年中無休で営業しているコンビニや飲食店など、曜日や時間帯ごとに従業員同士が交代で勤務してもらうための制度です。週によって勤務日や休日が決まっていないため、労働者の希望と使用者が必要な人員体制を考慮して決定できます。

ただし、シフト制であっても労働基準法が適用されるため、1日の稼働時間が8時間(週40時間)を超える場合は残業代の支給が必要になります。

変形労働時間制のメリットとデメリット

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業務の繁閑に合わせて柔軟に労働時間を調整できる変形労働時間制の導入によるメリットとデメリットを解説します。

変形労働時間制のメリット

・無駄のない働き方で残業時間を削減できる
労働基準法では、使用者は1日8時間・週40時間を超えて労働させてはならず、超えた分は残業代を支払う義務があります。

しかし、繁忙期がある業態の場合、1日10時間働く日も生じるため、使用者からすれば残業代が増えてしまいます。そうした場合に、変形労働時間制で定めた範囲であれば、1日の労働時間が8時間を越えても残業代は発生しません。繁忙期の所定労働時間を長く設定することで、残業代を削減できます。

変形労働時間制のデメリット

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変形労働時間制はメリットばかりではなく、デメリットもあります。変形労働時間制を導入する際は、あらかじめデメリットも加味したうえで検討を進めるようにしましょう。

・労働時間の管理作業が発生する
変形労働時間制は、日や週によって所定労働時間が異なるため、労働者の勤怠管理が複雑化し、管理作業も煩雑になりがちです。

さらに、一部の部署にだけ変形労働時間制を適用する場合、同じ企業でありながらも就業時間が異なるといった状況が発生します。変形労働時間制を適用している部署が業務を終えたとしても、他部署との連携が必要になる場面では、変形労働時間制の効果が薄れてしまう可能性があります。

・残業代が減ることに不満が出る可能性がある
残業代の削減は使用者側にとってコスト削減になりますが、一方労働者側からすれば収入が減ることを意味します。

労働者のなかには生活を維持するために残業代を当てにしている方も少なくありません。そのため、変形労働時間制を導入する際は、労働者に対してあらかじめ制度の概要や導入の目的・背景を説明し、正しく理解してもらう必要があります。

期間による変形労働時間制の違い

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変形労働時間制は、「1年単位」「1ヶ月単位」「1週間単位」の3種類があり、それぞれ労働時間を精算する単位によって分かれています。

▼労働時間・時刻など ①1年単位の変形労働時間制 ②1ヶ月単位の変形労働時間制 ③1週間単位の非定型的変形労働時間制
休日の付与日数と連続労働日数の制限 週1日 週1日または
4週4日の休日
週1日または
4週4日の休日
1日の労働時間の上限 10時間   10時間
1週の労働時間の上限 52時間    
1週平均の労働時間 40時間 40時間
(特例44時間)
40時間
時間・時刻は会社が指示する
あらかじめ就業規則等で時間・日を明記  
特定の事業・規模のみ特定の事業・規模のみ     ○(労働者数30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店)

① 1年単位の変形労働時間制

年単位の変形労働時間制は、年間で繁忙期と閑散期がはっきりしている業種のための制度です。繁忙期だけ労働時間を増やし、閑散期に労働時間を減らすことで、年間の平均労働時間を所定労働時間(1日8時間・週40時間)に調整することが可能です。

② 1ヶ月単位の変形労働時間制

月単位の変形労働時間制は、1ヶ月単位の平均労働時間を所定労働時間(1日8時間・週40時間)内で調整する制度です。

この制度では1ヶ月単位で労働時間を調整すれば、1日の労働時間や休日の制限がありません。そのため、長時間労働になりがちな長距離ドライバーや警備員などの業種に適用されることが多くなっています。

月の前半が忙しく、後半にはゆとりがあるならば、前半の就業時間を8:00~19:00(実働10時間)とし、後半を9:00~16:00(実働6時間)といったように、柔軟に労働時間を定められます。

ただし、使用者側による制度の乱用を防ぐために、「年間休日最低85日以上」、「1日の労働時間の上限は原則10時間」、「1週間単位での労働時間の上限は原則52時間」といった制限があります。

③ 1週間単位の変形労働時間制

1週間のなかで、曜日の繁閑にあわせて労働時間を調整し、平均して所定労働時間内(週40時間)におさまるように調整する制度です。ただし、1週間単位の変形労働時間制の対象は、規模30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業者のみとなります。

変形労働時間制の届出の流れ

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事業者が変形労働時間制を導入するには、一定の条件を満たしたうえで所轄の労働基準監督署へ届け出ることが必要です。ここでは、変形労働時間制の届出の流れを手順に沿って解説します。

1.現状の調査・把握

まずは勤務実態の調査・把握から始めましょう。繁忙期と閑散期がいつなのか、どれくらいの労働時間が適切なのかが具体的にわからなければ、変形労働時間制の効果的な運用ができないためです。

また、調査した内容は労働基準監督署の提出書類に記載する必要があるため、正確に調査しましょう。

2.対象者の選定と労働時間の決定

変形労働時間制の対象とする従業員(部署)や労働時間を決めます。調査内容と照らし合わせながら、労働時間超過が起こりやすい時期、労働時間を超過している従業員に対し、どのように調整すべきか検討していきます。

3.就業規則の見直し

変形労働時間制を導入することで、これまでの労働条件と変わるため、就業規則の内容を見直しましょう。就業規則には、次のような内容が規定してあると良いでしょう。

● 対象労働者の範囲
● 対象期間および起算日
● 労働日および労働日ごとの労働時間
● 有効期限

参照:労使協定または就業規則などに定める事項|労働基準監督署

4.労使協定の締結

週単位、もしくは年単位の変形労働時間制を導入する場合は「労使協定」を締結する必要があります。労使協定には、以下の事項を定める必要があります。

● 対象労働者の範囲
● 対象期間と起算日
● 特定期間
● 労働日と労働日ごとの労働時間
● 労使協定の有効期間

ただし、1ヶ月単位の労働時間制の場合は、「就業規則」あるいは「就業規則に準じたもの」に上記の内容を定めていれば、労使協定の締結は不要です。

5.労働基準監督署へ届出

労使協定を締結したら、「労働基準監督署」へ届出をおこないましょう。届出には厚生労働省が指定した、「1年単位の変形労働時間制に関する協定届様式第4号(第12条の4第6項関係)」が必要です。

参考:労働基準法関係主要様式|厚生労働省

6.社内への制度伝達と運用

届出まで完了したら、いよいよ運用開始となります。ただし、労働時間の変更は現場の混乱をきたす可能性があります。人によっては残業時間が減ることに不満を抱える方もいるでしょう。

少なくとも導入の1ヶ月前には全社員に対して、制度の概要や導入背景を説明し、その他質疑応答の時間を設ける必要があります。また、運用開始後は設定した就業規則や労働時間を遵守して運用しましょう。

とりわけ変形労働時間制は管理が煩雑・複雑なため、いつしか就業時間があいまいになり、制度として機能しなくなる可能性もあります。勤怠管理を徹底し、労働基準法違反にならないように注意しましょう。

変形労働時間制における残業の扱い方

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変形労働時間制を正しく運用することで、残業代の大幅な削減効果が期待できます。一方、変形労働時間制を導入しても残業がなくなるわけではありません。規定の労働時間を越えた場合は残業代を支払う必要があります。

また、どの変形労働時間制を採用するかによって、残業時間の計算方法が異なりますので、注意してください。ここでは、各変形労働時間制の残業時間の計算方法を解説します。

1年単位の変形労働時間制における残業時間の取り扱い

1年単位の変形労働時間制では、「日の単位」「週の単位」「年の単位」といった3つの観点で残業時間を集計します。

■日の単位
1日8時間を超えるシフトを組んだ場合、シフト時間を超えた分から残業となります。一方、1日8時間以下のシフトを組んだ場合は、8時間を超えた分から残業として扱います。

例:1日の所定労働時間が10時間の場合、10時間超から割増賃金が発生

■週の単位
1週間で40時間を超えるシフトを組んだ場合、シフト時間を超えた分から残業となります。一方、40時間以下のシフトを組んだ場合、40時間を超えた分から残業として扱います。ただし、1週間単位で計算する場合は、1日単位で計算した残業時間は除外します。

例:1週間の所定労働時間が50時間の場合、50時間超から割増賃金が発生

■年の単位
1年365日(うるう年は366日)を7で割り、その値に40をかけて年間の法定労働時間を求めます。労働時間のうち、法定労働時間を超えた分が残業時間となります。

<計算式>
1年間の法定労働時間=40時間 ✕ 対象年の日数/7

365日の年間法定労働時間=2,085時間42分
366日の年間法定労働時間=2,091時間24分

1ヶ月単位の変形労働時間制における残業時間の取り扱い

1ヶ月単位の変形労働時間制の場合であっても、前日に労働時間を設定することは認められません。あくまでも、あらかじめ始業時刻・終業時刻を設定されていることを前提に、残業時間を計算する必要があります。そのため、通常よりも残業時間の取り扱い方が複雑になります。

具体的には以下のような考え方となります。
1.1日において、8時間を超えた労働時間を特定している日については、その時間を超えた分を時間外労働とみなす。
2.1週間において、40時間を超えた労働時間を定めた週については、その時間を超えた分を時間外労働とみなす。ただし、1.に該当する部分は除外する。
3.1ヶ月において、事前に定められた所定外労働時間を超えた分を時間外労働とみなす。ただし、1.2.に該当する部分は除外する。

変形労働制を採用する場合、管理が複雑・煩雑化することで、時間外手当の削減につながる反面、管理コストの増加につながる可能性が高くなります。

そのため、都度1人あたりの割増賃金の計算をおこなうよりも、一律に割増賃金を支払うという方法が現実的であるといえるでしょう。

1週間単位の変形労働時間制における残業時間の取り扱い

1週間単位の変形労働時間制では、労働者が1週間に働いた時間のうち、40時間を超えた時間が残業時間となります。

変形労働時間制での時間外労働賃金について

変形労働時間制の場合でも、時間外労働賃金(残業代)の計算方法は通常と労働契約と変わりません。深夜残業や休日労働の場合も同様です。詳細は以下を参考にしてください。

● 時間外労働:1.25倍以上の割増賃金
● 休日労働:1.35倍以上の割増賃金
● 深夜労働:1.25倍以上の割増賃金
● 深夜残業:1.50倍以上の割増賃金
● 深夜時間帯の休日労働:1.60倍以上の割増賃金

まとめ

変形労働時間制は、業務の繁閑によって労働時間を柔軟に変更できるため、上手く活用できれば残業代の大幅な削減につながります。従業員にとっても、メリハリのある働き方を実現できるため、就業満足度の向上も期待できるでしょう。

しかし、変形労働時間制は設計が複雑で導入後の管理も煩雑になりやすいため、誤った運用により残業代が未払いになってしまうこともあります。導入を検討する際は、あらかじめ所轄の労働基準監督署に相談をするなどして、正しい運用を徹底しましょう。

<ライタープロフィール>
高橋洋介 フリーランス/採用コンサルタント
リクルートと広告代理店にて求人広告営業に従事。主に中小企業を中心としたアルバイト・中途社員の採用支援を行う。在職中にGCDFキャリアカウンセラー、国家資格キャリアコンサルタント資格も取得。独立後はフリーランスとして企業の採用実務支援から、Webマーケティング支援など幅広く活動している。

<監修者プロフィール>
わん
弁護士として日々訴訟対応、法律問題問合せ対応、法務教育、契約審査などに携わる。雇用終了時のトラブルといった労働問題のほかに、債権回収やローン契約や社内法務教育に関する案件を経験。弁護士として法務教育の講師を実施していた経験を活かし、「分かりやすい」を常に意識した文章を作成するように心がけている。