ウェルビーイングとは?
近年、経営方針としてウェルビーイングの向上に取り組む企業が増えてきました。ウェルビーイングとは、広い意味での健康をあらわす概念で、国際会議やOECD(経済協力開発機構)で取り上げられたことにより注目を集めています。
この記事では、ウェルビーイングの定義や注目されている背景とともに、ウェルビーイングの構成要素を示す理論や導入するメリットについて解説します。
目次
ウェルビーイングとは
ウェルビーイング(Well-being)とは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念です。「健康的」「幸せ」を意味するイタリア語「ベネッセレ(benessere)」を語源としています。
ウェルビーイングという言葉は、WHO(世界保健機関)が1946年に作成した「世界保健機関憲章」に登場しました。従来の健康が、身体的な状態をあらわす概念にすぎなかったのに対し、ウェルビーイングは広い範囲での健康をあらわす概念です。
「状態」という言葉が使用されているように、瞬間的なものではなく、持続的なものである意味も含まれています。
参考:厚生労働省「世界保健機関憲章」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=97100000&dataType=0&pageNo=1
参考:日本WHO協会「世界保健機関(WHO)憲章とは」
https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/
ウェルビーイングが注目されている背景
ウェルビーイングが注目されている背景には、以下の動きが挙げられます。
● 国際会議での議論
● OECDによる「教育2030」の公開
● 価値観の多様化
● 人材不足と人材の流動化
● 働き方改革の推進
ここでは、それぞれの動きからウェルビーイングが注目されるに至った理由について解説します。
国際会議での議論
ウェルビーイングが注目されている背景として、国際会議での議論が挙げられます。2021年に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)のテーマは「グレート・リセット」でした。
グレート・リセットとは、金融や社会経済のシステムをリセットし、再構築することを指します。グレート・リセットは、パンデミックや気候変動といった課題解決の糸口となる、持続可能な経済システムを構築するための手段のひとつです。
世界経済フォーラム創設者であり現会長「クラウス・シュワブ」氏は、現在の世界経済を再構築するには「人々のウェルビーイングを中心として考えるべき」と述べています。
OECDによる「教育2030」の公開
OECD(経済協力開発機構)が公開した概要書に取り上げられたことも、ウェルビーイングが注目されている背景に挙げられます。OECDは、子どもたちに必要な能力や技能、適性をまとめた概要書「教育2030」を公開しました。
その序文に、地球全体のウェルビーイングを考えなければならないといった記載があります。教育分野でも、重要な用語としてウェルビーイングが注目されています。
参考:OECD「教育2030」
https://www.oecd.org/education/2030-project/about/documents/OECD-Education-2030-Position-Paper_Japanese.pdf
価値観の多様化
価値観の多様化も、ウェルビーイングが注目されている背景といえます。近年ではダイバーシティという用語が浸透し、文化や国籍、性別といったバックグラウンドが異なる人の価値観を受け入れたうえで、仕事をすることが当たり前になってきました。
企業経営においても、従業員の価値観や考え方の違いを受け入れたうえで、強みを活かしていく風土の整備が重要視されています。それにより、従業員のウェルビーイングが向上し、生産性向上につながるのです。
人材不足と人材の流動化
人材不足と人材の流動化も、ウェルビーイングが注目されている背景のひとつです。日本では少子高齢化により労働人口が減少し、人材不足が叫ばれています。
終身雇用の概念が薄れ、ひとつの企業で働き続けるのではなく、能力や価値観に合った組織を求めて転職することが当たり前になってきました。そのような状況で優秀な人材を確保するため、従業員やその家族の幸せを大切にする姿勢をみせることが必要になっています。
人材確保のためにも、ウェルビーイングが重要になっています。
働き方改革の推進
働き方改革の推進も、ウェルビーイングが注目されている背景のひとつです。働き方改革とは、長時間労働を是正し、柔軟な働き方を推進する取り組みです。働き方改革では「ワークライフバランス」の実現が求められています。
ワークライフバランスは、仕事だけではなく人生を豊かにすることを指しており、そのためにはウェルビーイングの考え方が欠かせません。働き方改革の推進にも、ウェルビーイングが重要になっています。
ウェルビーイングの要素:①ギャラップ社
アメリカの世論調査研究所「ギャラップ社」は、ウェルビーイングを構成する要素として、以下の5つがあると定義づけています。
● キャリアウェルビーイング
● ソーシャルウェルビーイング
● フィナンシャルウェルビーイング
● フィジカルウェルビーイング
● コミュニティウェルビーイング
ここでは、それぞれの要素について解説します。
キャリアウェルビーイング
キャリアウェルビーイングとは、仕事に関する要素です。ただし、仕事とはボランティア活動や勉強、子育てといった報酬をもらう以外の仕事も含まれています。
これらの活動をしている時間が充実していれば、キャリアウェルビーイングが高く、幸福感を持っているといえます。
ソーシャルウェルビーイング
ソーシャルウェルビーイングとは、社交的行動に関する要素です。職場や友人との交友、SNSなど、生活するうえで、社交的行動は欠かせないものです。会話だけではなく、テキストメッセージや写真の共有も社交的行動のひとつといえます。
社会的行動により充実感を得ていれば、ソーシャルウェルビーイングが高く、幸福感が上がるという考え方です。
フィナンシャルウェルビーイング
フィナンシャルウェルビーイングとは、経済面に関する要素です。ただし、収入の多さだけで測るものではありません。人は、他人のためにお金を使うことでも幸福感を得られることがわかっています。
また、物を買うだけではなく「おいしいものを食べた」「優雅な休暇になった」といった「体験」を買うことでも幸福感を得られます。お金を使って充実した体験を得ていれば、フィナンシャルウェルビーイングが高く、幸福感が上がるという考え方です。
フィジカルウェルビーイング
フィジカルウェルビーイングとは、身体面に関する要素です。睡眠により身体を休めれば、疲労だけでなくストレスも和らぎます。週に2日以上の運動をする人は、ストレスが少なくなり、幸福感が上がることも明らかになっています。
適度な運動と睡眠により、心身の健康状態を良好に保てれば、フィジカルウェルビーイングが高くなり、幸福感が上がるという考え方です。
コミュニティウェルビーイング
コミュニティウェルビーイングとは、集団活動に関する要素です。人は、会社やサークルといったコミュニティに所属し、その中で影響を与えられると幸福感が上がります。
献血により幸福感が上がるのも、ひとつの例です。集団に対しする活動を通じ、自分に自信を持っていればコミュニティウェルビーイングが高く、幸福感を持っているといえます。
ウェルビーイングの要素:②PERMA理論
アメリカの心理学者「マーティン・セリグマン」は、ウェルビーイングを構成する要素として「PERMA理論」を考案しました。PERMA理論は、以下の5つの要素で構成されています。
● ポジティブな感情
● エンゲージメント
● 他者との良好な関係
● 生きる意味や意義の自覚
● 達成感
ここでは、それぞれの要素について解説します。
ポジティブな感情
ポジティブな感情とは、以下のものを指す要素です。
● 希望
● 興味
● 喜び
● 愛
● 思いやり
● プライド
● 感謝
家族や友人といった自分の大切な人と過ごしたり、趣味に没頭したりする以外に、成功体験や感謝していることを振り返ることでも、ポジティブな感情を高められます。ポジティブな感情を持つことにより、心理面だけではなく、身体面や社会面での豊かさを持つことにつながるのです。
エンゲージメント
エンゲージメントとは、契約や約束を意味する言葉で、組織に対し深い関係性を持った状態を指す要素です。好きな活動への参加や仕事に集中できていれば、エンゲージメントが上がります。
自分の強みと組織の目的が一致している状態であれば、エンゲージメントが高く、幸福感を持っているといえます。
他者との良好な関係
他者との良好な関係とは、他者に支えられ、大切にされていると感じる状態を指す要素です。他者には、家族や友人、同僚のほか、会社やサークルといったコミュニティも含まれます。
連絡を取っていなかった友人と連絡を取ったり、興味があったサークルに参加したりすれば、他者と良好な関係を築くきっかけになるでしょう。他者と良好な関係を築くことにより、自分が大切にされていると感じ、幸福感が向上します。
生きる意味や意義の自覚
生きる意味や意義の自覚とは、自分が「なぜ生きているのか」「必要とされているのか」といった、人生における目的や必要性の自覚度を指す要素です。人生に対し目的を持つことにより、幸福感を持つだけでなく、挑戦する気持ちや逆境を乗り越えようとする気持ちを持てます。
仕事のほか、コミュニティに入ったりボランティア活動をしたりすることにより、自分のやりたいことや必要性に気付け、幸福感が向上します。
達成感
達成感とは「やり切った気持ち」を指す要素です。設定した目標の達成や、成果を出したときのほか、目標に向かってやり続けることでも、達成感を得られます。
達成感を得るには、目標の設定方法が大切です。以下の要素を満たして目標設定していれば、達成状況を客観的に判断でき、達成感を持ちやすくなります。
● 具体的な目標になっているか?
● 数値や行動といった測定できる目標か?
● 現実的に達成できる目標か?
● 期限が設定されているか?
達成感を持つことにより、自分に自信を持ち、幸福感を持てるでしょう。
ウェルビーイング導入のメリット
ウェルビーイングを導入するメリットには、生産性向上や離職率低下が挙げられます。ここでは、それぞれのメリットについて解説します。
生産性向上
ウェルビーイング向上に取り組み、従業員が仕事で幸福感を得られると、生産性向上につながります。厚生労働省によると、従業員と顧客満足度のどちらも重視している企業は、顧客満足度だけを重視する企業に比べて、売上高営業利益率と売上高が増加傾向にあることが明らかになりました。
長時間労働の抑制や職場環境の整備といったウェルビーイング向上に取り組めば、従業員は仕事に対する意欲や会社に対する帰属意識が向上します。特に、帰属意識が高くなれば、会社の目的に対し、パフォーマンスを発揮しようとするでしょう。
従業員が自分のパフォーマンスを会社の目的のために発揮すれば、おのずと生産性も向上します。会社のために働きたいと思えるような環境を整備するためにも、ウェルビーイングへの取り組みは重要なポイントです。
参考:厚生労働省「『魅力ある職場づくり』で生産性向上と人材確保」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000210044.pdf
離職率低下
ウェルビーイング向上への取り組みは、離職率低下にも効果があります。厚生労働省によると、前職を辞めた理由の上位3つは、以下のとおりとなっています。
● 労働条件がよくなかった
● 満足のいく仕事内容ではなかった
● 賃金が低かった
職場環境や労働条件の整備は、従業員の満足度を上げる基本的な施策です。ウェルビーイング向上に取り組み、労働時間や賃金制度の見直しをすれば、職場環境や労働条件を理由にした退職は減少するでしょう。
自社にとって大切な人材を確保するためにも、ウェルビーイングへの取り組みは重要なポイントです。
参考:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/6-18c-r02.html
まとめ
ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念です。従来の健康が身体的な状態をあらわす概念なのに対し、ウェルビーイングは精神的・社会的といった広い範囲での健康をあらわす概念となっています。
ウェルビーイングが注目されている背景には、国際会議やOECDで取り上げられたこと以外にも、価値観の多様化や人材不足と人材の流動化、働き方改革の推進といった動きが挙げられます。
ウェルビーイング向上に取り組んだ場合のメリットとして、生産性向上や離職率低下が挙げられるように、ウェルビーイングは企業にとって重要な考え方のひとつです。不確実な時代を生き残るためにも、ウェルビーイングの向上に取り組みましょう。
<ライタープロフィール>
田仲 ダイ
エンジニアリング会社でマネジメントや人事、採用といった経験を積んだのち、フリーランスのライターとして活動開始。現在はビジネスや教育関連の分野を中心に幅広いジャンルで執筆を手掛けている。