母集団形成とは? メリットや注意点、新卒・中途採用のポイントを解説
企業の採用活動において「母集団形成が大切」と聞いたことはありませんか。母集団形成という言葉をなんとなく理解できても、そもそも母集団形成にどんなメリットがあるのか、具体的に何をすれば良いのかわからない方も多いでしょう。
そこで本記事では、採用活動において重要な役割を担う母集団形成の基本や必要性、具体的な母集団形成の手法まで解説します。
目次
母集団形成とは?
そもそも「母集団」とは、統計学において「本来知りたいと思っている集団全体」を指します。採用活動においては「採用候補となる応募者全体」のことを母集団と呼びます。つまり、母集団形成とは、自社に興味を持って応募してくれる人材を増やすことといえるでしょう。
なぜ母集団形成が大切なのかといえば、最終的な採用人数を確保するためです。とりわけ採用活動は、応募から複数の選考プロセスを経て採用決定に到達します。
仮に応募者全員を採用すれば採用率は100%です。しかし、実際には筆記試験や面接で不合格になったり、応募者側から辞退されたりするケースもあります。もし母集団が少なければその中から選ばなければなりませんが、母集団が多ければ適切な採用選考をおこないやすくなります。
ただし、「母集団形成=応募をやみくもに増やす」という意味ではありません。あくまでも自社にマッチする質の高い人材を増やすことが母集団形成の本来の役割です。
母集団形成が注目されている背景
近年、母集団形成の重要性が高まっています。企業の採用活動の成否は母集団形成にかかっているといっても過言ではないでしょう。なぜ、母集団形成が重要なのかその背景を2つお伝えします。
生産年齢人口が減少しているため
1つ目は、少子高齢化による生産年齢人口の減少が挙げられます。生産年齢人口とは、生産活動の中心となる人口層のことで、15歳以上65歳未満の方が該当します。
日本の生産年齢人口は1995年の8,716万人をピークに2020年には7,509万人にまで減少しました。さらに2050年には5,275万人にまで減少すると予想されています。生産年齢人口減少の影響で、各産業では労働力不足が深刻化しており、事業を縮小せざるを得ないなど企業経営に大きな影響をもたらしています。
参考:総務省ホームページ|生産年齢人口の減少
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd121110.html
労働力人口が変化したことで、企業は母集団形成がしにくくなっています。たとえば、介護業界は高齢化の影響で事業所数が年々増加しています。しかしながら、実際にサービスを提供する介護職員はどこも人手不足です。こうした状況はあらゆる業界で見られています。国内全体が求職者優位の売り手市場の中、いかに母集団を確保するかは事業経営における重要課題となっています。
採用活動のミスマッチが増えているため
母集団形成は、やみくもに応募数を増やすことではありません。自社にとって候補となる人材の母数を形成することが重要です。しかし、実際にはとにかく応募を増やそうと、あらゆる手段を使って応募を集める企業が増えています。応募を集めるためだけに、求人を掲載し続けた結果、選考を途中辞退されたり、せっかく採用しても定着せずに短期間で離職してしまったりといったミスマッチが増えています。
中には募集要項に書かれていた内容と実態が異なっていたトラブルや、本来の採用要件を満たさない採用をおこなったことで現場が混乱し、既存の社員が辞めてしまったというケースもあります。こうした事態を解消するために、応募数だけにとらわれない「本質的な意味での母集団形成」が見直されています。
採用活動における母集団形成のメリット
企業は母集団形成を図ることでどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは主なメリットを4つ解説します。
採用予算の適正化が図れる
採用活動では、求人媒体に掲載する場合に費用が発生します。その際、一人あたりの採用予算を検討する必要があります。仮に一人あたりの採用予算が10万円だとしたら、ゴールから逆算して、何名の母集団形成をしなければならないかが見えてくるでしょう。
一方、採用予算を立てずに母集団形成をしようとすると、採用コストが大きく膨れ上がり、費用対効果の悪い採用活動をおこない続けることになります。
母集団形成がしっかりできていれば採用コストの抑制につながり、事業計画を立てる際もどれくらいの予算を見込んでおけば良いか判断がつきやすくなります。
年間を通じて計画的に採用をおこなえる
年間を通じて採用活動をおこなっている企業や、新卒採用を通年でおこなっている企業は、計画的な採用活動は欠かせません。たとえば、来春までに新卒を10名採用するというゴールがあるとしたら、過去の内定率、選考通過率などから逆算して必要な母集団の数を目安として把握できるでしょう。その母集団となる応募者を獲得するために、どの手法で、いくらで、いつまでに、何名集めるかといったように具体的な計画に落とし込めるようになります。
一方、母集団形成を意識せずに「とにかく応募が集まれば良い」「採用できれば良い」といったような場当たり的な採用活動になってしまえば、採用要件を満たさない方の応募が増え、採用コストの増加につながってしまうこともあります。
優秀な人材の採用・定着につながる
母集団形成は、やみくもに求職者の応募を増やすことではなく、自社の採用要件を満たした人材を集めることです。応募の時点で自社の価値観とフィットしているかどうかや、スキルや知識不足がないか確認しながら採用活動を進められます。
より良い母集団形成ができれば、自社にマッチする質の高い人材が増え、定着率の向上やパフォーマンス発揮が期待できるでしょう。
継続的な事業成長を促進する
質の高い母集団形成は、より自社にマッチした人材採用につながります。ひいては会社に利益をもたらし、継続的な事業成長に貢献してくれます。また採用コストが適正化されれば、既存社員に還元できるため、就業満足度が向上するなど好循環が生まれるでしょう。
母集団形成の注意点
母集団形成を図る上で念頭に置くべき注意点もあります。具体的な注意点を3つ解説します。
応募が多ければ良いわけではない
母集団形成とは、あくまでも自社の採用につながる候補を集めることです。応募数だけにこだわり過ぎてしまうと、採用すべき人材要件がぶれてしまい、結局ミスマッチにつながってしまいます。母集団形成では数と質の両方を意識することが大切です。
採用要件は曖昧にしない
母集団形成をする際は人材に求める採用要件を曖昧にせず明確にしましょう。採用活動では欲しい人材像を「ターゲット」という言葉を使いますが、まさしく採用すべき人物イメージを明確に定めてアプローチすることを指します。
中には、「いろいろな人に会ってから採用するかどうか決めたいから、あまり人物像を明確にしたくない」と考える方もいますが、ミスマッチが増えてしまうことが懸念されます。
採用目標が現実的か見極める
母集団形成においては、最終的な目標から逆算して、必要人数を把握することが大切です。しかし、そもそもの採用目標が現実的に達成できるかどうかの見極めも大切です。
たとえば、新卒採用で3月末までにあと5名の内定承諾を得たい場合、すでに3カ月を切っているとしたら、母集団形成は現実的に可能かどうかを判断しなければいけません。非現実的な数値目標は「絵に描いた餅」となり、採用担当者のモチベーションにも影響しかねません。
母集団形成の方法を手順に沿って解説
ここからは、採用活動における母集団形成の方法を手順に沿って解説します。
採用の目的・背景を明確化する
まずは、なぜ採用が必要なのかといった目的や背景を明確にすることから始めましょう。その際、単に「欠員しているから」「増員が必要だから」といったように抽象的に捉えるのではなく、より具体的な目的への落とし込みが大切です。
たとえば、飲食店であれば「3年以内に新たに10店舗増やす。そのために店舗をマネジメントできるレベルのスタッフの採用・育成を15名必要である。」といったように目標を明確にすることで、採用活動の方向性が見えてくるでしょう。
採用ターゲットを設定する
続いて採用すべき人物像・採用要件といったターゲットを明確に設定します。先述したとおり、採用ターゲットが明確になれば、その後に続く採用活動が効率化し、マッチング精度が高まります。
もし採用ターゲットを上手く設定できない場合は、自社で特に高いパフォーマンスを発揮している社員をモデルにしてみると良いでしょう。活躍社員にヒアリングをさせてもらい、仕事観や志向、なぜ自社で働いているか、どういったところに満足しているかなどを詳しく聞き出すことで、自社で活躍する人物像がリアルにイメージできるようになります。
採用目標・計画を策定する
次に「いつまでに、何人採用するか」といった採用目標を設定します。自社の選考プロセスから逆算して、プロセスごとに目標を設定します。たとえば、応募・書類選考・筆記試験・一次面接・二次面接・内定という一連のプロセスがあるとしたら、各フェーズでの選考通過率を掛け合わせた上で、目標人数を試算します。現実的に達成可能かどうかも踏まえて採用担当者がコミットできる採用計画を策定しましょう。
採用手法を検討する
母集団を形成するために用いる採用手法を検討します。近年はインターネットが普及したことで、採用手法も多様化しています。たとえば、大手ナビサイトのように利用者が多い求人媒体もあれば、特定の業界に専門特化した求人媒体もあります。また、人材紹介やダイレクトリクルーティングなど、ターゲットごとにビジネスモデルも異なります。
サービスの利用にあたって費用も発生するため、採用予算を加味した上で適切な手法を検討しましょう。
採用活動を実施する
採用計画と採用手法を決定したら、実際に採用活動をスタートさせましょう。特に意識すべきは、採用活動全体を通して企業の魅力を伝え、興味・関心を持ってもらうことです。たとえば、「当社の自慢は雰囲気の良さです」と記載しているにもかかわらず、面接では形式的な質問だけであれば、雰囲気の良さは十分に伝わらないでしょう。むしろ「求人広告で見たイメージと違った」と感じられ、選考を辞退されるかもしれません。
求人サイトはあくまでも企業と求職者の出会いの接点です。求職者はそれを基点に、企業のあらゆる情報をリサーチします。そのため、採用サイトやSNSを活用して社内の雰囲気を伝えたり、面接時に社内見学を実施したりするなどして、一つひとつの取り組みに意味を持たせることが大切です。
検証・分析・改善を継続する
採用活動中は、定期的に採用活動の結果を検証し、改善を繰り返すことが大切です。進捗がかんばしくない場合や、最終的な結果が目標未達で終わったとしても、「なぜ上手くいかなかったのか」「そもそも計画は適切だったのか」といったことを正しく検証することで、社内ノウハウが蓄積され、次回の採用活動に活かせるようになります。
特に、求人媒体などを利用する場合は必ず担当者に採用目標を共有し、定期ミーティングの実施や採用活動終了後の振り返りの機会を設けましょう。なぜなら採用活動は一朝一夕で成果が出るものではなく、長期的な視点で取り組むことが必要だからです。こうした取り組みの積み重ねが、自社の採用力向上へとつながり、ひいては母集団形成の効率化に貢献します。
新卒・中途採用の母集団形成のポイント
ここからは、新卒採用と中途採用それぞれの母集団形成のポイントを解説します。
新卒採用の母集団形成のポイント
新卒採用は年間を通じておこなわれます。自社が新卒学生を募集しているという事実を学生に認知してもらい、興味・関心のある学生を集めていきます。自社の採用目標から逆算し計画的に母集団形成をしていくことが必要です。
就職活動中の学生は複数の企業にエントリーしているため、エントリーしたタイミングではさほど志望意欲が高くなかったり、自社に対する志望動機が弱かったりします。また母集団形成だけにとらわれると、いくつもの採用手法を併用しなければならず、エントリー学生の管理が煩雑になることや、人材会社との打ち合わせだけでも時間が取られてしまいます。
母集団形成のポイントとしては、選考プロセスを通じて学生の興味・関心度合いを「育てる」という意識を持つことです。たとえば、選考とは別に社内見学会を企画したり、SNSを使って社内の雰囲気を定期的に発信したりすることで学生に企業の魅力を伝えられます。
母集団形成をしつつ、学生の会社への理解度を深めてもらいながら、最終面接までに志望度を高めるといった取り組みが重要です。
手法 | 特徴 |
ナビサイト(就職サイト) | 求人情報を掲載して学生のエントリーを集める手法。大手サイトの場合、登録している学生も多いため、効率的な母集団形成が可能。 |
合同説明会 | 複数の企業と合同で説明会ブースを構え、直接学生にアプローチができる。エントリーシートだけでは見抜けない優秀な学生を発掘できる。 |
学内セミナー | 各大学内で開催される説明会。OBなどがいる場合、興味・関心を持ってもらいやすい。また特定の学科(理系など)にもアプローチできる。 |
新卒紹介サービス | 専任コンサルタントが採用要件に該当する学生を紹介してくれる。母集団は集めにくいが、手間がかからず成果報酬なのでリスクが低い。 |
SNS | 気軽に学生とコミュニケーションを図ることができ、形式的な採用選考と異なるため、近年注目を集めている。ただし定期的な発信が必要であるため、運用スキルが必要。 |
中途採用の母集団形成のポイント
中途採用の場合は、新規事業の立ち上げに伴う増員や、既存社員の退職に伴う欠員補充など、何らかのタイミングで採用ニーズが発生します。増員の場合は事業計画に基づき、どんな能力を持つ人を、いつまでに、何人採用するかといった計画が立てやすいため、適切な採用手法を選択することが重要です。
一方、欠員補充の場合は、現場の人手不足によって他のスタッフに業務負担がかかり、さらなる離職者を生む可能性があるため、迅速な対応が求められます。しかし、急ぐあまり「とにかく応募数を集めたい」と応募数だけにこだわってしまうと、本来採用要件を満たさない応募者ばかりが集まり、ミスマッチが起きる可能性があります。平時から採用要件を明確にしておき、採用が必要になった際は、速やかに求人活動を再開できる準備をしておくことが必要です。
また、中途採用の手法はさまざまなものがあります。同じ手法でも提供している会社によって特徴や利用者属性も異なるため、自社にとってどのサービスが合っているか事前のリサーチは欠かせません。たとえば、求人広告は担当者の広告企画力や要望把握力によっても成果は大きく異なります。そのため、「どの求人媒体が有効か」といったサービス内容以前に、「パートナーとして信頼が置けるかどうか」も一つの判断軸となるでしょう。
手法 | 特徴 |
求人広告 | 転職サイトに求人を掲載して母集団を形成する方法。媒体によってユーザー層が異なるほか、プランによって露出できる情報量に差がある。 |
ハローワーク | 行政が運営する公共職業安定所。事業主は無料で求人を掲載でき、条件を満たした場合、助成金を受け取れることもある。 |
合同企業説明会 | 複数の企業が説明会ブースを出展し、来場した求職者に直接自社の事業説明や簡単な質疑応答をおこなえる。ブースに足を運んでもらうための準備などが必要。 |
人材紹介サービス | 専任コンサルタントが自社に代わって候補者にアプローチし母集団形成をおこなってくれる。確度の高い人材とだけ面接できるためミスマッチが起きにくい。ただし紹介手数料が割高である。 |
ダイレクトリクルーティング | 人材データベースなどを用いて、企業が求職者に直接オファーできる採用手法。採用要件に見合った人材に対し狙ってアプローチができる。 |
リファラル採用 | 既存の社員からの紹介経由で採用する手法。すでに活躍している人材の紹介であることから、マッチ度が高いことが期待できる。紹介元社員にインセンティブを支給している企業も多い。 |
まとめ
採用活動における母集団形成の基本から母集団形成のメリット、具体的な母集団形成の方法まで解説しました。国内では生産年齢人口減少が続く中、空前絶後の売り手市場といわれるほど採用難易度が高まっています。とりわけインターネットの普及に伴い、あらゆる人材サービスが登場したことで、いくつもの採用手法を試みる企業も多いでしょう。
しかし、こうした状況の中で求職者が仕事探しに困っていないかといえばそうではありません。実際には「イメージしていた仕事内容と違った」というケースや、「給与や待遇などの雇用条件が違った」といったトラブルまで発生しています。
本記事でお伝えしたとおり、母集団形成とはやみくもに応募数を集めることではなく、自社にとって活躍が見込める人材層を呼び込むことです。そのため、どんな人に来てもらいたいかを明確にし、その方々にとって自社はどんな魅力があるかメッセージしていきましょう。
ライタープロフィール
高橋洋介 フリーランス/採用コンサルタント
リクルートと広告代理店にて求人広告営業に従事。主に中小企業を中心としたアルバイト・中途社員の採用支援を行う。在職中にGCDFキャリアカウンセラー、国家資格キャリアコンサルタント資格も取得。独立後はフリーランスとして企業の採用実務支援から、Webマーケティング支援など幅広く活動している。