キャリアデザインとは?意味、必要性、設計方法について解説
長い職業人生において、より満足度の高いキャリアを形成していくために欠かせない「キャリアデザイン」。近年よく耳にすることが増えた言葉ですが、具体的にはどのようなことを指し、企業としてはどのように支援を行っていけばよいのでしょうか。
本記事では、キャリアデザインの意味や必要性、実際の施策例について紹介していきます。
目次
キャリアデザインとは
キャリアデザインとは、「将来どのような自分で在りたいのか」「どのような人生にしたいのか」、そのために「どのような働き方をしたいのか」というビジョンを明確にし、そのためのプロセスを設計して実現していくことです。
「社内で昇格したい」などの現在の勤務先にとどまる目標だけではなく、「自分はどのような働き方を求めているか」「どのようなキャリアを歩んでいくのが理想的か」など、広い視野での目標を立てることが特徴です。
キャリア形成との違い
キャリア形成とは、仕事を通じて経験やスキルなどを積み上げ、自己実現を図っていくプロセスを指します。
キャリアデザインと似た意味を持つ言葉ですが、キャリアデザインは「どのような働き方がしたいか」など、仕事だけでなく自分の人生の在り方についても考えることが特徴です。
キャリアプランとの違い
キャリアプランとは、仕事における将来像を明確にし、そのための行動計画を立てることです。たとえば、「収入アップを目指して転職活動をする」といった行動が挙げられ、あくまでビジネスシーンにおける行動だけを指しています。
一方のキャリアデザインは、仕事だけに限らず「自分が求める生き方」を踏まえて目標を立てる考え方です。
キャリアパスとの違い
キャリアパスとは、社内の昇進や目標を達成するための過程を指す言葉です。たとえば、「入社5年目までにサブマネージャーに昇進する」など、主には現在の勤務先における具体的な目標を指します。
一方、キャリアデザインは現在の勤務先での目標に限らず、職業人生としての目標を指す言葉です。
キャリアデザインが注目される背景とは
近年、キャリアデザインが注目されるようになった背景として、主に次のような点が挙げられます。
・雇用形態や人事評価基準の変化 |
それぞれくわしく解説していきましょう。
雇用形態や人事評価基準の変化
従来の日本社会では、新卒で入った会社で定年まで働く「終身雇用制度」が根付いていました。しかし最近では、この終身雇用制度が崩壊しつつあり、転職や副業によって自分自身でキャリアを形成する働き方が広く浸透しています。
こうした変化に伴い、企業側では多様な働き方を前提とした人事評価基準へと変更する様子も見られます。また、その企業での勤務年数や実績を重んじる年功序列から、個人のスキルや成果が重視されるような制度に変化する企業も出てきています。
キャリアデザインは、こうした状況下で従業員が自身の強みを活かすために欠かせないものです。今後どのような職業人生を歩みたいのかが明確になり、キャリアに迷った際の“道しるべ”にもなるでしょう。
労働に対する価値観の多様化
従来の従業員は、仕事に対して「安定」や「収入の大きさ」を求めることが一般的でした。しかし、最近では「ワークライフバランス」や「自己実現」を求める価値観へと変化しています。
「仕事だけではなく、プライベートの時間もしっかりと充実させたい」「仕事を通じて自分を成長させたい」という思いを持つ人が多くなったことから、仕事はただ収入を得るためだけのものではなく、人生の重要な要素として捉えられる傾向が強くなってきています。
よってキャリアデザインは、従業員が自身の価値観に合った働き方を見つけるために必要不可欠のものだといえます。
ライフプランの在り方の変化
医療の発展により平均寿命が長くなり、人生100年時代といわれるようになった現在、仕事を定年で終えたら年金を受給して生活するという従来のライフプランでは、厳しい状況になりつつあります。
より豊かな人生を送るためには、長期の視点でライフプランを捉え、柔軟なキャリアを歩んでいく必要があるでしょう。
キャリアデザインは人生の在り方を見つめ直すためのもので、企業側もそうした従業員の働き方をサポートすることが求められています。
キャリアデザインを構築するメリット
キャリアデザインの構築は、企業側・従業員側どちらにとってもメリットがあります。それぞれくわしく紹介していきます。
企業側のメリット
キャリアデザインの構築は、企業にとって下記のようなメリットがあります。
・会社の成長につなげられる |
会社の成長につなげられる
従業員がキャリアデザインを描いたうえで仕事に取り組むと、自分に課されたミッションや果たすべき役割に対する理解が深まります。そのミッションや役割に対応することでキャリアにどのような影響があるのか、キャリアに必要なスキルがどの程度得られるのかなどを、具体的に考えられるようになるからです。
加えて、自身のキャリアへの影響を考え、自発的に目標を掲げながら仕事に取り組むようになる人が増えるため、生産性の向上や社内環境の改善が期待できます。これらは人件費の削減や社内コミュニケーションの円滑化などにつながり、企業全体に良い影響をもたらすでしょう。
従業員のモチベーションが向上する
キャリアデザインをしっかりと構築している従業員は「目標達成に向けてどのような行動を取るべきか」というプランが明確になっています。そのため、上司から指示されたことだけをやるような姿勢から、主体的に仕事をおこなう姿勢へと変化する期待が持てます。
また、従業員のモチベーションが向上することで、自らスキルアップや資格取得に励む従業員が増えることも大きなメリットです。
離職を防止できる
従業員が広い視野での目標を持つことは、一見離職につながってしまうように見えるかもしれません。しかし、従業員が自らの目標に向かって行動することは、社内で自分の強みを活かせる部署・業務を自覚することにもつながります。
仕事にもやりがいや意義を感じやすくなるため、かえって離職を防止できる効果があるといえます。
従業員側のメリット
一方、キャリアデザインを構築すると、従業員にとっても次のようなメリットがあります。
・従業員の可能性が広がる |
従業員の可能性が広がる
従業員が自身の求める働き方や、理想のビジネスパーソン像を具体的に考えることは、これまで従事してきた仕事の内容に囚われずにキャリアを考えるきっかけとなり、自身の可能性を広げることにつながります。
「ただなんとなく働く」という姿勢から「目標実現のために働く」という姿勢へと変わり、これまで気付かなかった潜在的な能力や強みに気付くきっかけにもなるでしょう。
理想の働き方を実現できる
従業員は、自分の価値観に基づいてキャリアの目標を設定し、そのために必要なスキルの習得を積み重ねていくことで、理想の働き方へと近づくことができます。
また、定期的にキャリアデザインを設計し直すことで、ライフステージや価値観の変化に応じて、今の自分が求める理想の働き方を明確にできる点も大きなメリットです。
目標達成するための行動が明確になる
キャリアデザインを行うと、「目標に向けて今どのような行動をすべきか」ということも明らかになります。
従業員が今取るべき行動が明確になっていなければ、ただ毎日の仕事をこなすだけという働き方にもなりかねません。しかし、きちんとキャリアを描くことで、自分が歩むべき道筋が明確になり、仕事に対するモチベーションアップにもつながります。
キャリアデザインの施策例
従業員のキャリアデザインを支援するための施策として、次のような例が挙げられます。
・キャリアデザイン研修 |
それぞれくわしく紹介していきましょう。
キャリアデザイン研修
キャリアデザイン研修では、自己分析や目標設定など、従業員が主体的に目標実現に取り組むための方法を学びます。グループワークやワークショップなどを取り入れ、従業員同士でフィードバックをし合えるようにすることも有効です。
キャリア面談
キャリア面談は、直属の上司や企業が用意したキャリアアドバイザーと定期的に面談し、目指すべきビジネスパーソンや理想の働き方を具体的にするプロセスです。現状の改善点や弱みなどをフィードバックする機会になり、従業員は目標実現に向けて足りない点を知るきっかけとなります。
また、企業側にとっても従業員の価値観や将来像を知ることができる重要な機会といえます。
目標管理制度
従業員がより目標実現に向けた行動を移せるように、目標管理制度を設けるのもひとつの方法です。目標管理制度では、1年や半年など区切られた期間内での目標を設定し、その実現のために必要な行動を明確にする効果があります。
従業員は短期目線での目標を設定できるため、仕事に対するモチベーションを維持しやすいことも大きなメリットです。
社内インターンシップ
社内インターンシップでは、異なる部署の業務を経験することができます。これまで経験のない仕事に触れることは、新たな自分の強み・弱み、キャリアの方向性を発見するきっかけにもなるでしょう。
また、社内で求められているスキルや経験を把握することで、新たなキャリアデザインを描くことにもつながります。
キャリアデザインの設計方法
キャリアデザインの設計には、「キャリアデザインシート」の活用が有効です。キャリアデザインシートとは、現状で不足しているスキルや目標を可視化するためのツールです。
キャリアデザインシートは、主に次のような流れで作成します。
①現状を把握し、分析する |
まずは、従業員にこれまでのキャリアや経歴を振り返ってもらい、自分の得意・不得意な業務、身についているスキルなどを具体的に把握できるようにします。上司とのキャリア面談を設定し、自分に対する評価を知る機会を作ることも有用です。
その後、従業員が自身の求める働き方や理想像を明確にし、その実現のための具体的な計画をまとめます。その内容を企業が把握し、チームマネジメントや今後の人事施策などに活かすことも大切です。
まとめ
従業員が長い職業人生のなかで理想の働き方を実現するためには、キャリアデザインを明確に描く支援をすることが有用です。将来までのキャリアを設計することは、現在の仕事に対するやりがいを見出し、スキルアップへのモチベーションなどにつながる可能性があります。
まずは従業員に対して、キャリアについて考える機会を提供してみてはいかがでしょうか。
<ライタープロフィール>
ライター:椿 慧理
フリーライター。新卒後に入行した銀行で10年間勤務し、個人・法人営業として金融商品の提案・販売を務める。現在は銀行で培った多様な経験を活かし、金融・人材ライターとして幅広く活動中。2級ファイナンシャル・プランニング技能士、1種外務員資格、内部管理責任者資格を保有(編集:株式会社となりの編プロ)