人材採用で使える助成金・補助金とは? 代表的な種類や申請の方法、条件を解説
人材採用は企業にとって重要ですが、ホームページの整備や採用説明会などさまざまなコストがかかります。そこで活用したいのが、国や地方自治体による助成金・補助金です。人材採用の際に使える制度は数多くあり、条件を満たせば金銭が支給され企業の負担が少なくなります。
今回の記事では、人材採用に取り組む企業が活用できる助成金・補助金の基本的な仕組みや、申請方法などを解説します。ぜひ参考にしてください。
目次
人材採用で使える助成金・補助金とは
助成金と補助金は、ともに国や地方公共団体が企業に支給するお金のことを指します。人材採用を支援するタイプの助成金・補助金は複数あり、採用活動にかかる費用の一部が後から補填される形です。受け取った金銭は返済不要のため、企業の採用活動のコスト負担を軽減できます。
助成金と補助金の主な違いは、申請手順にあります。助成金の場合、条件をクリアして申請をおこなえば利用できます。しかし、補助金については公募がおこなわれ、採択された場合のみ利用できる形です。補助金の公募は国などの予算に基づきおこなわれているため、申請件数が多いと条件を満たしていても利用できない可能性があります。
人材採用で使える助成金・補助金の代表的な種類
人材採用で使える代表的な助成金・補助金は、次のとおりです。同じ助成金・補助金であっても、コースや申請時期などによって条件や支給額の計算方法などが異なるので、詳しくは厚生労働省などのWebサイトをご確認ください。
《参考サイト》
厚生労働省|事業主の方のための雇用関係助成金
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html
中途採用拡大助成金
中途採用拡大助成金は、中途採用者の雇用を推進する目的で設けられています。中途採用率を一定以上増やした場合に使える中途採用拡大コースと、東京圏からの移住者を雇い入れた場合に使えるUIJターンコースがあります。
コース名 | 利用できるケース | 主な条件 |
中途採用拡大コース | 中途採用者の雇用管理制度を整備したうえで、中途採用者の採用を拡大する場合 | (1)中途採用計画期間中に対象労働者を2人以上雇い入れること (2)中途採用計画期間中の中途採用率を、計画期間前3年間と比較して20ポイント以上向上させること(※) ※45歳以上の中途採用率の拡大を行う場合、以下の条件が加わります。 ・中途採用計画期間中の45歳以上の中途採用率を、計画期間前3年間と比較して10ポイント以上向上させること ・45歳以上の対象労働者全員の雇い入れ前事業所において支払われていた賃金と、雇い入れ後6ヶ月間の賃金支払日ごとに支払われる賃金とを比較して、いずれも5%以上上昇させること |
UIJターンコース | 東京圏から移住者を雇い入れる場合 | 次の(1)~(4)のいずれにも該当する方を雇い入れること (1)東京圏からの移住者 (2)地方創生推進交付金(移住・起業・就業タイプ)を活用して地方公共団体が開設・運営するマッチングサイトに掲載された求人に応募し、計画期間中に雇い入れられる方 (3)雇入れ当初より雇用保険の一般被保険者又は高年齢被保険者として雇い入れられる方 (4)継続して雇用することが確実であると認められる方 |
特定求職者雇用開発助成金
特定の事情により就職が困難となっている人を雇い入れる場合に利用できるのが、特定求職者雇用開発助成金です。雇い入れる人のタイプによってコースが分かれています。なお、令和5年度以降は、生涯現役コースと被災者雇用開発コースは廃止され、65歳以上の高年齢者は特定就職困難者コースに組み込まれます。
コース名 | 利用できるケース | 主な条件 |
特定就職困難者コース | 高年齢者・障害者・母子家庭の母などを雇い入れる場合 | (1)対象労働者を、ハローワーク等の紹介により雇い入れること (2)対象労働者を雇用保険一般被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが確実であると認められること(※)。 ※対象労働者の年齢が65歳以上に達するまで継続して雇用し、かつ、当該雇用期間が継続して2年以上であることをいいます |
生涯現役コース | 65歳以上の高年齢者を雇い入れる場合 | |
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース | 発達障害者又は難治性疾患患者を雇い入れる場合 | |
生活保護受給者等雇用開発コース | 自治体からハローワークに就労支援の要請があった生活保護受給者等を雇い入れる場合 | |
就職氷河期世代安定雇用実現コース | 正規雇用の機会を逃したことなどにより、十分なキャリア形成がなされず、正規雇用に就くことが困難な者を雇い入れる場合 | 雇入れ日において(1)から(4)のいずれにも当てはまる方を、ハローワーク等の紹介により正規雇用労働者として新たに雇用すること (1)雇入れ日時点の満年齢が35歳以上55歳未満の方 (2)雇入れの日の前日から起算して過去5年間に正規雇用労働者として雇用された期間を通算した期間が1年以下であり、雇入れの日の前日から起算して過去1年間に正規雇用労働者として雇用されたことがない方 (3)ハローワーク等の紹介の時点で失業している又は非正規雇用労働者である方でかつ、ハローワーク等において、個別支援等の就労に向けた支援を受けている方 (4)正規雇用労働者として雇用されることを希望している方 |
被災者雇用開発コース | 東日本大震災における被災離職者等を雇い入れる場合 | (1)東日本大震災による被災離職者や被災地求職者を、ハローワーク等の紹介により雇い入れること (2)平成23年5月2日以降、雇用保険一般被保険者として雇い入れ、1年以上継続して雇用することが見込まれること |
成長分野等人材確保・育成コース(成長分野) | 特定求職者雇用開発助成金の対象者を成長分野等の業務の従事者として雇い入れる場合 | (1)対象労働者をハローワーク等の紹介により雇い入れ、「成長分野等の業務」に従事させること (2)対象労働者に対して、雇用管理改善又は職業能力開発にかかる取り組みを行うこと (3)実施計画書及び実施結果報告書を提出すること |
成長分野等人材確保・育成コース(人材確保) | 特定求職者雇用開発助成金の対象者で、未経験者を雇い入れて、一定の訓練を実施して賃上げをおこなう場合 | (1)就労の経験のない職業に就くことを希望する者をハローワーク等の紹介により雇い入れること (2)対象労働者を支給要領に定める人材開発支援助成金を活用した訓練を行い、当該訓練と関連した業務に従事させること (3)毎月決まって支払われる賃金を雇入れ日から3年以内に、雇入れの日(試用期間がある場合は本採用後の日)の賃金と比べて5%以上引き上げられていること |
トライアル雇用助成金
特定の求職者を試行的に雇い入れる場合(トライアル雇用)に利用できる助成金です。助成金の金額は対象者の人数などに応じて決まります。
コース名 | 利用できるケース | 主な条件 |
一般トライアルコース | 職業経験の不足などから就職が困難な求職者を試行的に雇い入れる場合 | (1)対象労働者をハローワーク等の紹介により雇い入れること (2)原則3ヶ月のトライアル雇用をすること (3)1週間の所定労働時間が30時間以上であること(※) ※対象労働者が日雇労働者、ホームレス、住居喪失不安定就労者の場合は20時間以上 |
障害者トライアルコース | 障害者を試行的・段階的に雇い入れる場合 | (1)対象労働者をハローワーク等の紹介により雇い入れること (2)トライアル雇用の期間について、雇用保険被保険者資格取得の届出を行うこと |
障害者短時間トライアルコース | (1)対象労働者をハローワーク等の紹介により雇い入れること (2)3ヶ月から12ヶ月間の短時間トライアル雇用をすること |
|
新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース | 職業紹介の日において離職中で、就労経験のない職業に就くことを希望する者を試行的に雇い入れる場合 | (1)対象労働者をハローワーク等の紹介により雇い入れること (2)原則3ヶ月のトライアル雇用をすること (3)1週間の所定労働時間が、30時間以上であること(※) ※対象労働者が日雇労働者、ホームレス、住居喪失不安定就労者の場合は20時間以上 |
新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコース | (1)対象労働者をハローワーク等の紹介により雇い入れること (2)原則3ヶ月のトライアル雇用をすること (3)1週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満であること(※) ※対象労働者が日雇労働者、ホームレス、住居喪失不安定就労者の場合は20時間以上 |
|
若年・女性建設労働者トライアルコース | 建設業の中小事業主が若年者(35歳未満)又は女性を建設技能労働者等として試行雇用する場合 | (1)トライアル雇用助成金(一般トライアルコース、障害者トライアルコース、新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース、新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコース)の支給対象となった労働者のうち、トライアル雇用の開始日時点で35歳未満の者又は女性を雇い入れること (2)トライアル雇用期間に主として建設工事現場での現場作業(左官、大工、鉄筋工、配管工など)又は施工管理に従事させること |
地域雇用開発コース | 雇用情勢が特に厳しい地域で、事業所の設置整備をして従業員を雇い入れる場合 | (1)同意雇用開発促進地域等の事業所における施設・設備の設置・整備及び、地域に居住する求職者等の雇い入れに関する計画書を労働局長に提出すること (2)事業の用に供する施設や設備を計画期間内に設置・整備すること (3)地域に居住する求職者等を計画期間内に一定の雇用保険被保険者としてハローワーク等の紹介により3人(創業の場合は2人)以上雇い入れること (4)事業所における一定の雇用保険被保険者の数が、計画日の前日における数に比べ3人(創業の場合は2人)以上増加していること ※2回目以降の支給には別途条件が設けられています |
沖縄若年者雇用促進コース | 沖縄県内で事業所の設置整備をして35歳未満の若年者を雇い入れる場合 | 沖縄県内の設置・整備事業所において、対象労働者を次の(1)~(2)のすべての条件により雇い入れること (1)計画日から完了日までの間に3人以上雇い入れること (2)常用雇用する雇用保険一般被保険者として雇い入れ、本助成金の支給終了後も引き続き雇用することが見込まれること (3)計画日までに定着指導責任者を任命し、雇い入れた者に対する職場定着を図ること |
人材確保等支援助成金
労働環境の改善などを通じて魅力ある雇用創出を図ることを目的とする助成金が、人材確保等支援助成金です。各コースに設けられている目標を達成した場合に、支給対象経費の一部が助成されます。
労働移動支援助成金
事業規模の縮小などにともないリストラをおこなう場合、離職する従業員に対して再就職の支援をおこなうと、労働移動支援助成金の対象になります。
労働移動支援助成金は2つのタイプがあり、転職させる企業(送り出し企業)だけでなく、転職者を受け入れる企業(受け入れ企業)にもメリットがあります。送り出し企業は再就職支援奨励金として、就職支援会社への委託費や求
職活動のために休暇を与えた費用の一部が助成されます。受け入れ企業に対しては、受け入れ人材育成支援奨励金が支給されます。
《出典》
厚生労働省|ご存じですか?労働移動支援助成金
https://www.lcgjapan.com/pdf/lb05468.pdf
地域雇用開発助成金
地域雇用の促進を目的とする地域雇用開発助成金には、「地域雇用開発コース」と「沖縄若年者雇用促進コース」の2つのコースがあります。
地域雇用開発コースは、特定の地域に事業所を設置・整備したうえで、地域の求職者を雇い入れた場合に利用できます。沖縄若年者雇用開発促進コースの場合、沖縄県内に居住する35歳未満の求職者を3人以上雇い入れる必要があります。
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」の3タイプがあります。事業承継やM&Aによる事業再編などにともなう経費の2分の1以内の経費(上限500万円以内)が補助され、経営革新などに必要な人件費も補助対象となっています。
人材採用で使える助成金・補助金の申請方法
助成金と補助金を利用するには、定められた手順にしたがって申請をおこなう必要があります。
助成金の申請の流れ
雇用関係の助成金の受付窓口や申請手順は、助成金の種類によって異なります。詳しくは厚生労働省のホームページや都道府県の労働局、ハローワークにてご確認ください。
《参考サイト》
厚生労働省|雇用関係の「助成金」を活用してみませんか
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000794902.pdf
ここからは、一例として中途採用拡大助成金(中途採用拡大コース)の申請の流れを説明します。
【例:中途採用拡大助成金(中途採用拡大コース)の申請の流れ】
①計画書や必要な書類の作成
中途採用拡大助成金を受けるには、該当者を雇い入れる前に中途採用計画を作成しなくてはいけません。これに加えて、常時雇用する労働者の数が300人を超える事業主については、中途採用に関する情報を自社サイトなどで公表する必要があります。
②必要書類の提出
作成した中途採用計画を厚生労働省のホームページからダウンロードできる提出書面に記載し、労働局に提出します。提出期限は計画初日の前日となっており、計画初日の前日の6ヶ月前から提出できます。
③計画の実行
提出した計画に基づき、中途採用者の雇用管理制度を整備し、対象者の雇い入れをおこないます。中途採用計画の内容に変更などがあった場合は、計画の内容変更や取り下げの手続きが必要です。
④支給申請
支給申請書などを記載し、管轄の労働局に支給申請をおこないます。提出期間は、「中途採用計画期間の終了日の翌日から6ヶ月を経過する日」の翌日から2ヶ月以内です。
⑤審査
提出した書類の内容が審査されます。審査の過程で、提出書類の原本確認などがおこなわれることがあります。
⑥支給
審査において問題がなければ、助成金が支払われます。なお、助成金の関係書類には5年間の保管が義務づけられているため、支給を確認した後も書類は保管しておきましょう。
補助金の申請の流れ
補助金を利用する場合、電子申請システム「jGrants」を利用しオンラインで申請をおこないます。以下は、事業承継・引継ぎ補助金の申請手順です。
①認定支援機関にて確認書を発行
認定支援機関から、補助金に関する確認書を取得します。国の認定を受けた商工会や商工会議所、税理士などが認定支援機関になっています。
②申請
jGrantsを使って補助金の申請をするには、事前に「gBinIDプライム」のアカウントを取得する必要があります。取得するまでに申請から1~2週間程度かかるので、早めに申請しておきましょう。アカウントを取得したら、jGrantsにアクセスして必要事項を入力します。
③交付決定
申請が採択されれば、交付決定となります。交付決定の前に支払った経費は補助金の対象外になってしまうので、注意してください。
④実績報告
補助金の対象となる経費の支払い状況などについてjGrantsを使って報告します。
⑤確定検査・補助金交付
実績報告の内容が審査され、問題がなければ補助金が交付されます。なお、補助金の交付を受けた後、5年間は収益状況などの報告が必要になります。
人材採用で使える助成金・補助金の申請条件
ここまでに紹介してきた雇用関係の助成金には、雇い入れる従業員に関する条件とは別に、事業者の条件もあります。助成金については次の3点が基本的な条件となっており、このほかに各助成金によって個別の条件が設けられています。
1 雇用保険適用事業所であること
2 支給のための審査に協力すること
3 申請期間中に申請をおこなうこと
補助金についても事業者の条件が設けられています。事業承継・引継ぎ補助金の場合、次の10点の条件のほか、事業承継に関する条件があります。
1 日本国内に拠点又は居住地を置き、日本国内で事業を営んでいること
2 地域経済に貢献している中小企業者等であること
3 暴力団等の反社会的勢力との関係がないこと
4 法令遵守上の問題を抱えていない
5 事務局からの質問や追加資料などの求めに適切に対応すること
6 事務局が必要と認める場合、承認や結果通知に修正を加えることに合意すること
7 補助金の返還等が生じた場合であっても、負担した各種経費について事務局が負担しないことに同意すること
8 経済産業省から補助金指定停止措置・指定停止措置を受けていないこと
9 補助対象事業に関する情報が国に報告され、匿名で公表される場合があることを同意すること
10 事務局による調査やアンケート等に協力できること
人材採用で使える助成金・補助金の注意点
支給条件は助成金・補助金の種類によって異なるため、自社が対象になるのかを事前に確認する必要があります。同じ名称の助成金・補助金であっても、コースなどによって助成額などが異なるため、情報を慎重にチェックしましょう。
また、助成金・補助金の支給内容は頻繁に改正、廃止がおこなわれる点にも注意が必要です。助成金については厚生労働省のホームページ、補助金については補助金専用のサイトから最新情報を確認することが大切です。
まとめ
人材採用の助成金・補助金を上手に活用すると、採用コストを軽減できます。助成金・補助金で採用コストを抑えつつ優秀な人材を採用できれば、会社の成長につながります。まずは、自社が支給条件を満たしているかをチェックすることから始めてみてはいかがでしょうか。
ライタープロフィール
小林義崇/ライター・元国税専門官
2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、相続税調査や確定申告対応などに従事。2017年にフリーライターに転身。著書に「すみません、金利ってなんですか?」(サンマーク出版)、「イラスト図解 絶対トクする! 節税の全ワザ」(きずな出版)などがある。