DXとは? 目的や企業が推進するメリット、具体例をわかりやすく解説
昨今、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を耳にしない日はないほど、DXの推進が叫ばれています。その一方で、「そもそも、DXとは何か? そして、なぜDXに取り組む必要があるのか?」という疑問を感じている方も少なくないはずです。
今回は、DXが注目されている背景やDX化のメリット、またDX化を推進する際の注意点や課題などについて解説していきます。
目次
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DXとは、デジタル技術を用いた生活やビジネスの変化を指します。厳密な定義はありませんが、経済産業省は「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」で「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と解釈しています。
○参考
デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dx_guideline.pdf
DXとデジタイゼーション/デジタライゼーションとの違い
DXと似た用語として、デジタイゼーション(Digitization)やデジタライゼーション(Digitalization)も存在します。混同しやすいのですが、経済産業省の取りまとめたレポートに記載されている以下の図を頭に入れておくと理解しやすいのではないでしょうか。
出典:経済産業省「DXレポート2 中間取りまとめ(概要)」P.25
DXが全社規模で価値創出にこだわるデジタル化であるのに対し、デジタライゼーションは特定のプロセスに限ったデジタル化、デジタイゼーションは紙やパンチカードなどの物質的な情報をデジタル形式へ変換することを指します。自社の目指す変革の方向性が3つのうちどれに当たるのか、そして実際に進めている施策内容はどれに当たるのかを随時すり合わせるようにするとよいでしょう。
DXの目的
では、DXがこれだけ注目されるようになったのはどのような背景があったのか。そして、混同されやすいDXとITとの違いは何か。これらを見ていきましょう。
DXが注目されている背景
近年、DX化が注目されている背景として大きく2つの理由があります。
・「2025年の崖」
「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年に発表したDXレポートの中で指摘した課題のことです。その内容は「DXが進まなければ2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性が高い」というもので、企業にDXへ取り組むことの重要性を訴えています。
○参考
経済産業省:「DXレポート」より
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf
・国によるDX化の支援政策
また、上記のとおり「2025年の崖」について指摘したDXレポートが発表されたこともあり、国による企業のDX化への支援政策が進んでいます。代表的な制度に、国が策定した「情報処理システムの運用管理に関する指針」を踏まえて、DXに向けた優良な取り組みをおこなう事業者を申請に基づいて認定する「DX認定制度」や、ITツールの導入に際して利用ができる「IT導入補助金」等があります。
○参考
DX認定制度
https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxcp.html
IT導入補助金
https://www.it-hojo.jp/
DX化とIT化の違い
大まかに見るとDXとIT化は同じように感じるかもしれませんが、この違いを明確に理解することはビジネスを一歩進めるためには重要です。IT化は組織の生産性向上を「目的」としてIT導入やデジタル化を進めるのに対し、DXはそれを「手段」としてビジネスモデルの変革をおこないます。
つまり、IT化はDXにおける手段の一つということになります。「新しい会計ソフトを導入した」「インターネットを高速化した」だけでは単なるIT化に過ぎず、例えばその後に「支払い方法の選択肢を多く提供することで、顧客層が幅広くなり、データを使ったビジネスもできるようになった」といった具合に、これまでの仕組みが変化することそのものがDXということです。
DX化の進め方
では、企業の中でDX化を進めていくためにはどのようなプロセスを踏んでいく必要があるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
1.目的と目標を明確にする
最初におこなうべきは、目的の設定です。目的を明確にしないまま思いつきでDX導入を進めてしまうと、進める道筋が定まらず、DXの導入そのものが目的になってしまいます。
DXの導入により目指したい企業価値は何なのか、そのために企業として解決すべき課題や問題点はどこにあるのかなど、目的の明確化が重要です。
そのうえで、目的に沿った目標を設定します。「いつまでに、どのような状態になっていればいいのか?」「そのためにどのくらいの予算を使うのか?」「DX導入後に達成したい利益、コスト削減効果はどの程度か?」など、達成可能かつ測定可能な目標を設定します。
2.DX推進のための体制を作る
DX化を進めるためには、既存の組織体制だけでは不十分です。他部署との連携や、経営層に対する迅速な報告など、既存の組織体制を越えた迅速かつ円滑な情報連携を図るため、新しい体制や仕組みの構築が必要です。具体的には、スピーディーな導入のための専門部署を設置する、人事評価制度を改めるなどの方法が挙げられます。
3.現状の課題の洗い出し
体制が整ったら、現状の課題の洗い出しをおこなっていきます。このときに、まずポイントとなるのが、その範囲です。つまり、DXを実行する業務における一部分のプロセスのみに焦点を当てるのではなく、プロセス全体を範囲として課題を洗い出していきます。
課題の洗い出しに際しては、その業務に知見のある担当者に対して、インタビューをおこないます。具体的には、日頃その業務の中で、不便や不満を感じていることをあぶりだし、その課題が生じている真因も含めて分析していきます。
4.デジタルツールを業務に導入
現状の課題の洗い出しが終わったら、デジタルツールの導入も含めた解決策を検討していきます。この際、デジタルツールの導入で課題解決や生産性の向上につながっていれば問題ありませんが、「導入したがあまり使わなかった」、「システム化したら逆に生産性が落ちた」、「社内に使いこなせる人材がいなかった」という結果にならないようにしましょう。デジタルツールを導入する場合には、自社の課題解決につながる手段なのか、運用体制も視野に入れて検討するようにしましょう。
5.既存のIT資産の再評価と見直し(必要に応じてスケールアップ/ダウンを実施)
デジタルツールの導入も含めた解決策を実行することと並行して、既存のIT資産の再評価と見直しを進める必要があります。
日本企業の多くは、いわゆる「レガシーシステム」と呼ばれる大規模で複雑な業務システムを利用しています。これまで使用した既存システムの利用期間が長く、肥大化かつ複雑化してしまい、DX化が進まないといった原因にもなっています。
そして、長年使っていた結果、ブラックボックス化してしまい、既存システムの把握が非常に困難になっている場合もあります。DX化を推進していくために、一つずつ既存システムの把握をおこなうことからはじめ、必要に応じてスケールアップ/ダウンを実施していきましょう。
DX化のメリット
DX化することによって企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。6つのメリットを紹介します。
生産性、業務効率の改善
DXを導入すると、業務の生産性が向上します。パソコンの単純作業を自動化するRPAといったシステムによって、人間がおこなう業務が自動化され業務効率が上がることは想像にたやすいでしょう。
それに加えてコスト削減にもつながります。デジタルトランスフォーメーションを推進するうえで、業務プロセスを可視化・分析したり、プロジェクトのフローや経費の見直しがおこなわれ、これまで無駄が生じていたプロセスの改善がなされていきます。このため、DX化をおこなうこと自体もコスト削減になるのです。
働き方改革の実現
DX化の一連の流れで、一部の業務がデジタル化します。これにより、働き方改革が実現することもメリットです。コラボレーションツールや社内イントラネット、プロジェクト管理ツール、経費精算システムなど、働き方に大きく影響するツールを取り入れ、業務効率化を図ることもDXの一部です。ツール導入により、リモートワークができるようになるなど、働き方が変わります。
BCP対策を強化できる
働き方が変わるだけでなく、BCP対策(事業継続計画)にもつながります。新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、リモートワークを取り入れた企業も多いですが、今後の災害対策に向けてDXをおこなうのもよいでしょう。
BCP対策の第一歩は、機能や業務の分散化です。拠点や基盤システムを複数に分散させることも重要ですが、それにはDX化が大きく絡んできます。
市場の変化に柔軟に対応ができる
デジタルトランスフォーメーションによって、事業や業務がデジタル化している場合、市場の変化や消費行動の変化に柔軟に対応できるようになるでしょう。Amazon、Uber、Airbnbなどをはじめとした新興企業が既存市場に参入し、市場を大きく変化させたように、これからはデジタル技術や最先端マーケティング技術によって、ディスラプション(破壊)が起こるとされています。そのため、DX化によって、ビジネスモデルそのものを変革することで生き残れる可能性が高まるでしょう。
新しいサービスやビジネスモデルに着手できる
デジタルトランスフォーメーションの導入は、単なるデジタル化ではなく、新たなサービスやビジネスモデルの構築・開発も目的の一つです。さまざまな最先端デジタルテクノロジーを駆使した、最新のビジネスモデルを考えることで、DX化は進み、今後の急激な社会の変化についていくこともできるようになるでしょう。
社内システムを時代に合った技術に刷新できる
何年も活用している基盤システムが老朽化したり、現在の社会の流れに対応していなかったりすることで、レガシーシステムと化してしまうところを、DX化で脱却することができます。経済産業省のDXレポートによれば、日本企業の約8割が既存システムが老朽化したまま抱えており、企業のIT予算のうち約8割がそのシステム維持費に費やされているそうです。
このままでは社会の変化に対応できず生き残れませんが、デジタルトランスフォーメーションを実現することでレガシーシステムから脱却し、時代の流れに即したシステム構築へと進むことができます。
DX化の注意点と課題
ここからは、社内で実際にDXを推進するときに注意すべきポイントや課題を紹介します。
DX化の注意点
・目標はシステムの導入ではなく、業務効率化などの課題解決
DXと聞くと「なんでもかんでもシステム化する」イメージを持つ方も多く、大規模なシステム導入をおこなった段階ですでにDXを実現した気になってしまうケースもよくあります。しかし、システムを導入しても、企業側の課題解決につながっていなければDXを推進する意味がありません。そのため「システムの導入をゴールにしない」ことがDXを成功させるポイントの一つです。
・DX推進担当者はトラブルに対応ができる人材を選定する
DXを進めるためには、企業が解決するべき課題を把握し、導入するシステムやツールを使いこなせる人材を推進メンバーに設定する必要があります。とはいえ、日本企業は慢性的なエンジニア不足のため、新規で採用するかDXを推進できる人材の教育や育成をおこなわなくてはいけません。
また、DXを推進する場合には、システム導入時はもちろん、運用がはじまった後にトラブルが発生するケースもよくあります。その際、DX推進担当者がトラブルシューティングもできる人材であると理想的です。
DX化の課題
・社内全体の意識改革が必要
前述したとおり、DXは2025年の壁をはじめとした課題を解決するために、日本企業が取り組むべき施策です。そのため、現場の担当者が目の前の業務改善に取り組むレベルではなく、経営者から現場のスタッフに至るまで社員全員が一丸となり、DXを推進して何がなんでも課題を解決するという意識の共有が必須です。
また逆に、経営者のDXに対する意識は高いものの、現場にその思いが浸透していない場合も、DXはうまくいきません。したがって、企業がDXを推進する際には、全社的な意識改革が必要なのです。
DX化の取り組みの具体例
DXの効果を最大限に活かすために、実際の導入事例を確認することも重要です。身近なDX導入の事例を参考にし、実りある成果が得られるように、自社の取り組みに役立てましょう。
テレワーク
新型コロナウイルスの感染拡大により、テレワークを導入する企業が急増しました。テレワークの導入には、業務のデジタル化が必須であり、書類の電子化およびコミュニケーションツールの導入、各種申請のクラウド化などが求められます。テレワークによりデジタル化が推進され、多様な働き方につなげることができるのです。
AIを用いたカスタマーサービス
日々多くの消費者から電話を受けるカスタマーセンターでは、AIを活用した自動音声システムを導入する企業が増えています。オペレーターの負担を軽減するとともに、消費者から寄せられた意見を分類し、データとして残すことで、商品およびサービスの改善に役立てられます。
デジタルツールを用いたデータ入力
単純なデータ入力業務において、RPAを活用する場面も増えてきました。RPAとは、人間の代わりにロボットを使って業務をおこなうツールです。これにより、人的リソースの有効活用や、人的ミスの削減などが期待できます。
オンラインスクール
場所を選ばず、さまざまな知識が学べるオンラインスクールは、動画を活用してDXを推進した代表的な事例です。パソコンだけでなく、スマートフォンやタブレットからも視聴でき、ユーザーの拡大にも成功しています。さらに、スマホから直接講師に質問できるチャットサービスも充実しており、消費者のニーズをつかんでいます。
紙媒体のデジタル化
書類のデジタル化は、DX導入の第1段階と言えます。代表的な取り組みが、政府を中心に進められている「脱ハンコ」(押印見直し)です。押印不要な手続きを増やしたり、電子署名を活用したりして、デジタル化が推進されています
○参考
内閣府|書面規制、押印、対面規制の見直し・電子署名の活用促進について
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/imprint/i_index.html
まとめ
ここまで見てきたとおり、DX化を進める主なメリットとしては、「生産性・業務効率の改善」「働き方改革の実現」「市場の変化に柔軟に対応ができること」などが挙げられます。
そして、DXを進めるうえでは、何のためにDXをおこなうのか、という目的設定が重要になります。目的設定をおこなったのち、DX推進のための体制構築したうえで、現状の課題の洗い出しとデジタルツールの導入を含めた課題解決に取り組んでいきます。目的設定の際には、システムの導入そのものでなく、業務効率化などの課題解決にフォーカスすることにも注意しましょう。
なお、DXは、現場の担当者が目の前の業務改善に取り組むレベルではなく、経営者から現場のスタッフに至るまで社員全員が一丸となって取り組んでいく必要があります。
デジタル技術を用いることで従来の業務効率やサービスの品質の向上につながります。まずは現在の業務内容を整理して、DX化による効果が期待できる分野の選定から始めることをおすすめします。
ライタープロフィール
Toru(ライター)
MBA予備校や転職メディア向けのブログ、コーチング本など、主にビジネス系の書籍や記事のライティングを行う。