マネジメント
今知っておくべき健康経営とは。従業員の健康が企業にもプラスに
新型コロナウイルスをきっかけに、私たちの生活には大きな変化がありました。さまざまな企業ではテレワークが基本となったほか、日常生活においても新しい生活様式に沿った行動が求められるようになったのは、記憶に新しいことでしょう。
コロナ禍をきっかけにストレスや不安を感じる人からの相談が増加したため、政府では相談窓口やカウンセラーへの相談を呼びかけています。従来に比べ、ストレスや不安を感じやすい状況だからこそ、社員の健康状態に注意することは欠かせないといっても過言ではありません。
以前より、働き方改革の推進をきっかけに、従業員を取り巻く環境は徐々に変わりつつあります。従業員の健康を企業が増進する「健康経営」も、その変化のひとつです。
従来の働き方では、長時間労働の慢性化や仕事によるストレスから、健康でいきいきと働くことは簡単ではありませんでした。そんな状況から健康経営が重要視されるようになったのは、2015年よりストレスチェック制度が義務化、経済産業省が健康経営に取り組む企業を「健康経営銘柄」として選定・公表されるようになったことも関わっています。
今回は、今後より一層重要なものとなる健康経営について解説します。
目次
健康経営とは
健康経営とは、従業員の健康保持・増進の取り組みが将来的に収益などを高める投資であるという考えのもと、健康管理を経営的視点から考えて実践することです。アメリカの臨床心理学者ロバート・ローゼン氏が提唱した概念「ヘルシーカンパニー」を基にしています。
これまで、従業員の健康は各々が自己管理することが当たり前でした。一方で健康経営の考え方は授業員の健康づくりを「投資」と考えるものであり、結果としてそれを上回る「リターン」が期待されています。実際にとある製薬・医療機器を取り扱う企業では「健康経営に対する投資1ドルに対するリターンは3ドル以上になる」という調査結果も明らかにしています。
健康経営が注目される背景
1989年~2018年までのデータをもとにした総務省の統計「人工減少社会、少子高齢化」によれば、日本の総人口は2008年をピークに、2011年以降は一貫して減少を続けています。
年齢区分別の割合でも1997年を境に65歳以上人口(15.7%)が0~14歳人口(15.3%)を上回り、2018年は65歳以上人口(28.1%)が0~14歳人口(12.2%)の2.3倍と少子高齢化が著しく進んでいることがうかがえます。
少子高齢化により、日本では15歳~65歳未満の生産年齢人口の減少も進んでいます。増加の見込みもなく、今後は1人当たりの労働生産性を上げなければ企業の生産性が大きく減少し、経営難に見舞われる可能性も考えられます。
そのような状況で、生産性を上げるために企業は長時間労働を課しても、結果として従業員の心身に大きな負担がかかり、仕事を続けられなくなるケースも多くあります。
長期的な視点で考えたとき、従業員の健康を守ることが生産性の向上、労働力の確保につながる事例が見られたことから健康経営が注目されるようになりました。
健康経営に取り組むべき理由
年々社会全体で健康への意識が高まっていることもあり、健康経営への取り組みを意識する企業も増加しています。では、その中でも特に健康経営を取り入れるべき企業には、どのような特徴があるのでしょうか。
従業員の高年齢化
厚生労働省の調査、令和元年「高年齢者の雇用状況」によると、65歳までの雇用確保措置のある企業は99.8%であり、66歳以上働ける制度のある企業は30.8%(前年より3.2ポイント増加)、70歳以上働ける制度のある企業は28.9%(前年より3.1ポイント増加)。さらに定年廃止企業は2.7%と、多くの企業では従業員の雇用延長が積極的におこなわれていることがわかります。
企業では定年の延長により労働力を確保しようとしていますが、従業員の高齢化が著しい企業では、より一層健康的な生活を送ることが求められています。
中高年の従業員は健康状態が悪化しやすいだけでなく、重大な疾患の発見が遅れれば命の危機にも関わります。定期的な健康診断はもちろん、ストレスチェックが受けられる環境が必須です。
長時間労働の慢性化
人材不足により長時間労働が慢性化している企業も、健康経営に取り組む必要性があります。
従業員は帰宅時間が遅くなると、当然ながら睡眠時間が短くなります。睡眠により疲労が回復されないまま勤務にあたっても、生産性は低く、翌日も長時間労働となり、再び帰宅時間が遅くなってしまう……といったように、長時間労働は従業員の疲労回復を妨げます。
さらに休日まで出勤を強いるような環境であれば、睡眠不足により心身に多大なダメージを与え、場合によっては突然死に至るリスクまでも考えられるでしょう。
健康経営のメリット
健康経営は、さまざまな面において企業にメリットをもたらします。
医療費の削減
厚生労働省の調査「平成29年度 国民医療費の概況」によると、平成29年度(2017年)の国民医療費は43 兆710億円と、前年に比べ9,329億円、2.2%の増加が見られます。高齢化が急速に拡大している状況では、より多くの国民医療費が必要となっていくことは避けられません。
国民医療費の拡大は、企業の医療費負担にも大きな影響を与えるでしょう。健康経営に取り組むことで従業員の通院・治療の頻度は減少し、企業が負担する医療費の削減ができます。
生産性向上
従業員が心身ともに健康でいきいきと働ける状態にあると、モチベーションアップにもつながります。
健康度が高い従業員は自分の能力を十分に発揮し、目の前の仕事はもちろん、意欲的に新しい仕事に挑戦するような心の余裕も生まれるほか、ヒューマンエラーが減少する、十分な休息が取れているために遅刻や欠勤が減ることが期待できます。結果として生産性が向上し、企業にとっても収益の向上が期待できます。
企業のイメージアップ
経済産業省では、健康経営に取り組む企業を可視化する目的から、2015年度から健康経営優良法人認定制度を導入しています。
この制度では定期検診受診率(実質100%)やコミュニケーションの促進に向けた取り組み、適切な働き方実現に向けた取り組みをはじめとする複数の認定基準を満たした企業を「健康経営銘柄」として選定し、選定を受けた企業は、自社ホームページや求人広告に認定マークを表示させることができます。
実際に、健康経営銘柄2020の大規模法人部門では1481法人が、中小規模法人部門では4723法人が認定を受けています。
健康経営銘柄2020に選ばれた企業は、健康経営に積極的な取り組みをしている、認定基準を満たしている何よりの証明です。求職者に対して強い魅力となるでしょう。
健康経営実現のポイントと事例
生活習慣の改善を実現するためには、日々の食事管理や運動を習慣化し、長期的に取り組まなければなりません。健康経営も、従業員の健康がゴールではなく、従業員が健康になることで企業にはどんな利益がもたらされるのかを考える必要があります。
そのため、健康経営に取り組むには、目的を定めて長期的に続けられる施策から検討をしていくことが重要です。
継続的な取り組み
体重計など計測機を主に取り扱うメーカーでは、2009年より全従業員を対象に通信機能を持つ歩数計を配布し、日々の歩数を計測しているほか、体組成計で体重、体脂肪率、筋肉量をデータにまとめ、改善を目指しています。
ただ歩数を計測するだけではなく、歩数を競うイベントを開催したほか、メタボリックシンドロームの社員向けに別途管理栄養士による個別指導プログラムを実施しています。
健康経営への取り組みは、一過性のもので終わってしまえば意味がありません。「もっと頑張ろう」と従業員自らが積極的に参加できる、問題があれば専門家の意見をもとに改善できるよう促す仕組みが重要です。
コミュニケーションの促進
福利厚生サービスを提供している企業には、健康に関する目標を従業員それぞれが設定し、実現に向けて取り組むプログラムがあります。
このプログラムではスマートフォンやPCから専用ページにアクセスできるようになっており、掲示板やメッセージ機能を使ってお互いに励まし合うことも可能です。
食事制限やランニングなど、健康に関する取り組みは、従業員によってはつらく、挫折してしまうこともあるでしょう。そんなときに従業員同士でコミュニケーションが取れる仕組みであれば、目標実現に近づけるだけでなく、日常的なコミュニケーションの促進も期待できます。
対象者の拡大
健康経営の取り組みの中には、「禁煙」や「減量」といった目標を達成した従業員にのみ特別インセンティブを与えるものも見られます。対象となる従業員にとってはモチベーション維持につながりますが、それ以外の従業員には不公平に感じられるでしょう。
情報・通信業に関するサービスを提供している企業では、特定の目標ではなく、健康増進に関する行動習慣や定期検診結果をポイント化、1ポイントを1円として支給する制度を導入しています。このような形であれば、全従業員を対象とできるため、誰もがモチベーションを維持できます。
健康経営を推進するのには費用の捻出がネックとなります。そこで、以下のような健康経営に関する助成金の活用も検討すると良いでしょう。
ストレスチェック助成金
従業員数50人未満の事業場が、医師や保健師によるストレスチェック、医師による面接指導などを実施すると費用の助成を受けられます。
時間外労働等改善助成金
時間外労働等改善助成金では、時間外労働における労働時間を見直し、従業員のワークライフバランス実現に向けた施策に対する費用の一部を助成しています。
時間外労働等改善助成金は、「勤務間インターバル導入コース」や「時間外労働上限設定コース」など、取り組む内容によって支給額や対象者が異なります。
まとめ
少子高齢化により、今後はさらに労働力の確保が重要となることが見込まれています。そんな状況だからこそ、従業員の健康を保つ健康経営は欠かせないものといえるでしょう。
まずは労働時間や退職率といった状況を把握し、従業員の意見を取り入れながら健康経営に取り組んでみてはいかがでしょうか。