派遣先責任者とは?役割や選任方法・選任のポイントを解説
派遣先企業では、派遣スタッフが円滑に業務をできるよう、専属の派遣先責任者を選任する必要があります。派遣先責任者とは、どのような役割があり、どのように選任するのでしょうか。また適任者が不在の場合は、どうしたらいいのでしょうか。本記事では、派遣先責任者の基本情報や選任方法、注意点を紹介します。
目次
派遣先責任者とは?
派遣先責任者とは、「派遣スタッフの就業管理を一元的におこない、派遣先における派遣労働者の適正な就業を確保する人物」と、労働者派遣法第41条で定められています。派遣先責任者を設置しなかった場合、労働者派遣法に抵触し、30万円以下の罰金に処せられる場合があります。
派遣先責任者になるために資格は必要?
派遣先責任者に必要な資格は、特に定められていません。ただし、厚生労働省による「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(第2-13)で、「派遣先責任者の職務を的確に遂行することができる者を選任するよう努めること」とされており、次の3つの条件を満たしていることが求められます。
①労働関係法令に関する知識を有する者
②人事・労務管理等について専門的な知識または相当期間の経験を有する者
③派遣労働者の就業に係る事項に関する一定の決定、変更を行い得る権限を有する者
【参考】派遣先が講ずべき措置に関する指針(厚生労働省)
上記の条件に該当する人物がいない場合は、「派遣先責任者講習」を利用し、派遣先責任者として適切な業務をおこなうための必要な専門知識を身につけることができます。
派遣先責任者講習とは?
派遣先責任者としての能力向上を図り、派遣先責任者として適切な業務がおこなえるようになることを目的とし、関係法令やその職務に関する必要な知識などを付与するための講習です。
<受講対象者>
・派遣先責任者として選任されることが予定されている者
・派遣先責任者として選任されている者
・そのほか派遣労働者派遣事業に関する一定水準の知識を習得し、理解を深めようとする者
<講習の内容>
講義科目 | 講義時間 |
労働者派遣事業の適正な運営の確保および 派遣労働者の保護等に関する法律 |
1時間 |
労働基準法等の適用に関する法律等 | 2時間(1時間以上) |
派遣先責任者の職務遂行上の留意点 | 2時間(1時間以上) |
<講習の日程>
派遣先責任者講習の日程や講習機関等は、厚生労働省のホームページで随時紹介されています。以下の「派遣先責任者講習の日程及び講習機関等について」の項目をチェックしてみてください。
《参考サイト》
厚生労働省|派遣先責任者講習
派遣先責任者の人数
派遣先責任者は、上記の条件を満たした人物を事業所ごとに専属の者として選任します。ここでいう「専属」とは、派遣先の職務のみに従事するという意味ではなく、「ほかの事業所の派遣先責任者を兼任しない」という意味です。必要な派遣先責任者の数は、事業所ごとの派遣スタッフの数によって異なります。
事業所に属する派遣スタッフの数 | 必要な派遣先責任者の数 |
1人~100人以下 | 1人以上 |
101人~200人以下 | 2人以上 |
201人~300人以下 | 3人以上 |
派遣先責任者の数は、派遣先の事業所における派遣スタッフ数1人以上100人以下を1単位として、1単位ごとに1人以上ずつ派遣先責任者を選任します。ただし、事業所における派遣スタッフの数と派遣先が雇用する労働者の数を加えた数が5人以下の場合は、選任の必要はないとされています。
派遣先責任者の役割
では、派遣先責任者とは、具体的にはどのようなことをするのでしょうか。派遣先責任者は、派遣法第41条によって定められた、派遣スタッフの適正な就業を確保する次のような役割を担います。
①指揮命令者や関係者等に派遣法や契約内容を周知すること
派遣先責任者は、派遣スタッフに関する法規定、労働者派遣契約の内容、派遣元から受けた通知内容を、指揮命令者や派遣スタッフに関わるすべての関係者に伝達します。
・指揮命令者とは?
指揮命令者とは、派遣スタッフに対して業務の指示をする上司的な役割の人のこと。派遣スタッフの業務内容を把握し、指示や管理するのはもちろん、労働時間や休憩、残業時間、休日の管理などもおこないます。
派遣契約の締結にあたっては、派遣先責任者と指揮命令者の選任が必要です。指揮命令者は派遣スタッフと同じ部署に勤務する人など、派遣スタッフに対して直接業務の指示や管理ができる立場の人から選任します。
派遣先責任者 | 指揮命令者 | |
役割 | 人事・労務などの知識を有し、役割を的確に遂行できる者 | 派遣スタッフに対する業務の指示・管理をする者。労働時間・休憩・残業・休日などの勤怠管理・指示もおこなう |
選任対象 | 人事・労務などの知識を有し、役割を的確に遂行できる者 | 派遣スタッフに対して、直接業務の指示や管理をできる立場にある者 |
選任条件 | 派遣先事業者ごとに派遣スタッフ100人につき1人以上 ※派遣先が雇用する社員の数と事業所における派遣スタッフの数の合計が5人以下の場合は選任不要 |
派遣スタッフと同じ部署に勤務している者など、派遣スタッフの業務内容を把握し、指示・管理ができる者 |
なお、派遣先責任者と指揮命令者は、役割や選任条件は異なりますが、兼任することもできます。
②派遣受入可能期間の延長通知に関すること
2015年に労働者派遣(派遣法)が改正され、「期間制限」という法律が追加されました。「期間制限」とは、契約労働者や契約社員・パート・アルバイトには適用されない派遣スタッフのみに適用されるルールです。
現在の派遣法では、労働者個人単位の派遣期間制限として、同一の派遣スタッフが同一組織で働ける期間を最大3年までと定めています。また、同一事業所の派遣期間制限として、同一事業所が継続して派遣社員を受け入れられる期間を、原則として最大3年までと定めています。つまり、「派遣可能期間は3年まで」ということになります。
派遣会社は、3年を超えて同じ派遣スタッフを派遣することはできません。また、就業してから3年が経過する派遣スタッフに対しては、派遣先企業への直接雇用の依頼や新たな派遣先の提供、派遣会社での無期雇用など、雇用が安定するための措置をとることが義務付けられています。
ただし、3年という期間は、同一組織単位に対して定めたものです。制度上、同じ派遣先企業であっても、別の部署(正確には組織単位)であれば期間制限の対象とならず、派遣可能となります。派遣先責任者は、こうした派遣受入可能期間の延長通知に関することの指示・管理などもおこないます。
③派遣先における均衡待遇の確保に関すること
2020年4月からいわゆる「同一労働同一賃金」が施行され、ルールの徹底が求められています。「同一労働同一賃金」の目的は、正社員とパート・有期・派遣スタッフとの間での不合理な待遇差を解消すること。合理的な理由がない場合は、雇用区分に関わらず同じ待遇にしなければいけません。
派遣スタッフの場合、公正な待遇が確保されるよう、【派遣先均等・均等方式】と【労使協定方式】の2種類の方式が新たに定められています。このいずれかを派遣会社が選択し、派遣スタッフの待遇を決定することになります。2つの方式には、それぞれ次のような違いがあります。
【派遣先均等・均等方式】
派遣先の職場で同じ仕事をしている社員(通常の労働者)に合わせて、派遣スタッフの待遇を決定する方式
【労使協定方式】
派遣会社側が一定条件を満たす労使協定を締結し、派遣スタッフの待遇を決定する方式
派遣先責任者は、こうした派遣先における均等待遇に関することの交渉・調整などもおこないます。
④派遣先管理台帳の作成、記録、保存および記載事項の派遣元への通知に関すること
派遣先管理台帳とは、派遣スタッフの労働日や労働時間など、就労実態を記載する書面のことです。派遣スタッフが在籍している企業では、派遣先管理台帳を作成・保管する必要があり、その記載内容の一部を派遣会社に通知する義務があります。
<派遣元に通知すべき内容>
・派遣スタッフの氏名
・業務の種類・内容
・派遣スタッフが従事する業務に伴う責任の程度
・派遣スタッフが労働に従事した事業所の名称と所在地、そのほか派遣就業をした場所、組織単位
・派遣就業をした日
・派遣就業をした日ごとの始業、終業した時刻、休憩した時間
また、上記以外にも、派遣先が派遣スタッフから苦情の申し出を受けた場合には、苦情の申し出を受けた年月日、苦情の内容および苦情の処理状況についての対応を都度記載し、派遣元に通知する必要があります。
<通知の方法>
派遣先は、1ヶ月ごとに1回以上など一定の期日を定め、派遣スタッフごとに通知事項に係る項目を派遣元に通知しなくてはなりません。派遣元から請求があった場合も同様です。
通知方法は、以下のいずれを選択します。
・書面を交付する
・書面のデータを電子メールに添付し送信する
・電子メールに記載して送信する
派遣先責任者は、こうした派遣先台帳の作成、記録、保存および記載事項の派遣元への通知に関することをおこないます。
《関連サイト》
派遣先管理台帳とは?記載事項や作成のルールを徹底解説
⑤派遣スタッフからの苦情の対応にあたること
派遣スタッフから苦情の申し出があった場合には、苦情の内容を派遣元の事業主に通知するとともに連携し、誠意をもって、遅滞なく、適切かつ迅速な処理を図らなくてはなりません(派遣法第40条第1項)。
<派遣先が適切かつ迅速な処理を図るべき苦情の例>
・セクシャルハラスメント
・妊娠、出産等に関するハラスメント
・育児休業等に関するハラスメント
・パワーハラスメント
・障害者である派遣スタッフの有する能力の有効な発揮の支障となっている事情等
また、苦情の申し出を受けたことを理由にして、その派遣スタッフに対して不利益な取り扱いをすることは禁じられています(厚生労働省「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の7)。
この場合における「不利益な取り扱い」とは、派遣スタッフの担当する業務量の増加や変更など、派遣スタッフへの直接的な行為だけでなく、派遣元に当事者である派遣スタッフの交代や契約更新をしないなどの間接的な行為も含まれます。派遣スタッフからの苦情にあたることも、派遣先責任者の重要な役割です。
⑥安全衛生などに関して、派遣元と必要な連絡調整をおこなうこと
派遣スタッフの安全衛生を確保するためには、就業場所における具体的な指揮命令や機械設備の維持管理等が必要です。そのため、安全管理全般と就業に伴う具体的な衛生管理については派遣先が、一般的な健康管理等については派遣元が責任を負います。
派遣先責任者は、安全衛生などに関して、派遣元と必要な連絡調整をおこなう役割があります。派遣先責任者がおこなう「連絡調整」とは、具体的には、派遣スタッフの安全衛生が的確に確保されるよう、以下のような内容に関する連絡調整をおこなうことをいいます。
<安全衛生等に関する連絡調整の内容>
・健康診断(一般健康診断、有害業務従事者に対する特殊健康診断等)の実施に関する事項(時期・内容、実施責任者等)
・安全衛生教育(雇入れ時の安全衛生教育、作業内容変更時の安全衛生教育、特別教育、職長等教育等)に関する事項(時期、内容、実施責任者等)
・労働者派遣契約で定めた安全衛生に関する実施状況の確認
・事故等が発生した場合の内容・対応状況の確認
また、派遣スタッフの安全衛生を確保するためには、上記のように責任者を定めるほか、労働者派遣契約において派遣スタッフの安全衛生を確保するために必要な事項を含む就業条件を明確にする必要があります。
⑦派遣元との連絡調整に関するさまざまなこと
派遣先責任者は、派遣元企業の事業主と派遣スタッフに関する連絡および調整をする役割があります。連絡調整の具体的な方法としては、派遣先に連絡協議会等を設置しておこなうことが望まれますが、そのためには、連絡調整に関するマニュアル(手順書、規定等)を作成し、以下の項目を明確にすることが必要です。
<連絡調整に関するマニュアルに必要な事項>
・協議内容
・出席メンバー
・会議の運営要領
・議事録
・事務局の役割等
⑧そのほかの業務
そのほかにも該当する業務として、「①派遣先における教育訓練の実施状況の把握」「②利用できる福利厚生施設の把握」「③派遣元に提供した派遣先の労働者に関する情報、派遣スタッフの業務遂行状況等の把握」の3つが定められています。厚生労働省の「労働者派遣事業関係業務取扱要領」を参照しておきましょう。
【参考】労働者派遣事業関係業務取扱要領(厚生労働省)
派遣先責任者の選任に関するポイント
派遣先責任者の選任に関しては、前述の条件以外にも、いくつかポイントがあります。派遣先責任者について問い合わせが多い、代表的な例を紹介しましょう。
派遣先責任者として選任できる人物が不在の場合は?
派遣先責任者の選任は、派遣法で定められています。労働者派遣契約書(個別契約書)に記載すべき法定項目にも含まれるため、選任できる人物がいない場合は派遣契約を締結することができません。派遣先責任者講習などを利用し派遣先責任者として適切な業務がおこなえる人材を育成するなど、適切な対応が必要です。
派遣先責任者は正社員でなくてもOK?
法律においては、正社員とは限定されていません。ただし、派遣責任者の職務を全うするだけの権限がない場合は望ましくないとされています。派遣先責任者は、正社員が望ましいと考えたほうがいいでしょう。
役員を派遣先責任者に選任してもOK?
株式会社および有限会社の役員は、派遣先責任者になることができます。ただし、派遣スタッフの就労管理全般をおこない、必要に応じて適切な連絡・調整をおこなうことが前提となるため、派遣社員の身近にいる人物であることが必要です。また、監査役は業務の性格上、派遣先責任者に選任することはできません。
まとめ
派遣スタッフを活用するためには、必ず派遣先責任者を選任しなくてはいけません。派遣先責任者は、派遣スタッフを円滑かつ安全に業務をおこなう役割があります。選任においてはさまざまな条件がありますが、派遣先責任者講習をはじめとした制度を利用し、関係法令やその職務に関する必要な知識などを得ることができます。しっかりとした専門知識をもった社員の選任をおすすめします。
《ライタープロフィール》
ライター:鈴木にこ
求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。派遣・新卒・転職メディアの編集協力、ビジネス・ライフスタイル関連の書籍や記事のライティングをおこなう。