派遣会社から外国人労働者を受け入れるメリット・デメリットとは
人手不足が深刻化している日本では、近年、外国人労働者を受け入れる企業が増えています。厚生労働省の統計によれば、2023年10月末時点の外国人労働者数は204万9千人となり、過去最高を記録しました。
その一方で「外国人労働者を受け入れる手続きが難しそう」「言語や文化の違いへの対処法を知りたい」などといった企業側の懸念点も存在します。そのような場合に検討したいのが、派遣社員として外国人労働者を受け入れる方法です。
本記事では、派遣会社から外国人労働者を受け入れるメリット・デメリットについて、詳しく解説します。
目次
外国人雇用の現状
はじめに、日本における労働人口と外国人労働者の推移について、以下のグラフをもとに解説します。
日本における労働人口の推移
【引用】:厚生労働省 |令和5年版厚生労働白書 資料編(厚生労働全般)
令和5年版 厚生労働白書によれば、2020年の日本の総人口は1億2,615万人で、そのうち生産年齢人口(15~64歳)は7,509万人(59.5%)でした。政府は、このままいくと2040年に6,213万人(55.0%)、2070年には4,535万人(52.1%)まで生産年齢人口が低下すると予測しています。
一方、社会で支えなければならない高齢者の数は、増加の一途をたどっています。
高齢化率を見ると、2020年時点は28.6%でしたが、2040年には34.8%、2070年には38.7%に到達する予想です。現状では、少子化が改善する兆しもないことから、労働力不足は今後ますます進むことが見込まれます。
日本における外国人労働者の推移
【引用】:厚生労働省|「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)
上記のグラフは、外国人労働者数の推移です。2023年10月末時点では、約204万9千人の外国人が、日本の事業所で働いています。新型コロナウィルス感染症の流行による移動制限が緩和されたこともあり、前年に比べて約22万6千人の増加で、過去最高の人数となっています。
同資料によれば、外国人労働者の国籍は、ベトナムが最も多く約51万8千人(25.3%)、ついで中国が約39万8千人(19.4%)、フィリピンが約22万7千人(11.1%)という順でした。また、業種別で見ると最も多いのは製造業(27.0%)、ついでサービス業(15.7%)、卸売業・小売業(12.9%)となっています。
【参考】「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)|厚生労働省
在留資格の拡大
外国人労働者を受け入れる際に確認が必須となっている在留資格ですが、特に、人材不足の業種では「特定技能」という在留資格で外国人労働者を受け入れることが可能となっています。
特定技能とは、政府が認めた一定の専門性や技能を保持する人に対する在留資格のことです。
企業がこの在留資格を有する労働者を受け入れる仕組みを、特定技能制度と言います。
特定技能は分野によって1号(介護・宿泊など)と2号(造船・建設など)の2種類に分かれています。特定技能1号は法務省が定めた特定産業分野の業務に従事する人向けとなっており、介護・宿泊・農業・漁業などが対象です。一方特定技能2号は、従来、造船や建設などより高度な技能を要する一部の分野が対象とされていましたが、2号での制度利用者が少ないことなどもあり、2023年に対象分野を拡大し、ビルクリーニングや自動車整備などが追加されました。
また2024年、1号にも自動車運送業や鉄道といった4つの分野について追加されることが発表されています。
これにより、今後、特定技能の在留資格を保有し日本で働く外国人がさらに増えることが見込まれています。
【参考】
出入国在留管理庁|特定技能2号の対象分野の追加について
出入国在留管理庁|特定技能制度の受入れ見込数の再設定
出入国在留管理庁|特定技能ガイドブック
人材派遣における外国人雇用の状況
本章では、人材派遣という雇用形態における外国人就労者数について、スタッフサービスグループ内の雇用状況を参考に説明します。
日本全国に人材総合サービスを提供しているスタッフサービスグループで、主に製造業界の人材派遣をおこなうテクノ・サービスでは、2023年末時点で1,100人以上の外国籍の派遣スタッフをサポートしています。その国籍は、ブラジルやフィリピン、中国など計42カ国にのぼり、母国語もバックグラウンドも多様性に溢れています。
外国人労働者の派遣にはさまざまなハードルがありますが、テクノ・サービスの特徴のひとつが、外国籍派遣スタッフを専門にサポートする「グローバル・コーディネート・センター(以下GCC)」の立ち上げです。
GCCでは、在籍する外国籍派遣スタッフにあわせて母国語でコミュニケーションが取られ、就労支援や相談をおこないます。
また、派遣先企業には業務マニュアルなどの翻訳や労務管理のサポートも実施しています。
このように、労使双方のトラブルを未然に防げるよう介入することによって、大手企業から中小企業までさまざまな職場で外国人派遣労働者が安心して活躍できる体制が整えられています。
外国人労働者を派遣で受け入れるメリット・デメリット
ここからは、外国人労働者を派遣社員として受け入れるメリット・デメリットについて解説します。
メリット
外国人労働者を派遣で受け入れる主なメリットには、次のようなものがあります。
● 人材不足の解消
● 多様なスキルや経験をもつ人材の確保
● 言語スキルを活用できる
● 派遣会社に複雑な手続きを代行してもらえる
それぞれ詳しく見てみましょう。
人材不足の解消
人材の獲得競争が激化するなかで、企業が独自に求人広告を出したり、面接を実施したりすることは、コストの面でも人手の面でも限界があります。
その点、派遣社員であればスピーディーに人材が見つかり、必要なときに人材を確保することが可能です。
多様なスキルや経験をもつ人材の確保
就労目的で来日している外国人は、多様なスキルや経験をもつ人が多いのが特徴です。例えば研究者やデザイナー、エンジニア、教師などが挙げられます。
【参考】厚生労働省|外国人労働者の受入れの政府方針等について
多言語スキルを活用できる
現在、スタッフサービスの外国人の派遣社員の求人では、事務職や受付といった職種が多いため、外国人スタッフを受け入れることにより、海外の顧客や企業とのやりとりがスムーズにおこなえるようになることが想定されます。
また、外国人労働者の多言語スキルを活用することは、インバウンド需要への対応にもつながる側面もあります。
派遣会社に複雑な手続きを代行してもらえる
外国人労働者を派遣社員として受け入れる場合は、複雑な手続きを派遣会社が代行してくれることもメリットです。
具体的には、在留資格の申請やチェック、日本語レベルのチェック、ハローワークへの届出などがあります。直接雇用の場合は、これらを全て自社でおこなわなければなりません。
派遣社員として受け入れることで、基本的な手続きを派遣会社に任せられます。
デメリット
外国人労働者を派遣社員として受け入れるデメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
● ミスコミュニケーションのリスク
● 価値観のミスマッチ
ミスコミュニケーションのリスク
外国人労働者は、人によって日本語の能力に差があります。日常会話の話す・聞くだけができる人、敬語やビジネス特有の用語も使いこなせる人、漢字を含めた読み書きまでできる人などです。
日本語があまり得意でない派遣社員の場合、さまざまな場面でミスコミュニケーションが起きるリスクが高まります。重要な伝達事項を理解できないこともあるため、毎回個別に伝えたり、誰かがフォローしたりするなどの対策が必要です。
価値観のミスマッチ
日本語の能力が高いスタッフであっても、価値観のミスマッチが起きる可能性はあります。
例えば、日本の「礼儀」や「謙遜」を大切にする文化は、世界から見るとかなり特徴的なものです。そのため、職場の人間関係で思わぬ誤解や摩擦を生んでしまうかもしれません。また、信仰する宗教によっては、礼拝の時間があったり、食べられない食材があったりもします。
派遣会社を通して外国人を受け入れることで、事前に意思疎通や情報のサポートを得られるため、企業にとっては対策をとりやすくなります。
外国人の派遣においての派遣会社の役割
外国人の受け入れに関して、派遣会社は次のような役割を果たします。
● 在留資格の確認等の事務サポート
● 労務管理
● マネジメント・研修サポート
● 言語・コミュニケーションのサポート
● 労働者の生活サポート
● 法的サポート
在留資格の確認等の事務サポート
外国人労働者を受け入れるためには、在留資格の確認が必要です。在留資格には「研究」や「教育」、「留学」、「永住者」など多くの種類があり、資格の内容によって就労できる業種も変わります。
こうした複雑な制度を理解し、場合によっては在留資格の申請まで自社で完結させるとなると大きな負担になりますが、派遣会社を通すことによりサポートが受けられます。
【参考】
厚生労働省 |外国人の方を雇い入れる際には、就労が認められるかどうかを確認してください。
出入国在留管理庁|在留資格一覧
労務管理
労務管理とは、勤務条件の説明や雇用契約の締結、勤怠管理、給与支払い、社会保険の手続きなどのことを指します。日本人とは異なる文化的背景を持つ外国人労働者に、トラブルなく就労してもらうためには、労務管理にも慎重な対応が必要です。
派遣会社を通して外国人労働者を受け入れることで、スムーズに就業が開始でき、就業中の労務管理を一部委託することが可能です。
就業サポート
外国人労働者を直接雇用で受け入れる企業では、「苦労して採用したのに、職場環境が合わず短期間で辞めてしまった」という声もよく聞かれます。
職場への定着は日本人でも悩む場合がありますので、言葉も文化も違う外国人労働者が勤務を続けられないというのは想像に難くありません。
こうしたミスマッチを防ぐために、多くの派遣会社では外国人労働者のためのマネジメントや研修を実施しています。具体的には、日本のビジネスマナーを教えたり、よくあるトラブルと対処法を伝えたりするというものです。
例えば、スタッフサービスグループの技術者・ITエンジニアの派遣をおこなうスタッフサービス・エンジニアリングでは、外国籍のエンジニアの就業をサポートする「グローバルサポートセンター」という部署を設けています。
ここでは、外国人労働者の受け入れにおいて、大きな課題となっている言語やコミュニケーションの不安に対処できるよう、就業後に担当者が日々状況の確認やスキルアップ・キャリアチェンジの相談に応じるなど、些細なことでも対応できる環境が整えられています。
このように派遣会社はこれまでの受け入れ事例から多くのノウハウを蓄積しているので、外国人労働者の就業に関して幅広いサポートが可能です。
法的サポート
外国人労働者の受け入れには、さまざまな法律の知識が必要です。特に在留資格の確認については、不備があったときに「知らなかった」では済まされない問題です。
場合によっては、不法就労をあっせんした企業として懲役や罰金の対象になったり、企業の信用を失ったりする事態も考えられます。
派遣社員としての受け入れであれば、法的な手続きは原則派遣会社がおこなうので、外国人労働者を雇い入れる際の煩雑な手続きが省けます。
【参考】厚生労働省|外国人を雇用する事業主の皆様へ
外国人の派遣を利用する際の注意点
外国人派遣労働者を受け入れる際は、次の3点に注意しましょう。
● 禁止業種がある
● 法的観点に注意する
● 職場内での日本人社員の理解
禁止業種がある
下記の5つの業務では、派遣労働者を受け入れることができません。
● 港湾運送業務
● 建設業務
● 警備業務
● 病院等における医療関係の業務
● 弁護士、税理士、社会保険労務士などの士業
上記を派遣で受け入れることは、外国人労働者に限らず、日本人であっても労働者派遣法で禁じられています。
【参考】厚生労働省|労働者派遣事業を行うことができない業務
法的観点に注意する
次の3つについては、法的な観点にも注意が必要です。いずれも、雇用主となる派遣会社が手配すべきものですが、外国人労働者を受け入れる立場として、用語と概要は把握しておきましょう。
● 在留資格
● 外国人雇用状況の届出
● 派遣終了後の退職証明書発行
在留資格
派遣法では、派遣先企業が派遣労働者の個人情報を取得することは、一部の事項を除いて禁じられています。そのため、外国人派遣労働者の在留資格を、派遣先企業が直接確認することはできません。
外国人労働者を受け入れる際は、在留資格が自社の業種に適応しているかどうかもしっかり確認してもらいましょう。
外国人雇用状況の届出
外国人を雇用する場合は、ハローワークに「外国人雇用状況」の届出が必要です。
ただし、派遣社員として受け入れる場合、この届出は雇用主となる派遣会社の義務になります。派遣先企業が直接おこなうことはありませんが、派遣会社がきちんと手続きをしたかどうかは確認しておきましょう。
【参考】厚生労働省|外国人を雇用する事業主の皆さまへ
派遣終了後の退職証明書発行
外国人労働者が退職する際は、在留資格の関係で退職証明書の発行が必要です。退職証明書には決まった書式がありませんが、一般的には使用期間や業務の種類、その事業における地位、賃金、退職事由などを記載します。
退職証明書の発行も、雇用主である派遣会社が対応すべきことになります。
【参考】:厚生労働省|退職証明書
職場内での理解
外国人派遣労働者を受け入れる際は、職場での理解を求めることも大切です。
よくある例として、外国人労働者を受け入れた際、会社としてのサポートが無い状態で教育やコミュニケーションをすべて現場に任せてしまうケースがあります。
受け入れる前に、あらかじめ「言語や文化に違いがあること」「組織にとってどのようなメリットがあるのか」「困ったときは誰に相談するのか」など、周囲に理解を求めることが大切です。
まとめ
人材不足は、現代の日本企業において普遍的な課題と言えます。外国人労働者を受け入れることで問題の解消につながる一方、法的な手続きや在留資格などおさえておくべきポイントも多く、直接雇用に踏み切る企業は多くありません。
そのような場合に、外国人の派遣労働者の受け入れはひとつの有効な手段です。これから先も労働人口の減少が予想されるなか、自社の業種やニーズにあわせて、上手な活用が求められます。
<執筆監修者プロフィール>
西本 結喜(監修兼ライター)
結喜社会保険労務士事務所代表。金融、製造、小売業界を経験し、業界ごとの慣習や社風の違いを目の当たりにしてきたことから、クライアントごとのニーズにあわせ、きめ細やかな対応を心がけている。