
技術者派遣とは?派遣の種類、導入メリット・デメリットを解説

スキルを持った人材を確保する方法のひとつに、技術者派遣があります。技術者派遣はさまざまな分野で導入されており、短期間の人材確保に有効です。技術者派遣にはメリットがある一方、デメリットも存在するため、自社の状況を見極めたうえで導入することが大切です。
本記事では、技術者派遣の概要や市場規模、職種例とともに、導入するメリット・デメリットについて解説します。
目次
技術者派遣とは
技術者派遣とは、技術者を求めている企業に対し、派遣会社に登録または雇用された専門的なスキルを持った人材を派遣する労働形態のことです。エンジニア派遣とも呼ばれています。メーカーやIT企業で活用される傾向があります。
技術者とは
技術者の定義は広く、特定の分野に対し専門的なスキルを持った人材を指しています。文部科学省によると、以下のように定義されています。
「数学、自然科学の知識を用いて、公衆の健康・安全への考慮、文化的、社会的及び環境的な考慮をおこない、人類のために創造、開発又は解決の活動を担う専門的職業人」
技術者が携わる分野は多岐にわたり、主な分野として機械系、電気・電子系、IT系、化学系、建築系などが挙げられます。例えば、スタッフサービス・エンジニアリングで募集している技術者の種類は以下のとおりです。
技術者の種類 |
主な業務 |
機械系エンジニア |
機構設計、筐体設計、品質管理、試作・評価・テスト、解析業務など |
電気・電子系エンジニア |
アナログ設計、デジタル設計、基板設計、品質管理、試作・評価・テスト、解析業務など |
情報(制御)系エンジニア |
C・C++・アセンブラなどによる組込みソフトウェア、マイコン制御、プログラミングなど |
生産技術系エンジニア |
工法開発、工程設計、治具設計、生産立上げ、現場改善・能率改善など |
化学系エンジニア |
研究開発、有機合成・無機合成、分析、品質管理業務など |
IT系エンジニア |
JavaなどによるWEBアプリ開発、システム開発、サーバー・ネットワーク構築などのインフラ系、ヘルプデスク、システム運用業務など |
CADエンジニア |
機械・電気・電子回路図面の作成・トレース、モデリング、アセンブリ・干渉チェック・部品図の作成・修正など |
評価エンジニア |
外観評価、動作試験、耐熱試験、耐久試験、ノイズ評価、システム検証業務など |
参考:文部科学省「大学における実践的な技術者教育のあり方(案)」
技術者派遣の種類
技術者派遣には、大きく分けると登録型派遣と常用型派遣の2種類が存在します。
雇用形態 |
概要 |
登録型派遣 |
・労働者が人材派遣会社に登録する |
常用型派遣 |
・労働者と人材派遣会社が雇用契約を締結する |
紹介予定派遣 |
・労働者が人材派遣会社に登録する |
また、派遣先企業が直接雇用することを前提として派遣契約を締結する「紹介予定派遣」も存在します。ただし、紹介予定派遣であっても派遣契約時の待遇は、他の派遣スタッフと同様です。
常用型派遣の場合、スキルを持った人材が人材派遣会社の社員として雇用契約を結んでいる傾向があります。
正社員雇用の技術者との違い
技術者派遣と正社員雇用の技術者における違いとして挙げられるのは、雇用主です。正社員雇用の技術者の場合、実際に勤務する企業と雇用契約を締結しますが、技術者派遣の技術者が雇用契約を締結するのは派遣会社です。
そのため、勤務先は派遣先企業になるものの、労働条件や福利厚生は派遣会社のものに従います。また、正社員の場合は状況に合わせてさまざまな業務を担当することがあります。昇進により基本的な業務内容自体が変わることもあるでしょう。
一方、技術者派遣の技術者の場合、派遣契約書に記載されていない業務は担当できません。業務内容が契約で限定されていることも、技術者派遣と正社員雇用の技術者における違いに挙げられます。
SESとの違い
技術者派遣と混合される契約形態として「SES(System Engineering Service)」があります。システム開発における委託契約のひとつで、準委任契約とも呼ばれています。SESは、派遣と同じく企業に常駐して働く契約形態です。しかし、両者はビジネスモデルや指揮命令権が異なります。
SESでは、システムやドキュメントといった成果物ではなく、業務の遂行に対して報酬を支払われます。技術者が企業に常駐し、業務内容や工数に基づいた報酬が支払われるケースが一般的です。アジャイル型開発のような、仕様を調整しながら開発を進めるスタイルに適しています。
派遣は、派遣先企業が要求する人材条件に適した人材を派遣するサービスであり、労働力の提供が目的です。業務を動かすのは派遣先企業であり、派遣された技術者は、派遣先企業の責任・指揮下で業務をおこないます。
一方、SESは企業から外注された業務を遂行するものです。効率的に業務を進めるため、企業に常駐することがあるものの、企業に人材を派遣しているわけではありません。そのため、技術者への指揮命令権は、契約を受注したベンダー企業にあります。
技術者派遣の需要について

技術者派遣は拡大傾向にあり、特に需要が高まっているのはIT業界です。ここでは、技術者派遣における市場規模や企業側と労働者側の需要について解説します。
市場規模は拡大傾向
厚生労働省の調査によると、派遣労働者数が年々増加しており、市場規模は拡大傾向にあることが明らかになりました。中でも、需要が高まっているのはIT業界です。日本ではIoTやAI、ビッグデータの活用など、IT人材の需要は高まってきました。
経済産業省の調査によると、IT人材の需要と供給にはギャップがあり、2030年には最大約79万人もの人材が不足すると予測されています。人材が不足している状況は、売り手市場を引き起こします。
売り手市場の状況で、企業がIT人材を獲得することは簡単ではありません。人材を確保する手段として、派遣のITエンジニアを活用する動きが出てきました。
また、半導体業界の市場規模も拡大傾向にあります。経済産業省の「半導体・デジタル産業戦略検討会議」によると、2030年までに少なくとも約4万人の半導体人材を増やす必要があるという試算を出しました。
日本でも半導体工場が続々と新設されており、半導体の受託生産で世界トップの台湾積体電路製造(TSMC)が過半数を出資した子会社「JASM」が熊本工場を新設し、ラピダスも北海道千歳市に工場を新設しています。
半導体市場の拡大を考えると、派遣で半導体人材を活用することが予測できるでしょう。
参考:厚生労働省「労働者派遣事業の事業報告の集計結果について」
参考:経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」
参考:経済産業省「参考資料(IT人材育成の状況等について)」
参考:経済産業省「半導体・デジタル産業戦略検討会議」
企業側の需要
企業側の需要として挙げられるのは、人材確保とコスト削減です。新しいプロジェクトを立ち上げたり退職者が出たりした場合、企業は人材確保に対応することが困難です。技術者派遣であれば、求めるスキルを持った人材をすぐに確保できます。
採用や社会保険などにかかる費用のほか、高いスキルを持った人材を確保できれば、教育のコストも抑えられることも、企業側の需要が高まる理由に挙げられます。
労働者側の需要
派遣で働きたいと考えている技術者は、ワークライフバランスの実現やさまざまな企業での経験を求めています。特に、近年では働き方に対する価値観も多様化しており、自分のライフスタイルに適した働き方を重視する人も出てきました。
そのような人にとって、技術者派遣は働きやすい働き方といえます。また、未経験ながらも技術者として働きたいと考えている人もいるでしょう。未経験の場合、正社員として雇用してくれる企業を見つけるのは困難です。技術者として働く第一歩として技術者派遣を選ぶ人も存在します。
技術者派遣を導入できる職種例
技術者派遣を導入できる職種例として、以下の業界が挙げられます。
● IT系
● メーカー系
● 建築系
● 食品・化学系
ここでは、業界ごとの職種や業務内容、求められる能力について解説します。
IT系
IT系の技術者派遣では、企業のシステム開発や保守などの業務を担当します。IT系の技術者の中にもさまざまな職種が存在し、主な職種として挙げられる職種は以下のとおりです。
職種 |
業務内容や求められる能力 |
システムエンジニア |
・システムの設計や要件定義、仕様決めを担当する |
インフラエンジニア |
・システムが動く環境の構築や管理を担当する |
フロントエンドエンジニア |
・システムの中でも、UI(ユーザーインターフェース:User interface)やUX(ユーザーエクスペリエンス:User experience)などのユーザーが操作する部分の開発を担当する |
サポートエンジニア |
・問い合わせやトラブル対応などの、ユーザーに対するサポートを担当する |
メーカー系
メーカー系の技術者派遣では、各メーカーでの電気部品や機械部品に関する設計業務や生産業務を担当します。メーカー系の技術者の主な職種として挙げられるのは、以下のとおりです。
職種 |
業務内容や求められる能力 |
電気系 |
・回路設計や基板設計、デバイス制御などを担当する |
機械系 |
・生産ラインの作業を円滑に進める |
CAD(キャド:computer-aided design)オペレーター |
・メーカーにおける機械部品や設備の製図を担当する |
建築系
建築系の技術者派遣では、建設現場における管理や設計を担当します。主な建築系技術者として挙げられる職種は以下のとおりです。
職種 |
業務内容や求められる能力 |
建築設計管理技術者 |
・建設現場に関わる多くの技術者の監督 |
建築設備設計技術者 |
・電気や給排水、空調などの設備・設計を担当する |
建築構造設計技術者 |
・建築物の構造的安全性を考える |
食品・化学系
食品・化学系の技術者派遣では、企業での研究や開発、製造を担当します。主な食品・化学系技術者として挙げられる職種は以下のとおりです。
職種 |
業務内容や求められる能力 |
研究開発職 |
・新しい材料や技術を研究し、実用化を目指す |
開発職 |
・研究開発職の成果を元に製品化を進める |
食品技術者 |
・加工食品の開発や、生産工程や品質の管理を担当する |
企業が技術者派遣を導入するメリット・デメリット

企業が技術者派遣を導入するメリットとして、以下の3つが挙げられます。
● 即戦力の技術者を採用できる
● 採用コストの削減
● スポット業務を任せやすい
一方、デメリットとして挙げられるのは、以下の2つです。
● 依頼できる業務が制限される
● 長期間の勤務を依頼するのが難しい
ここでは、それぞれのメリット・デメリットについて解説します。
企業側のメリット1.即戦力の技術者を採用できる
技術者派遣を営んでいる派遣会社は、技術に対する知識があり、企業の要求に応えられる技術者を抱えています。中には、技術者に対して研修や勉強会を実施しているほか、資格取得支援をしている派遣会社も存在します。
経験のない人材を採用して技術者として育てる場合、長期的な視点での育成が必要です。しかし、技術者派遣であれば即戦力の技術者を確保できます。即日で業務への貢献が期待できるほか、教育コストを抑えられることもメリットといえるでしょう。
企業側のメリット2.採用コストの削減
近年では、少子高齢化による労働人口減少の影響で、採用市場は売り手市場になってきました。このような状況では、求める人材を採用するのは簡単ではありません。求人サイトや大学へのリクルーティング以外にも、SNSやスカウト、リファラル(自社の社員から知人などを紹介してもらう手法)など、採用方法も多様化してきています。
これらの採用方法にはノウハウが必要であり、自社だけですべて担当するのは困難です。複数の採用手法を併用した場合、コストもかかるでしょう。技術者派遣であれば、派遣会社が人材を選ぶため、採用コストが抑えられます。社内での採用活動に対する工数を削減できることもメリットです。
企業側のメリット3.スポット業務を任せやすい
派遣は期間を限定して労働者を確保できる仕組みです。そのため、急な人手不足や業務量増加に対して派遣スタッフを配置できます。例えばプロジェクトで工程ごとに必要なスキルが異なる場合、それぞれの工程に適した技術者と契約し、配置することも可能です。
「長期的には必要かどうかわからないが、現時点では技術者が不足している」といった場合にも有効な対策のひとつです。
企業側のデメリット1.依頼できる業務が制限される
派遣は、原則として派遣契約書に記載されていない業務の指示は認められていません。そのため、派遣契約後に新たな業務が発生した場合、自社で対応する必要があります。
また、企業が雇用している技術者であれば、将来を見越して配置転換をしたり新しい業務を任せたりすることもあるでしょう。しかし、派遣の技術者にはこのような対応はできません。
状況に合わせた業務内容の変更ができないことは、企業側にとってはデメリットといえるでしょう。
企業側のデメリット2.長期間の勤務を依頼するのが難しい
登録型派遣の場合、同一事業所の同一部署では最大3年間までしか働けません。登録型派遣で派遣契約を締結した場合、その技術者は3年後には自社を去ることになります。長期的な計画には登録型派遣の人材を組み込めないことは、企業側にとってはデメリットといえるでしょう。
ただし、常用型派遣は3年ルールの適用外です。そのため、長期的な計画に派遣技術者を組み込みたい場合は、常用型派遣を活用しましょう。
派遣スタッフ側のメリット・デメリット

企業担当者の方も、派遣スタッフ側の目線を理解することが大切です。派遣スタッフが技術者派遣を利用するメリットとして、以下の3つが挙げられます。
● 派遣会社のサポートが受けられる
● 複数の現場で経験を積むことができる
● 希望に合った就業先を選べる
一方、デメリットとして挙げられるのは、以下の2つです。
● 登録型派遣の場合、3年以上の長期就労は難しい
● 社内での昇進が難しい
ここでは、それぞれのメリット・デメリットについて解説します。
派遣スタッフ側のメリット1.派遣会社のサポートが受けられる
技術者派遣で技術者として働く場合、派遣会社からサポートを受けられます。例えば、スタッフサービス・エンジニアリングでは、以下のようなサポートを実施しています。
● コーディネーターによる適した就業先の選定
● 充実した研修制度(通信教育講座・eラーニングシステム・技術専門提携スクール)
● 担当営業や社員同士による就業前、就業中のサポート
● キャリアカウンセラーによる技術的なアドバイス
そのため、技術面に不安がある人や、未経験から技術者を目指す人も安心して働けます。
派遣スタッフ側のメリット2.複数の現場で経験を積むことができる
直接雇用の技術者の場合、同じ環境下で長期間働くことが基本となるため、経験する業務は偏る傾向があります。しかし、技術者派遣の場合、契約が終われば別の企業で働くため、多様な現場経験を積めます。新しい知識を身につける機会も増えることにより、技術者としての幅は広がるでしょう。
派遣スタッフ側のメリット3.希望に合った就業先を選べる
希望に合った就業先を選べることもメリットです。技術者派遣では、派遣会社の担当者に希望する職種や業界、労働条件などを伝えておけば、条件に近い就業先を紹介してもらえます。
プロジェクトごとに働いたり契約期間を選んだり、ライフスタイルに合わせた働き方も可能です。柔軟な働き方を選択できることは、派遣として働く大きなメリットといえるでしょう。
派遣スタッフ側のデメリット1.登録型派遣の場合、3年以上の長期就労は難しい
派遣スタッフ側のデメリットとして、登録型派遣の場合は長期就労ができないことが挙げられます。前述したように、登録型派遣で派遣契約を締結した場合、同一事業所の同一部署では最大3年間までしか働けません。
そのため、業務内容や職場環境を気に入った企業があったとしても、3年までしか残れないことになります。
派遣スタッフ側のデメリット2.社内での昇進が難しい
社内での昇進が難しいことも、派遣スタッフ側のデメリットに挙げられます。直接雇用の技術者であれば、スキルが上がれば上流工程や別の業務の担当を任されることになるのが一般的です。
しかし、派遣は派遣契約書に記載されていない業務は担当できないため、スキルが上がったとしても、同じ業務を担当することになります。もちろん、契約更新時に業務内容を変更することは可能ですが、それでも直接雇用の技術者と比べると別の業務を担当できるスピードは遅くなるでしょう。
ただし、常用型派遣で派遣会社からチームとして派遣されるケースも存在します。その場合、スキルアップによりチーム内での地位を上げることは可能です。
技術者派遣の派遣料金相場
厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」によると、令和4年度の技術者ごとの8時間単位での派遣料相場は以下のとおりでした。
職種 |
派遣労働者平均 |
無期雇用派遣労働者 |
有期雇用派遣労働者 |
農林水産技術者 |
17,696円 |
17,803円 |
16,992円 |
製造技術者 |
27,110円 |
28,289円 |
25,435円 |
建築・土木・測量技術者 |
32,637円 |
33,110円 |
31,465円 |
情報処理・通信技術者 |
32,871円 |
33,394円 |
30,702円 |
その他の技術者 |
30,445円 |
31,257円 |
28,707円 |
生産設備制御・監視従事者 |
18,530円 |
19,740円 |
17,250円 |
機械組立設備制御・監視従事者 |
19,484円 |
20,769円 |
17,631円 |
製品製造・加工処理従事者 |
16,073円 |
16,449円 |
15,534円 |
機械組立従事者 |
17,156円 |
17,812円 |
16,492円 |
機械整備・修理従事者 |
22,790円 |
25,401円 |
19,151円 |
製品検査従事者 |
16,074円 |
16,701円 |
15,280円 |
機械検査従事者 |
19,006円 |
20,391円 |
16,948円 |
全職種での派遣料金の平均は24,909円でした。農林水産技術者や、機械系の組立や整備、検査の従事者は平均より低いものの、それ以外の技術者は平均を上回る派遣料金になっています。
参考:厚生労働省「令和4年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」
まとめ

技術者派遣とは、技術者を求めている企業に対し、派遣会社に登録または雇用された専門的なスキルを持った人材を派遣する労働形態を指します。技術者が携わる主な分野として挙げられるのは、ITやメーカー、建築などです。
企業が技術者派遣を導入すれば、即戦力の人材確保や採用コストの削減などのメリットがあります。直近での人材確保に困っている場合は、技術者派遣の導入を検討してみましょう。
<ライター:田仲ダイ>
エンジニアリング会社でマネジメントや人事、採用といった経験を積んだのち、フリーランスのライターとして活動開始。現在はビジネスやメンタルヘルスの分野を中心に、幅広いジャンルで執筆を手掛けている。