紹介予定派遣とその他の派遣の違いとは?それぞれのメリット・デメリットについて解説
近年、企業・労働者の双方で多様な働き方へのニーズが高まりを見せています。なかでも「派遣」は、柔軟な人員補充や採用のミスマッチを回避できるといったメリットのある雇用形態です。
派遣にもさまざまな形がありますが、「紹介予定派遣」は、将来的に派遣先で直接雇用されることを前提に、一定の期間を決めて派遣社員として働くものとなっており、他の派遣形態とは異なる点が多い働き方です。
「紹介予定派遣とはどのようなものか」「他の派遣との違いは?」「紹介予定派遣を利用する際のポイントを知りたい」といったお悩みを持つ企業にむけて紹介予定派遣の概要やメリット・デメリット、他の派遣形態との違いについて詳しく解説します。
目次
紹介予定派遣とは
まずは、紹介予定派遣の基本的な内容についておさえておきましょう。
紹介予定派遣の概要
紹介予定派遣とは、派遣先企業で直接雇用されることを前提として、最長6ヶ月の期間を決めて派遣される働き方のことです。派遣期間中に、派遣先企業と派遣社員の双方が、直接雇用を検討し、双方の合意があれば直接雇用の契約を結びます。
ここでいう直接雇用とは一概に正社員だけではなく、紹介予定派遣のなかには契約社員やその他の雇用形態になることを前提とした求人もあります。
紹介予定派遣を利用する際の注意点
紹介予定派遣を利用する場合は、求人の段階で紹介予定派遣に関する事項を記載し、直接雇用を前提としていることを明示する義務があります。派遣契約時にあらかじめ派遣期間(最長6ヶ月)が決められ、その期間内で直接雇用を締結するかどうかを判断しなければなりません。仮に企業側が直接雇用を希望しなかった場合は、その理由を明示することが必要となります。
一般的な登録型派遣とは異なり、紹介予定派遣の候補者は書類や面接による選考が可能ですが、年齢や性別、障害を採用基準に含めることは禁止されています。
登録型派遣(有期雇用派遣)とは
登録型派遣(有期雇用派遣)は、いわゆる世間一般にイメージされる「派遣社員」を指します。まずは求職者が派遣会社に登録して求人を紹介してもらい、自分に合うものがあれば、派遣先企業で勤務するという流れです。派遣社員と派遣会社は、期間の定めがある「有期雇用契約」を結びます。
常用型派遣(無期雇用派遣)とは
常用型派遣(無期雇用派遣)は、派遣会社と派遣社員が期間の定めのない雇用契約を結ぶ派遣形態です。月給制無期雇用という形で採用され、派遣先の仕事の有無に関わらず、雇用関係が継続します。
紹介予定派遣と登録型派遣(有期雇用派遣)・常用型派遣(無期雇用派遣)の違い
本章では紹介予定派遣と他の派遣形態との違いを詳しく解説します。
概要
派遣社員のなかでも、「登録型派遣(有期雇用派遣)」や「常用型派遣(無期雇用派遣)」は雇用主が派遣会社となります。労働者派遣法では、派遣先企業が労働者を特定できる形で選考を実施することは禁止されているため、基本的に派遣社員を受け入れるにあたって応募書類の要求や面接はできません。
一方、「紹介予定派遣」では将来的に派遣先の直接雇用に切り替わることが前提となるため、書類選考が可能です。実際、紹介予定派遣を利用する多くの企業では応募の際に履歴書や職務経歴書の提出を求めています。また、自己紹介や詳しい業務内容の確認をおこなう一般的な面接が可能です。
紹介予定派遣と登録型派遣(有期雇用派遣)の違い
紹介予定派遣では、同一事業所への派遣期間は最長6ヶ月と決められていますが、登録型派遣の場合は最長で3年間の就業が可能です。また、紹介予定派遣では前述のとおり書類選考や面接が可能ですが、登録型派遣では禁止されています。
登録型派遣のスタッフを派遣先企業が直接雇用に切り替えることも法律的には可能ですが、派遣会社に黙って直接雇用に切り替えることは企業間の契約によっては違反となる可能性もあります。 直接雇用したい場合は、派遣会社に相談のうえ手続きを取りましょう。
紹介予定派遣と常用型派遣(無期雇用派遣)の違い
紹介予定派遣の場合、就業が始まる時点での立場はあくまで派遣社員であり、必ず直接雇用になれるとは限りません。一方、常用型派遣の場合は、就業当初から派遣元企業の正社員という立場で働きはじめます。
また、常用型派遣から派遣先企業の直接雇用への切り替えを希望する場合も、前述の登録型派遣の場合と同様に、企業間の契約次第では違反となる可能性がありますので、そのような場合はまず派遣会社に相談しましょう。
紹介予定派遣のメリット・デメリット
紹介予定派遣には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。ここからは、企業側と求職者側、それぞれの立場に分けて解説します。
メリット
紹介予定派遣においては、採用に関するメリットが多いとされています。
企業側
紹介予定派遣を利用することにより、採用のミスマッチを防げることが最大のメリットです。実際の働きぶりを見ながら時間をかけて検討できるので、スキル、人物、待遇などあらゆる面で確認が可能です。お互いに、採用後「こんなはずではなかった」ということが回避できます。
また、採用や教育のコストが削減できることもあげられます。何度も求人広告を出したり、要件を満たさない候補者と面接したりする手間が省けます。
さらに、派遣会社が企業と派遣社員のあいだに入って、さまざまな調整をしてくれることも利点です。就業開始時のフォローや就業中のトラブル対応、雇用切り替え時の条件交渉など、担当営業が間に入ってくれることで、スムーズな定着が期待できます。
求職者側
ミスマッチを防げることや派遣会社があいだに立って就業中の状況確認や契約確認などをしてくれることは、求職者にとってもメリットとなります。
特に、自分では直接聞きにくい給与のことや福利厚生のことなども、企業同士で確認をとってくれるため、安心して働けます。
また、派遣会社を通して求人を探すことで、自分に合った仕事が見つけられたり、一般的な求人サイトでは見つけられない好条件の求人に出会えたりすることもメリットです。
デメリット
紹介予定派遣のデメリットを解説します。
企業側
紹介予定派遣では、直接雇用について一定期間検討できますが、これは同時に、採用に時間がかかるということも意味します。
また、紹介予定派遣は直接雇用を前提とする求人のため、登録型派遣に比べると候補者が限られるという点もおさえておくとよいでしょう。
求職者側
紹介予定派遣は、登録型派遣に比べると求職者にとって採用のハードルが上がることがデメリットです。また派遣で就業できたからと言って、必ず直接雇用になれるとも限りません。直接雇用でも、契約社員を前提としている求人もあるので、条件をよく確かめることが大切です。
さらに、有休や産休の取得について考える際には、派遣社員になった日ではなく、直接雇用になった日を基準とする場合が多いことにも注意が必要です。
登録型派遣(有期雇用派遣)のメリット・デメリット
ここからは一般的な「派遣社員」である登録型派遣(有期雇用派遣)のメリット・デメリットを説明します。
メリット
企業側
登録型派遣では、求人媒体への募集や面接のコストを下げられることがメリットです。また、期間を決めて雇用できるため、繁忙期や欠員補充など、必要なときに必要なだけ人員を確保できます。勤怠管理や社会保険の手続きといった労務管理も派遣元会社がおこないます。
求職者側
求職者側は、いろいろな職場や業務内容を経験できるのがメリットです。
また、働く場所や時間も選びやすいため、家事や育児、介護といったライフステージの変化に合わせて働きやすいのも利点といえるでしょう。
デメリット
有期雇用派遣のデメリットは以下の通りです。
企業側
登録型派遣を利用する場合、派遣料が発生します。そのため、場合によっては直接雇用よりも人件費は高くなります。また、派遣期間の上限は3年と決められているため、同じ人を3年以上受け入れられないという点もおさえておくとよいでしょう。
求職者側
派遣期間の「3年ルール」は、求職者にとってもデメリットといえます。
また、登録型派遣の場合は基本的にボーナスや昇給がありません。本人の能力や希望にかかわらず、契約が終了するケースがあります。
常用型派遣(無期雇用派遣)のメリット・デメリット
常用型派遣(無期雇用派遣)は、雇用期間に定めがない点が登録型派遣と異なります。企業側・求職者側双方のメリット・デメリットを見ていきましょう。
メリット
企業側
常用型派遣の受け入れによって、採用コストの削減につながる点や必要な期間だけ人員を確保できる点、派遣会社に労務管理を任せられたりする点は、登録型派遣と共通するメリットです。
これに加え、常用型派遣で派遣される人の多くは、派遣元企業が採用活動をしっかりとおこなった結果、直接雇用された人材であるため、より安定して就業してくれます。
また、派遣の3年ルールは適用されないため、長期で就業してもらうことが可能です。
求職者側
求職者にとっては、さまざまな職場で経験を積めることがメリットになります。有期雇用派遣に比べると、収入が安定しているケースが多く、福利厚生の面でも充実しているのが現状です。
デメリット
企業側
常用型派遣(無期雇用派遣)の場合、派遣されるスタッフは派遣会社の正社員や契約社員なので、自社で直接雇用にすることはできません。
求職者側
無期雇用派遣で働く場合、有期雇用派遣とは違って、基本的に指示された派遣先は断れないことがデメリットです。派遣先の職場によって業務内容やルール、人間関係なども都度変わるので、柔軟な対応が求められます。
紹介予定派遣を利用する際のポイント
紹介予定派遣を利用する場合は、あくまでも直接雇用を見据えた派遣社員の受け入れであるというスタンスが重要です。特に、初めて受け入れる場合は社内の体制を整えることを念頭に置いておきましょう。
企業側
紹介予定派遣を利用する場合は、まず取引する派遣会社を選定したうえで、人選の際の評価基準や採用フローについて社内で決めていきます。
将来的に直接雇用に切り替えることが前提のため、社内の受け入れ体制を整えたうえで、労働条件のすり合わせや入社手続きなどについてしっかりとコミュニケーションをとることがポイントとなります。
求職者側
紹介予定派遣に応募する際は、書類選考や面接の準備が必要です。一般的な採用選考に臨む場合と同様に、企業研究や面接対策もおこなっておきましょう。
まとめ
派遣という働き方は企業側・求職者側双方からニーズのあるものです。そのなかでも紹介予定派遣は、他の派遣と異なる点も多いため、自社で利用する際は、本記事で述べたポイントをおさえておくとスムーズです。
<執筆監修者プロフィール>
西本 結喜(監修兼ライター)
結喜社会保険労務士事務所 代表。金融、製造、小売業界を経験し、業界ごとの慣習や社風の違いを目の当たりにしてきたことから、クライアントごとのニーズにあわせ、きめ細やかな対応を心がけている。