テレワーク時の勤怠管理は難しい?想定される課題と管理方法、注意点を解説
国土交通省による令和3年度テレワーク人口実態調査では、雇用型就業者のテレワーカーの割合は令和2年度より4%増加し全国で27.0%に。首都圏では42.3%と大幅に上昇していました。新型コロナウイルス感染症対策をきっかけにテレワークは大きく注目されましたが、多様な働き方のひとつとして定着しつつあります。
その一方で、テレワーク時の勤怠管理の難しさが多くの企業で課題になっています。本記事では、テレワーク時の勤怠管理における企業が抱える課題や管理方法、注意点、勤怠管理に役立つツールの選び方を紹介します。
《参考》
国土交通省:令和3年度テレワーク人口実態調査
目次
テレワークでの勤怠管理の課題
テレワークでは、従業員が働く様子を直接確認するのが難しくなります。そのため、テレワーク時の勤怠管理では、特に次の5つのポイントが課題となっています。
正確な勤怠時間の把握
テレワークは、出退勤時にタイムカードを打刻する通常の働き方とは異なり、自宅やカフェ、コワーキングスペースなどで仕事をすることが多くなります。そのため何時に勤務を開始し、何時に終了したのか、正確な勤怠時間を把握することが難しくなります。勤怠時間の管理は、給与や人事評価に大きく影響するため、管理職や人事担当者を悩ませています。
勤務態度に問題がないか
テレワークは従業員が働く姿を直接確認することができないため、真面目に仕事をしているのか、サボっているのか、勤務態度が把握しにくくなります。オンラインでの会議や打ち合わせはともかく、通常の業務はきちんとやっているのか、勤務態度に問題はないか、チェックするのが困難になります。
職種や多様な働き方による勤怠状況の公平化
同じ会社でも、テレワークを実施できる職種とできない職種があります。経理や総務、人事、SEなど、テレワークが可能な職種もあれば、接客や運送、製造など、テレワークが難しい職種もあります。また、派遣やアルバイト、パート、業務委託など、働き方も多様化しています。そのため勤怠状況を一律に管理することが難しくなっています。
人事評価が曖昧になる
人事評価の項目は、従業員の行動や勤務態度など、成果以外の要素も重視されるケースが多くあります。テレワークの場合、成果以外の評価が難しくなり、人事評価が曖昧になりやすくなっています。
社内コミュニケーションが減る
スタッフサービスが実施した「テレワーク導入後の働き方に関する意識調査」では、テレワークのデメリットとして「社内コミュニケーションが減った」を挙げる人が45.3%と高い数値を示し、「運動不足になる」(46.8%)に続く第2位となっていました。
同調査では「話したいときに必要な人と話すのが難しい」「ビジネスチャットアプリやSNSでコミュニケーションを取ってはいるものの会話する時間が減った」など、直接的なコミュニケーションが減っていることをデメリットと感じている人が多くいました。テレワークでは雑談がしにくいことをストレスに感じる人も多く、社内コミュニケーションの減少も重要な課題となっています。
スタッフサービス:テレワーク導入後の働き方に関する意識調査
テレワーク時の勤怠管理方法
テレワークでは従業員が働く姿が見えないため、正確な勤怠時間の管理は困難です。しかし、企業は労働時間を適切に管理する債務があります。厚生労働省では「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を定め、次のような措置を求めています。
始業・終業時刻の確認および記録(メールや電話)
企業が始業・終業時刻を確認し、記録する方法は2つあります。1つ目は、使用者が自ら確認し、適正に記録する方法です。テレワークの場合、上司がメールや電話などで部下に出退勤の時間を確認する、あるいは部下が始業時と終業時に上司にメールや電話で連絡を入れる方法もあります。
メールや電話は、特別な準備をしなくても勤怠時間を管理できる方法です。ただし、管理職の業務や負担を増やしてしまうデメリットがあります。実施する場合は、この点に留意する必要があります。
タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間などの記録を残すこと
もうひとつは、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間などの客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録する方法です。テレワークでは、タイムカードやICカードが使えないため、勤怠管理システムやツールなどを活用して、従業員の労働時間を管理する必要があります。
勤怠管理システムは、クラウド管理が可能なため、在宅勤務でもシステムにアクセスすることで正確な出退勤時の打刻が可能です。テレワークであっても従業員それぞれの勤務状況がスムーズに把握できるため、不正や打刻漏れなどのトラブルが起こりにくくなります。
勤務管理システムは、出退勤の時間だけでなく、残業申請から有給休暇、給与計算まで、勤怠管理がまとめてできることが多く、従業員の勤怠状況を正確に把握しやすくなります。勤怠から給与計算まで一元管理できるため、作業ごとに必要なファイルを探し出して計算する手間もなく、総務や経理、人事などの業務効率化も実現しやすくなります。注意点は、導入コストがかかることです。
従業員による自己申告
上記の方法で確認できない場合は、従業員の自己申告によって勤怠時間を管理することになります。2021年3月には、厚生労働省がテレワークでの労働時間の自己申告を認めるとガイドラインに明記しました。従業員が自ら、Excelやスプレッドシートに勤務時間・業務内容・業務ごとの作業時間を入力することで勤怠管理をします。
しかし、自己申告制度は従業員による虚偽の申告や申告漏れ、企業による不適正な運用などによって労働基準法に反する長時間労働や割増賃金の未払いなどの問題が起こる可能性もあります。厚生労働省では、やむを得ず自己申告制度を導入する場合は、以下の3つの措置を求めています。
①自己申告を行う労働者や、労働時間を管理する者に対しても自己申告制の適正な運用等ガイドラインに基づく措置等について、十分な説明をすること ②自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離(かいり)がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること ③使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等、適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと。さらに36協定の延長をすることができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者等において慣習的に行われていないか確認すること。 |
引用:厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」
企業は従業員の労働時間を正確に把握する必要があります。上記の3つのポイントや、厚生労働省による以下のガイドラインを参考にし、テレワーク時の勤怠管理方法を見直してみてください。
《参考》
厚生労働省:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
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テレワークの勤怠管理の注意点
テレワークにおける勤怠管理は、通常の業務とはさまざまな点が異なります。テレワークを実施する際は、上記の課題を踏まえ、以下のポイントに注意しましょう。
勤怠状況の報告方法をあらかじめ決めておく
テレワークを実施する場合、勤怠状況をどのように報告するのか、その方法をあらかじめ決めておく必要があります。電話やメール、勤怠管理ツール、Excelやスプレッドシートによる自己申告など、いずれの場合にしても事前の説明や運用の仕方を周知徹底し、従業員の理解を得ることが重要です。
勤務時間の一部のみテレワークにするなどの柔軟な対応が必要
業務内容や雇用形態、あるいは従業員の事情などによって、テレワークが困難な場合があります。勤務時間の一部のみをテレワークにする、部門・部署・職種・業務内容などによって通常勤務とテレワークを分ける、感染状況に応じたテレワークを実施するなど、柔軟な対応が必要です。
オンラインでのコミュニケーションを増やす
テレワークは従業員の勤務態度が確認しにくいため、オンラインでのコミュニケーションを増やすことが必要です。Web会議システムを使った定期的なオンラインミーティングや1on1、チャットツール、メールや電話などを使った従業員同士の交流の機会を増やし、勤務状況を把握しましょう。
テレワークの勤怠管理におすすめのシステム、ツール
テレワーク時の勤怠管理は、専用のシステムやツールを活用すると効率よくおこなうことができます。テレワークに対応したツールにはさまざまな種類がありますが、大きく分けると2つのタイプがあります。
勤怠管理システム
勤怠管理システムとは、テレワークにおける従業員の出退勤の時間を管理できるシステムです。勤怠管理システムにはさまざまな種類がありますが、基本的に以下のような機能があります。
・始業時間、就業時間、休憩時間の打刻 ・時間外労働の申請・承認 ・休暇の申請・承認 ・シフト管理 ・勤務時間や残業時間の集計 |
勤怠管理システムは、パソコンやスマートフォンなどのモバイル端末を通じて勤怠管理をおこないます。そのためリアルタイムに近い状態で勤怠状況を把握でき、ひとつのシステムで一元管理することが可能です。給与計算ソフトと連携機能があるシステムも多く、バックオフィス業務も効率化できます。
また、勤怠管理システムに蓄積された従業員情報を活用することによって、人事評価も効率的に実施でき、年末調整や雇用契約などの労務手続きができるシステムもあります。
業務可視化ツール
業務可視化ツールとは、テレワークにおける従業員の働き方を可視化できるツールです。従業員の自己申告で記録された勤怠情報と、業務可視化ツールで示された情報を照らし合わせることで、より正確な勤怠情報や業務内容を見える化できます。
従業員は何にどれくらいの時間を費やしているか、業務中にどのような課題に直面しているかなど、勤務状況を把握することができ、ストレスチェック機能を備えたツールもあります。業務負荷が大きい場合はアラート機能ですぐに検知するなど、メンタル面のフォローもしやすくなるでしょう。
選び方のポイント
勤怠管理システムや業務可視化ツールを導入する場合、特徴や機能が自社の業務や働き方に適していることが重要です。システムやツールの選び方は、次の3つのポイントが重要です。
従業員にとって使いやすいシステムか
便利なシステムを導入しても、従業員が使えなければ意味がありません。システムの操作が複雑な場合、入力ミスが多発して従業員の生産性が下がる、従業員の時間外労働が増えてしまうケースもあります。また、ITが苦手な中高年も少なくありません。機能面だけでなく操作性にも注目し、使いやすいシステムを選びましょう。導入後の不具合などにも備え、サポート体制を確認しておくことも重要です。
導入・運用のコストは適正か
勤怠管理システムや業務可視化ツールは、導入コストがかかり、導入後も運用コストが必要になります。システム導入が経営の負担にならないか、導入や運用後のコストも考慮しなくてはいけません。また、これらのツールは機能が多彩になるほど費用も高くなるのが一般的です。便利な機能であっても、自社には不要な場合もあります。自社に必要な機能を慎重に判断して選ぶことが重要です。
多様な働き方に対応しているか
近年は、派遣やアルバイト、パート、業務委託など、働き方が多様化しています。テレワークの手段も、自宅だけでなく、場所を問わないモバイルワーク、シェアオフィスやコワーキングスペースを使ったサテライトオフィスなど、いくつもの方法があります。裁量労働制やフレックスタイム制など、労働時間制度も多様化しています。勤務形態ごとの対応は可能か、自社の働き方や労働時間制に合わせた設定ができるシステムかどうかもチェックしておくことが必要です。
まとめ
テレワークは勤怠管理が難しいことが、多くの企業で課題になっています。しかし、勤怠管理システム等を利用することで、効率的に勤怠管理をおこない、さまざまな問題に対応することは可能です。テレワークの導入は、業務体制の準備だけでなく勤怠管理も大事なポイントになります。テレワークによる課題を事前に洗い出し、対策を立て、自社に適したツールを活用することで課題解決を実現しましょう。
《ライタープロフィール》
鈴木にこ(ライター)
求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。派遣・新卒・転職メディアの編集協力、ビジネス・ライフスタイル関連の書籍や記事のライティングをおこなう。