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エンゲージメントとは?従業員エンゲージメントを高める方法を解説

エンゲージメントとは?従業員エンゲージメントを高める方法を解説

近年では、従業員と企業との関係性を測る指標として、エンゲージメントを重視する企業が増えてきました。従業員エンゲージメントの向上により、離職防止や生産性向上につながります。

本記事では、エンゲージメントの定義や注目されている背景、高める方法とともに、測定方法や留意点について解説します。

エンゲージメントとは

エンゲージメント(engagement)とは、誓約や約束、契約などの意味を指す言葉です。ビジネスシーンでは、企業と従業員や企業と顧客との、深い関係性や絆の強さを示す言葉として使用されています。

企業におけるエンゲージメントには、以下の2つがあります。

● 従業員エンゲージメント
● 顧客エンゲージメント

ここでは、それぞれのエンゲージメントについて解説します。

従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントとは、従業員が企業に対する自発的な貢献意欲や愛社精神を示す指標です。従業員エンゲージメントは、以下の3要素で構成されています。

働きやすさ

・上司や同僚との関係性が良好で、職場が自身に合っていると感じられる
・効果的な業務改善を推進する風土がある
・正当・公平に評価される評価制度がある

ビジョンの共感

・企業理念や方針に共感している
・自社に対し帰属意識を持っている

行動意欲

・自社に貢献したいと思っている
・仕事に意欲的に取り組んでいる

これらの要素に対し、高い結果が出る従業員が多い企業は、従業員エンゲージメントが高い企業といえます。従業員エンゲージメントが低い場合、居心地が悪く、自社に対して行動する意欲を持っていない従業員が多いことになります。

その状態が続けば、従業員の離職や生産性の低下といった問題が発生する恐れがあるでしょう。従業員エンゲージメントが向上すれば、自社に貢献する従業員が増加します。それにより、離職防止や生産性向上につながります。

従業員満足度との違い
従業員エンゲージメントと似た用語に挙げられるのが、従業員満足度です。従業員満足度とは、従業員の自社に対する「居心地の良さ」を示す指標です。たしかに、従業員満足度が高ければ離職率は低下します。しかし、生産性向上につながるとは限りません。

給与や周囲との関係性に満足しているものの、自社に貢献したいとは考えていないことも考えられます。その場合、従業員満足度は高くても、従業員エンゲージメントは高くありません。生産性向上にもつながらないでしょう。

生産性向上につながるかどうかが、従業員エンゲージメントと従業員満足度の違いといえます。

顧客エンゲージメント

顧客エンゲージメントとは、企業と顧客との親密度や信頼関係を示す指標です。企業に対して好意的な印象を持っており、継続的にサービスを利用している顧客が多ければ、顧客エンゲージメントが高い企業といえます。

顧客エンゲージメントが高い顧客は、自社の売上に貢献してくれるだけにとどまらず、自社のポジティブな情報を発信したり、改善要望を出してくれるなどします。顧客エンゲージメントの向上は、自社の利益向上だけでなく、サービス改善にもつながるのです。

従業員エンゲージメントが注目されている背景

従業員エンゲージメントが注目されている背景として、以下の3つが挙げられます。

● 日本における終身雇用の維持が困難
● 労働人口の減少
● 働き方や価値観の多様化

ここでは、それぞれの背景について解説します。

日本における終身雇用の維持が困難

従業員エンゲージメントが注目されている背景として、日本において終身雇用の維持が困難になってきたことが挙げられます。これまで、日本の企業は年功序列の終身雇用制度を導入しているところがほとんどでした。

終身雇用制度は、従業員が定年まで職を失う心配がなく、安定した収入を得られることから、従業員にとってもメリットの多い制度でした。しかし、近年では1つの会社にとどまらずに転職することに対し、抵抗を感じる人が少なくなってきました。

成果を出せる人材が、能力を高く評価してくれる会社に転職するケースは珍しくありません。これは、成果よりも年功序列を優先してきた評価制度の影響です。雇用制度を見直し、ジョブ型雇用を導入する企業も出てきており、終身雇用を継続することは困難な時代といえます。

その対策として注目されているのが従業員エンゲージメントです。従業員エンゲージメントが高い人材であれば、終身雇用制度ではなくとも、長く自社に貢献し続けてくれます。そのような人材を増やすために、従業員エンゲージメントが注目されています。

労働人口の減少

少子高齢化による労働人口の減少も、従業員エンゲージメントが注目されている背景に挙げられます。内閣府が公開した高齢社会白書によると、少子高齢化の影響により、労働人口に該当する15~64歳の人口は減少の一途をたどっていることが明らかになっています。

労働人口の減少により優秀な人材は大企業に流れていくため、中小企業の多くは人材の獲得や定着に苦しんでいます。獲得した人材に残ってもらうためにも、従業員エンゲージメントを意識した取り組みが注目されています。

参考:内閣府「令和6年版高齢社会白書(概要版)第1章 高齢化の状況

働き方や価値観の多様化

働き方や価値観が多様化してきたことも、従業員エンゲージメントが注目されている背景のひとつです。働き方改革や新型コロナウイルス感染拡大の影響により、短時間勤務やテレワークをはじめとした多様な働き方を導入する企業が増えてきました。

多様な働き方を受け入れることにより、これまでは子育てや介護、居住地を理由に確保できなかった人材の確保が可能です。多様な働き方を受け入れた場合、多様な価値観を持った人材を受け入れることになります。

そこで重要となる指標が従業員エンゲージメントです。従業員エンゲージメントが向上する取り組みをすることにより、多様な人材を活かせる労働環境を構築できます。

従業員エンゲージメントを高める方法

エンゲージメントとは?従業員エンゲージメントを高める方法を解説_3

従業員エンゲージメントを高めるには、以下の手順で進めていきます。

1. 企業理念・経営ビジョンの共有
2. 従業員の価値観・ニーズの把握
3. 労働環境の整備

ここでは、それぞれの方法について解説します。

企業理念・経営ビジョンの共有

企業理念やビジョンを従業員に周知し、共感を得られれば従業員エンゲージメントは向上します。自社の軸となる考え方とともに、顧客や社会に対して何を提供するのかを明確にすれば、従業員からの共感を得られるでしょう。

ただし、定期的に周知しなければ浸透しません。ポータルサイトや社内報、社内会議などで定期的に発信し、浸透を図りましょう。

従業員の価値観・ニーズの把握

従業員エンゲージメントを高めるには、従業員の価値観やニーズの把握も欠かせません。従業員の価値観や考え方は、一人ひとりで異なります。仕事だけに没頭したい人や私生活とのバランスを大事にしたい人など、さまざまな人がいるはずです。

どのような価値観を持っている従業員がどれくらい存在し、自社に何を求めているのかを知らなければ、ニーズに合わない取り組みをしてしまう可能性があります。効果のある取り組みをするためにも、従業員の価値観やニーズを把握することが大切です。

労働環境の整備

従業員が働きやすい労働環境を整備することも、従業員エンゲージメントの向上につながります。適材適所の配置はもちろん、以下のようなワークライフバランスやキャリアアップにつながる取り組みをすることもひとつです。

取り組み

具体例

コミュニケーションの活発化

・リラックススペースの設置
・コミュニケーションツールの導入

働き方の多様化

・フレックスタイム制度の導入
・テレワークの導入

キャリアステップの明確化

・キャリアデザイン研修の実施
・多様なキャリアパターンの提示
・スキルアップ制度の設置
・階層別の研修の実施

さまざまな人事制度の導入

・社内公募制度の導入
・社内FA制度の導入

インセンティブ制度の導入

・ピアボーナス制度(従業員同士が結果等を評価し報酬を送り合う仕組み)の導入
・報奨金制度の導入
・物的インセンティブ制度の導入

従業員は「必要とされている」「成長している」と感じられる環境であるほど、貢献意欲や帰属意識が高まります。従業員の価値観やニーズを把握したうえで、自社に適した取り組みを実施することが大切です。

従業員エンゲージメントの測定

従業員エンゲージメントを高める取り組みの効果を検証するためには、従業員エンゲージメントを正確に測定する必要があります。従業員エンゲージメントの測定に用いられている主な方法として挙げられるのは、アンケート調査です。

月ごとや四半期ごとなど、定期的にアンケート調査を実施し、従業員エンゲージメントの推移を確認することにより、取り組みの効果がわかります。ここでは、アンケート内容や測定する指標、調査時の留意点について解説します。

アンケート内容

アンケートの質問例として、以下のものが挙げられます。

● 求職中の友人や知人に自社をどの程度勧めたいですか?
● 自分が期待されていることが何かを知っていますか?
● 必要な設備や道具を与えられていますか?
● 最も得意なことをする機会を毎日与えられていますか?
● この1週間のうちに、成果を認められたり褒められたりしましたか?
● 周囲から尊重されていると感じていますか?
● 成長の機会を与えてもらえていると感じますか?
● コミュニケーション活性化につながると思う施策を書いてください

5段階や10段階で回答するものや、フリーコメントで回答するものがあります。実施側と回答側の負担を減らすため、質問数は多くても15問程度に抑えましょう。

アンケート調査で測定する指標

アンケート調査で測定できる指標には以下の3つが挙げられます。

指標

概要

総合指標

自社への総合的な満足度や期待度を測定する

◇質問例
・求職中の友人や知人に自社をどの程度勧めたいですか?
・成長の機会を与えてもらえていると感じますか?
・周囲から尊重されていると感じていますか?

仕事へのモチベーション

業務のやりがいや、仕事への没頭度合を測定する

◇質問例
・自分が期待されていることが何かを知っていますか?
・最も得意なことをする機会を毎日与えられていますか?

エンゲージメント向上の要因

自社や周囲との関係性や、業務の難易度、個人の資質が業務に与える影響を測定する

◇質問例
・この1週間のうちに、成果を認められたり褒められたりしましたか?
・成長の機会を与えてもらえていると感じますか?
・コミュニケーション活性化につながると思う施策を書いてください

実施目的を明確にしたうえで、測定したい指標によって質問内容や質問数を設定しましょう。

アンケート測定時の留意点

アンケート調査は従業員にとって負担となるものです。実施目的が明確ではないまま実施した場合、従業員によっては嫌悪感を持たれてしまう恐れがあります。そのため、従業員には企業の課題改善のための調査であることを説明し、理解を得たうえで実施しましょう。

また、アンケート実施後の集計と分析を速やかに実施することもポイントです。速やかに実施しない場合「形だけの調査なのではないか?」と、不信感を持たれてしまう可能性があります。そのため、アンケート実施後は速やかに集計と分析を実施し、改善に動くことが大切です。

従業員エンゲージメントの向上における注意点

従業員エンゲージメントの向上に向けて取り組む際に、注意したい制度として、以下の2つが挙げられます。

● メンバーシップ型の人事制度
● オーバー・コンプライアンス

これらの制度が残っていた場合、従業員エンゲージメントを低下させてしまう可能性があります。ここでは、それぞれの制度が従業員エンゲージメントに与える影響について解説します。

メンバーシップ型の人事制度

従業員エンゲージメントを低下させる制度として、メンバーシップ型の人事制度が挙げられます。多くの日本企業では、終身雇用を前提としたメンバーシップ型の人事制度を採用しています。

メンバーシップ型の人事制度での賃金設定は、原則として勤続年数や年齢をもとにしています。そのため、成果を出しても賃金が上がりにくいというデメリットを抱えています。

従業員のモチベーション維持を図るためにも、評価基準や成果と連動した賃金基準を見直し、納得感のある人事制度にすることがポイントです。

オーバー・コンプライアンス

オーバー・コンプライアンスも、従業員エンゲージメントを低下させる制度に挙げられます。基本的なコンプライアンスは必要です。しかし、過去のインシデント対応を受けてルールを増やしすぎた場合、非効率な対応になってしまうケースがあります。

例えば「新しい備品を購入する際は複数の部署からの承認がなければ購入許可が出ない」というルールがあった場合、すぐに必要な部品が手に入りません。それが業務効率や顧客へのサービス低下につながるシーンに直面した場合、その従業員のエンゲージメントは低下することが考えられます。

効率化を妨げる要因になっているルールや、臨機応変な対応ができなくなっているルールを見直し、人事制度と同様に「納得感」のあるルールを設定することが大切です。

まとめ

エンゲージメントとは?従業員エンゲージメントを高める方法を解説_6

誓約や約束、契約などを意味するエンゲージメントは、ビジネスシーンでは企業と従業員や、企業と顧客との深い関係性や絆の強さを意味する言葉として使用されています。従業員が企業に対する自発的な貢献意欲や愛社精神を示す指標である「従業員エンゲージメント」は、働きやすさ・ビジョンの共感・行動意欲の3要素で構成されています。

近年では、終身雇用の終焉や労働人口の減少、働き方や価値観の多様化などの理由により、従業員エンゲージメントが注目されてきました。従業員エンゲージメントを高めるためには、正しい手順で進める必要があります。

適した施策は、従業員の価値観やニーズによって異なるため、どのような価値観を持っている従業員がどれくらい存在し、自社に何を求めているのかを把握しておく必要があります。本記事を参考に、自社に適した従業員エンゲージメントを向上させる取り組みを検討しましょう。
 


<ライタープロフィール>
田仲ダイ

エンジニアリング会社でマネジメントや人事、採用といった経験を積んだのち、フリーランスのライターとして活動開始。現在はビジネスやメンタルヘルスの分野を中心に、幅広いジャンルで執筆を手掛けている。