コンプライアンスとは?正しい意味の解説と、違反事例に学ぶ遵守に向けた対策
「コンプライアンス」は、企業経営において欠くことのできない極めて重要なものですが、正しい意味をご存じでしょうか?コンプライアンス違反は、企業に多大なダメージを与え、最悪の場合、倒産に追い込まれる危険性さえあります。そこで今回は、コンプライアンスの正しい意味、注目される背景、違反事例、コンプライアンス遵守に向けた対策を紹介します。
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「コンプライアンスとは?正しい意味の解説と、違反事例に学ぶ遵守に向けた対策」
目次
コンプライアンスとは?
コンプライアンス(compliance)とは、「法令遵守」を意味しています。ただし、単に「法令を守れば良い」というわけではありません。現在、企業に求められている「コンプライアンス」とは、法令遵守だけでなく、倫理観、公序良俗などの社会的な規範に従い、公正・公平に業務をおこなうことを意味しています。
企業へのコンプライアンスが適用される範囲は明確には定義されていませんが、重要となる3つの要素を押さえておきましょう。
1.法令
法令とは、国民が守るべきものとして、国会で制定された法律、国の行政機関で制定される政令、府令、省令等の総称です。地方公共団体の条例、規則を含めて用いられることもあります。
2.就業規則
就業規則とは、社内ルールやマニュアル、業務の手順など、就業ならびに業務の遂行にあたって社員が遵守しなければならない取り決めを指します。
常時10人以上の従業員を雇っている雇用主は、労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条の規定により就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。
就業規則を変更する場合も同様に、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。
3.企業倫理・社会規範
企業が社会から求められる倫理観や公序良俗の意識を指します。どちらも法令には定められていませんが、消費者や取引先からの信頼を獲得するためには必須となります。
情報漏えい、データ改ざん、ハラスメント、ジェンダー平等など、法令の有無を問わず、企業は社会倫理に従って判断し、経営をおこなうことが求められています。
こうした社会が求める企業像は、社会情勢はもちろん、国民の意識や時代の移り変わりによっても変化していくため、定期的な見直しと改善が必要になります。
内部統制との違い
内部統制とは、企業を適正かつ健全に運営するための会社内部の規則や仕組みのことです。内部統制を整備することには、次の4つの目的があります。
・ 業務の有効性及び効率性
・ 財務報告の信頼性
・ 事業活動に関わる法令等の遵守
・ 資産の保全
参考:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準 」
コンプライアンスは、内部統制の整備による目的の1つとして位置づけられております。このことから、コンプライアンスを徹底するには、内部統制の整備も重要な要素ということができるでしょう。
上場企業や大会社である取締役会設置会社については、内部統制の整備が法律上の義務となっています。しかし、それ以外の会社にとっても、内部統制の整備は、業務の効率性やコンプライアンスを確保するうえでは重要なことです。
コーポレートガバナンスとの違い
内部統制と混同しやすいものとして、コーポレートガバナンスが挙げられます。コーポレートガバナンスも、企業を健全に運営するための体制である点は内部統制と変わりはありません。コンプライアンスを確保するには、コーポレートガバナンスも重要な要素の1つです。
コーポレートガバナンスと内部統制との大きな違いは、仕組みによって監視・管理される対象です。コーポレートガバナンスは、株主や取締役会などが会社の経営者を監視する仕組みであるのに対し、内部統制は経営者が会社の従業員を管理する仕組みとなっています。
なぜコンプライアンス違反が起きるのか?
ブラック企業問題や過労死事件、ハラスメント、情報漏えいなど、コンプライアンス違反による企業の不祥事は後を絶ちません。なぜこうしたことが起きるのか、理由を考えてみましょう。
知識がないため、知らずにコンプライアンス違反をしてしまう
経営層や法務、総務、人事などにコンプライアンスの知識がなく、結果的に法令を無視してしまう。労働基準法をはじめ、育児・介護休業法、高年齢者雇用安定法、男女雇用機会均等法、最低賃金法など、知らず知らずのうちに法律に触れてしまう。企業が社会から求められる倫理観の理解が甘い…。
こうした知識不足によるコンプライアンス違反が、よくあるケースのひとつです。まずは企業のトップがコンプライアンスについて正しく認識し、守るべき規範を提示しなければ、従業員のコンプライアンス意識も高まりません。
過剰なノルマ設定で社員を追いつめてしまう
違反と知っていながら、従業員が不正行為をしてしまうケースも少なくありません。過剰なノルマ設定や上司のプレッシャーに追いつめられ、法令や就業規則などを破ってしまう。昇進や昇給、インセンティブを得るために不当な手段で成果を上げようとする。こうしたコンプライアンス違反を防ぐためには、目標設定の見直し、マネジメント層の再教育、評価制度の再構築などが急務となります。
内部に防ぐ仕組みがない
コンプライアンスを管理する仕組みがない、システムが脆弱(ぜいじゃく)で情報漏えいしやすいなど、企業の組織体制や環境に問題があるケースも多いです。社内に不正をしている人がいても、誰に報告していいのかわからない。誰もが簡単に機密情報にアクセスできてしまう。このような環境では、コンプライアンス違反を防ぐことができません。社内に相談窓口を作る、情報セキュリティー対策をおこなうなどの対策が必要です。
コンプライアンスが注目されている背景
1970年代
コンプライアンスが注目されている背景をさかのぼると、1970年代の日米貿易摩擦があります。高度成長期の日本では、政府がさまざまな規制をかけることで国内企業の活動を保護し、日本経済は右肩上がりに成長しました。
その一方で、アメリカとの貿易においては日本ばかりが利益を生みやすい結果も招きました。アメリカ政府は各種規制を撤廃し、国外企業も日本企業と同じ条件で公正な競争ができることを求め、日本政府に圧力をかけてきました。
1980年代
1980年代に入ると日本政府は内需主導による経済成長を目指し、3公社(電電公社、専売公社、国鉄)を民営化。規制撤廃をおこなうことで、民間企業の参入と競争の促進をおこなってきました。以降、国外企業も日本企業と同じ条件で公正な競争ができるようになりましたが、自由には責任が求められます。
1990年代
政府は企業に情報公開を求め、自己責任体制の強化を指導するようになりましたが、1990年代にはバブルが崩壊。不況に陥った日本では、粉飾決算や不正融資など、企業の不祥事や不正が相次ぐようになりました。1997年には、山一証券が経営破綻。大企業であっても倒産することを示し、世の中に大きな衝撃を与えました。
2000年代
その後も企業の不祥事は続き、行政方針の変更、法改正などがおこなわれ、2000年代半ばからコンプライアンスが注目されるようになりました。当初は「法令遵守」という狭義の意味合いで使われていましたが、近年になって就業規則、企業倫理・社会規範など、広義の経営リスクを表す言葉として定着してきました。
コンプライアンス違反となった事例
コンプライアンス違反の事例は無数にありますが、大きく分けると「労働問題」「法令違反」「不正経理」「情報漏えい」の4つに分類できます。代表的な事例からコンプライアンスの重要性を理解し、ガバナンス(管理体制)を強化していきましょう。
労働問題
過労死ラインを越えた過重労働、パワハラやセクハラといった各種ハラスメントなど、労働者が雇用者から受けた不当な扱いや不利益によって起こった精神的、肉体的な苦痛がこれに該当します。
労働問題のコンプライアンス違反は、労働時間に限らず、複数の要素が原因となっているケースが珍しくありません。表面上の問題だけを取り除くのではなく、根本的な解決が重要となります。
法令違反
食品衛生法や著作権法など、企業が事業を遂行するにあたって遵守すべき法令の違反を指します。法令違反は明確に基準が決められていることもあり、コンプライアンス違反の中でも特に社会からの反発が強くなります。
法令違反は、最初は小さくても数を重ねるほど大きくなり、次第に取り返しのつかない重大な違反につながります。この程度の違反であれば大丈夫だろうと見過ごさないよう、常に注意することが必要です。
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不正経理
不正経理は、取引先や関連企業・関係者をはじめとした広範囲に被害を与えます。発覚後に企業が受ける打撃も大きく、最終的には経営破綻に至るケースも少なくありません。
不正経理が企業に与えるダメージは甚大です。架空請求や業務上横領、粉飾決算などの不正経理に該当する違反行為には、常に厳しい姿勢での対応が求められます。
情報漏えい
情報漏えいとは、企業が管理する顧客情報の流出やインサイダー取引などを指します。情報の秘匿性の高さを社員が認識せずに扱った場合などに起こりやすく、発覚後は取引先や顧客とのトラブルの原因になります。
情報漏えいは、金銭的ダメージがあるだけでなく、社会的信用も失墜し、企業の存続が危ぶまれるほどの事態を引き起こします。情報の扱いと管理には、細心の注意が必要です。近年では情報漏えいに関する厳しい規約を設け、セキュリティー対策に力を入れている企業も増加しており、漏えい件数は減少傾向にあります。
コンプライアンス遵守に向けた取り組み
企業がコンプライアンスを強化するためには、まずは正しい知識を身につけ、従業員全体の意識を高めていくことが重要です。コンプライアンス違反を起こさないための取り組みと注意点を紹介します。
コンプライアンス遵守のための規則やマニュアルの作成
社内規則やマニュアルを作成し、違反を防ぐことを徹底しましょう。データの持ち出しや目的外での使用禁止、各種ハラスメント行為の防止、無駄な残業の禁止、SNSや公共の場での発言の注意点など、遵守すべきコンプライアンスは多岐にわたります。
コンプライアンスプログラムを作成し、基本原則のガイドライン、社員教育、罰則規定などを定めましょう。ただし、社内で共有する前に必ず、専門家に監修してもらうことが重要です。特に法令違反に関連する取り組みは、対象の法令を正しく解釈しているか、弁護士に判断をしてもらう必要があります。
コンプライアンス研修の実施
コンプライアンス研修を定期的に実施する、コンプライアンスに詳しい外部講師によるセミナーを開催するなど、啓発活動をおこなうことも重要です。
研修やセミナーには、ハラスメントや情報セキュリティー問題など、法令に違反はしていなくても社員の倫理観やモラルの欠如が原因によって起こるコンプライアンス違反を未然に防ぐ目的があります。
特に労働者自身が違反行為の原因の排除に向けて考える必要のある問題は、マニュアルや規則だけでは不十分です。コンプライアンスに詳しい専門家によるセミナーや勉強会などを開催し、社員一人ひとりに考える習慣をつけてもらう必要があります。
相談窓口の設置
コンプライアンス違反は、従業員から経営者、上司などへの相談で発覚するケースが多くあります。そのため、コンプライアンス違反の防止には、社内に相談窓口を設置することも効果的です。
相談窓口を設置する際は、従業員が相談しやすい環境を整備することが重要です。
・ 相談内容については秘密保持を徹底する
・ 相談者を不利益に扱わないことを約束する
・ 窓口の存在を周知する
・ 対面、メール、電話など相談方法を複数用意する
相談者は、公益通報者保護法による保護の対象となります。窓口を運用するには、公益通報者保護法に抵触しないように注意してください。
参考:消費者庁「改正公益通報者保護法」
まとめ
コンプライアンスは、どの企業も事業をおこなう上で遵守する必要があります。コンプライアンス違反は取引先や顧客の信頼を大きく失い、その後の経営に多大な悪影響を与える可能性が高いです。正しい意味と社会から求められる企業像を理解し、コンプライアンス違反によるトラブルを未然に防ぎましょう。
《ライタープロフィール》
ライター:鈴木にこ
求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。派遣・新卒・転職メディアの編集協力、ビジネス・ライフスタイル関連の書籍や記事のライティングをおこなう。
《編集》
てん@法律関係ライター(佐藤孝生)
元弁護士としての経験を活かし、法律問題をわかりやすく伝える記事を中心に執筆活動を行う。
弁護士時代には、企業法務、労働問題、離婚、相続、交通事故などを幅広く経験。
現在は「読者の困りごとに寄り添う記事」をモットーに、法律問題をわかりやすく伝える記事を中心に執筆に取り組んでいる。