フレックスタイム制とは? 仕組みやメリットデメリット、導入時のポイントと残業について解説
働き方の多様性が尊重される時代となったいま、企業に求められているのは、従業員一人ひとりのワーク・ライフ・バランスの実現と充実です。そして、働き方改革を実現する取り組みのひとつにフレックスタイム制があります。今回はフレックスタイム制の基礎知識をはじめ、メリットやデメリット、注意点などを紹介します。フレックスタイム制度の導入を検討されている企業の担当者は、参考にされてください。
目次
フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、あらかじめ定められた総労働時間内で、従業員が日々の出社・退社時刻、労働時間を自ら決めることができる制度のことをいいます。
「10時から18時」のように勤務時間が固定されず、従業員は決められた範囲内で労働時間を自由に設定できるため、ワーク・ライフ・バランスを図りながら効率的に働くことができるでしょう。働き方改革が進められる昨今において、フレックスタイム制は改めて注目を集めています。
一般的なフレックスタイム制では、必ず働かなければならない時間帯であるコアタイム、任意のタイミングで出社・退社しても良いフレキシブルタイムが設けられています。フレックスタイム制を運用する際は、このようなコアタイムやフレキシブルタイム、総労働時間などの詳細を労使間で協議する必要があります。
フレックスタイム制度の目的
フレックスタイム制度の導入には、どのような目的があるのでしょう。
ワーク・ライフ・バランスの実現、充実のため
フレックスタイム制度の導入により、従業員はフレキシブルタイムの間であれば、自由に出勤・退勤ができます。子育てや介護をしているケースや、急な用事が入ってしまって帰宅しなければいけない場合、従業員は調整しやすくなります。
このような、従業員のワーク・ライフ・バランスの実現、充実のためフレックスタイム制度の導入を検討している企業も多いでしょう。ワーク・ライフ・バランスとは「仕事と生活を調和させること」で、“性別や年齢を問わず、仕事と生活を両立させ、相乗効果を生み出す”という意味が込められています。
また、内閣府が定めた「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」において、生活には、家事、育児、介護、地域活動、学習、趣味、休養など、さまざまな意味が含まれています。
≪参考サイト≫
内閣府|仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章
http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/20barrier_html/20html/charter.html
通勤ラッシュ時の交通の乱れ、混雑の解消
従業員のワーク・ライフ・バランスの実現とともに、通勤ラッシュや交通渋滞の緩和を目的に、フレックスタイム制度を導入している企業もあります。特に、通勤ラッシュのストレスは、仕事の生産性や従業員の心身に影響をもたらしているという調査結果もあります。
2020年から流行した新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、従業員の安全確保のためテレワークやフレックスタイム制度の導入を実施した企業もあるでしょう。通勤ラッシュを避けることは、従業員の健康管理にもつながります。
フレックスタイム制の仕組み
「コアタイムとフレキシブルタイム」、そして「スーパーフレックスタイム」「時差出勤との違い」について解説します。
《出典》
厚生労働省|フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き
https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf
コアタイムとフレキシブルタイム
コアタイムとは「必ず働かなければならない時間帯」のことで、フレキシブルタイムとは、「任意のタイミングで出社・退社しても良い時間帯」のことをいいます。
フレックスタイム制では、コアタイム内にしっかりと勤務できていれば、社員それぞれのライフスタイルに合った形で働き方を実現できます。
たとえば、朝8時までに子どもを保育園に送り届けたあとに余裕を持って出社、通常通り勤務してから17時頃に退社し、保育園に子どもを迎えに行って帰宅することもできます。夫婦で送迎を交代し、送迎を担当しない日は長く勤務することで必要な労働時間を補うという活用方法もあります。同様に、夜間大学に通い、講義のない日で労働時間を補うことも可能です。
スーパーフレックスタイム
コアタイムを撤廃したスーパーフレックスタイム制へ移行している企業もあります。コアタイムがなくなることで、通常のフレックスタイム制度以上に、従業員はいつでも好きな時間に出勤・退勤ができるようになります。勤怠管理の徹底が必要となりますが、従業員の自主性を高める取り組みとして導入している企業もあります。
時差出勤制度との違い
時差出勤は出勤・退勤の時間を変更することができる制度です。フレックスタイム制と類似していますが、時差出勤制度は電車やバスの混み合う時間を避けるためのものであり、任意のタイミングで出勤・退勤できるわけではなく、労働時間が固定されている点は変わりません。
フレックスタイム制度に適している職種、適していない職種
自由度の高いフレックスタイム制度ですが、適している職種、適してない職種があります。
フレックスタイム制度に適している職種
フレックスタイム制は、ある程度個人で業務に取り組むことができ、時間や場所にとらわれず働くことのできる職種が適しているといえるでしょう。
例)企画職、事務職、デザイナー、エンジニア、研究職など
フレックスタイム制度に適していない職種
一方で、社内外との連携が多い営業職やアシスタント、持ち場を離れることができない接客業、工場など業務をおこなう時間や場所が決まっている作業員は、フレックスタイム制を導入するのが難しい傾向にあります。
例)営業職、営業アシスタント、サービス業、工場作業など
フレックスタイム制のメリット
フレックスタイム制度の導入により、どのようなメリットが生まれるのでしょうか?
ワーク・ライフ・バランスの両立をかなえる
フレックスタイム制は出勤・退勤の時間が自由に設定できるため、従業員は生活スタイルに合わせた勤務が可能になります。上述のように共働きで育児をしている夫婦であれば、保育園への送迎をすることも可能でしょう。
仕事と生活の調和であるワーク・ライフ・バランスの実現は、働き方改革で目指す目標のひとつでもあります。また、ワーク・ライフ・バランスを充実させることは、従業員の働きやすさだけでなく、企業にとってもメリットがあります。以下に、その例を紹介します。
残業時間が減り、業務効率が上がる
業務時間内に仕事が終わらなかったとしても、「残業して間に合わせればいい」といった考えから従業員が残業してしまうケースもあるでしょう。
フレックスタイム制により退勤時間が自由に定められるようになると、「限られた時間の中で終わらせよう」という従業員の意識改革が期待できるでしょう。ひいては、業務効率の向上につながりそうです。
通勤ラッシュを避けてストレスを緩和できる
フレックスタイム制度の導入により、通勤ラッシュを避けられる従業員もいるでしょう。快適に通勤できることにより、無駄な体力を消耗せず、またストレスも軽減できるため、従業員一人ひとりの業務の生産性や効率は高まるでしょう。
仕事のスケジュール調整等による自己管理能力の向上
フレックスタイム制度では、総労働時間の中で、いつ何をどのようにおこなうか、計画を自主的に立てて実行に移していく自己管理能力が求められます。また、コアタイムの中で、他の従業員とも関わるタスクを入れて調整する力も必要となります。
フレックスタイム制度の導入によって、このようなスキルを求められることにより、従業員の能力向上も期待できるでしょう。
生活と仕事の両立が困難でも仕事を続けることができ、離職率の低減につながる
フレックスタイム制度の導入によって、ワーク・ライフ・バランスが実現できて就業環境の改善にもつながります。就業環境の改善は、従業員の離職を防ぎ、仕事への意欲を高めるモチベーションアップの効果が大きいといわれています。
企業のイメージ向上につながる
多様な働き方が求められている時代において、フレックスタイム制やテレワークを導入している企業は、多くの求職者から注目を集めています。
特に、「育児が落ち着いたから復職したい」「親の介護と仕事を両立したい」といった求職者は、業務内容だけでなく勤務形態も重要なポイントとして考えています。フレックスタイム制は「働きやすい会社」という企業イメージの向上に貢献できるでしょう。
フレックスタイム制のデメリット
フレックスタイム制には、どのようなデメリットがあるのでしょうか? メリットだけでなくデメリットも把握したうえで導入を検討しましょう。
社員それぞれの自己管理能力に依存することになる
フレックスタイム制は自由度が高いからこそ、従業員一人ひとりに自己管理能力が求められます。「コアタイムと総労働時間さえ守れば、あとは自由にしていい」といった誤解も生まれやすく、かえって業務効率を落としてしまうリスクもあります。企業側としては、勤怠管理の徹底、および従業員の成果を把握する努力が必要となります。
従業員同士のコミュニケーション不足が発生する
従業員それぞれの出勤・退勤時間が異なると、自然と顔を合わせる時間も少なくなります。コミュニケーション不足によりすれ違いが生じると、業務にも支障が出てくる可能性もあるでしょう。
しっかりと報告・連絡・相談ができるよう、チャットツールやオンライン会議ツールの導入、定期的なミーティングの開催といった、コミュニケーションを活性化する対策も不可欠です。
時間によってクライアント対応が難しくなる
フレックスタイム制では、従業員がオフィスにいる時間がわかりにくくなります。事前に設定されている会議などは問題ないものの、緊急時はクライアントへの対応が遅れてしまう事態も考えられます。
従業員同士で連絡を共有できる体制を整えておくなど、業務を属人化しないようにすれば、クライアント対応に時間を要する事態を防げるでしょう。
従業員が会社に滞在する時間が長くなり、光熱費が上がる可能性がある
従業員ごとに出勤時間が異なるため、オフィスが稼働している時間帯は長くなる傾向にあります。フロアに従業員が1人しかいない状態でも光熱費はかかるので、トータルで見ると光熱費が増えてしまう可能性が高いでしょう。
フレックスタイム制度の導入で注意すべきこと
フレックスタイム制を導入する際には、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。特に気をつけたいポイントは、以下の2点です。
■就業規則への規定
フレックスタイム制を導入する場合、出勤・退勤の時刻を従業員の決定に委ねる旨を定め、就業規則に規定する必要があります。ここで重要なのは、出勤・退勤時刻どちらも従業員の決定に委ねるものであること。片方のみ社員の決定に委ねるものはフレックスタイム制として認められません。
■労使協定での締結
フレックスタイム制導入の際は、労使協定で基本的な枠組みを定めなければいけません。ここで定めるべきなのは、以下の6点です。
① 対象となる社員の範囲 ② 清算期間 ③ 清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間) ④ 標準となる1日の労働時間 ⑤ コアタイム(※任意) ⑥ フレキシブルタイム(※任意) |
フレックスタイム制では、定められた期間内で労働時間の長さを選択できますが、この定められた期間を「清算期間」と呼んでいます。従業員は清算期間の中で所定の労働時間を満たせるよう、労働時間を調整しなければなりません。
フレックスタイム制における残業と清算期間
フレックスタイム制は歴史が古く、1987年の労働基準法の改正をきっかけに、1988年4月から正式に導入された変形労働時間制の一種です。2018年6月の働き方改革推進法の成立を踏まえ、もともと1ヶ月だった清算期間の上限が3ヶ月に変わりました。
フレックスタイム制を導入した場合、従業員は日々の労働時間を自ら決定することになります。このとき、1日8時間、週40時間という法定労働時間を超えて労働しても、その時点で時間外労働にはみなされなくなります。一方で、1日の標準の労働時間に達しない時間も欠勤となるわけでもありません。
フレックスタイム制導入後、清算期間における実際の労働時間のうち、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間数が時間外労働となります。(時間外労働を行うためには36協定の締結が必要)
従来では、1ヶ月単位で精算するため、労働時間が超過していた場合、割増賃金の支払いが必要でした。しかし、清算期間の上限が延長されたことにより、3ヶ月の平均労働時間が法定労働時間以内で、下記の2つの要件を満たしている場合、割増賃金の支払いは必要なくなります。
・清算期間全体の労働時間が週平均40時間を超えないこと ・1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えないこと |
ただし、上記のどちらかを超えてしまった場合は、割増賃金の支払いが必要となります。
《出展》
厚生労働省|フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き
https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf
また、2023年4月以降はフレックスタイム制を導入した中小企業であっても、60時間を超える時間外労働に対しては特別割増率(50%)による割増賃金(残業代)を払わなければいけません。精算期間が1ヶ月以上の場合は時間外労働も長時間発生することになり、清算期間を超える残業代が高額となる可能性もあります。
清算期間の延長による従業員側のメリット
働き方改革を一環とした法改正(2019年4月)により、フレックスタイム制度の清算期間の上限が3ヶ月に延長となりました。これにより、清算期間を3ヶ月とした場合には、社員も1ヶ月の総労働時間が不足していれば欠勤扱いになっていましたが、3ヶ月以内に法定労働時間を超えていた場合は振り替えられるようになりました。
たとえば小学生の子どもがいる家庭では、夏休みのある8月は早く帰って家族との時間を増やし、小学校が再開する9月は長めに働くといったように、清算期間が長くなったことで更に自由な働き方に対応できるようになりました。
3ヶ月のフレックスタイム制は、繁忙期と閑散期がはっきりと決まっている業種であれば、業務の割り振りもおこないやすくなります。他部署との連携も比較的少なく、場所や時間にとらわれない業種では、清算期間を3ヶ月に設定するのも良いでしょう。
まとめ
厚生労働省のデータによると、2021年4月時点においてフレックスタイム制を導入している企業は全体の8%で依然として進んでいません。しかし、少子高齢化により労働人口の減少が避けられない日本において、離職率低下や人手不足解消にもつながることが期待されるフレックスタイム制度は、企業として検討せざるを得ないものになっていくでしょう。
このほか、フレックスタイム制度には、従業員のワーク・ライフ・バランスの実現、業務効率のアップ、企業イメージの向上につながるなど、さまざまなメリットがあります。一方で、従業員同士のコミュニケーション不足が発生する、企業の光熱費が上がるなどのデメリットも予想されます。
まずは、自社の現状を見直しながら、一つひとつ課題を洗い出し、フレックスタイム制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
ライタープロフィール
ナカイマミ/編集者・ライター
求人媒体で求人広告の制作、編集記事の制作に10年以上携わった後、女性誌、生活情報誌、地域活性に関係する媒体などで多くの取材、ライティングを手掛ける。気が付けば、47都道府県を踏破。海外よりも日本が好き。