「同一労働同一賃金」、会社はどう対応していけばいいのか
仕事の専門性やその結果による会社等への貢献度が同じならば、同じ賃金が支払われるべきと考えるのは当然のことでしょう。働き方のルールを明確にし、働いている人の成果を正しく評価し、賃金等の対価について原則化する「同一労働同一賃金」。今回はこの「同一労働同一賃金」について知り、自社で対応が必要な内容についてみていきましょう。
目次
なぜ、「同一労働同一賃金」が求められるのか
「同一労働同一賃金」とは、同じ仕事ならば(同一労働)、支払われる対価は同一であるべき(同一賃金)、という考え方です。NHK解説委員室「同一労働同一賃金をどう実現するか」によると、欧米諸国で一般的な考え方で、とりわけヨーロッパでは、同一労働であれば、時間当たり賃金を同じにするルールが確立しています。この結果、時間当たりの、パート賃金の正社員に対する割合をみると、日本では6割に満たないのに対し、主要ヨーロッパ諸国では多くが8割程度となっています。
日本は近年、女性の就労機会の拡大、若い世代での非正規雇用労働者の増加、早期退職などによる非正規雇用化の進行などにより、労働者に占める非正規雇用労働者の比率が増えています。
正社員と非正規雇用労働者とで、仕事の内容や役割の重みに明確な違いがあるのならば、その賃金に差があっても仕方がありません。しかし、正社員と同じ仕事内容、同じような職場での役割でありながら、雇用形態の違いだけで基本的な賃金に差がついている場合もあります。
同一の労働に就いているのに、同一の賃金を得ていないという格差があるのならば、それはやはり是正されなければならないという考え方になります。
「同一労働同一賃金」実現に向けた法律と企業に求められる対応策
2018年6月29日、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下、「働き方改革関連法」)が成立しました。これは、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革で、「長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等」と「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」の2つを柱にしています。 「同一労働同一賃金」は、この2つ目の「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」を根拠規定に、同一企業内における正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇の差をなくし、どのような雇用形態を選択しても待遇に納得して働き続けられるようにすることで、多様で柔軟な働き方を「選択できる」ようにすることを目的に次の3点について改正されました。施行は、大企業が2020年4月1日、中小企業が2021年4月1日です。
・不合理な待遇差をなくすための規定の整備
・労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
・行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備
これにより、正社員と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差が法律で禁止されることになります。
不合理な待遇差をなくすための規定の整備
正社員と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差をなくすための規定です。改正のポイントは次の3つです。
1.均衡待遇規定の明確化 2.均等待遇規定 3.ガイドラインの策定
「均衡待遇規定」とは、正社員と非正規雇用労働者の間で「①業務の内容とその責任の範囲」「②異動による配置換えや昇進などによる職務内容や配置の変更の有無やその程度」「③その他の事情」を考慮したうえで、不合理な待遇差を禁止するものです。また、「均等待遇規定」は、上記①と②が同じ場合に差別的な取り扱いを禁止するものです。
「均等待遇規定」については、改正前でもパートタイム労働者と有期雇用労働者には規定がありましたが、これが明確化されました。これは、基本給や手当、福利厚生などの待遇ごとに適切と認められる事情を考慮して判断されることを明確にするというものです。
「均等待遇規定」は、改正前はパートタイム労働者のみ規定されていましたが、改正後は有期雇用労働者も新たにその対象となります。
派遣労働者は、改正前は「均衡待遇規定」は配慮規定でしたが、「均等待遇規定」は規定されていませんでしたが、改正後は「派遣先労働者との均等・均衡待遇」と「一定の要件を満たす労使協定による待遇」のいずれかを確保することになります。前者は、派遣労働者と派遣先労働者との均等・均衡待遇規定の創設を創設するとともに、派遣先会社は派遣元会社への情報提供が義務付けられます。後者は、派遣元会社が、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数代表者との協議による労使協定を締結し、その協定に基づいて待遇を決定します。どちらを選択しても、派遣先会社には、派遣料金の額を配慮する義務が生じます。
3つ目の「ガイドラインの策定」とは、「同一労働同一賃金」の原則となる考え方と、基本給や賞与、手当など個々の待遇ごとに具体例を示したものです。正社員のみならず、すべての非正規雇用労働者に適用されます。2018年12月28日に、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(以下、「同一労働同一賃金ガイドライン」)として正式なガイドラインが告知されました。なお、ガイドラインに記載されていない住宅手当や家族手当などについても、不合理な待遇差を解消することが求められています。
・基本給:労働者の経験や能力に応じて支払うもの、業績または成果に応じて支払うものなど、その趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じて支給する
・昇給:同一の能力の向上には同一の、違いがあれば違いに応じて昇給する
・賞与:同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じて支給する
・手当:「役職手当」は、同一の内容の役職には同一の、違いがあれば違いに応じて支給する。また、危険度が高い場合などに支給される「特殊作業手当」、交替制勤務の場合などに支給される「特殊勤務手当」、「精皆勤手当」や「時間外労働手当や休日・深夜手当の割増率」「通勤手当・出張旅費」「食事手当」「単身赴任手当」「地域手当」なども同一の支給を行う
・福利厚生:食堂、休憩室、更衣室などの福利厚生施設の利用、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障などは同一の利用・付与を行う。病気休職は、無期雇用の短時間労働者は正規雇用労働者と同一の、有期雇用労働者は労働契約が終了するまでの期間を踏まえて同一の付与を、法定外の有給休暇その他の休暇についても、勤続期間に応じて認めているものは同一の勤続期間であれば同一の付与を行う
・教育訓練:職務に必要な技能・知識を習得するために実施するものについては、同一の職務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じて実施する。
労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
非正規雇用労働者は、事業主に正社員との待遇差の内容や理由について説明を求めることができるというものです。
改正によって、事業主は有期雇用労働者に対しても、雇入れ時に賃金・福利厚生・教育訓練などの待遇内容を、求めがあった場合に応じて待遇決定に際しての考慮事項に関して説明しなければなりません。また、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者から正社員との待遇差の内容・理由について説明が求められたら、それらを説明する義務を負います。
さらに、新たに「不利益取扱い禁止規定」が設けられました。これは、説明を求めたことを理由として解雇等の不利益を労働者に与えることを禁止するというものです。
行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続の規定の整備
行政による助言・指導等は、改正前はパートタイム労働者と派遣労働者のみ適用されていましたが、改正後は有期雇用労働者にも適用されるようになります。
また、裁判外紛争解決手続(以下、「行政ADR」)の根拠規定が整備されたことで、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者は、都道府県労働局で無料・非公開の行政ADRを行うことができるようになります。行政ADRとは、公正な第三者である行政機関を関与させることで、事業主と労働者との間の紛争を裁判せずに解決する無料・非公開の紛争解決手段のことです。訴訟よりも時間がかからない、手続きが簡易など、当事者の負担が少ないという特徴があります。今回の改正によって、その対象範囲が均衡待遇や待遇差の内容・理由に関する説明にまで拡大されました。
雇用側が受けられる支援
法律で明文化されたとしても、すべてがその基準で判断できるものではありません。「職業経験や能力」の差についても、客観的な診断は難しいものです。そのため、厚生労働省は各都道府県に「働き方改革推進支援センター」を設置しました。ここでは、窓口相談、電話やメールによる相談、会社へ訪問しての課題解決のための対応や各地での出張相談会などを行っています。
また、厚生労働省の「キャリアップ助成金」も注目できる支援のひとつです。これは、非正規労働者のキャリアアップを促進する支援で、正社員になるための転換等を助成する「正社員化コース」など7つのコースが用意されています。
「同一労働同一賃金」導入によって、非正規雇用労働者の生活が安定し、会社の業績向上に貢献する
第一に「非正規雇用労働者の生活の安定」が挙げられます。正社員と同じ基準の賃金を得ることで、年収が改善されるからです。また、成果に応じて賃金が上昇すれば、働く側のモチベーションも上がります。
逆に、賃金の上昇が認められないのならば、それに見合った就労条件と労働内容に変更することが、法律上求められます。このように会社が労働に見合った賃金を支払うことは、労働者本人のみならず、雇い入れている会社にもメリットがあります。
あってはならないのは、同一賃金化の上昇分を補填するために、正社員の給与を下げるような対処療法です。同一労働同一賃金ガイドラインには、「基本的に、労使の合意なく正社員の待遇を引き下げることは望ましい対応とはいえない」と明記されていますし、確実に正社員のモチベーションを下げることになります。いずれにせよ選択できる方法ではありません。
会社は「同一労働同一賃金」にどう取り組むべきか
会社側も、この制度を理解し、対応の準備や考察を行うことが重要です。そこで厚生労働省では、以下のような活動を推奨しています。
・手順1 労働者の雇用形態を確認する:法の対象となる労働者の有無をチェックする
・手順2 待遇の状況を確認する:短時間労働者・有期雇用労働者の区分ごとに、賃金(賞与・手当を含む)や福利厚生などの待遇について、正社員と取り扱いの違いがあるかどうかを一覧表などにして確認する
・手順3 待遇に違いがある場合には、その理由を確認する:働き方や役割などの違いよる待遇差かどうかを確認し、それぞれの待遇ごとに改めて考え方を整理する
・手順4 上記の手順2と3で待遇に違いがある場合は、「不合理ではない」ことを説明できるように整理する:説明義務があるため、「不合理ではない」と説明できるように整理し、文書化するなどを検討する
・手順5 「法違反」が疑われる状況からの早期脱却を目指す:短時間労働者・有期雇用労働者と、正社員との待遇の違いが「不合理ではない」とは言いがたい場合は、改善に向けて検討を開始する。また、より望ましい雇用管理に向けて改善の必要性を検討する
・手順6 改善計画を立てて取り組む:労働者の意見も聴取しつつ、パートタイム・有期雇用労働法の施行までに計画的に取り組む
また、会社側の準備や体制のひとつとして、派遣を受ける側を支援してくれる派遣会社を選ぶことも重要なポイントとなりそうです。
いずれは取り組むべき課題だった
世の中は常に変化しています。企業は、製品やサービスはそれに合わせてニーズをキャッチし、新規企画開発を実践しています。企業は社会を構成する要素のひとつです。社会の変化に合わせた自社の人事制度や働き方、評価などについて考えてみる機会がどれほどあったことでしょう。働き方改革関連法の成立を機に、一度、見直してみることで、会社の生産性向上のヒントが見つかるかもしれません。「同一労働同一賃金」を、次のステップへのチャンスと捉えたいところです。