働き方
職業安定法とは?法改正のポイントと罰則をわかりやすく解説
職業安定法は労働基準法や労働契約法などと比べ、あまり一般的ではない法律かもしれません。職業安定法は、主に職業紹介・労働者募集・労働者供給について定めた法律で、職業紹介は就職活動をおこなった経験がある人なら馴染みがあるでしょう。本記事では職業安定法の基本や2022年度改正ポイント、職業安定法に違反した場合の罰則についてわかりやすく解説します。
職業安定法とは
職業安定法は労働市場のルールを定めた法律となっています。職業安定法は、主に職業紹介・労働者募集・労働者供給について定めたものです。求職者に職業の機会を与え、産業に必要な労働力を充足することで社会経済の発展に寄与することを目的としています。
①職業紹介
職業安定法でいうところの職業紹介は、求人者と求職者の間の雇用関係の成立を斡旋することをいいます。企業が報酬を支払うことで自社のために働く労働力を求め、また、求職者は報酬を得るために労働力を供給して職に就きたい場合、職業紹介事業者が求人者と求職者の間を取り持ち雇用関係がスムーズに成立するよう支援することが職業紹介という意味合いです。
つまり、企業は人材を募集するため職業紹介事業者を通じて求人の申込みをおこない、求職者が人材を募集している企業に職業紹介事業者を通じて応募する流れとなります。職業紹介をおこなっているのは人材紹介会社などをイメージするとわかりやすく、転職活動において利用経験のある人も多いでしょう。
民間の職業紹介には、無料と有料の2種類の職業紹介があります。無料の職業紹介は職業安定法で「いかなる名義でも、その手数料又は報酬を受けないで行う」こととされており、厚生労働大臣の許可または届出が必要です。
▼また、職業安定法では「無料の職業紹介以外の職業紹介」を有料の職業紹介と定めています。有料職業紹介は、厚生労働大臣の許可が必要です。厚生労働大臣の許可を得るには、以下の事項を記載した申請書を厚労省に提出することが義務付けられています(第30条)。
・氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名 ・法人にあっては、その役員の氏名及び住所 ・有料の職業紹介事業を行う事業所の名称及び所在地 ・第三十二条の十四の規定により選任する職業紹介責任者の氏名及び住所 ・その他厚生労働省令で定める事項 |
▼有料の職業紹介事業者は、職業紹介に際して、以下の場合を除き実費その他の手数料又は報酬を受けてはなりません(職業安定法第32条の3)。
・職業紹介に通常必要となる経費等を勘案して厚生労働省令で定める種類及び額の手数料を徴収する場合 ・あらかじめ厚生労働大臣に届け出た手数料表(手数料の種類、額その他手数料に関する事項を定めた表をいう。)に基づき手数料を徴収する場合 |
▼職業安定法第5条の4では、職業紹介事業者等に対して求職者の個人情報についても厳しい管理を求めています。業務の目的達成に必要な範囲内で、個人情報を収集・保管・使用しなくてはなりません。また、個人情報を適正に管理するための措置も求めています。
さらに職業安定法は、原則として求人の申込みに対して職業紹介事業者はすべて受理することと定めています(職業安定法第5条の5)。以下の場合を除き、求人の申込みを断れないということです。
・法令に違反する求人の申込み ・賃金、労働時間その他の労働条件が通常の労働条件と比べて著しく不適当であると認められる求人の申込み ・労働に関する法律の規定であって政令で定めるものの違反に関し、法律に基づく処分、公表その他の措置が講じられた者(厚生労働省令で定める場合に限る。)からの求人の申込み ・暴力団員や法人の役員に暴力団員がいる者からの求人の申込み |
なお、有料の職業紹介では職業安定法第32条の11により、港湾運送業務・建設業務に就く職業など、求職者に紹介することを禁じている職業があります。ちなみに、人材派遣で禁じられている警備業務については職業紹介することが可能です。
②労働者募集
労働者を募集する際、企業は以下の事項を書面にて最低限明示する必要があります。ただし、求職者が希望すればメールによる明示でも構いません。これは自社のホームページで募集をする、あるいは人材紹介会社に求人の申込みをおこなう場合でも明示が必要です。
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なお、労働条件に変更があった場合は速やかに明示しなくてはなりません。たとえば、当初は基本給を35万円と明示していたものを33万円に変更する場合には、速やかに変更内容を明示しなくてはならないというわけです。
③労働者供給
職業安定法で主に定めている3つ目の内容が労働者供給です。職業安定法における労働者供給とは、「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」です(雇用安定法第4条)。労働者供給は労働者派遣法に定める人材派遣と混同しやすいですが、意味合いは異なります。
労働者供給と人材派遣の違い
労働者供給と人材派遣の違いについても確認します。労働者供給の定義は前項の通りなのですが、労働者供給事業は、労働組合が厚生労働大臣の許可を受けた際に無料の労働者供給事業をおこなえる場合を除いて禁止されています(職業安定法第44条)。また、労働者供給と人材派遣は似ているように見えますが、以下の2つのポイントで違いがありますので注意してください。
①雇用関係と支配関係
労働者派遣における雇用関係、そして派遣先との関係はシンプルです。派遣元との間に雇用関係がある派遣スタッフが派遣先に派遣され、派遣先の指揮命令の下で働きます。派遣スタッフの賃金は、派遣元が支払うことになります。雇用関係や派遣スタッフのお金に関することは派遣元、業務に関することは派遣先と派遣スタッフということになり、わかりやすい点が特徴です。
一方、労働者供給では供給元と労働者の間に支配関係があり、一方で供給先と労働者間に雇用関係または指揮命令関係があります。労働者供給事業が一部の場合を除いて職業安定法で禁じられているのは、供給元と労働者との雇用関係があいまいであるために、雇用主としての責任を誰が果たすのかが不明確であるからと考えられます。つまり労働者保護の観点から労働者供給事業は禁じられているのです。
②営利目的での営業の許可
営利目的での営業の許可についても、労働者派遣事業と労働者供給事業には大きな違いがあります。労働者派遣事業は、厚生労働省の許可を得た場合に営利目的で営業することは可能です。しかし、労働者供給事業においては、厚生労働省の許可を得て労働組合等が無料で労働者供給事業をおこなう場合しか認められていません。労働者供給事業は事業としておこなう場合でも、労働者派遣事業に比べて限定的である点を理解しておきましょう。
職業安定法の改正の目的
職業安定法は2022年に改正されています。インターネットを活用した就職活動の普及に伴い、求職者が安心してサービスを利用できるよう、Web上の求人サービス等を対象にしたルールを明確にすることが改正の目的です。職業安定法改正により、求人メディア等のマッチング(労働者を求める企業、求職者とのマッチング)機能の質の向上を目指しています。
職業安定法の2022年度改正のポイント
職業安定法の2022年改正には、具体的には以下の2つのポイントがあります。
1つ目のポイントは、職業安定法に規定のない多様なサービスが出てきているため、新しい形態のサービスも含まれるように「募集情報等提供」の定義を拡大して、求人メディア以外の雇用仲介業者を法的に位置づけたこと。また、あわせて国が求職者情報を収集して募集情報等提供事業をおこなう者を届出制とし、事業概況報告書の提出を求めることで実態が把握できるようになったことです。さらに官民連携の主体として位置づけ、相互協力を規定した点も挙げられます。
続いて2つ目のポイントは、募集情報等提供事業者(求人メディアや求人情報誌等により求人情報を提供するサービスをおこなう事業者のこと)が依拠すべきルールを整備したことです。改正によりルールを法制化したことで、情報取り扱いに関するトラブルが発生した場合、募集情報等提供に対して従来の助言・指導に加えて改善命令等を行政がおこなえるようになりました。また、違反した場合には、罰則が適用されることになります。募集情報等提供事業者について、以下の4点がルール化されたものです。
・募集情報等について的確表示(虚偽又は誤解を生じさせる 表示を禁止し、最新かつ正確な内容に保つための措置を講 じること)を義務付け
・迅速・適切な苦情処理を義務付け
・個人情報の保護や秘密保持を義務付け
・法令違反に対する改善命令等を可能とする
職業安定法の罰則
職業紹介事業者が職業安定法に違反すると、どのような罰則になるでしょうか。違反の内容によって、罰則の内容が異なります(職業安定法第63~67条)。
<1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金>
以下の違反をおこなった職業紹介事業者は「1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金」の対象となります。
・暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、職業紹介、労働者の募集もしくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者 ・公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集もしくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者 |
裁判所の判断によっては10年以下の懲役となることもあり得る、職業安定法のなかでもっと重い罰則規定です。
<1年以下の懲役または100万円以下の罰金>
以下の違反をおこなった職業紹介事業者は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」の対象となります。
・厚生労働大臣の許可を得ていなかった者 ・偽りその他不正行為によって「厚生労働大臣の許可を得た」もしくは「許可の有効期間の更新を受けた」者など ・職業紹介で禁じられている職業を紹介した者 ・事業停止の命令に違反した者 ・名義貸し禁止の規定に違反した者 |
<6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金>
以下の違反をおこなった職業紹介事業者は「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の対象となります。
・委託募集や募集の制限等の職業安定法の規定に違反した者 ・虚偽の広告または条件の提示によって、職業紹介、労働者の募集等を行った者 ・虚偽の条件の提示によって、職業紹介事業者に求人の申込みを行った者 |
<30万円以下の罰金>
以下の違反をおこなった職業紹介事業者は「30万円以下の罰金」の対象となります。
・虚偽の届出や虚偽の記載をして提出した者 ・行政庁による立ち入りもしくは検査を拒み、妨げる等した者 |
まとめ
職業安定法は、主に職業紹介・労働者募集・労働者供給について定めた法律です。労働者保護の観点から、職業紹介をおこなう事業者にはさまざまなルールがあります。法に違反した場合、最大で10年以下の懲役になることもあります。また、2022年の法改正では新しい人材サービスに適した内容に変わってきました。人材サービスを適切に利用するには依頼側も守るべき点があるので、事前に押さえておくことをおすすめします。
《ライタープロフィール》
山崎英理夫(人事コンサルタント)
人事コンサルタントとして教育研修のプログラム開発、人事制度診断等を提供。また、企業人事として新卒・中途採用に従事し、人事制度構築や教育研修の企画・運用など幅広く活動。この経験を活かし、人材関連の執筆にも数多く取り組む。