コンプライアンスチェックシートとは?必要性やチェックすべきリスト項目を紹介
粉飾決算、架空取引、リコール隠し、横領、背任、偽装など、企業による不正行為が相次ぎ、コンプライアンスの重要性が年々高まっています。コンプライアンスチェックとは、企業内のコンプライアンス意識を高める有効な施策のひとつです。
本記事ではコンプライアンスチェックシートの必要性や記載すべきチェック項目、シートの活用方法など、自社の課題解決に役立つ方法を紹介します。
目次
コンプライアンスチェックシートの必要性
コンプライアンスチェックシートとは、内部監査や自社のコンプライアンス意識を高めるために使用するチェックシートです。企業にとって従業員がコンプライアンスをどれだけ把握しているかを認識することは、法的トラブルを未然に防ぐためにも非常に重要です。コンプライアンスチェックシートを作成し、定期的にチェックすることをおすすめします。
内部監査とは
不祥事の防止や業務の効率化、売上向上などを目的として実施する、企業の内部でおこなう監査のことです。合法性や合理性などに基づいて、企業経営や組織運営に関するアドバイスをおこないます。内部監査は企業内の独立した部門がおこなうのが一般的ですが、内部監査を専門とする部門が設けられていない場合は、監査を受ける部署とは別の部署が内部監査をおこないます。
コンプライアンスとは
コンプライアンスとは、「法令遵守」を意味する言葉です。近年では、法令を守ることだけでなく、倫理観や公序良俗などの規範に従い、公正・公平に業務をおこなうことなど、広範な意味で使用されています。コンプライアンス違反は、企業に多大な損害を与え、最悪の場合、廃業に追い込まれるケースもあります。そのため企業経営において欠くことのできない極めて重要なものとされています。
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コンプライアンスチェックシートに記載すべき7つのチェックリスト
コンプライアンスとして扱われる事項は、明確には定義されていませんが、法令、就業規則、企業倫理・社会規範など多岐にわたります。日弁連(日本弁護士連合会)が作成した「中小企業のためのコンプライアンス・チェックシート」を参考に、記載すべき7つのチェック項目を見てみましょう。
①企業の基本ルールについて
【CHECK】 □ 株主は複数いるが、株主総会を開く予定はない □ 株主総会は開くが、書面での招集通知はせず、一部の株主しか出席しない □ 取締役会はあるが、実際に開く予定はない □ 株主総会や取締役の議事録を作っていない □ 会社の定款がどこにあるかわからない □ 株主は複数いるが、株主名簿は作成していない □ 親族や知人が監査役になっているだけで会計監査はしていない |
会社の基本ルール(株主総会・取締役・監査役など)については、上記のような質問を参考にコンプライアンスチェックシートを作成します。たとえば、親族や知人だけで株式を保有する中小企業では、実際に株主総会を開催してない会社も少なくありません。
しかし、株主同士の関係が悪化した場合は、株主総会が開催されていなかったことを理由に、一部の株主や会社に対して、あるいは株主同士が訴訟を提起し合うなど、深刻な対立が生じる場合があります。また、株主名簿を作成していないと、株主総会の召集や議決の適法性に問題が生じてしまいます。企業の基本ルールを遵守しているかをチェックすることで、こうした問題を未然に防ぐことができます。
②職場の基本ルールについて
【CHECK】 □ 会社の就業規則を作っていない □ 気に入らない従業員や能力のない従業員はクビにしてもよい □ 労働組合に入った従業員は辞めてもらうことにしている □ 従業員が自主的に残業してくれるので残業手当はないし「36協定」も必要ない □ タイムカードや出勤簿などで従業員の労働時間を管理していない □ セクハラやパワハラは従業員同士の問題で会社の問題ではないと思う □ 結婚や出産をした女性従業員は辞めてもらう □「働き方改革」関連の法律は中小企業とは無関係だと思っている |
職場の基本ルール(労働問題、セクハラ、パワハラなど)については、上記のような質問を参考にコンプライアンスチェックシートを作成します。上記のチェック項目にすべて「YES」と答える従業員がいた場合、事態は非常に深刻です。
たとえば、常時10名以上の従業員を雇用している場合は、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならないと労働基準法89条で定められています。また、従業員を解雇するにあたっては、労働契約法16条によって「客観的合理的理由」と「社会的相当性」が要求されます。残業やハラスメントについては、社会の目も年々厳しくなっています。
訴訟による損害賠償請求といった経済的損失だけでなく、自社の社会的信用を失うリスクもあります。コンプライアンス研修や勉強会を実施し、早急に従業員のコンプライアンス意識を高める必要があります。
③取引先との契約について
【CHECK】 □ 取引先との間で契約書を作成したことがない □ 取引先との間で契約書を締結したが、中身を見ていない □ 取引先から支払条件や代金について、一方的に不利な要求をされている □ 取引先から商品購入の際、不要な商品も一緒に買うよう求められている □ 取引先に暴力団関係者がいるので不利な条件で取引を求められる □ 顧客名簿を従業員が自由に持ち出せる □ 名簿業者から顧客名簿を買ったことがある |
取引先との間の契約関係をめぐる紛争などを防止するためには、上記のような質問を参考にコンプライアンスチェックシートを作成します。
たとえば、契約書を作成しなくても契約自体は成立しますが、取引先から支払条件や代金について一方的に不利な要求をされるなど、契約をめぐる紛争を未然に防ぎ、紛争になった場合もスムーズに解決するためには契約書が必要です。
また、暴力団関係者などの反社会的勢力との関係を断ち切ることは、コンプライアンスが重視される現在において極めて重要な事項です。個人情報保護のルールも徹底する必要があり、顧客データが漏れるなどの情報漏えいは、顧客や社会に損害を与えるだけでなく、企業や事業の存続にも関わる重大なリスクとなります。
④債権の管理と回収について
【CHECK】 □受注のほとんどを口頭でおこなっている □受注した後に契約条件を口約束で変更することがよくある □受発注の内容を社内の帳簿できちんと管理できていない □入金予定日に代金が入ってこなくても放置することがある □取引を始める際、相手の経営状況を全く確認しない □取引先の会社が潰れたとしても、社長個人に請求すればいいと思っている □取引先の社長が口頭で自宅を担保に入れると言ってくれているので安心だ |
債権の管理と回収については、上記のような質問を参考にコンプライアンスチェックシートを作成します。
たとえば、入金予定日に代金が入ってこないまま放置していると、請求権が消滅時効にかかってしまう危険があります。
また、取引先が破産などの法的整理手続きをとった場合、取引先に対して未収金がある会社は、残った財産から配当を受けることになりますが、配当はごくわずかな額にとどまることがほとんどです。
社長個人に請求しようと思っても、会社と会社代表者は法的には別々の人格のため、一部の例外的なケースを除き、会社代表者は会社の債務について支払義務を負うことはありません。資金繰りに困らないよう売上金を確実に回収するためには、こうした項目のチェックは不可欠です。
⑤消費者とのトラブル回避について
【CHECK】 □自社の商品の広告には、正直、少し大げさなところがある □クーリング・オフという言葉の意味を知らない □認知症の方との契約も署名捺印してもらった以上はすべて有効と思う □消費者契約法という法律があるのを聞いたことがない □契約書に「商品事故は一切責任を負わない」と書いているので安心だ □自社商品の取扱説明書に安全性に関する注意が記載されていない |
商品をめぐる顧客との間のトラブルを防止するためには、上記のような質問を参考にコンプライアンスチェックシートを作成します。
たとえば、商品の品質や規格について実際の物、または他者より著しく優良であると誤認されるおそれがある広告は、一般消費者の利益を保護するため、景品表示法によって禁止されています。違反者には措置命令や課徴金納付命令の行政処分がおこなわれる可能性があります。
また、契約書に「商品事故は一切責任を負わない」と記載すれば、いかなる場合でも責任を逃れることができるわけではありません。仮に製造物に欠陥があり、それを購入した消費者に損害が生じた場合は、製造物責任法3条によって損害を賠償する責任を負うことになります。消費者とのトラブルを未然に防ぐためには、従業員に対して法令に関する正しい知識を啓発することが必要です。
⑥企業の機密事項と知的財産について
【CHECK】 □顧客名簿や重要なノウハウがあるが、社内で秘密として厳重管理していない □重要な営業秘密を提供するにあたって秘密保持契約を結ばない □他社から従業員を引き抜き、他社の営業秘密を入手したことがある □他社と製品の共同開発をおこなうにあたって契約書を交わさない □他人のホームページに良いフレーズがあったので自社の宣伝に使っている □他社の売れ筋商品の名前を模倣して販売したことがある |
会社が保有する機密情報や知的財産などを守るためには、上記のような質問を参考にコンプライアンスチェックシートを作成します。
たとえば、会社の機密情報を厳重に管理していなかったため、従業員が営業秘密を持ち出してライバル企業に転職してしまう、という事例が少なからずあります。会社の機密情報を守るためには、社内ルールの制定や、従業員から秘密保持誓約書を受けるなどの措置をとることが必要です。
また、他人のホームページにあったフレーズを自社に宣伝に使ったりする行為は、著作権の侵害となります。他社の売れ筋商品の名前を模倣して販売する行為も、商標法や不正競争防止法に違反するおそれがあります。コンプライアンスチェックシートに上記のようなチェック項目を設けることで、機密事項や知的財産についての法的トラブルを未然に防ぐことができます。
⑦ITリテラシーについて
【CHECK】 □コンピュータウイルスの対策をおこなっていない □ メールで添付ファイルを送る際にパスワード設定をおこなわない □ FacebookやTwitterでの情報漏えい防止を従業員に注意していない □ インターネットで通信販売をしているが、法律上の規制を意識したことがない □ 販促として電子メール広告をおこなっているが、法律上の規制を意識したことがない □ 汎用パソコンソフトを複数のコンピュータに使いまわしている |
IT化社会における情報流出などの問題を防ぐためには、上記のような質問を参考にコンプライアンスチェックシートを作成します。
たとえば、コンピュータウイルスには外部からの不正侵入を助けたり、コンピュータの情報を外部に発信したりするものがあります。コンピュータの情報が外部に発信されてしまうと、企業が保有していた個人情報の漏えいという問題を引き起こすリスクがあります。情報漏えいを未然に防ぐためには、ウイルス対策の実施や、SNS利用に対する会社の基本方針を定めたガイドラインなどを制定することが必要です。
また、販売業者がインターネットを通じて商品を販売する場合は通信販売に該当し、特定商取引法による規制の対象となります。広告の表示についても細かい規則が設けられています。こうした認識を周知徹底することが会社を守ることにつながります。
《参考サイト》
日本弁護士連合会:中小企業のためのコンプライアンス・チェックシート
コンプライアンスチェックシートの活用方法
企業がコンプライアンスを強化するためには、従業員に正しい知識・情報を伝え、会社全体の意識を高めていくことが必要です。コンプライアンスチェックシートは、次のような方法で活用できます。
・内部監査に必要な資料として活用 ・定期的な内部監査の実施計画に活用 ・社内のコンプライアンス意識の改善に活用 |
コンプライアンスチェックシートは、内部監査に必要な資料として活用されています。上記のようなチェックシートの作成を継続しておこなうことで、監査結果をデータベースに保管でき、定期的な内部監査の実施計画にも活用できます。
また、コンプライアンスチェックシートは、社内のコンプライアンス意識の改善にも活用できます。チェックシートを作成し、基本原則のガイドライン、社員教育、罰則規定などを定めましょう。コンプライアンス研修や勉強会も定期的に実施し、すべての従業員に周知徹底していくことが必要です。
社内で共有する前には、必ず専門家に監修をしてもらうことも重要なポイントです。特に法令違反に関連する取り組みは、対象の法令を正しく解釈しているか、弁護士に判断をしてもらう必要があります。裁判になると、時間、コスト、精神面などの負担が大きくなります。法令や裁判の実情をよく知る弁護士に相談することで、訴訟などを未然に回避するための有用な助言を受けることができます。
まとめ
法令遵守、労働問題、ハラスメント、取引先との契約、債権の管理・回収、消費者とのトラブル、知的財産、ITリテラシー等々、コンプライアンスの重要性は、年々高まっています。
コンプライアンス違反は、企業にとって重大なリスクです。コンプライアンスを守らない企業は、取引先や顧客、社会からの信用を失い、経営が困難になる場合があります。内部監査以外でもコンプライアンスチェックシートを活用し、定期的に社内のコンプライアンス意識の確認と改善をすることをおすすめします。
《ライタープロフィール》
鈴木にこ(ライター)
求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。派遣・新卒・転職メディアの編集協力、ビジネス・ライフスタイル関連の書籍や記事のライティングをおこなう。