法令遵守とは?コンプライアンスとの違いや定義について解説
法令遵守とは、法律や条例、省令といった社会のあらゆる規範やルールを守ることをいいます。法令やコンプライアンスの遵守は、企業の持続的な発展に重要な要素です。現代社会では、法令遵守なくして企業価値の向上はありえません。
法令遵守の理解を深めるために、本記事では以下のポイントについて解説します。
● 法令遵守が重視されるようになった理由
● 法令遵守とコンプライアンスの違い
● 法令やコンプライアンスの違反となる主な原因
● 企業にできる対策
昨今はSNSなどの普及により企業関係者の不適切な言動は瞬く間に拡散され、企業のイメージダウンに直結する傾向がみられます。単なる知識不足による場合でも「知らなかった」では済まないため、会社全体で法令やコンプライアンスについて理解を深めることが大切です。健全な企業経営を継続するためにも、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
目次
法令遵守とは
本章では、法令遵守の概要と法令違反の主な要因について解説します。
概要
法令遵守とは、法律・条例・規則などの社会で定められたルールを守ることを指します。仮に法律に従わない場合は、違法となり罰金や処分が科されるケースもあります。
法令の範囲は広く、明確な定義はありませんが、一般的には「憲法」「条約」「法律」「政令」「省令」「規則」などが含まれます。これらの法令を守ることは、企業活動を継続していくうえで非常に重要です。
法令遵守を怠ると、法的な制裁を受けるだけでなく企業の信頼も損なわれるリスクがあります。
法令違反の主な要因
企業が法令違反をする原因はさまざまです。ここでは主な原因についてみていきます。
法令軽視
法令への認識が甘く、法令遵守の重要性が社内全体で十分に認識されていないことがあります。例えば、会社の上層部が法令を軽視する姿勢を見せると、従業員もそれに倣ってしまうことが考えられます。
また、社内で長期間にわたり続いてきた慣習の影響も考えられます。これまでおこなわれてきた方法が正しいと思い込み、新しい法令や規制への適応が後手に回ってしまうといった場合がこれに該当します。
知識の欠如
法令に関する基本的な知識を持っていない場合、意図せず違反行為をおこなってしまうこともあります。具体的には「従業員が育休を取る権利について、法律で保障されていることを知らない」「最新の労働基準法の改正内容を理解していない」など、労務管理における誤解や無知が法令違反になるケースです。法令に関する知識が欠如していると、日常業務において適切な判断を下すのが難しくなります。
内部統制の不備
内部統制が確立していないと、組織全体で法令を遵守するための仕組みが機能せず、不正やミスが発生しやすくなります。
社内の業務マニュアルが整備されていない場合、従業員は自己流の方法で業務を進めがちです。これにより、無意識のうちに法令違反につながる可能性があります。また、例として社内の会計業務が可視化されていないといった場合には、財務状況が不透明となり不正な会計処理や資金の流用につながるリスクが発生します。
社内規定の不備
法令違反の原因の一つとして、就業規則や業務手順書、法令遵守マニュアルなど社内規定の不備が挙げられます。社内規定が十分に整備されていないと、自分の行動が社内ルールや法令に適合しているか、従業員自身で判断しにくくなります。これが結果として法令違反を招くというケースです。
また、たとえ社内規定が存在していても、それが何年も更新されておらず最新の法令に基づいていない場合、従業員が古い規定に従って行動することで、知らず知らずのうちに法令違反を犯してしまうリスクもあります。
従業員個人のモラル欠如
法令違反は必ずしも悪意を持っておこなわれるわけではありません。しかし、「誰にもばれないと思った」「大きな問題にはならないと思った」といった認識のもとで起こる法令違反は少なくありません。
モラルの欠如による問題は、組織全体の士気や企業文化にも悪影響を与えます。個々の従業員が規範を無視する行動を取ると、それが他の従業員にも影響を及ぼし、組織全体のモラル低下につながるリスクもあるのです。
法令遵守とコンプライアンスの違い
法令遵守とよく似た言葉に「コンプライアンス」があります。両者の違いを解説します。
コンプライアンスとは
コンプライアンス(compliance)とは、単に法令を守るだけでなく自社独自のルールや社会的モラル、マナーも遵守することを指します。法令遵守という基本的な枠組みのほかに、より広い意味で企業としての倫理観や社会的な規範を守る意味を含むのがコンプライアンスです。
近年、コンプライアンスの定義は多様化しており、法律遵守に留まらず、広範な社会的規範や倫理基準に適応することが求められるようになりました。企業には、法令を遵守しながらも社会的に良識のある行動を取ることが期待されています。企業の信頼性や評判を高めるだけでなく、持続的な経営を実現するためにも重要な指針となっているのです。
法令違反・コンプライアンス違反が発生した場合の企業への影響
法令違反やコンプライアンス違反が発生すると、企業は顧客や取引先、社会全体からの信頼を失うリスクが想定されます。これにより、顧客離れや取引停止などの直接的な損失が発生し、企業の経営が大きく揺らぐ可能性があります。法的な処罰だけでなく、企業イメージが悪化するなどの社会的制裁を受けることにもつながります。
情報漏洩が発生した場合、被害を受けた顧客や取引先から損害賠償を請求されることがあり、企業の経営に打撃となります。また、法令違反やコンプライアンス違反が発覚すると、社内の調査や再発防止策の導入などが必要となり、企業のコスト負担が増加します。
法令遵守・コンプライアンスが重要視されるようになった背景
法令遵守が重要視されるようになった理由はさまざまですが、ここでは4つの視点から解説していきます。
法規制の厳格化
法令遵守が重要視されるようになった理由の一つに、法規制の厳格化が挙げられます。1990年代から、反社会的勢力の経済活動が目立つようになり、これを排除するための条例が各地で制定され、企業にはこれに従う義務が生じました。企業は取引先や顧客が反社会的勢力と関わりがないかを確認し、適切に対応しなければなりません。一連の規制の強化の流れにより、企業に対して法令を遵守するための体制の整備が求められるようになりました。
企業の不祥事の増加
日本経済の発展とともに企業の不祥事も見聞きする機会が増え、社会的に法令遵守が重要視されるようになりました。例えば、1987年に発生した東芝機械ココム違反事件は、大手企業の不祥事ということで世間の注目を集めた出来事です。これは、東芝機械が共産圏輸出統制委員会(COCOM)の規則に違反していることを知りながらも、工作機械を旧ソ連に輸出したことで外国為替及び外国貿易管理法違反罪の成立が認められたものでした。
このような不祥事が増加する中で、同様の問題が再発しないようにするための施策が求められるようになりました。
しかし、現代においても企業の不祥事がなくなることはありません。近年では愛知県などから旅行キャンペーンの業務委託を受けた大手旅行会社が、人件費を不正に請求するといった事案も報道されています。本件では当該企業に対し、県が再発防止策の徹底を指示するとともに、企業が不正請求分を返金するという顛末を迎えています。このように、時代が変わっても不祥事の発覚と再発防止策のいたちごっこが続いているのが実態です。
【参考】愛知県|【知事会見】全国旅行支援「いいじゃん、あいち旅キャンペーン」事務局運営業務における不正請求事案に係る調査結果及び本件の対応等について
SNS、オンライン上での不祥事の増加
近年のSNSやオンラインプラットフォーム上での不祥事の増加も、法令遵守の重要性を高める一因となっています。SNSは、企業にとって顧客とのコミュニケーションやPRのための強力なツールですが、一方で従業員の不適切な投稿やモラルの欠如した発言が広範囲に拡散され、企業の信用を失墜させるリスクも抱えています。
例えば、従業員が不適切な内容を投稿してしまった場合、その投稿が拡散され、企業全体のイメージダウンにつながることがあります。SNSの特性上、一度広まった情報は完全に消すことが難しく、企業はその対応に追われることになります。
顧客・取引先・投資家・地域社会などからの要望・期待
法令遵守が重要視される理由の一つとして、顧客や取引先、投資家、地域社会などのステークホルダーからの要望や期待が挙げられます。顧客は信頼できる製品やサービスを提供する企業の商品を好んで購入する傾向にあり、取引先や投資家も法令を遵守し健全に事業を展開する企業との取引を望みます。これは、長期的な信頼関係を築く上で重要なことです。地域社会も同様に、企業が法令を遵守し社会的責任を果たすことを期待しています。
企業のコンプライアンス違反が発生する主な原因
ここでは、企業のコンプライアンス違反が発生する主な要因についてみていきます。
雇用に関連するもの
雇用環境の悪化が、コンプライアンス違反の原因となることがあります。例えば、職場でのパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントが放置されたり、長時間労働や未払い残業が常態化したりすることによって職場環境が悪化することなどです。
この状態が続くと、労働者の健康やモチベーション、生産性に影響が及ぶ可能性があります。このような雇用環境の悪化は、コンプライアンス違反の温床となりえます。
消費者に関連するもの
企業は消費者からの問い合わせやクレーム処理において、適切な対応を求められています。顧客対応のために専用の窓口やサポートセンターを設置し、組織的な対応をおこなっている企業が多い一方で、なかには個々の従業員が対応している企業もあります。対応や判断の基準が曖昧で、消費者に対する姿勢に一貫性が見られない場合、結果として消費者の信頼を失う事態につながることも考えられます。消費者対応におけるコンプライアンス違反は、企業の信頼性やブランド価値に直結するものです。
金融に関連するもの
金融に関するコンプライアンス違反の代表的な例として、粉飾決算があります。粉飾決算とは、実際よりも利益が多く見えるようにするために、会計データを不正に操作することです。
このような不正行為が発覚すると、企業の信頼性は著しく低下し金融機関からの融資に影響が出るなど、企業経営そのものに大きなダメージとなります。
環境に関連するもの
近年、多くの企業が環境保全に取り組んでいます。これは、商品やサービスの品質が高度化・均一化している中で、他社との差別化を図るために環境に配慮した「エコブランド」を付加価値としてアピールすることが重要となっているためです。
環境法令の遵守を怠ると、法令に違反した場合には罰金などの制裁を受けるだけでなく、環境問題に対する意識が高い消費者や投資家からの信頼を失うリスクも伴います。
事業以外の不祥事
企業の経営者や従業員が業務外で起こした不適切な行為によっても、企業の信頼性を大きく損なうことがあります。例えば、従業員がプライベートな場面で暴力行為をおこなった場合、その従業員が企業の代表として見られることがあり、企業がその行為について説明責任を負うことになります。企業には、経営者や従業員が業務外でも法令や社会的な期待を遵守することが求められているのです。
法令違反・コンプライアンス違反を起こさないための企業の対策
法令違反を起こさないためには、企業はどのような対策をすればよいのでしょうか。本章では4つの対策について解説します。
社内規定、就業規則・契約書の作成
企業が法令違反を防ぐための対策としては、社内規定や就業規則、契約書の作成が非常に重要となります。社内規定の導入は、日常業務における不明確な点を減らし、法令違反のリスクの低減が期待できます。
また、従業員の勤務条件や職務に関するルールを定めた就業規則は、従業員が自身の権利や義務を理解するために役に立ちます。
契約書作成では、双方の権利と義務が明確になり誤解やトラブルを未然に防げるようになります。これらの文書は、企業の業務運営や従業員の行動指針を明確にするための基盤となるものです。
企業の内部統制、コーポレートガバナンス(企業統治)の整備
法令違反を防ぐためには、企業の内部統制とコーポレートガバナンス(企業統治)の整備が大切です。内部統制とは、企業がその経営目標や事業目標を達成するために必要なルールや仕組みを整え、正確に運用することを指します。一方、コーポレートガバナンスは、企業が健全に運営されるように監視・統制する仕組みのことです。これらを整備することで、企業活動の透明性を高め不正行為を防止し、公正な経営の実現が期待できます。
社内研修(教育)の実施
企業が法令違反を防ぐためには、社内研修(教育)の実施も重要です。社内研修は、従業員に法令遵守の意識を高め、企業の倫理観やモラルを育めるよう目的を持って開催するとよいでしょう。研修は、一時的ではなく定期的に実施すると、法令遵守の意識が持続し新しい法令や社内ルールの変更にも迅速に対応できるようになります。
内部通報窓口(相談窓口)の設置
企業が法令違反を防ぐためには、内部通報窓口(相談窓口)を設置することも効果的です。
窓口はコンプライアンス違反に関する相談や報告を受け付ける役割を果たすものです。これにより違反行為を早期に発見し、問題が大きくなる前に対処できるようになります。
あわせて、通報者の立場を保護する仕組みを整えることもポイントです。これにより、従業員は安心して通報できるようになります。従業員からの報告や相談は、企業の透明性を高め信頼性を向上させるための重要な手段となるでしょう。
まとめ
現代社会では、法令を遵守することは企業の繁栄やイメージアップに不可欠です。ひとことで法令遵守・コンプライアンスと言っても、時代の流れとともに求められる内容は変わってきています。常に最新の動向を把握して、企業としての体制を整えましょう。
<執筆監修者プロフィール>
社会保険労務士 西本 結喜(監修兼ライター)
結喜社会保険労務士事務所代表。金融、製造、小売業界を経験し、業界ごとの慣習や社風の違いを目の当たりにしてきたことから、クライアントごとのニーズにあわせ、きめ細やかな対応を心がけている。