介護の人手不足の原因と解決策について
日本は現在人口に占める高齢者の割合が高く、介護サービスの利用者がそれに伴って増加しているため、介護業界では慢性的な人手不足が課題となっています。介護業界の人手不足は知っていても、その原因までは詳しく知らない方のために、詳しい原因や解決策を紹介します。
目次
介護業界の人手不足の実態とは
人手不足の現状
総務省の調べによると、日本の高齢者(65歳以上)の人口割合は29.1%(2023年度)となっています。10人いたらそのうち3人は高齢者という割合です。
令和5年版高齢社会白書によれば平均寿命と健康寿命は共に延びているものの、平均寿命から健康寿命を引くと女性は約12年、男性は約9年となっています。今後も平均寿命と健康寿命の差は長期間埋まらないと想定されるため、介護サービスの利用者は高齢者割合の増加に伴って増えていくことが容易に予想できます。
さらに求人数の増加を見ても、人手不足の状況は明らかです。スタッフサービスで医療・介護職の求人数を2018年のコロナ前から2022年~2023年3月までの期間で比較したところ、約2倍まで増えていることがわかりました。
高齢者割合の増加、求人数の増加を見ても介護業界の人手不足がそう簡単に解決できない長期的な問題であることがわかります。
今後の問題
介護業界の人手不足で起こる可能性のある今後の問題についても紹介します。厚生労働省によれば、介護を必要とする高齢者数と介護業界で働く人材数のギャップは、2025年に37.7万人にものぼると言われているのはご存じでしょうか。
これだけ大きな需給ギャップを埋めるには、高齢者自身の健康管理推進と介護業界の働き方改善、介護分野で就業を目指す方へおこなうスキルアップやキャリア支援の実施などが重要になってくるといえるでしょう。
介護業界の人手不足の主な原因
大まかに介護業界の現状が理解できたところで、人手不足の主な原因を紹介します。
少子高齢社会
先程もお伝えした高齢者割合の増加を見てもわかるように、日本は少子化で若い人の人口が減っているため、増加する高齢者を支えられるだけの就業者人口が増えることは考えにくい状況です。
日本の人口構造の変化によって、介護業界の慢性的な人手不足が起こっていると考えられます。
人間関係によるストレス
介護業界で働く場合、さまざまな方と対峙するためコミュニケーションがとりづらさを感じたり、ご家族とのコミュニケーションが必要だったりと、特有のストレスが発生することがあります。
ストレスが溜まりやすい状況で働いていると、スタッフ同士のコミュニケーションにも弊害が生まれる可能性もあります。通常のサービス業とは異なる細やかさが求められるため、人間関係にストレスを感じて離職するケースもあります。
給与が低め
ここで、介護業界と全体の平均給与額を比較してみましょう。全体の平均給与額は(令和4年分民間給与実態統計調査結果平均給与458万円/年÷12か月)38万1,667円 /月ですが、介護社員の平均給与は31万8,230円/月と、6.3万円低めです。
介護業界は非常に重要で需要も多い仕事にもかかわらず、給与が低めであることが知られており、それも人手不足のひとつの原因と考えられます。
重労働
介護業界で働く中で、体を動かせない方のサポートなど直接的な身体介助をすることも多いため、体に負担がかかり、重労働になることも多いです。入浴介助などはリフトを使うこともありますが、人の手が必要な部分は、体を支えて介助します。
足腰などを痛める可能性も高い重労働のため、それも人手不足の原因と考えられるでしょう。
人事評価/教育制度の整備不足
人手不足の現状や原因を見てもわかるように、介護職は離職率が高い特徴があります。施設によっては業務効率化が進んでいないことなども離職の原因と考えられますが、その他適切ではない人事評価をされていると感じられることも人手不足の一因です。
今後の人手不足を解消するには、教育制度の徹底も欠かせないため、両方の整備をおこなうことが重要と考えられます。
人手不足の解消に向けた対策
では、人手不足の解消に向けてどのような対策を取るべきなのでしょうか。こちらでは、6つの対策を紹介します。
業務効率化ツールの活用
介護業界は、手書きの日誌で記録を残すなどアナログな方法で運営している施設もあります。そのため、業務効率化ツールを活用し、入居型の介護施設では入居者の健康状態をツールで管理し居室への見回りを簡略化する、日誌をスマホ入力や選択式などに変更し、共有と入力を効率化するなどで介護スタッフの負担軽減が可能です。
効率的な働き方ができれば介護スタッフの負担も減り、働きやすい職場と認識されていく可能性も生まれます。スタッフサービスでは、介護業務を細分化し切り出しながら、派遣先の求人と派遣スタッフをマッチングする「業務分解」をおこない、働く意欲のある未経験者やシニア人材のマッチングを進めてきました。
その結果、医療・介護分野(スタッフサービス・メディカル)の60歳以上の派遣就業人数は2019年と比較して、3.06倍(2023年3月時点)となりました。シニア層の雇用創出と介護業界の人手不足両方の解消に向けた一歩を踏み出しました。
ユニットケアの導入
ユニットケアとは介護施設内に利用者が居住する個別のスペースがあり、自宅として生活をしつつ、サポートが必要な部分の介護を受けるという方法の介護形式を指します。従来型は個人の部屋はなく、4人部屋などの相部屋で介護を受ける形式です。
ユニットケアにすることで、利用者自身ができる範囲を介護スタッフがカバーする必要がなく、一緒に生活をつくっていくことで利用者の生活リズムを捉えた介護ができ、深い関わりを持てるため、やりがいを感じやすいなどのメリットが得られます。
こうしたプラスの要素があることで、人手不足の解消に役立つ可能性を高められます。
相談窓口の設置
「人間関係に悩んでいるが相談できる場所がない」、「職場は好きだが、働き方が変えられないのであれば離職したい」などとなっても、なかなか相談ができないまま退職を選ぶ人も一定数いる可能性があります。
そのため、相談窓口で一次受付をして退職前に改善を図る、また長期的な改善に役立てることで離職者を減らし、業界への転職希望者を増やすことで人手不足解消に役立ちます。
人事評価制度の整備
人との関わりがメインの仕事である介護職は営業職などのように仕事の結果を数値化し、わかりやすく評価することが難しいです。そのため、社員が揃って「適正に人事評価をされた」と感じにくい可能性があります。
そのような状況だからこそ、数値化して評価しにくいサービス部分を測れるような指標を設けるなど工夫をし、人事評価制度を整備していくことが非常に重要です。
普段の仕事のなかでも何の項目を重視するのかを周知し、それを5段階で評価すると決め、2の評価の場合はここまでの範囲、4の評価の場合はこのレベルまでできているなど業務範囲やスキルなどを踏まえ、行動で可視化して基準を作っておくと、評価の不満での離職を防げるため、人手不足の解消に繋がるでしょう。
資格取得推奨/教育制度等の整備
人手不足の解消には、今介護業界で働く方の離職を防ぐことと、業界未経験の方に入ってきてもらうことの二つしか方法がありません。既存の方にも魅力を感じてもらうためには、キャリアアップの方法のひとつとして資格取得を推奨する制度を設けることが挙げられます。
未経験の方に向けては、働く意向があれば業界に飛び込んできてもらえるよう、専門的な知識を身につけられる教育制度を整備し、万全のサポートをすることで人手不足の解消に繋がるでしょう。
人材派遣会社の活用
人材派遣会社を活用すれば、属人化しがちな業務の細分化や切り出しを相談しながら進められるので、その業務にあった人材のマッチングを依頼することができます。社員と派遣スタッフで業務を分けることで社員の負担を減らし、より専門性の高い業務に注力できたり、業務を細分化することで業務上ボトルネックになっているポイントが明確になるなどの効果も得られます。
派遣スタッフを活用することで人手不足を解消できるだけでなく、既存社員の業務負担を減らし、離職を防ぎ、さらに今後業務効率化をするときにも役立つ情報を得られる可能性が高まるなど、活用メリットがたくさんあります。
まとめ
介護業界は、少子高齢社会の日本の人口比率や人間関係のストレス、低賃金・重労働などの影響で慢性的な人手不足に陥っています。これからもさらに人手不足が予想される介護業界では、業務効率化ツール、人材派遣会社の活用で業務効率化を図る、人事制度や教育制度を誠意するなど、人手不足解消に向けてやれることがたくさんあります。
日本の人口比率と現在の介護業界の人手不足を見ると、状況の改善は難しいのではと感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、やり方や活用するポイントを押さえておけば、介護業界の人手不足を解消に向かわせることができるでしょう。
〈ライタープロフィール〉
高下真美 / ライター
新卒で人材派遣、人材紹介企業に入社し、人事・総務・営業・コーディネーターに従事。その後株式会社リクルートジョブズ(現・株式会社リクルート)に転職し、営業として8年勤務後、HR系ライターとしてフリーランスへ転身。現在は派遣・人材紹介・人事系メディアでの執筆、企業の採用ホームページの取材・執筆の他、企業の人事・営業コンサルタントとして活動中。
【参考】
総務省 統計からみた我が国の高齢者
https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics138.pdf
スタッフサービスグループ シニア人材活用の鍵は「業務分解」 60歳以上の派遣就業者数は4年で約3倍に拡大
https://www.staffservice.co.jp/nt-files/nr_231124.html