業務委託とは? メリットの解説と委任、請負と派遣契約との違いを簡単に紹介
人手不足が懸念される現代において、直接雇用以外の労働力も行使して効率よく事業を進めることが重要になってきています。昨今ではフリーランサーやBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)サービスの企業に業務単位で仕事を発注する業務委託の活用も、労働力や戦力を確保するひとつの手段となっています。
本記事では、業務委託の概要、メリット、注意点、契約締結までの流れ、派遣スタッフやアルバイトとの違いについて解説します。
目次
業務委託とは
「業務委託」とは、従業員ではなく外部の第三者に業務を依頼することをいいます。人手が不足しているとき、あるいは専門の知識やスキルが必要なときに、業務委託をするケースがあります。
多くが業務単位での契約となり、業務を委託する業者との間で業務契約書を結び、契約内容に基づいて業務を遂行してもらうことになります。
そして、依頼した目的を達成、あるいは労働力として必要としていた期間が終了したとき、委託者(注文主)と受託者(請負業者)の双方合意のうえで業務委託は終了します。
業務委託が活用されるケース
業務委託は次のようなケースで活用されることが多いでしょう。
・専門知識を要するが、社員では雇えない分野の仕事
・新規事業等で人手不足の場合、スタートアップでクラウドソーシングを活用(※1)
(※1)クラウドソーシングとは、仕事を発注したい企業や個人が、インターネットを通じて不特定多数の人々に仕事を依頼したりアイデアやデザインを募集したりするためのWEBサービスのことを指します。
・電話受付業務をスタッフ管理・業務管理ともに委託するなど、ノンコア業務のアウトソーシングとして活用(※2)
(※2)アウトアウトソーシングとは、必要な人材やサービスを外部(アウト)から調達(ソーシング)し、業務を効率的に進める経営手法。「業務の一部を外部に任せること」を意味しており、「業務委託」「外注」「外部委託」とも呼ばれています。
業務委託の種類
委託する業務内容によって、業務委託の契約形態は「委任(準委任)契約」「請負契約」に大きく分けられます。
報酬の対価 | 瑕疵(かし)担保責任 | |
委任(準委任)契約 | 労働 | なし |
請負契約 | 成果 | あり |
委任(準委任)契約とは
特定の成果物を設定できない業務の際に用いられ、報酬は時間給、あるいは回数などで規定されます。成果物が設定されないので瑕疵担保責任は発生しませんが、民法上は「善管注意義務(善良な管理者の注意の義務)」が発生します(民法第644条)。
善良な管理者の注意義務とは、依頼された業務に対して、要求されているレベルの責任を果たすべき義務です。
※委任契約と準委任契約の違い
・委任契約:法律行為をともなうもので、業務の結果に関わらず報酬を受け取る契約
例)税理士や弁護士など
・準委任契約:業務を遂行することで報酬が発生する契約で、法律行為以外の業務形態で多い
例)人事や総務といったバックオフィス業務、講演や講義といった業務
請負契約とは
一定の成果物を完成させ、提供することで報酬が発生する契約のことを指します。成果物の完成が求められるため瑕疵担保責任が発生します(民法634条)。瑕疵担保責任とは、仕事の成果においてミスや欠陥がある場合、修正や修理、補償、損害賠償をおこなう必要があるというものです。発注元は、修理・修正、損害賠償などを請求できます。
例)印刷物のデザインや翻訳、建物を建てる建築請負や製品の製造を請け負うケースなど。
業務委託のメリット
企業が業務委託を利用するメリットには、人手不足解消、コスト削減などが挙げられます。詳しく見ていきましょう。
■人手不足の解消
繁忙期、人員欠如などで人手が足りなくなったとき、業務委託することで労働力を確保できます。繁忙期に合わせて自社の従業員を確保すると、時期によっては人件費に無駄が生じる可能性があります。業務委託においては、業務量・納期を決めての契約となるため、スポット対応が可能です。人手不足の解消とともに人件費も抑えることができるでしょう。
■人件費を抑えて専門性の高い業務を依頼できる
デザイナー、SE、弁護士など、専門性の高い人材を必要とする場合、自社の社員でまかなう場合には、教育や新規雇用においてコストがかかるケースがあります。業務委託で、専門家などに任せることで、業務期間の短縮やコスト削減にもつながるでしょう。
■人件費を抑えられる
業務委託によって人件費が抑えられることは上述していますが、この他にも企業が雇用契約を結び労働者を雇用すると、時給や月給といった給与が発生します。社員採用においては、人事コストなどもかかるでしょう。また、社会保険や業務に必要な設備、備品の整備など、多くの時間と費用がかかることが想定されます。
企業は受託者と業務委託契約を結び、業務を外部に委託することで人件費を抑えることができるでしょう。
■自社の社員を別の目的で活用できる
これまで時間がかかっていた業務を外部に業務委託することで、手の空いた自社の人材を有効的に活用できます。たとえば、より適した業務に配置させることで効率化を図ることができたり、新規事業に配置して生産性のアップが期待できたり、働き方改革にもつながるメリットともいえるでしょう。
業務委託の注意点
業務委託にはメリットもありますが、注意しておきたい点もあります。
■専門性の高さに比例して費用が高くなる
業務委託は人件費が抑えられる面もありますが、専門性の高い業務の場合、報酬が高額となりコストがかかるケースもあります。業務委託のコストをできるだけ抑えるには、業務委託に向いている業務か検討したり、自社の従業員で担う場合とのコストの比較をしたりしておきましょう。また、各業界や業務範囲における相場をチェックしておくことが必要です。
■社内にノウハウが蓄積されない
専門性が高く難しい業務を社外に委託できるのはメリットである一方、業務委託に頼り過ぎると、社内でノウハウを蓄積することができなくなるおそれがあります。
業務委託契約で、定期的にミーティングをおこなうことや、レポートの提出を求めることで合意が得られれば、業務の遂行状況が把握できるようになり、ある程度のノウハウは得ることができるかもしれません。ただ、それだけでは蓄積されないノウハウもありますから、委託する業務範囲は十分に検討する必要があります。
■正しい委託先か判定する
納期遅れ、目標品質の未達、違法行為などのトラブルは、委託先の事業者の経営や管理体制に起因するケースがあります。その点では、委託先の事業者の企業としての信用度、事業のレベル(規模や事業歴、体制等)などから、正しい委託先かどうかを判定することになります。
しかし、どれほど優秀な委託先であっても、必要以上の品質の要求、業界水準を下回る費用などで業務を委託すれば、納期遅れなど、契約内容を原因とするトラブルが発生してしまうことがあります。
こうしたトラブルを防ぐには、委託業務に関して委託者と受託者で十分な協議をおこなうことが必要です。そして、双方が合意した内容を契約書や業務仕様書に明文化することはもちろん、この他にも、受託者からの報告義務を適宜設定したり、日頃から十分なコミュニケーションを取ったりするなど、委託者側にも配慮が求められます。
■偽装請負、みなし雇用に注意
派遣契約や役務の提供を依頼する委任契約では、委託先とその労働者との関係性について注意が必要です。業務委託契約を結びながら、その委託先の社員やスタッフを委託者の管理体制や指揮命令下に置き、業務に従事させるといった行為は、「偽装請負」とみなされ、罰金や企業名の公表対象となります。
また、このような派違法違反がおこなわれた時点で、「みなし雇用」の対象となります。みなし雇用(労働契約申し込みみなし制度)とは、派遣先などが派遣労働者に対して、その派遣労働者の雇用主(派遣元事業主等)との労働条件と同じ内容の労働契約を申し込んだとみなす制度です。
派遣先などが労働契約の申し込みをしたものとみなされた場合、みなされた日から1年以内に派遣労働者がこの申し込みに対して承諾する旨の意思表示をすることにより、派遣労働者と派遣先等との間の労働契約が成立します。(ただし、派遣先等が違法派遣に該当することを知らず、かつ、知らなかったことに過失がなかったときは、適用されません)
■個人事業主の場合、注意したいこと
業務委託先には、法人と個人があります。個人事業主とは、法人を設立せずに個人で事業を営んでいる人のことです。家族や雇用した従業員などと複数で事業をおこなっていても、それが法人でなければ個人事業主といえます。個人が会社やお店などと業務委託契約を結び、働きはじめたら個人事業主となります。
発注側(企業)から個人事業主に業務委託をする場合、相手が労働者ではなく、個人事業主として独立して業務執行していることが必要になります。
雇用関係にない業務委託先の人材を実質的な雇用者として働かせる、たとえば、立場の上下関係や指揮系統がある場合、偽装請負とみなされる場合があります。指揮命令をしないこと、結果にたいして報酬を支払うことなどを契約書に明記しておきましょう。
《関連記事》
偽装請負とは? 判断基準や問題点、罰則と準委任・業務委託との違いを解説
業務委託の契約締結までの流れ
業務委託の契約締結をおこなうには、次の4つのステップがあります。
① 契約書に記載の内容に誤りがないか双方で確認をする
② 自社もしくは相手方が使用するフォーマットを基に契約書案を作成する
③ 必要に応じて契約書案の内容修正をおこなう
④ 契約書案を基に正式な契約書を作成する(作成の手順はコメント内のURLなどを参考に掲載)
①契約内容の確認
契約書を作成する前に、契約書に記載する項目・合意事項を双方で確認します。
▼項目・合意事項例
・業務内容
・契約期間
・報酬額、算出方法(※)支払日、支払方法
(※)成功報酬で一定の要件に応じて報酬を算出する場合は、算出方法についても記載
・再委託(受託者が業務を第三者に再委託することが可能か。認める場合は条件についても記載)
・成果物の権利(著作権や知的財産権を誰が保持するのかを記載)
・秘密保持
・禁止事項(業務遂行にあたり受託者に禁止することを記載)
・損害賠償、契約解除(契約違反や契約不履行などがあった場合の損害賠償や契約解除について記載)
・管轄裁判所(トラブルが発生し裁判になった場合、裁判をおこなう管轄裁判所を記載)
②契約書(案)の作成・確認・修正
契約内容の協議および確認をおこなった後、委託者か受託者のどちらかが契約書(案)を作成します。委託者か受託者のどちらかが保有している契約書のひな型があったら、これをベースに作成してもよいでしょう。
作成後は双方で十分に確認をおこない、誤りや誤解を招く表現がある場合は修正をし再度確認します。契約年月日をいつにするのかも、確認しておきましょう。
③契約書の作成
契約書(案)に委託者か受託者ともに合意したら、契約書の作成・取り交わしに移ります。
契約書は2部印刷します。ここで、内容に誤りがないか最終的な確認をしておきましょう。
そして、問題がなかったら、契約書2部ともに日付の記入・署名・押印をします。
・2枚以上の契約書の場合:割印が必要
割印は押された契約書の関連性・同一性を示すためのもので、当事者分の契約書すべてにまたがる割印が必要です。こちらも契約書の改ざんを防ぐ効果があります。
・複数ページにわたる契約書の場合:契印が必要
契印は契約書のページが連続していることを証明するもので、契約書の抜き取りや差し替え・改ざんを防ぎます。
※割印は署名・押印に使用した印鑑を使う必要はありませんが、契印は同じ印鑑を使用しなければなりません。ただ一般的に、割印についても署名・押印に使用した印鑑を使います。
④契約書の取り交わし
契約書は、委託者・受託者がそれぞれ1部を保管することになります。署名・押印が完了した契約書2部を、もう一方の当事者に郵送します。受け取った側は、同様に契印・割印・日付の記入・署名・押印をします。契約書1部を返送して、契約書の取り交わしは完了です。
業務委託の契約締結で確認すべきこと
業務委託の契約締結で、起こりやすいミスをピックアップしました。
最終確認でチェックしてみてください。
□委託者・受託者の双方が、契約を締結できる権利を持った当事者であることを確認する
□契約書に記載の権利、義務の内容が依頼する業務内容にふさわしいか必ず確認する
□契印、割印の押し忘れと内容の記載漏れがないか確認をする
※押印がない場合、契約書を改ざんされる可能性があり、損害を被るリスクがあります。
参考までに、収入印紙は請負契約には必要ですが、業務委託契約では不要です。
▼収入印紙貼付の対象となる契約書の種類、必要な収入印紙について
国税庁のHP(印紙税額の一覧表(その1)、印紙税額の一覧表(その2)参照
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7140.htm
派遣スタッフやアルバイトとの違い
業務委託契約は、派遣スタッフやアルバイトとどのように異なるのでしょう。「派遣スタッフと業務委託との違い」「アルバイトと業務委託の違い」について、それぞれ解説します。
派遣スタッフと業務委託との違い
■指揮命令
派遣スタッフは派遣元の会社に雇用されている状態で、派遣契約を結び派遣先で働きます。派遣先の会社とは雇用関係はありませんが、派遣契約に基づいた業務に対しては、派遣先の指揮命令担当者から仕事の指示を受けます。
業務委託では、委託者が受託者へ業務を委託し、受託者が自社の従業員に業務の指示をします。業務コントロールや従業員への教育や育成に委託者は関わることができません。委託者が受託者の従業員に対して直接指示をすることは偽造請負とみなされるため、注意が必要です。
■料金(賃金・報酬)
業務委託と派遣スタッフとでは、発注側の企業が料金(賃金や報酬)を支払う対象も異なります。
派遣スタッフの場合、派遣スタッフを雇用している派遣会社に発注側は賃金を支払います。賃金は、派遣スタッフが業務を実施した時間に対して発生します。
一方、業務委託では、発注側は業務委託契約を結んでいる事業者(法人または個人事業主)に直接報酬を支払うことになります。報酬は、成果物の納品や役務の提供に対して発生します。
アルバイトと業務委託との違い
アルバイトと業務委託では、契約形態が異なります。
アルバイトは企業に雇用されている労働者となります。雇用関係があるので、アルバイトは労働基準法をはじめとする、労働に関するさまざまな法律によって保護されています。
一方の、業務委託においては、委託者と受託者の間に雇用契約はありません。
報酬においても、アルバイトは業務を実施した時間に対して報酬が発生します。一方の業務委託では、時間に対してではなく、成果物の納品や役務の提供に対して報酬が発生するという違いがあります。
まとめ
人手不足が懸念される現代において、労働力というリソースの活用について、その目的や効果を十分に検討し、使い分ける考え方が重要です。事業・業務の特性によって業務委託や派遣スタッフの活用も視野に入れた人材確保も検討してみてもよいでしょう。
最近では、事業を推進するうえで必要なスキルのある人材を、外部の個人や企業から業務委託の形で調達する方法も増えています。また、創業間もないスタートアップ企業では、このようなケースが多くなる傾向があります。すべてを自社の社員に任せるのではなく、外部のリソースを臨機応変に活用したほうが、社員もコア業務に集中することができるでしょう。
また、業務委託をおこなう際は、委託者・受託者の間で十分に協議をおこなうことが大事になります。そのうえで、契約内容に記載漏れや認識の相違がないよう合意を交わすことで、委託後のトラブル回避にもつながるでしょう。
《ライタープロフィール》
ライター:ナカイマミ(編集者・ライター)
求人媒体で求人広告の制作、編集記事の制作に10年以上携わった後、女性誌、生活情報誌、地域活性に関係する媒体などで多くの取材、ライティングを手掛ける。気が付けば、47都道府県を踏破。海外よりも日本が好き。