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意見聴取とは?派遣の3年ルールや意見聴取の流れ・注意点を解説

意見聴取とは?派遣の3年ルールや意見聴取の流れ・注意点を解説

派遣スタッフを受け入れる際、派遣先会社が守るべき事項のひとつに派遣の3年ルールがあります。意見聴取とは、この派遣の3年ルールを延長したい場合に、事前に実施しなければならない手続きです。意見聴取を怠ると労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)違反となるおそれがあり、企業にとって大きなリスクとなりかねません。

そこで、本記事では以下のポイントについて解説します。

● 意見聴取の概要
● 派遣の3年ルール
● 意見聴取の流れ
● 意見聴取で注意すべき点

派遣の意見聴取とは

意見聴取とは?派遣の3年ルールや意見聴取の流れ・注意点を解説_1

まずは、派遣における意見聴取の意味と意見聴取の関連する3年ルールについて確認していきます。

概要

派遣の意見聴取とは、派遣先会社が3年を超えて派遣スタッフを受け入れる際、法的に義務付けられている手続きをいいます。労働者派遣法により、企業は3年を超えて派遣労働者を受け入れてはならないこととなっており、この派遣可能期間を延長するために法律で義務付けられているのが意見聴取です。派遣可能期間の制限は、「派遣の3年ルール」と呼ばれています。意見聴取は、派遣先会社と派遣スタッフ双方にとって雇用条件等に対する意見を確認する重要な手続きです。

派遣の3年ルールとは

「派遣の3年ルール」とは、派遣スタッフの受け入れ期間を最長3年までとする制限のことです。労働者派遣法第35条に規定されており、①事業所単位の制限、②個人単位の制限の2つがあります。

①事業所単位の制限は、同じ事業所で派遣スタッフを受け入れる期間を最長3年とするもの
②個人単位の制限は同じ派遣スタッフが同じ職場で働ける期間を最長3年とするもの

事業所単位
同一の事業所で派遣スタッフを配置できる期間は、最長で3年間と定められています。ここで述べる「事業所」とは、支店や工場、事務所等のことを指し、雇用保険の適用事業所と同じ考え方で場所的に独立していることがひとつの基準です。この3年を超えて派遣スタッフを受け入れる場合は、過半数労働組合からの意見聴取をした場合に限り、さらに最大3年まで期間を延長して派遣スタッフを受け入れることが可能です。(労働組合がない場合は過半数労働者の代表)

個人単位
同一の派遣スタッフが、同じ職場で同じ職務を担当できる期間は最長3年です。個人単位での期間の制限により、同一の派遣スタッフが同じ職場で同じ業務を続けられるのは3年間になります。ただし、同じ派遣先でも、業務内容や職務が変更されれば、同じスタッフが再度派遣されて3年以上働くことは可能です。例えば、派遣スタッフが営業アシスタントとして3年働いた場合でも、業務内容が総務や経理に変更されれば、再度派遣契約を結ぶことができます。なお、個人単位の期間制限については、意見聴取を経ての延長手続きは適用されません。

派遣の3年ルールが対象外となるケース
3年ルールが適用されないケースとして法律で定められているものはいくつかありますが、ここでは例として5つ取りあげます。
 
1. 無期雇用派遣労働者
2. 60歳以上の派遣労働者
3. 育児・介護の代替派遣労働者
4. 有期プロジェクトに従事する派遣労働者
5. 日数限定業務に従事する派遣労働者
  
派遣元会社に無期雇用されている派遣スタッフは、3年ルールの対象外です。無期雇用派遣とは、労働者が派遣元会社と無期限の雇用契約を結び、派遣先に派遣される形態のことです。
無期雇用派遣の場合は、労働者が同一の派遣先で3年以上勤務することが許されています。これは、派遣元との雇用が安定しているため、派遣先での3年の制限を設ける必要がないためです。
また、60歳以上の派遣スタッフも3年ルールの対象外です。60歳以上であれば同じ派遣先で3年以上働くことが可能となっています。
この例外は、年齢が上がると直接雇用が難しくなる可能性があることを考慮して規定されています。企業が年齢にかかわらず経験豊富な派遣スタッフを継続的に活用できるようにするためのものです。

詳しくは、以下の記事でも解説していますのでぜひ参考にしてください。
お悩み解決!派遣コラム|派遣法の3年ルールとは?3年以上働く方法は?

【参考】
厚生労働省|派遣先の皆様へ
労働者派遣法(e-Gov法令検索)|第40条の2

派遣の意見聴取の流れ

意見聴取とは?派遣の3年ルールや意見聴取の流れ・注意点を解説_2

意見聴取の実施時期

派遣社員の3年ルールに基づく意見聴取は、抵触日の1か月前までに書面で実施することが法律で義務づけられています。抵触日とは、派遣スタッフが働ける最終日を指し、この日までに派遣先会社は派遣スタッフに対し今後の継続雇用について確認する必要があります。書面で実施することで、労働者の意思や企業の対応が明確に記録され、トラブルの防止にもつながります。

意見聴取の手順

意見聴取は以下のように進めていきます。

①過半数労働代表者または過半数労働組合に意見聴取を行う
派遣先会社が、過半数労働組合や該当する労働組合がない場合は過半数労働代表者に対して意見聴取をおこないます。

● 過半数労働組合とは
過半数労働組合とは、企業の従業員全体の過半数が加入している労働組合のことを指します。仮に会社内に複数の労働組合があった場合は、そのうち労働者の過半数が所属している組合を意味します。

● 過半数労働代表者とは
過半数労働組合がない場合に、全従業員の過半数の支持を得て選出された労働者の代表者を指します。労働組合が存在しない企業において労働者の意見を集約する役割を担っています。
 
②反対意見があった場合は、説明をおこなう
反対意見があった場合(例:継続雇用に同意しない、受け入れ業務に反対するなど)、企業はその意見を十分に考慮し、労働者や組合に対して説明をおこないます。その際、説明しなければならない事項は下記の2点です。

● 派遣スタッフ受け入れの延長期間と理由  
● 反対意見に対する対応方針

これにより、意見の違いを解消し合意形成を図ります。

③意見聴取の内容の記録・保存
企業は、意見聴取の内容を記録し、抵触日から3年間保存しなければなりません。
具体的な記録項目は次の5つです。

1. 過半数労働組合の名称または過半数労働代表者の氏名
  誰に対して意見聴取をおこなったかの詳細を記録します。
2. 過半数労働組合等への通知事項及び通知日
  意見聴取をおこなうための通知内容とその日付を記録します。
3. 過半数労働組合等から意見を聴いた日及び当該意見の内容
  意見聴取がおこなわれた日付と、具体的な意見内容を正確に記録します。
4. 過半数労働組合等に対し説明した内容
  反対意見があった場合、その説明の内容と結果を記録します。
5. 意見を聴いて、延長しようとする派遣可能期間を変更した場合、その期間
  派遣期間の延長をおこなう場合は、その変更した派遣可能期間も記録します。

④派遣会社への周知 
意見聴取の結果や今後の対応について、派遣元の会社へ周知します。派遣会社は派遣スタッフの雇用元であるため、継続雇用や派遣期間の延長、労働者の意向を適切に伝えることにより、派遣会社と円滑な連携を図ります。

【参考】厚生労働省|派遣先事業所単位の派遣可能期間を延長する場合の意見聴取の流れ

意見聴取の注意点

意見聴取とは?派遣の3年ルールや意見聴取の流れ・注意点を解説_3

派遣先に複数の事業所がある場合、事業所ごとに意見聴取が必要

派遣先に複数の事業所が存在する場合、事業所ごとに個別の意見聴取が必要です。ひとつの事業所の意見聴取の結果をもって、他の事業所に適用することはできません。また、会社に過半数労働組合がひとつしかない場合でも、同様に事業所ごとの意見聴取が必要となります。
それぞれの事業所で派遣スタッフが3年ルールに抵触するタイミングを確認し、抵触日の1か月前までに意見聴取をおこなわなければなりません。

過半数代表者は管理監督者ではない人から選出する

過半数労働代表者は、労働基準法第41条第2号に規定されている「管理監督者ではない労働者」の中から、従業員の投票や挙手などで選出することが求められます。ここでの管理監督者とは、企業内での経営的な判断や業務の指揮・管理に関与する者で、通常は管理職に相当します。管理監督者は一般の労働者と異なり、労働時間や休憩、休日に関する規定の適用を受けない特別な立場とされているためです。

また、過半数労働代表者は、労働者全体の過半数の支持を得る民主的な方法で選出されなければなりません。選出する際は投票や挙手などの公正な手段を用い、以下の点に注意するとよいでしょう。

● 全従業員が参加できること:選出はすべての従業員が平等に参加できる手続きでおこなわなければなりません。無記名投票など、労働者が自由に意思表示できる仕組みが一般的です。
● 過半数の支持を得ること:過半数労働代表者は、全労働者の過半数から支持を得ることが求められます。投票結果が過半数に満たない場合、再度選出をおこなう必要

意見聴取をおこなわない派遣可能期間の延長は違法

意見聴取をおこなわない派遣可能期間の延長は違法であり、意見聴取の実施は派遣先会社の義務です。意見聴取をおこなわずに派遣期間が延長された場合、違法派遣となり労働契約申込みみなし制度が適用される可能性があります。

労働契約申込みみなし制度とは、派遣先会社が派遣スタッフに対して、派遣元会社における労働条件と同一の労働条件で直接雇用を申し込んだものとみなすというものです。これに派遣スタッフが同意すれば、派遣先会社との間で直接の雇用契約が成立します。

【参考】厚生労働省|労働契約申込みみなし制度の概要

抵触日は個人単位と事業所単位で先に到来する抵触日が優先される

抵触日とは、派遣可能期間の終了日、つまり3年ルールの期限を迎える日です。個人単位と事業所単位、それぞれにおいて派遣可能期間が設定されているため、抵触日が2つ存在する場合があります。

個人単位と事業所単位で異なる抵触日がある場合、必ず先に到来する方の抵触日が優先されます。

【例:個人単位の抵触日が先に到来する場合】
派遣スタッフAが同じ事業所で2年働き、その後別の事業所に移動して1年勤務した場合、個人単位の3年ルールに基づき、その派遣スタッフは派遣先全体で3年が経過した段階で抵触日を迎えます。たとえ事業所単位の抵触日がまだ先であっても、個人単位の抵触日が優先されます。

【例:事業所単位の抵触日が先に到来する場合】
事業所Bに派遣スタッフが同じ業務に従事して3年が経過した場合、事業所単位の3年ルールに基づき、その事業所に派遣スタッフを受け入れられる期限が到来します。この場合、個人単位のルールに関係なく、事業所単位の抵触日が優先され、その事業所での派遣労働は終了します。

無自覚のうちに法令違反とならないよう、個人単位と事業所単位の双方の抵触日を適切に把握し、どちらが先に到来するかを管理しておくことが重要です。

【参考】厚生労働省|派遣先の皆様へ

まとめ

派遣の3年ルールに基づく意見聴取は、派遣可能期間を延長する際に必須の手続きです。企業は、過半数労働組合または過半数労働代表者に対して書面で意見を聴取し、その結果を記録・保存する義務があります。特に、意見聴取を怠ると労働契約申込みみなし制度が適用され、派遣先企業が直接雇用を申し込んだとみなされるリスクがある点に注意が必要です。抵触日を適切に管理し、自社と派遣スタッフの双方にとって良い環境を築くことが求められます。
 


<ライタープロフィール>
西本 結喜(監修兼ライター)

結喜社会保険労務士事務所 代表。金融、製造、小売業界を経験し、業界ごとの慣習や社風の違いを目の当たりにしてきたことから、クライアントごとのニーズにあわせ、きめ細やかな対応を心がけている。