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HR Techとは?導入するポイントやメリット・デメリットをご紹介

HR Techとは?導入するポイントやメリット・デメリットをご紹介

人事業務には、人材採用をするための活動の他にも、入社後の労務管理や組織マネジメントといったさまざまな業務があります。働き手が不足している近年では、人事業務に回す人手が足りず、お悩みの企業も多いでしょう。本記事では、人事業務を効率化できるHR Techについて紹介します。

HR Techとは?

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HR Tech(HRテック)とは、人事を意味するHR(Human Resources)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた言葉でITテクノロジーを用いて人材採用や労務管理、組織マネジメントなどの人事業務を効率化する手法です。これまでアナログでおこなわれることがほとんどだった人事業務のデジタル化は、革新的な手法と言えるでしょう。

HR Techが広がっている背景


近年、HR Techが注目されている背景には、大きく3つのポイントがあると考えられています。

■人手不足に伴い人事業務の重要性が高まっている
日本は、少子高齢化・人口減少時代の到来によって、かつてないほどの人材不足に直面しています。帝国データバンクが2022年1月18日~2022年1月31日に全国2万4,072社を対象に行った調査によると、正社員について「不足」していると回答した企業は47.8%(前年同月比11.9ポイント増)でした。

新型コロナウイルスの影響を受けて、大きく低下していた企業の人手不足感は、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた2020年2月と同水準まで上昇しています。一方、過不足状況が「適正」と回答した企業は42.0%(同4.5ポイント減)、「過剰」と回答した企業は10.3%(同7.3ポイント減)とそれぞれ低下しています。

人手不足によって人事業務の重要性は今後ますます高まると考えられるため、ITテクノロジーによる効率化に期待が寄せられています。

【参考】帝国データバンク:人手不足に対する企業の動向調査(2022年1月)
https://www.tdb-di.com/special-planning-survey/sp20220224.php

■働き方の多様化へのニーズが高まっている
テレワークの推進、ジョブ型雇用の導入、副業や週休3日制、時短勤務、ワーケーションなど、近年は働き方の多様化が求められています。人事戦略の見直しは、企業の成長力や業績に大きく影響します。また、将来を見据えた企業構造の再構築のための黒字リストラ、DXやSDGsへの対応など、時代の変化に伴う人事の課題は山積みとなっています。

これらの課題に対して適切に対応していくためには、人事業務の効率化が不可欠です。HRテックを活用すれば、労務管理などの定型的な人事業務の負担を軽減でき、人事戦略の立案や実行、採用・配置などのコア業務に注力できるようになります。

■HR Techの効果への期待値が高い
HR Techの導入によって、人事業務のデータ化や一元管理、ワークフローの効率化、コスト削減、的確な評価による公正性の確保、データ活用による採用人材の質の向上、分析データを用いたスピーディな意思決定など、さまざまな効果が期待できます。

AI(人工知能)による面接を導入する企業も増えてきました。新卒採用や中途採用、アルバイト採用まで、企業の採用シーンでこれからますます増えていくかもしれません。

HR Tech現在の動向


労働市場における流動化や生産年齢人口の減少、DX化の進展とともに大きく変化しつつある企業の人材需要の多様化などを背景に、HRテックの市場規模は近年急速に需要が拡大しています。ある調査によると、2019年の市場規模は1,199億円。2023年には2,054億円になると予想されています。

アメリカでは、2019年時点で約160億ドルの市場規模に成長。2027年までの年平均成長率が11.7%と予測され、右肩上がりになると考えられています。アメリカと比較すると、日本の市場規模はまだ小さいものとなっていますが、コロナ禍も相まって労働環境は急速に変化しています。

市場の変化、働き方のニーズの多様化に伴い、人事業務におけるITテクノロジーの活用は今後不可欠になっていくはずです。HR Techの導入による効率化、戦略性の向上への期待値は高く、これから伸びていく分野と考えられています。

【参考】シード・プランニング、HRテクノロジーの市場規模を算出

HR Techのメリット

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注目が高まっているHR Techですが、具体的にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。まずはメリットから見てみましょう。

効率化と戦略性の向上

勤怠管理や給与計算、各種証明書の発行などのルーティンワークは、HR TechのRPA技術によって自動化することが可能です。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)とは、ソフトウエアロボットによってコンピューター上の作業を自動化・半自動化する技術です。すでに日本国内の多くの企業で導入が進んでいます。日常的な事務作業をロボットに任せることによって、人事担当者の業務負担が軽減され、人事制度の改善や人事採用戦略などの重要な業務に専念することができます。

コスト削減

RPAは、規模によっては月額5万円程度の低コストで導入できます。給与計算やデータ入力など、これまで数人でおこなっていた事務作業をRPA1台で代行してもらえるようになり、24時間・365日働いてもらうことも可能です。残業手当も有給休暇も必要ないため、人件費が大幅に削減できます。社員も単純作業から解放されることで、ストレスや残業が軽減し、生産性の向上が期待できます。

人事評価を見える化し、公正性の確保

人事評価はプロセスがブラックボックス化しやすく、従業員が不満を持つことも少なくありません。また、評価者ごとに評価基準にバラつきがあり、公正に評価できていないことも。HR Techを導入することで評価に関するデータを一元化し、評価プロセスや評価基準を見える化することができます。人事評価の公正性を確保することで従業員の納得度も向上し、モチベーションアップが期待できます。

採用人材の質の向上


人工知能(AI)を活用した中途採用支援サービスは、豊富なデータベースからAIがお薦めの候補者を毎日紹介してくれたり、中途採用における複数のエージェントからの候補者情報を一元管理できたりするサービスがあります。HR Tech導入によって優秀な人材に出会える可能性が広がり、採用人材の質が向上します。また、エントリーシートの内容をチェックできるAIによる人材解析サービスを活用すれば、採用業務も効率化。解析されたデータによる戦略的な採用活動が可能になります。

分析データを用いたスピーディな意思決定が可能


HR Techを活用すると、社員のスキルや異動希望のデータなども一元管理できます。客観的なデータに基づいた配置やその後の効果測定、データ分析なども簡単にできるため、採用・異動・配置など、結論を出すのに時間がかかっていた人事業務も効率化。分析データを用いることでスピーディな意思決定が可能になります。職場満足度調査やコンディションチェックなどの社員データも仕組み化でき、離職予兆を把握できるソフトもあります。離職が防止しやすくなり、定着率アップが期待できます。

HR Techのデメリット

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HR Techのデメリットについても見てみましょう。

人事評価が機械的になりすぎないよう注意


人間はロボットではありません。成長意欲や学習意欲、チームワーク、メンバーへの動機づけなど、数値化しにくい人事評価のポイントもあります。データだけに頼りすぎてしまうと、社員の不満や不信を生み、離職を招きやすいリスクがあります。数字や売り上げだけを評価基準にしない、上司と部下で話し合いフィードバックを丁寧におこなうなど、人事評価が機械的になりすぎないよう注意が必要です。

AIの情報リソースに注意


HR Techによる人事評価や面接は、「AIにどのような学習をさせるか」がポイントになります。過去の採用データや現在活躍している人材のデータだけを評価基準や採用基準にしてしまうと、人材の画一化を招き、多様性が失われるリスクがあります。AI の長所・短所をよく理解し、とりわけ AI の情報リソースとなるデータやアルゴリズムには十分注意して運用することが必要です。

個人情報が漏えいしないよう注意


HR Techが扱う情報には、従業員・求職者の経歴や連絡先、人事評価、業績、志向など、重要な個人情報が膨大に含まれます。万一情報漏えいした場合は、非常に大きな問題に発展します。セキュリティ対策は万全におこない、HRテック事業者との個人データの取り扱いに関する契約内容(安全管理、再委託の可否、事故発生時の対応、契約終了後のデータの取り扱いなど)も慎重に検討することが重要です。

HR Techの導入ポイント

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HR Techを上手に活用するためには、どのようなことが必要なのでしょうか。HR Tech導入における、3つのポイントを紹介します。

①社内で受け入れられるための土台を作る


HR Techを導入する際には、まずは社内で受け入れられるための土台を作ることが必要です。社内にはITリテラシーが低い人もいるかもしれません。AIによる人事評価やRPAによる事務作業の代行などに抵抗を感じる社員もいるでしょう。なぜ導入するのか、どのように運用するのか、何の業務を代行してもらうのか、何を目指すのか。これらを整理して「導入する理由」や「運用ルール」「改善する業務」「達成目標」を人事業務に携わる社員に対して事前に明示しましょう。

②改善したい業務に応じた適切なソリューションの導入


人事分野は非常に幅広く、人事制度の構築・運用、採用、人材配置、勤労・労務、人材管理・規定、教育、給与・厚生、理念・社内浸透など、さまざまな業務があります。どの業務をHR Techによって代替あるいは高度化するのか、慎重に検討し、改善したい業務に応じた適切なソリューションを導入しましょう。HR Techで利用できる技術は、主に次の3つになります。

・AI
人材管理に関するHR Techは、タレントマネジメントシステムと呼ばれ、従業員に関する情報を一元的に管理できます。人事評価においては、AIが評価シートの作成から催促・集計までワンストップで代行し、評価の甘辛も調整。社員のデータベースから目標設定・評価・査定・給与確定まで人事評価の運用を一元管理できるサービスもあり、評価業務の負担を軽減できます。採用においても、応募者の情報からスキルや志向、キャリアプランと各部門の希望などをマッチングし、AIが面接をおこなうサービスもあります。

・ビッグデータ
ビッグデータとは、従来のデータベース管理システムなどでは記録や保管、解析が難しい巨大なデータ群を指します。経歴・スキル・評価・志向など、従業員に関する膨大なデータから活躍する人材の特徴を分析し採用に活かすことも、過去に離職した人材の傾向から離職者の予測をすることも可能です。採用管理システムには、応募者のビッグデータから企業とのマッチングを予測するサービスや、入社後の適切な配置、人材の管理・育成、エンゲージメントの向上など、幅広い目的に活用できるHR Techもあります。

・クラウド
クラウドとは、自社で大規模なインフラを持たずともインターネット上で必要に応じてサービスを活用できる仕組みです。クラウドサービスを活用すれば、パソコンに限らず、スマホやタブレットなどの携帯端末からでもHR Techの情報にアクセスできます。社会保険や福利厚生の加入管理、労使関係管理などの業務を効率化させるための労務管理システムも、膨大な応募者データや付随する選考データを管理する採用管理システムもクラウド上で管理することができ、テレワークでも対応しやすくなっています。

③人事業務に携わるITリテラシーの向上

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日本におけるHR Techの導入が進んでいないのは、ITリテラシーの低さが大きな原因であると言われています。欧米では子どもの頃からデジタルツールに触れているためHR Techが積極的に導入されていますが、日本ではデジタルツールにアレルギーを感じる人が多く、それが普及を阻む壁となっているようです。HR Techを導入しても人事の現場で活用されず、形骸化してしまう場合もあります。HR Techを導入する際は、ITリテラシーの向上が不可欠です。デジタル環境や設備を整えることはもちろん、ITに関する研修やオンラインセミナー、IT関連の資格取得支援などの施策も実施する必要があるでしょう。

まとめ

これまではあまり注目されていなかった人事業務のデジタル化ですが、人事業務の重要性の高まりと共に、テクノロジーの進歩や労働環境の変化、人口減少や人手不足の問題など、さまざまな理由によって導入の機運が高まってきています。

クラウドサービスの進化によって導入コストも低減化し、大企業に限らず、中小企業やベンチャーでも導入する企業が増えつつあります。HR Techは、人事業務の効率化やコスト削減、人事評価の公正化、採用人材の質向上、意思決定のスピードアップなど、さまざまなメリットが期待できます。激しく変化する働き方に対応できる手法として、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか?

※当コラムに掲載されている情報は2022年2月時点のものです。


《ライタープロフィール》
ライター:鈴木にこ
求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。派遣・新卒・転職メディアの編集協力、ビジネス・ライフスタイル関連の書籍や記事のライティングをおこなう。