人員計画とは?企業が立てるメリットと作り方を紹介
現在の日本は、少子高齢化が急速に進展した結果、2008年をピークに総人口が減少に転じており、人口減少時代を迎えています。働き手は、今後ますます減っていくでしょう。人手不足や生産性の低下などの問題を防ぐためには、計画的に人材配置をおこなう「人員計画」が非常に重要になってきます。本記事では、人員計画の意味と目的の解説、計画を立てるメリットと注意点を紹介します。
目次
人員計画とは
人員計画とは、企業が必要とする人材を確保するための長期的な視点での計画を指します。10年先の企業のあるべき姿を踏まえたうえで、どんな人材が必要なのか、どんな配置にするのか、現状はどうなっているのかを確認し、単年度の配置・採用・異動などを決めていきます。
正しい人員計画を立てることによって、組織のパフォーマンスを最大化し、適切な配置・採用・異動をおこなうことによって、人件費のコスト削減も期待できるでしょう。
人事に関する施策は、次のように策定していきます。
① 要員計画
↓
② 人員計画
↓
③ 採用計画・異動計画
これらを総称して「人員計画」と呼ぶ場合もありますが、要員計画、人員計画、採用計画・異動計画、それぞれの計画の違いについて見てみましょう。
人員計画と要員計画の違い
人事に関する施策は、経営目標の達成、業務に必要な機能、それらを実行する組織・予算・人件費・人員数などを決めることから始まります。要員計画とは、雇用形態別・契約形態別の人員数を計画することです。経営層や各部門のリーダーと話し合い、人件費予算の枠のなかから、正社員・契約社員・アルバイト・パートタイマー・派遣スタッフ・業務委託など、各部門に配置する雇用・契約形態別の「人数」を決めていきます。
②人員計画
人員計画とは、「誰をどこに配置するのか」を決めることです。要員計画で人員数を確定したら、各部門に配置するメンバーを具体的に決めていきます。増員が必要な部署もあれば、減員が必要な部署もあります。現在の部署で継続して頑張ってもらうのか、別の部署に異動してもらうのか。人数は足りていても能力が足りない部署もあります。異動希望者や育児休業の予定がある人、退職する人がいるようなら、その対応や調整も必要です。部署の状況や意向、個々の事情や能力を細かく見ていきながら、人材配置を決定します。
③採用計画・異動計画
採用計画・異動計画とは、要員計画と人員計画の差異を埋める施策です。「人数は足りているが、能力が不足している」「配置した人材が育児休暇に入る」「退職を希望している」など、要員計画と人員計画で想定した人数や人材が不足する場合があります。逆に必要以上に人員が多い部署もあります。欠員や余剰、能力不足に対して、どのような手を打つのか。外部から採用するのか、社内異動で対応するのか、契約社員や派遣スタッフ、アルバイトを活用するのか。人件費予算や雇用形態を勘案しながら対応策を検討します。
人員計画の目的
人員計画の目的は、組織のパフォーマンスを最大化し、経営目標を達成することです。適材適所の人材配置をおこなうことで、個々の成長を促し、組織の力を増大させることができます。正社員だけでなく、契約社員・アルバイト・パートタイマー・派遣スタッフ・業務委託など、多彩な人材を活用することで人件費コストの削減も期待できるでしょう。長期的な人員計画を立てることで、場当たり的な採用による離職者や想定外の人件費コストの増加などを防ぎ、計画的な採用・育成をおこなっていくことも目標のひとつです。
現在の日本は、少子高齢化や人口減少に歯止めがかからず、若手の採用が困難になっています。お金と時間をかけて新卒採用に力を入れても、長期的ビジョンがない会社や入社後のキャリアステップが不明確な企業は定着率が低く、多くの離職者を出すことが少なくありません。たとえ採用に成功しても、新卒の1割が入社半年以内、3割以上が3年以内に離職するといわれ、徒労に終わるケースが増えています。人手不足や生産性低下などの問題を防ぐには、計画的に人材配置をおこなう「人員計画」が非常に重要になってきます。
また、新卒だけにこだわらず、中途採用も積極的におこない、正社員だけでなく、契約社員・アルバイト・パートタイマー・派遣スタッフ・業務委託など、あらゆる契約形態を視野に入れるなどの人員計画を策定することで、適切な人事施策が打ちやすくなります。
人員計画を立てるメリット
人員計画を立てることには、大きく分けると3つのメリットがあります。それぞれのメリットを解説します。
経営計画に合った人材を採用できる
人材採用は、経営計画と連動させていくことが重要です。会社全体は何を目指しているのか。経営層が人員を絞ろうとしているのであれば、厳選した人材の少数採用をおこなう必要があります。事業の拡大などによって増員を求めているのなら、あらゆる契約形態を視野に入れ、業務内容や難易度に応じた適切な人材を募集することが必要です。人員計画を立てることによって、欠員や余剰を事前に防止し、現場の混乱を防ぐことができます。将来を見据えた人材育成をすることで、組織改革や新規事業も展開しやすくなります。
事業状況に合った適切な人事配置、採用を進めることができる
組織のパフォーマンスを最大化するためには、各部門の状況に応じた適切な人材配置が必要です。人員が不足していれば、過労によるストレスなどで多くの離職者を出してしまいます。未経験の新卒者を大量に採用しても「育てられない!」と現場が悲鳴を上げてしまう場合もあります。各部門のリーダーと話し合い、部署ごとの状況に合わせた人事施策を打つことが重要です。人員計画を立てることによって、事業状況に合った適切な人事配置や採用を進めることができ、現場の混乱やモチベーションの低下を防ぐことができます。
目標達成に向けた課題が明確になる
人員計画の注意点
人員計画を立てる際には、人件費予算などのコストや実現性、要員計画との差異に注意する必要があります。4つの注意点について見てみましょう。
人材を維持するコストは変動する
人材を維持するコストは常に変動しています。人件費が高い・低いとよくいわれますが、大切なのは売上とのバランスです。企業にとって重要なのは、生産性を上げること。人件費が上がっていても、それ以上に売上総利益が上がっていれば、生産性は向上しています。人件費が下がっていても、それ以上に売上総利益が下がっていれば、生産性は低下しています。労働生産性を可視化するには、労働分配率を確認しましょう。これは企業が生み出した付加価値(売上総利益)のうち、どれだけ人件費に分配されているかを表す指標です。労働分配率は人件費を売上総利益で割れば簡単に計算できます。人材が増えれば人件費も増えますが、労働分配率が変わらないか下がっていれば問題ありません。人員計画を立てる際には、人件費や人数だけでなく、労働分配率の推移に注目しましょう。
経営計画も視野に入れた、実現可能な計画を立てる
人員計画は、経営計画を視野に入れた、実現可能な計画を立てることが重要です。経営計画や人件費予算を無視して「もっと人が欲しい」「人を増やしたい」と理想を掲げても、実現不可能な「絵に描いた餅」にしかなりません。人員計画を立てる際には、会社の目標や予算をきちんと把握したうえで各部門のリーダーと話し合い、人が足りているのか、余っているのか、どれだけの増員や減員が必要なのかを具体的に確認しましょう。そのうえで各部門が必要とする人数を集計し、実現可能な人員計画を立てていきます。
人員計画は、要員計画との誤差を恐れない
すべての希望を実現することはできなくても、できる限り現場の意見を反映させることは必要です。そのため、要員計画と人員計画に誤差が生じることはよくあります。差異があるからこそ、その後の採用・異動計画にそれを反映する施策をおこなうのです。
とはいえ、人員計画策定時に異動の意向や退職予想などを反映し、採用・異動計画に反映させていくことは大切です。人員計画を立てる際には、詳しくヒアリングをおこない、現場の意見も大事にしたうえで、要員計画との誤差を恐れない計画を立てましょう。
採用計画・移動計画で補完する
人員計画の作り方
では、人事計画を策定する際には、具体的にはどのようにしたらいいのでしょうか。人員計画の作り方は、企業規模や業種、成長ステージなどによってアプローチが異なりますが、以下のような手順が一般的です。
①現在の人材配置の状況を確認する
人員計画は、採用・異動・退職・任免・出向など、個別の人事の前提となる施策です。まずは会社にいるすべてのメンバーを部門ごとに把握しましょう。それぞれの部署に誰が何名いるのか。正社員・契約社員・アルバイト・パートタイマー・派遣スタッフ・業務委託など、雇用形態別に人材配置の状況を確認します。
②現在の組織図を作成する
現在の人材配置の状況を基に、組織図を作成します。組織図を作成することによって、人員数だけでなく、部署ごとの役割や関係性、具体的な業務が理解でき、会社の全体像がつかみやすくなります。
③現状のデータを基に必要な人員数を経営者と話し合う
現状のデータを基に必要な人員数を経営層と話し合います。経営目標を実現するための経営予算から人件費予算を割り出し、部門ごとに割くべき人件費予算を決めていきます。
④各部門のリーダーに必要な人員数を確認する
各部門のリーダーにヒアリングし、部門別に必要な人員数を確認します。増員が必要なのか、減員が必要なのか、現状維持でいいのか。要望を聞くだけでなく、経営目標や経営予算を念頭に置きながら各部門のリーダーと交渉します。削るべき機能があれば合理化を促す、増やすべき機能があれば理由を確認するなど、状況や要望について突っ込んだ話し合いをしましょう。そのうえで各部門が来期必要な人員数を集計します。
⑤配置可能な人員数を、各部門に割り振る
必要な人員数が確定したら、配置可能な人材を各部門に割り振っていきます。人件費予算を踏まえながら、正社員・契約社員・アルバイト・パートタイマー・派遣スタッフ・業務委託など、雇用形態・契約形態別に人員数を決め、各部門のリーダーの意向も踏まえながら、誰をどこに配置するかを検討します。人数を決める「要員計画」と具体的な人材を決める「人員計画」に差異が生じたら、「採用計画」や「異動計画」で補完します。
まとめ
人員計画の意味と目的、計画を立てるメリットや注意点について紹介しました。人員計画を立て、求める人材像を明確にすることによって、応募者とのミスマッチは減少し、計画的な人材育成をおこなうことで、人材の定着率も高まるでしょう。
また、10年先まで見据えた人員計画は、企業が直面している多くの問題を解決することにもつながります。必要な人数や人材を適切に見極め、効果的な人事異動や採用をおこなう人員計画を実践していくことで、企業は成長を維持できるでしょう。
《参考資料》
『人事担当者のための赤本+青本』労務行政研究所(労務行政)
『プロの人事力』西尾太(労務行政)
《ライタープロフィール》
谷田俊太郎(ライター・編集者)
リクルートグループの求人情報誌の編集を経て、フリーランスとして独立。5万部を突破するロングセラーとなった『人事の超プロが明かす評価基準』(西尾太/三笠書房)をはじめ、『2023年度版 面接の教科書 これさえあれば。』(坂本直文/TAC出版)、『内定獲得のメソッド Web面接 オンライン面接の必勝法』(才木弓加/マイナビ出版)など、HR領域の書籍や記事の編集協力・執筆等を中心に、経営者から宇宙飛行士まで多彩な職業のインタビューを手がける。