「労働基準法 改正」2024年の改正ポイントと必要な対応とは
労働基準法は昭和22年に制定されて以降、労働者の権利を守るために、数多くの改正を重ねてきました。法改正は、社会情勢に沿ったかたちでおこなわれるため、理解が追いつかないという方もいるかもしれません。「最新の改正ポイントを知りたい」「これまでにどのような改正があったのか」「企業が取るべき対応を知りたい」といったお悩みを抱えていませんか。
法改正を把握していないと、労務管理をおこなう上で労使間トラブルにつながるリスクもあります。正確な情報を企業全体で共有できるよう、本記事を参考にしてみてください。
目次
労働基準法とは
労働基準法の概要と制定された背景、過去の重要な改正ポイントについて見ていきましょう。
法律の概要
労働基準法は労働条件に関する最低基準を定めた法律で、昭和22年に制定されました。労働者の基本的な権利を保護するために、以下のような事項を規定しています。
● 労働条件
● 賃金
● 解雇
● 休憩
● 休日
● 時間・休日労働
● 年次有給休暇
● 就業規則
労働基準法は社会情勢や労働環境の変化に応じて、これまで何度も改正がおこなわれてきました。
労働基準法が制定された背景
労働基準法が制定された背景は、労働条件に最低基準を設けて労働者を保護する必要が生じたことにあります。戦前の日本では労働法の整備が十分ではなかったため、労働者は過酷な労働を強いられるケースが多く、一方的に労働力を搾取されていました。
しかし、昭和22年の労働基準法の制定により、社会的弱者である労働者の権利を保護するための法規が整備されたのです。
過去の主な改正点
過去の労働基準法改正のなかから、特に重要なものをピックアップして解説します。
年次有給休暇取得促進
2019年の改正では年次有給休暇を10日以上付与される労働者に、年5日の年休の時期を指定して取得させる旨が使用者に義務付けられました。
この5日は、年次有給休暇の付与日から1年以内の取得であることが必要です。単に労働者を休ませるというだけでなく、十分な休養を取らせることにより、離職の防止や生産性の向上も期待できます。
【参考】厚生労働省|年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説
時間外労働の上限規制
同じく2019年、時間外労働の上限規制についての改正がおこなわれました。本改正のポイントは、時間外労働の上限が原則として月45時間・年360時間となったことです。この時間外労働には休日労働は含みません。また、臨時的な特別の事情があり労使の合意があれば、年720時間を上限として設定可能です。ただし、この場合であっても1ヶ月の時間外労働と休日労働の合計時間が100時間未満、2~6ヶ月の平均時間を80時間以内とすることが求められ、月45時間を超えられるのは年に6ヶ月までという制限があります。
【参考】厚生労働省|時間外労働の上限規制 わかりやすい解説
フレックスタイム清算期間の上限の延長
従来フレックスタイム制の清算期間は、1か月が上限とされていました。しかし2019年の改正では、上限期間が最大3か月に延長となりました。この改正により、例えば子供の夏休み期間中には短時間労働をし、他の期間で長時間労働をおこなうなど、より柔軟な労働時間の調整が可能になっています。
【参考】厚生労働省|働き方改革関連法のあらまし
働き方改革関連法
働き方改革推進のための「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)」が2018年に成立し、2019年から順次施行されています。この法律は、長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態に関係なく公正な待遇を確保することなどを目的としています。
働き方改革関連法の改正項目の例は以下のとおりです。
● 残業時間の上限規制
● 勤務間インターバル制度の導入促進
● 月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ
● 労働時間の客観的な把握
● フレックスタイム制の拡充
● 高度プロフェッショナル制度の創設
● 正規と非正規の労働者の間の不合理な待遇差をなくすための規定整備
● 非正規雇用労働者の待遇に関する説明義務化
● 事業主に対する行政からの助言や指導等、行政ADR(裁判外紛争解決手続)の規定の整備
法改正によって、労働者の事情に応じて多様な働き方が可能となる社会の実現を目指します。
【参考】青森労働局|働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の概要
ハラスメント防止対策の強化
2020年のハラスメント防止法改正にともない、事業主と労働者の責任がより明確になりました。事業主が負うべき責任は、以下のとおりです。
● パワーハラスメントなどをおこなわないことを明確にし、ハラスメント問題に対する労働者の理解を深める
● 労働者が他の労働者に対して適切な言動をとるよう、研修を実施するなどの配慮をおこなう
● 事業主自身がハラスメント問題に対する理解を深め、適切な注意を払う
また、労働者には以下のような責務があります。
● ハラスメント問題に関心を持ち、他の労働者に対する言動に注意を払う。
● 事業主が講じる雇用管理上の措置に協力する。
さらに、被害者保護のための不利益取扱い禁止や、効果的なハラスメント対策のためのマニュアル作成、研修実施が求められ、職場での健全な環境を目指します。
【参考】厚生労働省|2020年6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!
2024年の労働基準法改正ポイント
2024年の労働基準法の改正ポイントについて解説します。特に、2点目の時間外労働上限規制猶予期間終了は、2024年問題としてメディア等で大きく取りあげられていた内容です。しっかりと把握しておきましょう。
労働条件の明示義務
2024年4月から施行された労働基準法施行規則および「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」の改正により、労働条件の明示事項が一部変更されました。変更点は以下をご覧ください。
就業場所と業務内容の変更範囲の明示
労働契約を締結する際及び有期契約の更新時には、労働者が将来的に配属される可能性のある就業場所や担当する業務内容、変更されうる範囲について明示する必要があります。これにより、労働者は職務の変動の範囲を事前に知ることができるようになりました。
有期契約の更新上限の明示
事業主は、有期契約労働者に対し、契約の更新可能な上限期間または回数を具体的に明示するよう義務付けられました。更新の上限を新設または短縮する場合には、その理由を事前に説明することが必要です。労働者は、自身の雇用の見通しをより明確に把握しやすくなりました。
無期転換申込権と無期転換後の労働条件の明示
有期契約の更新時には、通算契約期間が5年を超える労働者は無期転換を申し込めることを明示する必要があります。また、無期転換後の労働条件についても、賃金や職務内容、責任の程度、異動の有無といった要素を含め、他の正規雇用の労働者とのバランスを考慮して明示することが義務付けられています。
これらの改正によって、労働者が自身の労働条件について理解を深め、安定した雇用環境を確保することが期待できるでしょう。
【参考】厚生労働省|令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます
建設業・運輸業・医師等の時間外労働上限規制の猶予期間終了
働き方改革の一環として、時間外労働の上限規制が労働基準法により定められ、2019年4月から大企業、2020年4月からは中小企業にも適用が開始されています。しかし、特定の業種には、本規制について5年間の適用猶予期間が与えられていました。2024年4月より、この猶予期間が終了し、下記の業種で新たな規制が適用されるようになっています。
建設業
災害復旧や復興を除き、全ての建設業務に時間外労働の上限規制が適用されるようになりました。災害時の復旧や復興に従事する場合、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内である限り特別な規制は適用されません。
運送業
自動車運転業務においては、特別条項付きの36協定を締結することで、年間960時間までの時間外労働が可能です。この業種でも月100時間未満、2~6か月平均80時間以内の時間外労働規制は適用されません。
医療業
医師に対しては、特別条項付き36協定の締結により、時間外及び休日労働の年間上限が1860時間になります。また、月45時間を超える時間外労働は年6か月まで認められますが、医療法等による追加的な健康確保措置が必要です。
【参考】厚生労働省|建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制
裁量労働制の対象労働者要件追加
2024年4月から、働き方改革の一環として裁量労働制の導入に、新たな手続きが求められています。この変更により、2024年4月以降に裁量労働制を新たに又は継続して導入する場合には、裁量労働制を導入する全ての事業所で必要な措置を講じなければなりません。
具体的には専門業務型裁量労働制では、労使協定に「本人の同意を得たり同意を撤回したりする手続きに関する定め」の追加が必要です。一方、企画業務型裁量労働制では労使委員会の運営規程に以下の3つに関する追加が必要です。
● 労使委員会に対する賃金・評価制度の説明
● 労使委員会による制度実施の状況把握と運用の改善
● 労使委員会の開催(6か月以内ごとに1回)
さらにその後、決議に以下の2点について追加することが求められます。
● 本人の同意を得たり同意を撤回したりする手続きに関する定め
● 労使委員会に対する賃金・評価制度の説明
以上の措置は、裁量労働制を導入して適用するまでに労働基準監督署に協定届・決議届を届け出なければなりません。継続導入する事業場は、2024年3月末までに対応が必要です。
【参考】厚生労働省|裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です
労働基準法改正による企業への影響と必要な対応
本章では、最新の改正によって企業にもたらされる影響とやるべき対応について解説します。対応が後手にならないよう、ぜひ参考にしてください。
労働条件の明示変更についての対応
企業は労働者の労働契約を見直し、改正内容に準拠しているかどうかの確認が必要です。
その際、労働時間、休憩、休日、残業、賃金体系といった労働者の労働条件や労働環境について見直しをせまられるケースも想定されます。法改正により、新たに必要とされる「変更の範囲」などの明示事項が含まれていない労働条件通知書は使用できなくなるため、通知書の内容を更新し、新たに項目を追加するなどの対応をしましょう。
また、有期契約労働者へは更新の都度明示することが義務付けられるため、労働者との間に上限回数の認識に齟齬がないようコミュニケーションをとることが大切です。
さらに、有期契約労働者のうち、無期転換ルールが適用される者の把握も求められます。無期転換申込権が発生する更新タイミングでの明示が必要なため、事前に対象者を明確にしておくなど、通常業務のなかで漏れがないよう体系立てた対策が必要です。
働き方改革の推進
企業として働き方改革を推進していくことは、結果として労使双方のメリットにつながります。今回の改正に関連した働き方改革には以下のようなものがあげられます。
● 労働時間の適正管理による長時間労働の是正
● テレワークやフレックスタイムなどの柔軟な働き方の導入
● 労働者との法改正に関する情報の共有
これらの対応によって、企業は労働者の健康を守りながら働きやすい環境を提供できます。その結果、労働者の満足度や生産性の向上が期待できるでしょう。また、労働者が自身のライフスタイルに合った柔軟な働き方を実現することで、モチベーションアップにもつながります。
法改正の正確な把握
企業には法改正の内容を正確に把握する姿勢も求められます。法改正を理解することは、不適切な労務管理を予防できるだけでなく、法的リスクや労使トラブルを避けるためにも重要です。適切な対応をとることで、労働環境の改善や労働者の満足度向上が期待できるでしょう。
まとめ
2024年4月から、労働条件の明示ルールや特定の業種について時間外労働の上限規制の猶予が解消されるなど、大きな法改正がありました。最新の法令を正しく理解することは、企業のみならず、労働者にとっても重要です。本記事の内容をふまえて、自社の状況にあった対応を進めていきましょう。
<執筆監修者プロフィール>
西本 結喜(監修兼ライター)
結喜社会保険労務士事務所代表。金融、製造、小売業界を経験し、業界ごとの慣習や社風の違いを目の当たりにしてきたことから、クライアントごとのニーズにあわせ、きめ細やかな対応を心がけている。