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労災~民事訴訟リスクと対応について~

労災~民事訴訟リスクと対応について~

労災は主に通勤中や業務中に発生したケガや病気について補償される制度ですが、場合によっては損害賠償に発展するケースもあります。その際、法律上の責任として問われるものにはどのようなものがあるのでしょうか。今回は労災のうち、民事訴訟リスクと対応について解説します。

安全衛生管理上の使用者の法律上の責任

[1]労働基準法、労災保険法による補償責任
…無過失責任(労災保険で補償、会社が無過失でも会社責とし保険料全額会社負担)

[2]民事責任(民法第709条:不法行為による損害賠償責任(時効3年 立証責任は被災者側))
 …故意・過失で他人の利益を侵害したことに対する賠償責任

[3]民事責任(民法第717条:土地工作物占有者所有者の責任)
 …設備等の瑕疵で占有者・所有者が他人の利益を侵害したことに対する賠償責任

[4]民事責任(民法第415条:債務不履行責任 安全衛生配慮義務 = 予防責任)

[5]刑事責任(労働安全衛生法上の予防義務の刑事責任→怪我が大きいと労働基準監督署による現場検証や査察がある理由)

[6]刑事責任(刑法上の業務上過失致死傷罪→怪我が大きいと警察が現場検証に来る理由)

損害賠償での使用者補償責任が問われる場合の請求根拠

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派遣元会社は雇用主(=使用者)として、先述の民事責任のうち特に[4]予防責任(安全配慮義務)についての関わりが大きくなります。安全(衛生)配慮義務とは、「事業者が労働者に負っている労働契約上の債務で、労働者に対し、事業遂行のために設置すべき場所、施設もしくは設備などの施設管理または労務の管理にあたって、労働者の生命および健康などを危険から保護するよう配慮する義務」と定義されます。

そのため労災発生時には、使用者に労働者との契約上の安全(衛生)配慮義務に違反(債務不履行)があったか否かが問われることになります。そして「安全(衛生)配慮義務違反」が問われる際には「使用者として通常予測される災害について、その回避の努力を尽くしたか否か」がポイントとなります。さらに、災害回避の努力すなわち災害防止策について、法律で制定されているものは最低限の実施事項であり、社会通念上相当とされる防止手段を尽くしたかが争点となります。

民法では、故意・過失を要件としない債務不履行損害賠償と、義務違反を要件としない不法行為損害賠償とは、明確に区別されています。安全配慮義務については、法的な義務の有無を問題とするものですから、不法行為損害賠償責任ではなく債務不履行の問題となります。
したがって、安全配慮義務違反の有無については、直接法律に根拠のある債務の不履行があったか、契約によって発生する債務の不履行があったか、を具体的事例ごとに検討することとなり、その立証責任は使用者側にあります。なお、民法上債務不履行責任の時効は10年です。

これまでの判例で指摘された使用者の安全配慮義務の具体例

[1]災害防止のために必要な安全設備の設置ないし安全装置の装着義務
[2]疾病防止のための衛生設備の設置義務
[3]安全マスク、命綱等の保護具を使用させる義務
[4]作業の方法、順序の決定、作業の指揮監視体制等を整える義務
[5]機械等の作業工具の危険性、取扱い方法の周知、徹底等の安全教育義務

派遣就労における賠償の請求先

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労働者派遣契約における派遣労働者については、派遣先企業と派遣元事業主は、被災者に対して連帯責任があるとされています。そのため派遣先企業と連携しての対応が必要となります。一方で、被災者は派遣先企業と派遣元事業主、どちらか一方だけでも請求が可能となり、両方に対しでも請求が可能です。請求できる方・請求したい方に請求が出来ることになります。

派遣先企業と派遣元事業主の2者間における、被災者からの請求に対する負担割合

派遣先・派遣元間では、別途その責任割合及び負担額の係争は可能です。(通常の連帯責任とは異なり特殊な関係のため)。ただし、派遣元事業主としては、労働者派遣における労働関係法規上の派遣元責任項目(安全教育・健康管理等)については責任を果たしていくことが重要になります。

労働者の過失に関する考え方

一般的に使用者が労働者の過失と見ているものより、かなり労働者の過失度合いは小さく見るのが実態で、使用者は予防をしていたかを問われます。「企業は多様な人材を雇用し使用しているもの、個人差をもって過失相殺(損害賠償の額を定めるにあたり,加害者に全面的に負担させるのではなく,被害者にも過失があればこれを斟酌して損害の公平な分担を図る制度)はしない」との、判例に基づく考え方があるためです。

被災者が民事賠償請求するメリット

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労災認定時は政府が管掌する労災保険から保険給付がなされます。しかし、「慰謝料」はそもそも政府労災から支給はなく、民事紛争で求められるものです。また、「将来の逸失利益(障害や死亡によって将来見込める収入が損失した補償)」については、政府労災から将来支給される年金等は除外されません(最高裁判例より)。結果、若年者で障害等級が高ければ5千万以上の損害賠償の支払いが必要になる可能性もあります。一般的に、民事賠償額から政府労災保険支給額が控除されますが、控除されても、民事賠償額の裁定額が大きくなります。