派遣の「5年ルール」とは?制度内容、適用条件、メリットを解説
派遣スタッフには、通算契約期間が5年を超えた場合に無期転換できる「5年ルール」という制度があります。どういう条件になっているのでしょうか。本記事では、5年ルールの適用条件や注意点、企業や労働者にとってのメリットなどを詳しく紹介します。
目次
派遣の「5年ルール」とは
派遣スタッフやパート・アルバイトなどの有期契約労働者が同じ企業の間で、雇用契約が通算5年を超えて繰り返し更新された場合、労働者からの申込みにより、企業は無期労働契約に転換しなければなりません。これを「5年ルール」または「無期転換ルール」とも言います。
2012年8月に労働契約法の改正が成立し、2013年4月から施行されました。企業が労働者からの申込みを断ると、違法になります。なお、2024年5月時点で有期労働契約で働く労働者は全国で約1880万人に達します。(※1)また有期契約労働者の約3割が、通算5年を超えて有期労働契約を更新しており、まだまだ「5年ルール」の認知度は低いと解されます。
※1 厚生労働省「労働力調査(2024年5月分)」
無期転換(5年ルール)が制定された目的
有期労働契約では、契約期間が満了した際に、その契約更新の有無は企業側に委ねられることが多く、労働者側の処遇改善が大きな課題になっています。「無期転換(5年ルール)」は、有期労働契約を繰り返し更新し、有期契約労働者の長期勤務化が進む中、雇い止めなどの不安を解消し、安心して働くことを目的につくられた制度です。また企業にとっても雇用を安定させる機会にもなっています。
「無期転換(5年ルール)」と「派遣の3年ルール」の違いとは
派遣においては「無期転換(5年ルール)」以外に、「3年ルール」というのがあります。その違いを理解しておきましょう。
派遣の3年ルールとは
同じ事業所で、登録型派遣スタッフを継続して受け入れられる派遣可能な最長期間のことです。原則3年を超えた場合は、次の4つのうちいずれかの対応が行われます。
1. 派遣先への直接雇用の依頼(依頼すればよく、直接雇用されることが必須ではありません)
2. 新たな派遣先の提供
3. 派遣元での無期雇用
4. その他安定した雇用の継続を図るために必要な措置(有給の教育訓練、紹介予定派遣など)
派遣の3年ルールは「派遣スタッフのみ」対象
「3年ルール」と「無期転換(5年ルール)」は、どこが違うのでしょうか。大きく異なるのは、「3年ルール」は対象が派遣スタッフのみなのに対して、「無期転換(5年ルール)」は、有期契約労働者全員が対象となる点です。つまり「無期転換」は派遣スタッフだけでなく、アルバイトやパート、契約社員にも該当する制度になっています。
無期転換(5年ルール)が適用される条件
「無期転換(5年ルール)」が適用されるには、次の3つの条件が必要です。
有期労働契約を結んでいること
有期契約労働者は、同一の企業(派遣の場合は、派遣元企業)との間で、現在有期労働契約を結んでいることが無期転換をおこなう上で条件となります。
有期労働契約の更新回数が1回以上あること
契約更新などにより、同一の企業との間で契約の更新回数が1回以上あることも、無期転換をおこなうための条件となります。
有期労働契約期間が通算5年を超えて更新されている
同一の企業との間で、通算5年を超えて更新されている場合、無期転換の対象となります。
ただし、同一の企業との間で有期労働契約が交わされていない期間(無契約期間)が、一定の長さ以上ある場合は、この期間は「クーリング期間」として扱われ、通算対象から除外されてしまいます。
具体的には、次のような条件の場合です。
無契約期間の前の通算契約期間が1年以上の場合
無契約期間(クーリング期間)が6カ月以上あるときは、その期間よりも以前の契約期間は通算対象に含まれません。
無契約期間が6カ月未満の場合、有期労働契約はすべて通算期間として含まれます。
無契約期間の前の通算契約期間が1年未満の場合
無契約期間が下記の表に掲げる期間に該当するときは、無契約期間より以前の有期労働契約は通算期間に含まれなくなります。
無契約期間の |
契約がない期間 |
2カ月以下 |
1カ月以上 |
2カ月超~4カ月以下 |
2カ月以上 |
4カ月超~6カ月以下 |
3カ月以上 |
6カ月超~8カ月以下 |
4カ月以上 |
8カ月超~10カ月以下 |
5カ月以上 |
10カ月超 |
6カ月以上 |
「無契約期間がそれ以前の通算契約期間÷2」以上であれば、それ以前の契約期間は通算対象から除外されます。
無期転換ルール(5年ルール)が適用されるタイミング
無期転換が適用されるタイミングは、有期労働契約が5年を超える場合、労働者が申し込めば無期労働契約に切り替わります。
1年ごとに有期労働契約を更新の場合
更新5回目の契約期間の初日から末日の間に、申込みをおこなえば、いつでも無期労働契約に転換できます。
3年ごとに有期労働契約を更新の場合
1回目の更新後、再度3年の有期労働契約を締結する際に無期転換の申込み権利が発生し、いつでも無期雇用契約に転換できます。
なお同一の企業にて配置換え(異動)が発生した場合においても、通算契約期間として加算されます。
無期転換(5年ルール)のメリット
企業や労働者にとって、無期転換はどのようなメリットがあるのでしょうか。
企業側のメリット
企業の実務に精通した労働者を獲得できる
これまで5年を超えて継続雇用している有期契約労働者が対象となるため、企業の業務やカルチャーに精通している人材と言えるでしょう。企業にとっては、そういった優秀な人材を手放すことなく、安定的に確保できるのは大きなメリットになります。
長期的な人材活用戦略を立てやすい
従来の有期労働契約では1年など期間に定めがあるため、企業としては戦力として期待していても、労働者に更新の意思がなければ続けてもらうことができません。その点、無期転換により無期契約社員になれば安定した戦力として期待でき、企業としても人材戦略が立てやすくなります。
採用コストや教育コストが削減できる
無期転換であれば、企業は新たな人材を採用する必要がなく、いちから研修を実施する手間もありません。これまで通り有期労働契約から無期労働契約に変わっても、就業規則などで別段定めなければ、従来と変わらず業務を依頼することが可能です。
労働者側のメリット
安定的に働くことができる
有期雇用契約の場合、契約が終わると、次の就業先が決まるまで収入が得られなくなる可能性があります。無期労働契約になれば、安定的に雇用が確保されるため、次の契約が更新されるかどうか不安になることはありません。
所属する企業でのキャリアプランが立てやすい
所属する企業にもよりますが、収入やポストの面で昇給や昇進が反映されるため、長期的なキャリアを描きやすくなります。
無期転換(5年ルール)の留意点
企業が無期転換をおこなう上での注意点がいくつかあります。見落としがちな項目ですので、事前に必ず確認しておきましょう。
同一労働同一賃金に配慮する
同一労働同一賃金とは、2020年4月から適用されている制度です。正社員と非正規雇用労働者(有期契約労働者など)との間の不合理な待遇格差を解消するため、同じ仕事内容なら、同じ賃金を支払うというものです。そのため、無期転換によりフルタイムの無期雇用契約を交わした社員は正社員と同様の扱いになります。
ただし、無期雇用社員と正社員の仕事内容や責任の範囲、労働条件などに差異がないにも関わらず、賃金などの処遇に差異がある場合は、同一労働同一賃金の法規定をふまえ、無期契約社員の納得性や妥当性に留意して検討する必要があります。
無期転換ルールの申込みを受けた場合、書面に交付する
有期契約労働者から企業が無期転換の申込みを受けた場合、企業は断ることができないため、その時点で契約が成立します。この申込みは法律上、口頭でも有効ですが、その後のトラブル防止のためには、書面での交付がおすすめです。無期労働契約転換申込書・受理通知書の参考様式が公開されています。
参考様式‥無期労働契約転換申込書・受理通知書
まとめ
無期転換(5年ルール)の概要、適用要件、留意点、そして企業や労働者にとってのメリットなどについて解説しました。2024年4月より労働基準法施行規則第5条の改正により、労働契約の締結時・更新時に更新上限の有無や内容、無期転換申込権が発生する契約の更新時は無期転換申込の機会、無期転換後の労働条件などの明示が企業側に義務づけられました。これにより労働者の無期転換の理解が推進すれば、労働者による無期転換ルールの活用がより進みそうです。企業にとっても、長期的な人材活用戦略が立てやすくなります。
<ライタープロフィール>
西谷 忠和
新卒・中途採用、進学などのメディアにて広告制作ディレクターを経験後、2007年に独立。現在は、フリーのライターとして採用サイト、求人メディアの広告、採用のオウンドメディア、人材サービス企業のインナーコミュニケーションなどのコンテンツ制作に携わっています。またライフワークとして、20~50代のビジネスパーソンやフリーランスのキャリア支援を行うキャリアコンサルタントとしても活動中。