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労働者派遣法とは?概要や労働者派遣の仕組みについて解説

労働者派遣法とは?概要や労働者派遣の仕組みについて解説

人材派遣は、柔軟な人員計画に対応できたり、多様な働き方が選択できたりするため、労使双方にとってメリットがある雇用形態です。企業は、派遣労働者を守るために制定された労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)を遵守し、派遣サービスの利用や提供をおこなわなければなりません。

「労働者派遣法について詳しく知りたい」「最新の法改正情報が気になる」「人材派遣サービスを活用するために理解を深めたい」といったお悩みをお持ちの担当者は多いのではないでしょうか。労働者派遣法は1985年に制定されて以降、改正を重ねながら進化してきました。

労働者派遣法についての理解を深めて人材派遣をうまく活用できるよう、ぜひ本記事を参考にしてみてください。

労働者派遣法とは

労働者派遣法とは?概要や労働者派遣の仕組みについて解説_1

はじめに、労働者派遣法の概要と沿革、過去の法改正のポイントについてみていきます。同法が制定された背景や目的を理解しておきましょう。

労働者派遣法の概要

労働者派遣法は、派遣労働者を保護し労働者派遣事業を適正に運営することを目的として1985年に制定された法律です。

労働市場が変化し非正規雇用の需要が増えるなか、派遣元と派遣先の間に立つ派遣労働者の待遇や権利に関する問題が社会的に注目されるようになりました。労働者派遣法によって、派遣労働者の保護を強化し不当な待遇の防止を図れるようにしたのです。

労働者派遣法の沿革

1985年
(昭和60年)

・労働者派遣法の制定
・労働者派遣事業の許可制が導入される
・当初は派遣可能な職種が専門的知識を必要とする13の業種が適用対象業務に限定されていた
・労働者派遣法の制定によって、派遣労働者の権利保護を目的とした基本的な規制が設けられる

1996年
(平成8年)

・適用対象業務が26業務に拡大される
・無許可事業主からの派遣を受け入れるなどした派遣先への勧告や公表が制度化される

1999年
(平成11年)

・適用対象業務が原則的に自由化される(ただし、建設、港湾運送、警備、物の製造、医療の業務は除く)
・新たに対象になった26業務以外の業務は派遣受け入れ期間を1年に制限される
・派遣労働者を直接雇用するよう努力義務が創設

2003年
(平成15年)

・物の製造業務への派遣が解禁
・26業務以外の業務の派遣受け入れ期間が1年から最大3年まで延長される
・派遣労働者への契約申込の義務が創設

2012年
(平成24年)

・日雇派遣が原則禁止になる
・グループ企業内への派遣が8割以下に制限される
・離職した労働者を派遣労働者として離職後1年以内に受け入れるのを禁止
・マージン率等の情報提供が義務化
・無期雇用への転換推進措置が努力義務化
・労働契約の申込みなし制度が創設

2015年
(平成27年)

・労働者派遣事業の許可制に一本化される
・キャリアアップ措置が義務化
・年数に応じて雇用安定措置の実施が義務化あるいは努力義務化
・派遣期間規制が見直される
・均衡待遇が強化

2018年
(平成30年)

・不合理な待遇差を解消するための規制が整備される
・派遣労働者に対して待遇に関する説明義務が強化される
・裁判外紛争解決手続き(行政ADR)が整備される

2020年
(令和2年)

・同一労働同一賃金がルール化される

2021年
(令和3年)

・派遣労働者雇入時の説明義務が強化される

【参考】厚生労働省|労働者派遣制度の概要および改正経緯について

過去の法改正の要点

上表のように、労働者派遣法は法改正を重ねて現在のものになっています。ここでは、過去の法改正のうち特に直近のポイントである「派遣労働者雇入時の説明義務の強化」について説明します。

派遣元事業主が派遣労働者を雇い入れる際は、教育訓練やキャリアコンサルティングの内容について説明することが義務付けられました。
また、派遣労働者の苦情受付について従来までは派遣元が窓口となっていたのが、派遣先の企業が誠実かつ主体的に対応することが義務付けられたのも2021年の法改正の大きな特徴です。現在は派遣元だけでなく派遣先企業においても、派遣労働者が相談しやすい窓口設置などの対応が求められています。

派遣元事業主は派遣労働者に対して雇用安定措置を講じることが求められます。具体的には以下の①~④のいずれかを実施することが必要で、派遣先での就業年数に応じ義務または努力義務となる点に注意が必要です。

①派遣先への直接雇用の依頼
②新たな派遣先の提供
③派遣元での無期雇用
④その他の安定した雇用継続を図るための措置
 

派遣就業の見込みが3年

①~④のいずれかを実施する義務

就業見込みが1年以上3年未満

①~④のいずれかを実施する努力義務

派遣元事業主に雇用された通算期間が1年以上

②~④のいずれかを実施する努力義務

【参考】厚生労働省|派遣元事業主の講ずべき措置は・・・

労働者派遣の仕組みについて

労働者派遣法とは?概要や労働者派遣の仕組みについて解説_2

労働者派遣の雇用形態や派遣形態は以下の内容に分けられます。

【雇用形態】
● 登録型派遣
● 常用型派遣

【派遣形態】
● 有期雇用派遣
● 無期雇用派遣
● 紹介予定派遣

ここではそれぞれの違いについて解説します。

派遣社員の雇用形態

派遣社員の雇用形態には大きく分けて、登録型派遣と常用型派遣があります。

登録型派遣
登録型派遣は求職者が派遣元である派遣会社に登録し、仕事の紹介を受け就業開始する際に派遣会社と雇用契約を結ぶ派遣形態です。派遣期間が終わると雇用契約も終了します。派遣会社から新たな派遣先の紹介があり、就業開始する場合には、新たな雇用契約を結ぶ必要があります。

常用型派遣
常用型派遣は、派遣会社に属する社員が他の会社に派遣される形態です。
登録型派遣との大きな違いは、派遣期間が終わっても派遣会社との雇用関係は継続する点です。そのため、新たな派遣先に派遣されるまでの間であっても給与の支払いを受けられます。

派遣社員の派遣形態

派遣形態には有期雇用派遣、無期雇用派遣、紹介予定派遣があります。

有期雇用派遣
有期雇用派遣は、登録型派遣と同じ意味で用いられています。仕事を探している人が派遣会社に登録をして、紹介された派遣先企業で一定の期間就労をおこないます。

無期雇用派遣
無期雇用派遣は、常用型派遣と近しい意味で用いられます。派遣元会社で無期雇用されている社員が、派遣先企業にて就労するものです。無期雇用派遣は、専門職の人員補充の際におこなわれることが多い形態です。

紹介予定派遣
紹介予定派遣は、派遣先企業での直接雇用を前提として就業する派遣形態です。派遣期間中に派遣社員と派遣先企業の双方が直接雇用を結ぶかどうかを見極め、双方が合意すれば直接雇用に切替となります。紹介予定派遣は、ミスマッチの少ない直接雇用につながりやすく、雇用の安定を求める人にとってはメリットの大きい派遣形態といえます。

労働者派遣における注意点とポイント

労働者派遣法とは?概要や労働者派遣の仕組みについて解説_3

労働者派遣には注意すべき点があります。以下の内容については理解しておきましょう。
 

労働者派遣法の遵守

労働者派遣法で特におさえるべき点を解説します。

派遣契約における契約期間の制限
派遣契約には期間の制限があるため、原則として同じ事業所で3年を超えて働けません。3年を超えて働く場合には、一定の手続きをとることが必要です。なお、無期雇用派遣の労働者や60歳以上の派遣労働者には、期間の制限はありません。

【参考】厚生労働省|派遣で働く皆様へ

同一労働同一賃金
派遣労働者の就業場所となる派遣先企業において、正社員などの労働者との均等や均衡を図ることを目的として、派遣労働者の待遇について派遣先均等・均衡方式または労使協定方式のいずれかをとることが派遣元事業主に義務付けられました。

派遣先均等・均衡方式は、派遣先企業で派遣労働者と同様の業務に就いている正社員の待遇に合わせる方式です。派遣先の正社員の職務内容と配置の変更範囲が同じである場合には、派遣労働者の待遇についても同じ扱いにしなければいけません。

一方、労使協定方式は派遣労働者と同じエリア内で同種の業務に就いている正社員の平均賃金を比較対象にします。 派遣先均等・均衡方式では、派遣先が変わるごとに待遇にも変更が生じますが、労使協定方式では派遣労働者が働く地域や職種ごとの賃金データをもとに、平均賃金と同等以上の賃金を定めるものです。労使協定方式は、派遣元企業と派遣労働者が協議のうえ決定されます。

【参考】厚生労働省|派遣労働者の≪同一労働同一賃金≫の概要(平成30年労働者派遣法改正)

日雇い派遣の原則禁止 
派遣元事業主は、日雇い労働者について労働者派遣をおこなってはいけません。ここでいう日雇い労働者とは、日々または30日以内の期間を定めて雇入れる労働者のことです。以下の場合には、日雇い派遣が例外として認められます。

日雇い労働者の適正な雇用管理が支障なくおこなえると認められる業務に派遣する場合
雇用機会を確保するのが特に困難である労働者を派遣する場合

日雇い派遣の例外業務としては、以下のものがあります。

ソフトウェア開発
機械設計
事務用機器操作
通訳、翻訳、速記
秘書
ファイリング
調査
財務処理
取引文書作成
デモンストレーション
添乗
受付・案内
研究開発
事業の実施体制の企画、立案
書籍等の制作・編集
広告デザイン
OAインストラクション
セールスエンジニアの営業、金融商品の営業

また、60歳以上の者や学生、副業として従事する者、主たる生計者以外の者は日雇い労働者の例外となります。


【参考】厚生労働省|日雇派遣の原則禁止について

派遣労働者を特定する行為の禁止
派遣先企業は労働者派遣契約を締結する際に、派遣労働者の特定を目的とする行為が禁止されています。派遣労働者の特定とは、以下のような行為を指します。

労働者派遣に先立ち、面接をおこなう
労働者の履歴書の送付を求める
性別や年齢を限定する

また、派遣元事業主も派遣労働者の特定につながるような行為に協力してはいけません。派遣労働者の特定によって労働者の能力以外で選考され、就業機会が失われないようにすることが大切です。

【参考】厚生労働省|特定目的行為の禁止について

派遣先企業を離職後1年以内の同一派遣労働者の受入禁止
派遣先企業を離職してから1年以内の人を、派遣労働者として受け入れることは禁止されています。派遣元も、派遣先企業を離職してから1年以内の人の労働者派遣をおこなってはいけません。これは、もともと直接雇用すべきであった労働者を派遣労働者として使用することで、労働者の待遇悪化につながる恐れがあるためです。

【参考】厚生労働省|離職後1年以内の労働者派遣の禁止について

その他労働諸法の遵守

労働者の派遣をおこなう・受け入れる場合には、労働者派遣法以外にも留意すべき法律があります。ここでは主に「同一労働同一賃金」と「二重派遣の禁止」についてとりあげます。

同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法)
こちらの同一労働同一賃金は、2021年4月より全面施行されました。同じ会社内で雇用形態が異なっても、仕事内容と責任の負担や範囲が同じであれば同じ待遇にしなければならないと定めています。

【参考】厚生労働省|同一労働同一賃金特集ページ

二重派遣の禁止(中間搾取の排除)
中間搾取を排除するために、二重派遣が禁止されています。二重派遣とは、派遣元から派遣労働者を受け入れた派遣先企業が新たな派遣元企業となり、別の派遣先企業に労働者を派遣することです。二重派遣は、労働者にとって以下のようなリスクがあります。

雇用に対する責任の所在が曖昧になる
賃金や労働条件の引き下げにつながりやすい

もともと雇用関係にない労働者を、他の企業に派遣する行為は違法行為にあたるので注意が必要です。

契約解除時の留意点

契約解除時に留意すべきポイントは派遣元会社と派遣先企業で異なります。

人材派遣会社が留意すべき点
厚生労働省「派遣先が講ずべき措置に関する指針」によると、派遣先企業は、契約の中途解除時には以下の措置をとるべきであると示されています。

派遣元の合意を得て、あらかじめ相当の猶予をもって解除を申し入れること
派遣先の関連会社で就業できるようあっせんするなど、派遣労働者に新たな就業機会を与えること

新たな就業機会を確保できない場合には、遅くとも30日前に予告が必要です。予告をしない場合には、派遣元に対して派遣労働者の賃金に相当する損害賠償を支払う必要があります。

【参考】厚生労働省|派遣先が講ずべき措置に関する指針

派遣元企業が留意すべき点
派遣元である派遣会社は、契約の中途解除時には派遣先と連携を図り派遣労働者の新たな就業機会の確保に努める必要があります。
派遣契約と労働契約は別であるため、派遣契約が解除されても派遣元は派遣労働者を解雇できるわけではありません。派遣元と派遣労働者は雇用期間が満了するまで労働契約は継続しており、それまでは賃金を支払う義務が派遣会社に発生しています。

【参考】
厚生労働省|派遣会社の事業所の皆様へ
 

まとめ

労働者派遣は、会社と労働者双方のニーズを満たす働き方である一方、派遣労働者の不利益にならないよう法律に基づいた待遇の確保等の対応が求められます。
労働者派遣法や労働諸法を正しく理解し、自社の人員計画や環境にあった人材派遣を活用しましょう。
 


<執筆監修者プロフィール>
西本 結喜(監修兼ライター)

結喜社会保険労務士事務所代表。金融、製造、小売業界を経験し、業界ごとの慣習や社風の違いを目の当たりにしてきたことから、クライアントごとのニーズにあわせ、きめ細やかな対応を心がけている。