マネジメント
ただ導入するだけでは意味がない。リモートワークを成功に導くポイント
世界規模で新型コロナウィルスが猛威を振るった2020年、ビジネスの場における大きな変化のひとつとして、オフィス以外の場所で働く「リモートワーク」の導入が広がったことがあげられます。
リモートワークの導入により、オフィスでの業務に比べて「無駄な会議が減って生産性が上がった」「ワークライフバランスの見直しにつながった」という成功事例がある一方、導入を急いだあまり新たな課題が生じ、思うような結果が得られなかった企業もあると言われています。
リモートワークは、アフターコロナでも多様な働き方を実現するうえで有効です。だからこそ、導入して終わりなのではなく、事前準備と導入後の運用が重要といえるでしょう。今回は、リモートワークを成功に導くためのポイントを解説します。
目次
リモートワークの実態
さまざまなメディアや報道では、「リモートワーク」と「テレワーク」が使用されていることから、混同される傾向にあります。しかし離れた場所(tele)と働く(work)を組み合わせた造語であるテレワーク、遠隔(Remote)と働く(work)の造語であるリモートワークには、言葉そのものの意味は大きく変わりません。
実際に日本テレワーク協会は、「テレワーク」について、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方だと定義しています。
リモートワークの大きなメリットとしてあげられるのは、時間や場所にとらわれない働き方を可能にする点です。オフィス出社のための通勤時間は、遠方に住んでいる社員にとっては多大なストレスになっていました。しかしリモートワークでは自宅ですぐに勤務が始められるほか、業務後は家族と過ごしたり、趣味の時間を楽しむ時間の余裕ができます。空いた時間を休養や勉強の時間にあてることも可能なので、さらなる業務効率のアップにもつながります。
その反面、自己管理が難しい社員は、上司の目が届きづらい環境での勤務となり生産性が下がってしまうといった、リモートワークのデメリットも少なくありません。
リモートワーク導入の現状
東京都が2021年1月に発表したデータによれば、2020年における都内企業(従業員30名以上)のテレワーク導入率は、2020年3月時点での24.0%から2021年1月時点での57.1%と、大きく増加していることが明らかになりました。
同じく東京都の調査では、テレワークを導入した企業の8割が「継続・拡大したい」「継続したいが、拡大は考えていない」と、テレワークの継続を前向きに検討していることも判明しています。
リモートワークの懸念
同調査によると、大企業に加え、中堅・小規模企業においてもリモートワークの導入が加速しています。それでも緊急事態宣言が解除された後は再びオフィス出社での勤務が中心になっている企業もあり、一時的なものに止まっている印象も少なくありません。その背景には、リモートワークを実際に導入した際に浮き彫りになったことが関係しています。
ペーパーレス・はんこレス
さらに同調査では、リモートワークの定着・拡大のために必要なこととして「ペーパーレス、はんこレスなどの決裁の社内手続きの簡素化」や、TV会議システム等の「コミュニケーションツールの導入・充実」、サテライトオフィスなど「自宅以外の場所でテレワークができる環境」の回答が上位を占めています。
リモートワークはオフィス以外での勤務であるため、導入できない企業の間では「出社しないとできない業務」として書類の電子化やはんこレスが進んでいないことが課題となっています。現在は書類やはんこの電子化ツールも登場しており、業務を円滑に進めるためにも利用するのもひとつの方法です。
人事評価
リモートワークの導入が進んでいない企業の共通点として、リモートワーク時のコミュニケーションツールが電話とメールに限られていることが挙げられます。「電話に出られるタイミングでなければ相手とコミュニケーションがストップしてしまって業務が滞る」「案件に関係している複数人でのコミュニケーションが難しい」といった点から、相手が何をしているのか把握できず、評価基準がオフィス勤務時よりも少なくなる懸念もあるでしょう。
業務の成果を基準とするなど、従来の評価基準に加えてリモートワーク導入後の評価基準を設定することが求められています。
リモートワーク導入に向けてしておくべきこと
リモートワークの導入は即日できるものではなく、事前準備と十分な検討が欠かせません。企業の中には試験的に一部の部署からリモートワークに取り組み、実際に生じた課題を洗い出したうえで全社規模のリモートワークに切り替えていくケースも見られます。
リモートワーク導入における諸手当
リモートワークを成功させるうえで、大前提となるのは「自宅でもオフィスにいる状態と変わらない環境にすること」といえます。そのためにはインターネット環境はもちろん、仕事用のPCやデスクといった備品も欠かせません。
企業によっては、リモートワークの導入により通勤手当を一時的に撤廃し、そのコストを「リモートワーク手当」として支給しているケースもあります。この手当は備品の購入や高速インターネット環境の整備など、さまざまな使い方で社員のリモートワーク環境を整えるサポートとなっています。
リモートワーク・出勤の選択制
社員の中には、リモートワークよりも出勤した方が生産性が落ちないタイプも見られます。出勤することで仕事と私生活のスイッチの切り替えができたり、オフィスの誰かの目が行き届く環境の方が身が引き締まると感じることもあるでしょう。そんな社員にはリモートワークを強いるよりも、「週○日まで」といった制限をしながらでもリモートワークとオフィス出勤を選択できる余地を与えれば、リモートワークの導入の推進と生産性の上昇を両立させられます。
就業規則の変更
リモートワークを導入する際は、就業規則の変更も求められます。特に「時間」や「賃金」といった諸条件を事前に定義しておかなければ、後々に思わぬトラブルに発展する可能性もあるでしょう。
リモートワーク導入後、社員は自宅だけでなく、サテライトオフィスやシェアオフィス、近隣のカフェなどでも業務をおこなうかもしれません。しかし、公共のWi-Fiへの接続や外出先でのオンライン会議の参加から、情報漏えいのリスクは高まります。
そこで原則自宅勤務とし、「セキュリティ対策がされたパソコンを使う」「自宅以外での勤務は事前に承認を得る」といった条件を満たした場合のみリモートワークが可能となるように規定しておく必要があります。
さらにリモートワークでは勤務時間とプライベート時間の区分が難しく、あいまいになってしまった結果、労働時間の超過につながるリスクもあります。
リモートワークも労働基準法に則り、通常勤務と同じく1日の労働時間が8時間、1週間で40時間が原則です。休憩時間を挟む旨について就業規則に盛り込むほか、許可なく社員が夜間勤務や休日出勤をしないよう、事前に申請をするなどの規定を就業規則に盛り込んでおきましょう。
リモートワークを成功に導くためには
では、リモートワークを導入で終わらせることなく、成果を出すためにはどのようなポイントを押さえておくべきなのでしょうか。
密なコミュニケーション
リモートワーク導入後、モチベーションが低下してしまった社員から「孤独を感じる」と言った意見があげられた企業もあります。オフィスではすぐ誰かに声がかけられることが当たり前でしたが、ひとり暮らしでリモートワークをしている社員にとっては、日中誰もいない環境で勤務を続けるのはストレスにつながることも考えられます。
リモートワークによるストレスを解消するためには、オフィスにいるときのように、密なコミュニケーションがとれる環境が欠かせません。オンライン会議ツールやチャットツールを導入し、雑談レベルの会話ができるようになれば、孤独感から解放されるでしょう。業務用のツールと混ざってしまうと必要な情報が流れてしまうため、雑談専用のチャットルームを作るといった使い分けが重要です。
目標設定
コミュニケーションが減ることは、評価をおこなう際の判断基準も少なくなってしまいます。リモートワーク導入後の評価では、目標設定と振り返りをより徹底させましょう。
勤務態度がわからない状況だからこそ、目標とそこに向かうまでの道のり、その後の振り返りをおこなうことが重要です。上司と部下が目標や達成方法などをオンラインで相談、期間中には上司が部下の取り組みをサポートする中でコミュニケーションを取り、それに対する評価をすれば、リモートワークであっても適正な評価が可能となります。
まとめ
リモートワークは導入して終わりなのではなく、むしろ導入がスタートラインだといえます。「生産性の向上」や「採用活動の幅を広げて○人採用を達成」など、最終的な目標に向けて適宜改善を繰り返しながら、リモートワークを一時的なもので終わらせない運用が求められているのです。