企業に採用基準はなぜ必要?人事担当者が押さえたい決め方のポイント5項目と注意点を紹介
採用活動においてもっとも重要なのは、自社が求める条件を満たす人材を採用することです。そのためには、面接官の主観やフィーリングで採用するのではなく、自社が求める条件に人材がマッチしているのか判断するための採用基準が必要です。採用基準を設けておくことで、面接官同士で選考に個人差が出にくくなり、必要な人材を取りこぼすことなく採用する助けとなります。
本記事では、採用基準が必要な理由や人事担当者が押さえておきたい5つのポイント、そして採用基準を作成する際の注意点について分かりやすく紹介します。
目次
採用基準とは
採用基準とは、採用時に面接官によって選考に個人差が出ないよう、人材が自社の求める条件にマッチしているか判断するための基準です。また、面接官の個人的な主観をできるだけ排し、公平に採用することも採用基準の目的となります。
採用基準を設定しておくと、人事部の面接官と現場の面接官とで求職者の評価にギャップが生じるのを抑え、面接の通過率が上がりやすくなります。採用基準を面接官同士で共有しておけば、入社後のミスマッチを防ぐことも可能なため、早期離職の防止にもつながるでしょう。
なぜ採用基準が必要?
採用基準の必要性について3つの点で整理します。
自社の求める人材か判断をするため
採用基準は自社の求める人材かどうか、面接官が判断するために必要です。採用基準を設けておかないと、面接官同士で異なる判断をする可能性があります。その結果、「人事の面接は通過したけれど、現場の管理職の面接は不合格だった」ということが起こり得るのです。
また、職場が求める人材像を人事部が認識できていないと、せっかく採用したのに職場環境へ馴染めず離職されたり、なかなか戦力化できなかったりすることもあるでしょう。
しかし、採用基準を設けておくと、職場が求める人材を採用しやすくなるので人材の定着につながります。早期離職が起きれば人材育成の効果が得られず、新たに人材を採用しなくてはいけません。結果的に余計な採用コストがかかりますので、採用基準の設定はとても重要なのです。
選考を公平に進めるため
選考を公平に進めるためにも採用基準が必要です。基準を設けずに面接をおこなうと、どうしても面接官の主観で面接結果を判断しがちになります。すると、採用した根拠がバラバラになり、不適切な職場に人材を配属することになりかねません。
なお、厚生労働省は「応募者の基本的人権を尊重した公正な採用選考を実施する」ことを企業に求めています。採用にあたって「応募者の基本的人権を尊重すること」「応募者の適性・能力に基づいて行うこと」の2つを基本的な考え方とし、採用活動をおこなうことが重要だとしているのです。公正な採用選考を実施するためにも、採用基準を設けることが求められるでしょう。
採用活動の効率化
採用基準が必要である理由には、採用活動の効率化も挙げられます。採用活動は専門性が高いため、業務内容を標準化しておかないと属人化しやすくなるものです。採用基準を設けておけば、採用担当者が離職したとしても引き継ぎが容易になりますし、採用担当者を複数に増やした場合でも採用基準にブレが生じなくなるでしょう。
属人化を防げることで、たとえば、元々は人事部だけで採用活動をおこなっていたが、新しく職場の管理職にも面接官を務めてもらうとった際もスムーズに移行できるかもしれません。このように、採用基準は採用活動の効率化も期待できるでしょう。
採用基準を決めるときのポイント5項目
採用基準を決めるときに押さえておきたい5つのポイントを紹介します。
就職市場のトレンドを押さえる
採用基準を決める際にまずやっておきたいのは、就職市場のトレンドを押さえることです。新卒・中途採用とも民間企業が公表している採用市場のレポートを参考に、自社の企業規模や業界の就職市場のトレンドを照らし合わせて、どの程度のラインが採用基準として妥当であるかを確認しましょう。就職市場のトレンドを押さえておくことで、競合他社に比べて高過ぎる採用基準を設定することもなく、目標とする人数の採用が可能になります。
実務で必要なスキルなどを現場にヒアリングする
採用基準は、人事部の狭い枠組みだけで決めないことが必要です。現場にヒアリングすることで、現場が求めるスキルや人材像、経験、資格、学歴を採用基準に落とし込むことができます。
たとえば、現場が機械学科を専攻した新卒を求めているとしましょう。しかし、現場の声を踏まえた採用基準を作らいと、専攻分野以外の理系新卒を採用してしまうかもしれません。すると、現場では「戦力化に時間がかかる」「職場に馴染まない」など不満が生じることになります。現場にヒアリングした結果、人事部と現場の考え方を以下のように整理しましょう。
・人事部の考え方
コミュニケーション能力が高く、先輩社員や上司にも強く自己主張できる人材が必要。書類仕事が多いので文書作成力に長けた人材が求められる。
・現場の考え方
激しい職場なので自己主張できる人材が欲しい。大学時代に機械系もしくは電気電子系を専攻した人材が採用条件である。
以上のように人事部と現場の考え方を整理すると、コミュニケーション力に関して両者は一致しています。次に人事部が考える文章作成力、現場が考える大学時代の専攻分野を加えることで、両者の考え方を整理できるでしょう。
コンピテンシーモデルを作成
コンピテンシーモデルを活用して採用基準を作成する方法もあります。コンピテンシーとは高業績者に共通する行動特性のことで、会社によって異なります。自社独自のコンピテンシーモデルを作成することで、採用基準に活用するのです。
コンピテンシーモデルを作成する際は、自社で高い業績をあげている従業員の行動を観察して、どのようにして成果につなげているのか行動を分析します。作成時は管理職・リーダー・若手社員ごと階層別に分けて作成する場合と、さらに営業職・技術職・研究職などと職種別に細かく分けて作成する場合があります。
規模が大きく多角的な事業をおこなっている企業では、階層別・職種別に分けてモデルを作成することで実態に合ったコンピテンシーモデルが作成可能です。以下に、コンピテンシーモデルの項目の一例を紹介します。
■若手社員
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■リーダー
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■管理職
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階層によって数も内容も異なっていき、階層が上がるごとに求められるコンピテンシーのレベルが高くなっています。
たとえば、若手社員では正確に仕事をこなすこと(正確な業務遂行)が求められますが、リーダーになると自身の仕事の管理をしていくこと(進捗管理)が求められるようになります。そして管理職では仕事を計画的に進めると共に、目標達成に計画的に進めるため組織を束ねること(計画組織力)が求められるようになるのです。
コンピテンシーモデルには、項目ごとに求められる行動を文章で定義する必要があります。たとえば「正確な業務遂行」であれば、「上司や上位等級者の指示の下、定型的な業務を正確に遂行する」のような定義です。このように項目と求められる行動を定義することでコンピテンシーモデルができあがり、採用基準として活用できるでしょう。
人材に求める条件の優先順位を選定
採用基準を作成しようとすると、あれもこれも基準に入れたくなります。しかし、採用基準を作成する際は、人材に求める条件の優先順位を選定することがポイントになります。
コンピテンシーモデルの例では、5~6つの項目を紹介しましたが、リーダーなら「リーダーシップやストレス耐性を入れたい」、若手社員には「マナーや協調性を入れたい」という要望が出てきやすいでしょう。モデルは5~6つの項目に留める必要はありませんが、あれもこれも入れようとすると採用基準が分かりにくいものになってしまいます。
採用基準の目的は、人材が自社の求める条件にマッチしているか判断し、公平に採用することです。つまり、運用しやすいものでなくてはならないので、人材に求める条件の優先順位を元に項目を選別しましょう。選別の結果、項目が7~8つになっても構いませんが、項目の枠は決めておくとよいでしょう。
選考ステップごとに採用基準を厳しく設定する
作成した採用基準を元に選考ステップごとに厳しい設定とすることも、運用では大切なポイントです。一次面接から役員面接まで、選考が進むにつれて採用基準をハイレベルなものにしていきます。
採用基準を決める際の注意点
ここまで、採用基準を作成するポイントを紹介しました。最後に、採用基準を実際に決める際の注意点についてご説明します。
社内全体の意見を反映
採用基準を決める場合、経営陣と現場を含めた社内全体の意見を反映するようにします。人事部だけで採用基準を決めてしまうのではなく、求める人材や必要なスキル、経験について詳しくヒアリングした内容を反映してください。これによって、面接官同士で判断基準の相違を減らすことができます。
新卒と中途は採用基準を分ける
次に、新卒と中途は採用基準を分けて決めることに注意しましょう。コンピテンシーモデルで説明した通り、若手やリーダーでは求められる行動特性が違います。新卒と中途採用者に求める採用基準を一緒にしてしまうと、選考において大雑把な判断に陥りがちです。新卒と中途の採用基準を明確に分け、場合によっては職種ごとに分けて設定することで、面接官が運用しやすい採用基準になります。
採用基準は細かく言語化する
面接における運用のしやすさという観点でいうと、曖昧な基準を設けず細かく言語化することにも配慮する必要があります。採用基準の文章が曖昧で分かりにくいと、面接の現場で面接官が戸惑うことになりかねません。
面接官の判断の個人差を無くし、自社が求める人材を採用するための手段が採用基準です。それにもかかわらず、曖昧な基準であるために結局個人差が生まれてしまっては意味がありません。そのため、採用基準は細かく言語化しましょう。
採用基準は定期的に見直す
採用基準は作って終わりではなく、定期的に見直すようにします。採用活動のプロセスに不具合があるときは見直し、求める人材を採用できるように工夫してください。たとえば、新卒の採用活動が終わった後にプロセスを振り返った際、一次面接の通過率が低かったとしましょう。一次面接の面接官が人事部と現場の管理職であれば、採用基準が妥当かどうか改めて確認しましょう。
人事部が現場へ丁寧にヒアリングしたつもりでも、採用基準には反映し切れていないことも考えられるでしょう。採用基準を定期的に見直してブラッシュアップすることで、求める人材を必要な数だけ採用できるようになります。
最後に、社内全体に共有をして浸透させることも重要なポイントです。現場の管理職や経営層など、面接に関係するメンバーに採用基準を共有します。
まとめ
会社が求める人材を必要な数だけ採用するには、採用基準を活用することが重要です。経営層や現場が求める人材像やスキル、経験などを採用基準に反映することで、求める人材を採用できるようになります。人事部と現場の採用基準が一致していれば、現場の管理職が面接官となった場合でも選考に差が生じにくくなりますし、入社後も人材が定着しやすくなるでしょう。
採用基準は「使える」ものであることが大切なので、運用面に配慮し、階層別や職種別に分けて細かく言語化するようにしましょう。採用活動のプロセスを振り返った際に「書類選考の通過率が低い」「入社後の離職者が多い」など不具合が生じた際は、採用基準を見直していくことが求められます。
《ライタープロフィール》
山崎英理夫(人事コンサルタント)
人事コンサルタントとして教育研修のプログラム開発、人事制度診断等を提供。また、企業人事として新卒・中途採用に従事し、人事制度構築や教育研修の企画・運用など幅広く活動。この経験を活かし、人材関連の執筆にも数多く取り組む。