生産性向上とは?目的や方針、成功に導く8つの取り組み方と注意点を解説
日本の人口は減少傾向にあり、多くの企業が人手不足で苦しみ、市場も縮小していくことが予想されます。こうした状況を打破するための取り組みのひとつが、限られた資源で最大の成果を生み出す「生産性向上」です。
生産性向上は近年どの企業にも求められていますが、具体的に何をしたらいいのか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。本記事では、生産性向上に関する基礎知識、メリット、成功に導く8つの取り組みなど、企業が効率的に業績を伸ばす方法を紹介します。
目次
生産性向上とは
生産性向上とは、企業が持っている資源(ヒト・モノ・カネ)を最大限に活かして、限られた資源で最大の成果を出すことをいいます。「効率よく、労働力を利益に変えること」といってもいいでしょう。
生産性にはさまざまな指標がありますが、多くの場合「労働生産性」を指します。労働生産性は、労働によって生み出した成果(アウトプット)を、従業員数や時間当たりの労働料などの経営資源(インプット)で割ることで導き出すことができます。
業務効率化との違い
生産性向上とよく似た言葉に「業務効率化」があります。業務効率化とは、「ムリ・ムダ・ムラ」をなくすなど、業務内容の改善によって、業務を高速化・効率化することです。
生産性向上は、モノやサービスなどの価値をどれだけ少ない労力や資源の投入によって効率的に生み出しているか、という指標です。業務効率化は、生産性向上の手法のひとつです。
生産性向上のメリット
日本の労働生産性は1970年以降、約50年間にわたって主要先進国で最下位の状況が続いています。なぜ生産性を高めることが必要なのか、代表的な4つのメリットを紹介します。
働く世代の減少による人手不足に対応できる
生産性向上は、働く世代の減少による人手不足に対応することができます。日本は2008年をピークに人口減少時代が始まっています。少子高齢化は今後も続くと予測されているため、若手の採用はもちろん、人材確保はより困難になっていくでしょう。少ない人数で最大の成果を生み出すことは、今後ますます必要になっていきます。今から手を打つことで、5年後、10年後の戦略策定もしやすくなるでしょう。
出典:総務省「情報通信白書」
海外企業との競争を視野に入れた競争力を強化できる
少子化・高齢化が進み人口が減少していくことで、今後は国内市場が縮小していくことも予想されます。日本は国際的な競争力が低下し、世界競争力年鑑2021年版の総合順位でも31位と停滞が続いています。経済産業省の「通商白書」によると、次のような企業ほど生産性水準も上昇率も高くなっています
・輸出を積極的に実施している
・海外出資残高(対総資産比)が大きい
・研究開発投資、情報化投資を積極的に実施している
このように企業の生産性と海外市場への進出(輸出・対外直接投資)状況には、正の相関関係が存在しています。市場を海外に求めることは、生産性向上の観点からも非常に重要です。生産性向上は、海外企業との競争を視野に入れた競争力を強化することができるでしょう。
ワーク・ライフ・バランスの改善によってパフォーマンスを強化できる
厚生労働省の「平成29年版 労働経済の分析 -イノベーションの促進とワーク・ライフ・バランスの実現に向けた課題-」の調査結果によると、労働時間が短い国ほど労働生産性が高くなっています。国内の都道府県別のデータでも、労働時間の短い都道府県ほど労働生産性が高いという関係が見られます。
出典:厚生労働省「「平成29年版 労働経済の分析 -イノベーションの促進とワーク・ライフ・バランスの実現に向けた課題-」
ワーク・ライフ・バランスは、生産性向上を実現する重要な施策のひとつです。仕事と生活の調和の実現に向けた取り組みは、人口減少時代における企業の活力や競争力の源泉である有能な人材の確保・育成・定着の可能性を高めるでしょう。事実、ワーク・ライフ・バランスの実現に積極的な企業ほど売上が多く、雇用が増加し離職率が低下している傾向にあります。ワーク・ライフ・バランスの改善は、企業のパフォーマンス強化につながるでしょう。
コスト削減
生産性向上とは、少ない資源で最大の成果を出すことです。生産性向上にはいろいろな手法がありますが、一般的によく用いられるのは、業務の分析を通じてムダなプロセスを見直し売上向上を図る方法、業務を効率化するための機器・システム・IT・AIなどを導入する方法です。これらの施策を実施することで、不要な業務や工程、効率化する方法などを見直すことができるため、コスト削減が期待できるでしょう。
生産性向上の方針
では、生産性向上はどのように取り組んだらいいのでしょうか? まずは「生産性向上の方針」を決めることが重要です。投資と成果をどのように縮小するのか、拡大するのか。投資と成果に関する考え方によって、今後打つべき施策が異なってきます。次の4つの方針を参考にしてみてください。
投資の縮小型
業務の効率化やコスト削減で投資する資源を減らしつつ、成果を維持する考え方です。PC上でおこなう業務をロボットで自動化するテクノロジー「RPA」を導入し単純作業を効率化する、社内SNSやチャットツールを使って対面の会議や打ち合わせを減らす、ワークフローシステムなどのコンピュータソフトを導入し申請から承認の流れを電子化するなど、ムダを省くことによって生産性向上を実現しやすくなります。
投資/成果の縮小型
投資と成果、どちらも縮小して、生産性向上を目指す考え方です。収益が上がらない事業や商品、サービスなどを縮小・撤退・売却、統廃合する。あるいは成果が上がらない人材をリストラするなど、ヒト・モノ・カネへの投資を減らします。インプットを縮小することによって、アウトプットも減少する可能性が高くなりますが、投資を減らすことで生産性向上が実現しやすくなるでしょう。
成果の拡大型
資源はそのままで、成果を大きくする考え方です。従業員の数や労働時間は同じでも、個々のスキルやパフォーマンスが向上すれば成果が上がる確率が高くなります。人材配置を変えることでアウトプットが大きくなる場合もあります。同じ予算でも出店数を減らしてネット通販に注力することで売上が拡大する場合も少なくありません。今ある資源(ヒト・カネ・モノ)を有効活用することも生産性向上につながります。
投資/成果の拡大型
資源と成果、どちらも拡大する考え方です。事業を拡大する、新規事業を創出する、大量採用するなど、業績拡大を目指してインプットもアウトプットも増やします。株式投資では「投資なくしてリターンなし」といわれています。投資が増えるリスクはありますが、成果が上がれば生産性向上が実現し、売上も向上しやすくなります。ただし、成果が上がったとしても、ムダなコストを見落とさないよう注意が必要です。
生産性向上を成功に導く8つの取り組み
生産性向上の方針を決定したら、具体的な施策を決めていきます。生産性向上を成功に導く8つの取り組みを紹介します。
①個人の業務内容を明確にして、スケジュールを調整する
生産性向上を実現するためには、現状を把握し、分析することが重要です。個々の業務内容を明確にし、ムリやムダがないか確認します。合理化や効率化できること、業務量や配置なども検討します。そして、生産性向上を実現する具体的な目標やKPIを設定し、時短も考慮してスケジュール調整をします。
②業務内容の自動化を標準にする
生産性向上で必要になるのは、仕事の属人化・ブラックボックス化を防ぐことです。その人しかできない、知らない業務があると、当事者が休んだり離職したりする場合に、組織全体の作業が滞り、生産性が低下してしまいます。「誰がやっても同じ成果が出せるようマニュアル化する」「業務内容を組織やチームで常に共有する」といった対策が必要です。単純作業は、AIやRPAの活用で自動化にもつながります。
③不要な業務の基準を明確にする
業務効率化は、生産性向上の実現には欠かせない手法のひとつです。ただし「ムリ・ムダ・ムラ」をなくすためには、不要な業務を判断する明確な基準が必要です。投資を減らせば、成果も下がるのが一般的です。成果を維持または向上させるためには、減らしてもいい投資を見極めることが重要です。
④労働時間を柔軟にして、パフォーマンスを上げる
同じ会社や部署であっても、忙しい時間と比較的ヒマな時間は、人や業務内容、時期によって異なります。全社・全部署で同じ時間に勤務するのは効率的とはいえません。労働時間を柔軟にすることで、より効率的にパフォーマンスを上げることができます。日々の始業時間、終業時間、労働時間を自分で決めるフレックスタイム、時短勤務、週休3日・週休4日制度などの導入も検討してみましょう。
⑤社員のスキルを上げる
社員のスキルが上がれば、成果も上がり、生産性向上も実現しやすくなります。
・評価基準を明確にして、伸ばすべき点と改善すべき点をフィードバックする
・MBO(目標管理制度)を導入し、自発的な目標達成を促す
・必要なスキルや知識を明確にして、そのための教育研修を実施する
・スキルアップを目的としたリカレント教育の費用を負担する
・資格取得を支援する
こうした施策によって社員のスキルを高めれば、成果の拡大が期待できるでしょう。人材評価や教育支援にコストをかけることは、生産性向上の有効な手段といえます。
⑥新しい技術を取り入れて効率を上げる
生産性向上は、国全体で取り組んでいる課題です。そのため便利なソフトやツールが次々に開発されています。PCの単純作業を自動化できるRPAを始め、採用活動にまつわる業務を代行するRPO、出退勤の時間管理や給与計算を自動的におこなう勤怠管理システム、Todリストの管理ツールや作業時間を計測できるアプリなど、業務の効率化を図ることのできる多彩なサービスがあります。新しい技術を取り入れて効率を上げることも、生産性向上を実現する重要な施策です。
⑦情報共有の仕組みをつくり、コミュニケーションを円滑にする
情報共有の仕組みをつくり、コミュニケーションを円滑にすることも生産性向上のための有効な手段のひとつといえるでしょう。メンバー間で情報を共有することで「ムリ・ムダ・ムラ」をなくしたり、改善点を見つけたりすることができます。
1o1を定期的に実施し上司が部下の相談に乗ることも生産性向上につながるでしょう。チャットやビデオ通話、ファイル・タスクの共有・管理など、便利な機能を兼ね備えたコミュニケーションツールや社内SNSも開発されています。オンラインも利用して、コミュニケーションを活性化させましょう。
⑧社員の体調管理を徹底してパフォーマンスの低下を防ぐ
企業にとってヒトは最も大切な資産です。誰かが体調を崩せば、生産性は低下します。従業員は、生活のおよそ3分の1を職場で過ごします。暑すぎる・寒すぎる・不衛生、疲労やストレスを回復できる場所がないなど、職場環境に問題があると、従業員の心身に負担をかけ、生産性にも多大な影響をおよぼします。
快適な職場環境を整えることは、ストレスや健康状態が改善するだけなく、生産性も向上することが国内外の多くの研究によって報告されています。心身の健康に配慮した安心して働ける職場環境をつくる、常に健康に配慮するなど、社員の体調管理を徹底し、パフォーマンスの低下を防ぎましょう。
生産性向上の取り組みの注意点
生産性向上を実現するためには、いくつかの注意点があります。日本の生産性が50年間にもわたって主要先進国で最下位の状況が続いているのは、これまで習慣化されてきた働き方にも原因があると考えられます。以下のポイントに留意して、生産性向上の取り組みを実施していきましょう。
長時間労働にならないよう注意
日本は諸外国に比べて長時間労働の傾向が強く、それが生産性の低さに表れています。従業員の業務内容を把握し、勤務時間内に可能な仕事内容や業務量であるのか判断することは管理職の重要な仕事です。また、ノー残業デーをつくる、必要なときに休みが取れるよう時間単位の有給休暇制度を導入するなど、長時間労働にならない施策を打っていきましょう。
過度なマルチタスクは生産性の低下につながる
不適切な人員配置や人手不足などによっておこりがちなのが、マルチタスクです。マルチタスクとは、ひとりの従業員が複数のタスクを同時進行させることです。マルチタスクは、業務効率を低下させ、長時間労働の原因にもなり得ます。タスクによってムラも出やすく、成果を下げる要因にもなるでしょう。生産性向上は、ムリやムダをなくすことが重要です。過度なマルチタスクは防止していきましょう。
個人ではなくチーム全体の生産性向上を目指す
優秀な人材がいれば、企業の生産性は向上します。ただし、個人の力量に依存した組織は、その成果によって業績が左右されやすくなります。また、その人材が抜けると業績が低下します。生産性向上で重要なポイントは、仕事の属人化を防ぐことです。個人ではなくチーム全体の生産性向上を目指しましょう。
社員の納得を得られる施策で生産性向上を目指す
人には防衛本能があり、変化に対して警戒します。日本人は特に変化を好まないともいわれています。投資を減らして成果を増やす、業務をAIやロボットに任せる、これまであった業務をなくす。こうした変化に不満や抵抗を感じる人は一定数います。
たとえ有効な施策であっても、従業員が実行しなければ効果はありません。生産性向上を実現するためには、従業員の納得を得ることも重要なポイントです。新しい取り組みを導入する際は、事前に説明を重ね、周知徹底した状態でスタートさせましょう。
まとめ
少子高齢化や人口減少によって、日本は働く世代が少なくなり、今後ますます人手不足になっていくことが予想されます。生産性向上は、企業にとって最も注力すべき施策です。生産性向上には、人手不足の対応や競争力の強化、コスト削減など、さまざまなメリットがあります。技術革新によって業務を効率化する多彩なテクノロジーも開発されています。限られたリソースであっても、成果を上げることは可能です。投資と資源のバランスを考慮し、適切な取り組みをおこなうことで生産性を高めていきましょう。
《ライタープロフィール》
鈴木にこ(ライター)
求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。派遣・新卒・転職メディアの編集協力、ビジネス・ライフスタイル関連の書籍や記事のライティングをおこなう。