派遣と業務委託の違いとは?企業が利用する際のポイント・メリットを解説
企業が人手不足を補う手段として注目されるのが「人材派遣」と「業務委託」です。この2つはどちらも、外部人材を活用する方法ですが、両者には明確な違いがあります。
人材派遣は、派遣会社と契約を結び、企業が直接指揮命令をおこなう形で派遣スタッフが業務を担います。一方、業務委託は、特定の成果物やサービス提供を目的に、請負契約や委任契約に基づいて業務を外部に依頼する方法です。本記事では、契約形態、業務の指示方法、適した利用場面など、人材派遣と業務委託の違いをわかりやすく解説します。
これらのサービスを比較検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
人材派遣と業務委託の違い
人材派遣と業務委託の違いを簡単に解説します。
人材派遣とは
人材派遣は、企業が派遣元会社と契約を結び、派遣元会社が派遣スタッフを企業に派遣するものです。指揮命令権は派遣先会社にあり、派遣スタッフは派遣先の業務を担当します。
派遣スタッフの雇用主はあくまで派遣元会社であり、「労働者派遣法」(正式名称:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)の適用を受けて、管理・運用されます。
人材派遣がおこなわれる主な目的は、不足している人手やスキルを一時的に補うためです。新たに正社員を雇用するほどではないものの即戦力が必要な場合や、短期間での人材補充が求められるケース等が想定されます。
以下に、人材派遣の利用に向いている業務例を取りあげます。
<人材派遣に向いている業務>
● 一般事務や受付業務
● テレマーケティングやカスタマーサポート
● 製造・物流の現場での軽作業やサポート業務
● 短期のプロジェクトやイベントサポート
人材派遣の活用の流れ
本章では簡単に、人材派遣を活用するまでの流れを説明します。人材派遣を運用するまでには、以下の5つの手順が一般的です。
1. 派遣元会社の選定
必要な人材や条件を抽出し、それに合わせて信頼できる派遣会社を選定します。
2. 業務の依頼・打合せ
派遣元会社に業務内容や条件、求めるスキルを伝え、詳細な打合せをおこないます。
3. 労働者派遣契約締結
派遣元会社と派遣契約を締結し、契約内容や条件を明文化します。
4. 派遣先会社への派遣スタッフ紹介
派遣元会社が要件に合った派遣スタッフを選び、派遣先会社へ紹介します。この際、派遣スタッフの指名はできませんので注意が必要です。
5. 就業開始
選定された派遣スタッフが派遣先会社の指揮命令の下で業務を開始します。
業務委託とは
業務委託は、請負契約や委任契約、準委任契約に基づく契約形態です。企業と受託者が対等な関係で契約を結んで受託者が業務を引き受ける形になっており、企業は納品される成果物や役務(サービスの提供)に対して報酬を支払います。
雇用契約ではないため、業務委託には「労働基準法」は適用されず、契約内容に応じて「民法」が適用されます。請負契約や委任契約は、労働者としての保護規定ではなく取引関係を定める規定が適用されるのが特徴です。
企業が業務委託を依頼する目的は、自社で対応できない特定の仕事や成果物を、外部の専門家や事業者に任せることにあります。そのため、業務委託はプロジェクト単位で専門的な知識や技術を必要とするケースや、自社にその分野の経験やリソースがなく、リスクを最小限に抑えつつ迅速に新分野に着手したいといったケースに適しています。
業務委託の場合、企業が業務の進行に対して具体的な指揮命令をおこなうことはなく、受託者の裁量で業務が進められます。企業は成果物の品質や納期のみを求めるため、業務指示や労務管理についても発注側である企業は関与しません。
<業務委託に向いている業務>
● システム開発やデザイン業務
● マーケティング戦略の構築
● コンサルティング業務
業務委託活用の流れ
業務委託を活用する際は、契約内容の確認から契約書の取り交わしまで以下6つの手順があります。
1. 業務委託会社の選定
まず、業務内容に適した業務委託会社またはフリーランスを選定します。候補者のスキルや実績、費用感などを総合的に比較・検討しましょう。
2. 打ち合わせ
選定した相手と具体的な業務内容や進め方について打ち合わせをおこないます。この段階で報酬や納期の希望条件を確認し、認識のすり合わせをすることが重要です。
3. 契約内容の確認
打ち合わせをもとに、企業と受託者が業務内容や報酬、納期などの契約条件を確認し、合意します。
4. 契約書(案)の作成・確認・修正
企業が契約書案を作成し、受託者と内容を確認しながら、必要に応じて修正をおこないます。契約内容が双方の合意に基づいていることを確認しましょう。
5. 契約書の作成
合意した内容に基づき、最終版の契約書を作成します。内容に不備がないか、法的観点からの確認もおこなうと安心です。
6. 契約書の取り交わし
双方が契約書に署名・押印し、正式に契約が締結されます。署名・押印後の契約書は、企業と受託者それぞれで1部ずつ保管します。
企業が人材派遣を利用する際のメリット
本章では人材派遣を利用する際のメリットを3つ紹介します。
スキルのある人材を必要に応じて起用できる
人材派遣では、特定のスキルや経験を持つ人材を、必要な期間や業務内容に応じて柔軟に活用できます。例えば期間の決まった短期プロジェクトの場合でも、派遣の活用により、即戦力として活躍できる人材を必要な期間のみ確保できる点が魅力です。
人材確保のコストや工数を削減
派遣を利用することによって採用プロセスを省略できるため、採用に関する企業側の負担軽減につながります。通常の採用活動には時間と費用がかかりますが、人材派遣では、派遣会社に条件を伝えれば、要望に応じたスキルを持つ人材が即戦力として確保できます。
また、単に採用のコストや工数が軽減されるというだけでなく、長期的な人件費を負担せずに人材のフレキシブルな活用が可能です。
労務管理コストの削減
派遣スタッフの雇用管理や給与支払いは派遣元会社がおこなうため、企業はその分のコストや手間を削減できます。また、社会保険の手続きや福利厚生などの労務管理も同様に派遣元の会社が対応するため、派遣を依頼する企業にとってはその点もメリットです。
企業が人材派遣を利用する際のデメリット
人材派遣を利用する際には、デメリットも存在します。メリット・デメリット双方を把握した比較・検討が重要です。
契約期間・更新には制約がある
人材派遣には派遣期間に制約があるため、長期的に人材を確保したい場合には向いていません。労働者派遣法に基づき、同じ派遣スタッフが同一の部署で働ける期間は原則3年までと定められており、更新には制約が伴う点にも注意が必要です。
ただし、派遣スタッフと派遣先会社との間で無期雇用契約に切り替えた場合は、この制約が適用されないため、3年の制限は適用されず長期的な人材活用が可能となるケースもあります。
直接業務指示を出さなければならない
派遣スタッフには、派遣先会社が直接的に業務の指示を出す必要があります。人材派遣は、業務委託のように成果物を求める契約とは異なり、日々の業務の進め方や内容について派遣先会社が管理しなければならないためです。派遣スタッフが業務を効率的に遂行するために指揮命令者を配置することや、サポート体制を整備しなければならない等、受け入れの管理に手間がかかります。
企業が業務委託を利用する際のメリット
業務委託を利用する際のメリットを紹介します。
特定の部門・業務に集中的にリソースを配分できる
業務委託を利用することで、企業は自社のリソースを本来の事業やコア業務に集中でき、必要な分野やプロジェクトに従事できます。特に日常のルーチン業務や専門性の高い業務を外部に任せることで、社内のリソースが重要な領域に集中できることから、会社全体のパフォーマンスの向上も期待できます。
外部企業の専門知識や技術を取り入れ、品質の向上や安定運用を実現できる
業務委託を通じて、企業は外部の専門知識や高度な技術を効率的に取り入れることにより、業務の品質や安定性が向上します。自社にはないノウハウや最新の技術を持つ外部に委託することで、プロジェクトの完成度が上がり、顧客満足度や業務効率の向上につながったり、市場の変化に迅速に対応しやすくなったりするメリットもあります。
業務フロー、オペレーションの最適化
業務委託を活用すると、自社にない視点での効率的な業務フローや手法を取り入れることができ、オペレーションの最適化が可能です。委託先が培ってきたノウハウを参考にすることで、企業全体の生産性の向上やコスト削減につながり、よりスムーズな業務運営が期待できます。
企業が業務委託を利用する際のデメリット
業務委託を利用するデメリットとして以下3点を取りあげます。
● 専門的な業務ほどコストが増加する傾向がある
● 指揮命令権がない
● 内部のノウハウを活用できない
専門的な業務ほどコストが増加する傾向がある
業務委託では、特に専門知識や高度なスキルが求められる業務ほど委託費用が増加する傾向にあります。外部の専門家に依頼するため、社内で賄うよりもコストが高くなるケースが多く、長期間にわたるプロジェクトや高い技術を必要とする業務には大きな予算が必要です。そのため、頻繁に利用する際にはコスト管理が重要となります。
指揮命令権がない
業務委託では、企業が委託先に対して直接的な指揮命令を出す権限がないため、業務の進め方や手順について細かく指示ができません。業務の進行や対応が委託先の判断に依存するため、企業が期待する形での業務遂行が難しい場合もあり、成果物の品質や納期に影響が出るリスクがあります。
内部のノウハウを活用できない
外部に業務を委託することで、社内の従業員がその業務に関する知識やスキルを習得する機会が減少します。社員が直接関わらないことで、内部のノウハウの蓄積や技術の伝承が進まず、長期的に見ると社内の専門性が低下する可能性があります。また、経験が必要な新しい分野でも社員に実務経験を積ませる機会を逃すことになるため、企業の成長や人材育成に影響を及ぼしかねません。
人材派遣を利用する際のパートナー企業の選定ポイント
本章では企業が人材派遣を利用する際のパートナー企業の選定ポイントを、2つ取りあげて解説します。
● 労働者派遣事業許可証」の交付がされているか確認する
● 依頼したい業務やエリアに対応しているか確認する
「労働者派遣事業許可証」の交付がされているか確認する
信頼できる派遣会社を選ぶためには、派遣会社が「労働者派遣事業許可証」を持っているかを確認しましょう。労働者派遣法に基づき、許可証を持つ企業のみが正式に派遣事業を営めることとなっており、許可証の有無は信頼性の指標にもなります。法令順守や適正な運営がおこなわれているかという判断基準のひとつにもなるため、確認すべき事項のひとつとして認識しておきましょう。
依頼したい業務やエリアに対応しているか確認する
人材派遣会社によって得意とする業務分野や対応可能なエリアが異なるため、依頼したい業務内容や勤務地に対応しているか確認することも大切です。特に、専門的なスキルや業務経験を必要とする場合、該当分野に強みを持つ派遣会社を選ぶことで、より適切な人材を確保できます。
また、企業の所在地や業務エリアに対応しているかは、派遣スタッフが安定して通勤できる環境が整っているかという点にも繋がり、業務の定着率にも関係してきます。
業務委託を利用する際のパートナー企業の選定ポイント
業務委託を利用する際のパートナー企業の選定ポイントについて、それぞれ解説します。
● 豊富な経験と実績があるか確認する
● セキュリティ対策ができているか確認する
豊富な経験と実績があるか確認する
業務委託では、委託する業務の専門性や質が重要であるため、パートナー企業がその分野で豊富な経験と実績を持っているかの確認は必須です。過去の実績や事例を確認し、類似業務での成功事例や対応力を把握することで、信頼性が高く、スムーズに業務を遂行できるパートナーを見つけられます。特に、独自のノウハウやベストプラクティスを活用して、企業のニーズに応えられるかどうかを見極めることがポイントです。
セキュリティ対策ができているか確認する
業務委託では、外部企業に自社の情報を共有する場面が多いため、パートナー企業が適切なセキュリティ対策を講じているかを確認することが不可欠です。特に、機密情報や個人情報を扱う場合、セキュリティポリシーや情報保護の体制が整っている企業を選ぶことで、情報漏えいや不正アクセスのリスクを最小限に抑えることができます。具体的には、データ暗号化やアクセス制限、従業員へのセキュリティ教育などがおこなわれているかをチェックするとよいでしょう。
人材派遣サービスを利用する際の留意点
以下の留意点を把握し、法令を遵守した上で派遣サービスを利用することで、自社と派遣会社の双方にとって円滑な契約関係を築くことができます。
派遣スタッフの選定や特定をおこなうことはできない
人材派遣では、派遣を依頼した会社が派遣スタッフを個別に選定することや、特定の人材を指定することはできません。派遣元会社が企業のニーズに基づいて適切なスタッフを派遣するため、派遣先会社側が直接面接や選定をおこなうことは法律上認められていません。
派遣スタッフの入れ替えや変更も派遣元会社が判断するため、この点を理解したうえで利用しましょう。
ただし、紹介予定派遣の場合は例外的に、派遣後の直接雇用を前提とした事前面接が可能とされています。このため、特定の人材を雇用に向けて選定したい場合には、紹介予定派遣を活用することを検討するとよいでしょう。
紹介予定派遣について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
【関連リンク】
紹介予定派遣
紹介予定派遣とその他の派遣の違いとは?それぞれのメリット・デメリットについて解説
【参考】 厚生労働省|特定目的行為の禁止について
扱えない業務がある
人材派遣には、労働者派遣法により従事できない業務が定められています。事前に依頼可能な業務範囲を確認し、適用される制限を理解しておくことが必要です。具体的には以下の通りです。
<派遣が禁止されている業務例>
● 港湾運送業務
安全性や効率性を確保するため、また、特定の資格や経験が必要とされるため。
● 建設業務
長期的・継続的な業務が多く、派遣では対応が難しいため。
● 警備業務
警備業法で定められた専門性と責任が必要とされるため。
● 医療業務(例外あり)
医師や看護師などの資格者による直接雇用が基本とされているため。
この他に、弁護士や税理士などの士業も派遣が禁止されています。
【参考】厚生労働省|労働者派遣事業を行うことができない業務は・・・
契約書に明記されていない業務は委託できない
人材派遣では、派遣契約書に明記された業務以外を派遣スタッフに依頼することはできません。契約書に記載されている業務内容が法的な枠組みとなるため、追加業務を依頼するには契約内容の変更が必要です。業務内容に変更が生じた場合は、派遣会社と協議の上、契約書を更新するなどの手続きが求められます。
二重派遣を避けるよう注意する
二重派遣とは、派遣元会社から派遣されたスタッフを、派遣先会社が別の企業に再派遣する行為で、これは労働者派遣法により禁止されています。二重派遣が発生すると法令違反となるため、派遣先会社は、派遣スタッフが他の企業に勤務するような業務指示を出さないよう注意が必要です。派遣サービスを利用する際には、この点についても理解し、適正に運用することが大切です。
【参考】厚生労働省|派遣先の皆様へ
業務委託サービスを利用する際の留意点
以下の留意点を踏まえて事前の準備や確認を十分におこなうことで、業務委託のメリットを最大限に享受することができます。
導入前のコスト比較や委託業務の整理が必要
業務委託を導入する際には、まずコスト比較や業務内容の整理が重要です。委託する業務を明確にすることで、無駄なコストを抑え、最適なパートナー企業を選ぶことができます。複数の委託候補から見積もりを取り、比較検討する方法もあります。
また、信頼性や実績のある企業を選ぶことも欠かせません。信頼性の高い委託会社であれば、スムーズな業務進行や高品質な成果が期待でき、長期的なパートナーシップも築きやすくなります。
導入に伴う準備期間が必要
業務委託の導入には、業務内容の説明や作業フローの引き継ぎなどの準備期間が必要です。準備期間中に委託先と業務内容や進行方法の認識を合わせることで、導入後のトラブルを防ぎ、円滑なスタートを切ることができます。また、事前に情報セキュリティや機密情報の取扱いについても確認・準備しておくことで、業務委託がスムーズに進むだけでなく、リスク回避にも繋がります。計画的に準備期間を設けることで、円滑な委託業務のスタートが可能です。
まとめ
人材派遣、業務委託ともに、昨今の人材不足を補うために有効な手段です。人材派遣は、派遣会社と契約し、企業が直接指示を出して派遣スタッフに業務をおこなわせる形態で、即戦力として短期間で人手を補いたい場合に適しています。一方、業務委託は請負契約や委任契約を通じて、成果物や役務を外部に依頼する形態です。業務委託は企業側には指揮命令権がなく、委託先が自らの判断で業務を進めるため、信頼できるパートナー選びが特に重要となります。それぞれの特徴や留意点を理解し、業務内容や目的に応じて適切な選択をおこないましょう。
<執筆監修者プロフィール>
西本 結喜(監修兼ライター)
結喜社会保険労務士事務所 代表。金融、製造、小売業界を経験し、業界ごとの慣習や社風の違いを目の当たりにしてきたことから、クライアントごとのニーズにあわせ、きめ細やかな対応を心がけている。