人事担当のスキルアップに役立つおすすめの資格一覧を紹介
近年、産業構造の変化や技術革新の進展、就業形態の多様化などから、人事担当の役割が重要になってきています。人材採用や評価はもちろん、成長戦略策定、キャリア開発、メンタルヘルスなど、さまざまなニーズに対応できるスキルが求められています。
人事担当としてスキルアップしていくための有効な手段のひとつが、資格取得です。本記事では、人事担当の資格取得をおすすめする理由、資格を取得するメリット、実際に役立つおすすめの資格について詳しく紹介します。
目次
人事担当に資格取得をおすすめする理由
人事は、幅広い領域を扱う職種です。人材採用をはじめ、人員計画の策定や等級制度・評価制度の構築・運用、そして、就業規則の整備や労働時間の管理、労働法規の対応など、例を挙げたらキリがないほどです。
また、近年は戦略人事が求められるようになり、企業のミッションや経営目標を達成するため、人的経営資源を適切にマネジメントし、生産性や競争力を高めることが重要になってきています。AIを活用した人事管理システムも次々に登場し、単純作業はAIに任せ、人事担当はよりレベルの高い職務を遂行することが求められるようになってくるでしょう。
人事業務をおこなううえで、資格は必ずしも必要ではありません。しかし、個人情報などの機密性の高い情報を扱う職種でもあるため、資格取得を通じて知識の幅が広がることで、企業にとって重要な情報を扱うに相応しい人材だと証明し、信頼を得るための大切なポイントにもなります。また、転職や独立など、キャリアアップを目指すための武器にもなるでしょう。
人事担当が資格を取得するメリット
資格は、漠然とした目的で取得してしまうと、仕事に活かせないこともあります。明確な目的がなければ、資格取得の勉強にも身が入らないでしょう。人事担当が資格を取得するメリットを押さえておきましょう。
資格取得で得た知識を活用して業務の効率化を図る
人事担当は、採用、労務、評価など、さまざまな業務を同時に進めていかなくてはなりません。通常業務をおこないながら資格取得の勉強をすることによって、学んだ知識やスキルを業務に活かせるのはもちろん、業務の効率化を図るトレーニングになります。業務効率化は、企業が生産性を高めるための重要な手段です。資格取得は、生産性向上や成長戦略の策定にも役立てることができます。
業務で必要な知識を正しく身に付けられる
スタートアップやベンチャーでは、市場価値で社員を評価する制度や、あえて評価をしない制度、社員全員で評価する制度など、ユニークな人事制度や福利厚生が多くあります。
しかし、どんな仕事においても基礎は必要です。人事には、労働法規や労務リスク、法定福利など、身に付けておきたい知識や法律が無数にあります。これらを知らずに独自の施策をおこなってしまうと、弊害を生んでしまうこともあります。資格取得によって、人事業務に必要な知識を正しく身に付けることができるでしょう。
転職や起業時に自身のスキルとしてアピールできる
人事のプロとしてスキルアップやキャリアアップを目指すためには、転職や独立もひとつの選択肢です。豊富な人事経験を活かして他社に転職したり、コンサルタントとして起業したりして活躍している人も多くいます。転職や独立において必要になるのは、自身のキャリアの「見える化」です。多くの業務を経験して幅広いスキルを身に付けても、可視化できないとアピールポイントにはなりにくいもの。資格は、転職や起業時に活用できる、伝わりやすいアピールポイントとなるでしょう。
人事業務に役立つおすすめの資格一覧
では、人事担当のスキルアップやキャリアアップに役立つ資格には、どのようなものがあるのでしょうか。まずは人事業務に役立つ5つの資格を紹介します。
中小企業診断士
中小企業診断士とは、中小企業の経営課題に対応するための診断・助言をおこなう専門家です。法律上の国家資格として「中小企業支援法」第11条に基づき、経済産業大臣が登録します。
中小企業診断士の業務は、企業の成長戦略策定やその実行をするためのアドバイスをすることです。また、中小企業と行政・金融機関などをつなぐパイプ役、専門知識を活用しての中小企業施策の適切な活用支援など、幅広い活動をおこなうことができます。
中小企業診断士の資格を取得することによって、自社の成長戦略を策定しやすくなります。また、転職や起業の選択肢も広がるため、キャリアアップにもつながるでしょう。
《参考》
一般社団法人 中小企業診断協会
ビジネスキャリア検定
ビジネスキャリア検定とは、職務を遂行するうえで必要となる知識の習得と、実務能力の評価をおこなうことを目的とした試験です。8分野44試験から自分の職種に合った受験が可能で、試験分野には「人事・人材活発・労務管理」があり、人事業務に直接役立てることができるでしょう。
ビジネスキャリア検定には4段階の等級があります。学生・就職希望者・内定者・入社して間もない社会人を対象とした「BASIC級」、実務経験3年程度の係長やリーダーを目指す人を対象とした「3級」、実務経験5年程度の課長やマネージャーを目指す人を対象とした「2級」、実務経験10年以上の部長やディレクターを目指す「1級」があり、実務経験に合わせて資格を取得できます。
厚生労働省が定める職業能力評価基準に準拠しているため、スキルアップはもちろん、転職や起業の際にも自身のスキルを可視化しやすく、アピールポイントとなる資格です。
《参考》
中央職業能力開発協会
衛生管理者
衛生管理者とは、労働安全衛生法という法律に定められた国家資格です。主な役割は、就労中の労働災害や、労働者の健康障がいを防止すること。事業場の衛生管理や労働者の健康管理はもちろん、労働者への衛生教育や衛生委員会の運営も衛生管理者の仕事です。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、衛生管理免許を有する者のうちから労働者の人数に応じて一定数以上の衛生管理者を選任し、安全衛生業務のうち衛生に関わる技術的な事項を管理することが必要となります。事業場とは、ひとつの企業ではなく、支店や工場なども指しています。
労働災害や健康障がいを防止することは、人事の重要な役割です。衛生管理者は、専門的知識が必要な資格でありながら、合格率が比較的高い資格です。第一衛生管理免許を有する者は、すべての業種の事業場において衛生管理者となることができます。
《参考》
公益財団法人 安全衛生技術試験協会
採用コンサルタント資格
採用コンサルタント資格とは、人材採用の意義や重要性を明確にし、経営視点に立脚した人事・採用業務のあり方を学ぶコンサルタント資格です。特徴は、人事業務の中でも「人材採用」に焦点を当てていること。人事業務を体系的に学ぶことで、採用活動の位置づけを理解することができます。
講座は基本的にオンラインで受講でき、「知識編」「計画編」「実践編」の3つのカリキュラムに分かれています。人事や採用に関わるさまざまな法律や基礎知識を網羅的に学び、採用計画を実践的に理解することによって、採用フローやスキーム構築のスキルを身に付けることができるでしょう。
日本は、少子高齢化や人口減少によって人手不足が深刻な問題になっています。人材採用は、人事担当にとって今後ますます重要となっていくスキルです。採用コンサルタント資格を取得することで、人事のプロとしてスキルアップ・キャリアアップしていくことが期待できるでしょう。
《参考》
一般社団法人 総合経営管理協会
人材測定コンサルタント資格
人材測定コンサルタントとは、人材の特性把握に関するスペシャリストです。能力や適性、業績などの個人差を正しく把握することは、人的資源管理のもっとも重要な要素とされています。なぜなら、採用、人事評価、昇進・昇格時の選抜、配置、育成などを実施するためには、個人特性に応じた人事管理が必要になるからです。
近年は、若年層を中心に雇用のミスマッチが問題視されています。厚生労働省は「キャリア・コンサルタント5万人計画」を打ち上げ、求職者の「やりたいこと」を掘り下げ、それに伴う就労支援を強化しています。しかし、ミスマッチ防止を防ぐには、求職者が「何をやりたいか」よりも、その仕事を「適切に遂行できるか」「組織に順応できるか」を見極めることが重要です。
人材測定コンサルタントは、採用分野と評価分野に分かれており、それぞれの分野ごとに認定資格を取得することができます。この2つの資格を取得すると「上級人材測定コンサルタント」に認定されます。企業の採用力、そして自身のスキルアップ、キャリアアップのためにも狙ってみたい資格です。
《参考》
特定非営利活動法人 人事コンサルタント協会
人事担当が仕事の幅を広げるために役立つ資格
人事は非常に幅広い領域を扱う職種のため、人事分野に関連する資格を取得することでスキルアップやキャリアアップをしやすくなります。人事担当が仕事の幅を広げるために役立つ資格を紹介します。
キャリアコンサルタント
キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングをおこなう国家資格です。キャリアコンサルティングとは、労働者の職業の選択、職業生活設計、また職業能力の開発や向上に関する相談に応じ、助言や指導をおこなうことをいいます。そのため採用や配置などの人事業務に活かしやすいスキルです。
キャリアコンサルタントは、大学・行政機関・人材紹介・人材派遣・再就職支援業界でもニーズが高まっており、活躍の場が広がっています。
《参考》
特定非営利活動法人 日本キャリア開発協会
産業カウンセラー
産業カウンセラーとは、職場でカウンセリングをおこなうカウンセラー資格です。主な業務は、心理学的手法を用いて、働く人たちが抱える問題を自らの力で解決できるように援助すること。以下の3つの活動領域があるため、仕事の幅を広げ、スキルアップ・キャリアアップにつなげることができるでしょう。
1.メンタルヘルス対策への援助
昨今の企業の人事労務政策の変化、特に雇用の不安定化、成果主義の導入などが働く人たちに与えているストレスは厳しいものがあります。こうした状況を放置しておくと、生産性の低下や心身の変調につながり、些細なミスが大事故を発生させる危険も予想されます。産業カウンセラーは、これらに対する予防方法やストレスコントロールの助言・援助などをおこないます。
2.キャリア開発
近年は、産業構造の変化、技術革新の進展、就業意識・就業形態の多様化などによって、企業内だけでなく企業外でも通用する職業能力が求められるようになっています。厚生労働省もキャリアコンサルタント養成に乗り出すなど、キャリア開発のニーズは高まっています。産業カウンセラーもキャリアアップの援助をおこない、労働者が上質な職業生活を実現するための組織開発に取り組んでいます。
3.職場における人間関係開発への援助
職場の問題を解決するためには、総合的なメンタルヘルス対策とキャリア開発、さらには個人としての成長を促す人間関係育成のためのアプローチが必要です。産業カウンセラーは、管理職と職員との 関係、経営政策への参加意識、ソーシャルスキル、リーダーシップ、コミュニケーションスキル、アサーションスキル(相手を尊重しながら自己主張するコミュニケーションスキル)、自己開示などについて指導・援助をしていきます。
《参考》
一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
社会保険労務士
社会保険労務士は、企業における人材分野の専門家で労働や社会保険に関するスペシャリストです。資格取得により以下の7つの業務をおこなうことができます。
1. 労働社会保険諸法令に基づく申請書等及び帳簿書類の作成
2. 申請書等の提出代行
3. 申請等についての事務代理
4. 都道府県労働局及び都道府県労働委員会における個別労働関係紛争のあっせん手続の代理
5. 都道府県労働局における障害者雇用促進法、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、労働者派遣法、育児・介護休業法及びパートタイム・有期雇用労働法の調停の手続の代理
6. 個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続における当事者の代理 (紛争価額が120万円を超える事件は弁護士との共同受任が必要)
7. 労務管理その他の労働及び社会保険に関する事項についての相談及び指導
引用:全国社会保険労務士会連合会 試験センター
社会保険労務士オフィシャルサイト
社会保険労務士非常に難易度の高い国家資格ですが、仕事の幅が広がり、転職・独立の際にも役立てることができます。
人事総務検定
人事総務検定とは、人事総務や法律知識の取得に役立つ資格です。人事総務の実務や、その基礎となる法律知識などを体系的・実践的に学ぶことができます。人事総務検定は3つのレベルがあります。
【3級/人事総務・担当者レベル】人事総務の業務に初めて就く方から、ある程度の経験者の方まで、幅広い知識の習得と基本事項の確認を目指します。
【2級/主任レベル】理解から応用へ、実務対応能力や労務管理、就業規則等について深く学びます。
【1級/課長レベル】2級取得者がより高度な知識を習得するための上級資格です。1級資格者は協会に登録することによって、指導的業務をおこなうことができます。
《参考》
一般社団法人人事総務スキルアップ検定協会
人事総務検定試験で学習する内容は、社会保険労務士試験の試験範囲と重複する分野が多くあります。そのため社会保険労務士試験対策として役立つ知識を身に付けることができ、また、実務に関連する問題にも対応する能力を養うことができるようになるでしょう。
メンタルヘルス・マネジメント検定
メンタルヘルス・マネジメント検定は、働く人の心の不調の未然防止と活力ある職場づくりを目指し、職場内での役割に応じて必要なメンタルヘルスケアに関する知識や対処方法を習得する検定です。厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を受け、大阪商工会議所と施行商工会議所が実施しています。
昨今は、仕事や職業生活に強い不安や悩み、ストレスを抱える人が増加傾向にあり、心の不調による休職や離職が増えています。企業は、社会的責任の履行、人的資源の活性化、労働生産性の維持・向上を図るうえで、社員のメンタルヘルスケアについて、組織的かつ計画的に取り組む必要があります。働く人たちのために役立てることができる、社会貢献度の高い資格といえるでしょう。
《参考》
大阪商工会議所
まとめ
人事は幅広い分野を扱う職種です。資格取得は、人事担当としてのスキルアップはもちろん、自身のキャリアアップにも役立ちます。企業の成長戦略の策定から衛生管理、人材の特性把握、キャリア開発、メンタルヘルスまで、人事に関連した資格は多種多様にあります。
現在の人事業務には直接関係なくても、転職や独立の際に役立つ資格もあります。事前に各資格の詳細を押さえ、また自身の今後のキャリアプランなども踏まえながら、資格取得に向けた取り組みの実施をおすすめします。
《ライタープロフィール》
鈴木にこ(ライター)
求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。派遣・新卒・転職メディアの編集協力、ビジネス・ライフスタイル関連の書籍や記事のライティングをおこなう。