ジョブクラフティングとは?やり方やメリット、研修例を紹介
あなたの会社の従業員は、仕事に「やりがい」を感じているでしょうか。新型コロナの感染拡大やロシアのウクライナへの侵攻、異常気象など、近年は予測できない事態が頻発し、将来に不安を感じ、仕事の意味や意義を感じにくくなっている人が増えているといいます。そのため注目されているのが、従業員のモチベーションを向上させる手法「ジョブクラフティング」です。本記事では、ジョブクラフティングの基礎知識やメリット、やり方、研修例を紹介します。
目次
ジョブクラフティングとは
ジョブクラフティングとは、働く人が自ら仕事に対する認知や行動を変えることで、やりがいを感じない仕事をやりがいのあるものへと変える人事教育の手法です。会社や上司の指示・命令ではなく、従業員が自分自身の意思で、仕事を再定義し、そこに自分らしさや新しい視点を取り込んでいきます。
この考え方は、米イェール大学経営大学院で組織行動論を研究するエイミー・レズネスキー准教授とミシガン大学のジェーン・E・ダットン教授によって2001年に提唱されました。従業員が業務との向き合い方を変えることによって、個々のモチベーションが高まり、パフォーマンスの向上が期待できるといわれています。
ジョブクラフティングの目的
ジョブクラフティングには、主に3つの目的があります
・業務との向き合い方を変えることによるモチベーションの向上
ジョブクラフティングは、働く人がやりがいを持って働けるように働き方を工夫する手法です。業務との向き合い方を変えることで、従業員のモチベーションの向上が期待できます。
・仕事の意義をとらえ直すことで、組織への愛着が高まる
ジョブクラフティングは、エンゲージメントの向上も期待できます。従業員が仕事の意義をとらえ直すことで、会社と自分を重ね合わせることができるようになり、組織への愛着が高まることが予想されます。
・社内外でのコミュニケーションを円滑にする
仕事の捉え方を工夫し、やりがいが持てるようになると、仕事で関わる人たちへの接し方も変わります。社内外でのコミュニケーションが円滑になり、良好な人間関係を築くことが期待できるでしょう。
ジョブクラフティングが注目されている背景
新型コロナウイルスのまん延、ロシアのウクライナ侵攻、地球温暖化による異常気象など、想定外の出来事が次々に起こる現代は、「VUCA(ブーカ)時代」と呼ばれています。
VUCAとは、先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態のこと。もともとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった軍事用語でしたが、昨今の社会情勢を指して、2010年代からビジネスの世界でも頻繁に使われるようになりました。
経済やビジネス、個人のキャリアに至るまで、近年はあらゆるものが複雑さを増し、将来の予測が極めて困難になっています。そのため仕事の意義や意味が感じにくくなっており、企業と従業員の信頼関係が悪化しやすい状況です。こうした状況を改善する手法として、ジョブクラフティングが注目されています。
ジョブデザインとの違い
従業員のモチベーションを上げる手法としては、「ジョブデザイン」がよく知られています。ジョブデザインとは、従業員が仕事にやりがいを見つけられるよう、企業が業務内容の見直しをする手法です。
ジョブデザインは、組織や上司が指示を与えるため従業員は受け身の立場となりますが、ジョブクラフティングは、働く人が自らやりがいを見つける手法です。ジョブデザインとジョブクラフティングは、どちらも仕事のやりがいを創出する手法ですが、主体となる存在が違っています。
ジョブクラフティングのメリット
ジョブクラフティングは、従業員の意識改革を促していく手法です。これによって企業には、どのようなメリットがあるのでしょうか。代表的な6つのメリットを見てみましょう。
離職率の低下
仕事が給与を得るための手段にすぎないとしたら、より高い収入を得られる企業があれば、従業員は転職してしまうでしょう。自社の仕事に意味や意義を見いだすことで、離職率の低下が期待できるでしょう。
仕事に対するモチベーションの向上
業務との向き合い方を見直すことで、仕事に対するモチベーションの向上が期待できます。自社の理念やビジョンに改めて共感したり、目標を具現化する従業員が増えていったりすることで、競争力の向上も期待できるでしょう。
生産性の向上
仕事に対する向き合い方が変わると、生産性も向上するでしょう。「ムリ・ムダ・ムラ」を見直す業務効率化、成果を上げるためのスキルアップ、DX化の推進など、業務改善の推進を促すことができそうです。
新しいアイデアを生み出す機会の創出
トップダウン型の組織は、上から一方的に指示・命令を下すため、従業員の主体性を育みにくくなります。従業員の自主的な行動や発想を尊重することで、新しいアイデアを生み出す機会の創出が期待できそうです。
社内コミュニケーションの活性化
働く人々が主体的に行動できるようになることで、従業員同士の交流や組織の壁を越えたプロジェクトなどが生まれやすくなります。人間関係も良好になり、社内コミュニケーションの活性化が期待できます。
従業員の働くことへの満足度の向上
従業員満足度を上げていくためには、自社ビジョンの共有や目標の具現化、従業員の意見を積極的に取り入れること、部署外の従業員とのつながりの促進などが必要となってきます。ジョブクラフティングは、これらの行動を自発的に促すことが期待できるため、従業員の働くことへの満足度の向上が期待できるでしょう。
ジョブクラフティングのやり方
ジョブクラフティングは、従業員の自主的な意識改革の手法ですが、企業側からやり方を示し、実施するよう促していくことが必要となります。ジョブクラフティングは通常、次の4つのステップでおこないます。
STEP1 業務内容をすべて洗い出す
まずは、自身の業務をすべて洗い出します。退屈な作業や「つまらない」と思っている業務など、細かいタスクも含めて、あらゆる仕事内容を書き出し一覧にします
STEP2 仕事の目的や動機、自身の強みなどの自己分析
次に、自己分析をおこないます。仕事の目的や、そもそもの動機、自身の強みなどを書き出します。現在の仕事では活かすことができていないスキルや特技なども書き出して、自分自身を改めて見つめ直します。
STEP3 仕事の捉え方の見直し
次は、自身の業務の意味や意義、会社や社会への貢献度など、仕事の捉え方の見直しをします。自分の仕事によって喜んでくれるのは誰か、どんな役に立っているのか。消費者や顧客などのエンドユーザーに限らず、経営や株主、他部署や関連会社の人々など具体的に想起し、自身の業務を広い視点で見つめ直します。
STEP4 仕事の内容や方法と人間関係の見直し
最後に、仕事の内容や方法と人間関係の見直しをします。退屈に思える作業でも誰かの役に立っているのではないか、「つまらない」と思っている仕事でも、自身の強みを活かすことで「面白い」仕事にできるのではないか。もっと工夫をすることで、成果が上がるのではないか。誰かと組んだり、自身のアイデアを活かしたりすることで楽しい仕事にできるのではないか。このような柔軟な視点で、すべての仕事をとらえ直します。
「こうしたらもっと良くなる」「誰かの役に立つ」「喜んでくれる人が増える」などとワクワクしてきたら、準備は完了です。これらを実施することで、日々の業務にやりがいを感じられるようになるかもしれません。
ジョブクラフティングの研修例
ジョブクラフティングを推進していくためには、企業側で研修やワークショップを用意する必要があるでしょう。ジョブクラフティングの研修で実施するプログラムの一例を紹介します。
ジョブクラフティングの研修プログラム例 | |
①ジョブクラフティングの基本知識や事例の学習 | ジョブクラフティングに関する基礎知識や具体的な事例の学習をする。 ジョブクラフティングの3分類「仕事のやり方の工夫」「周りの人への工夫」「考え方の工夫」を伝え、理解を深める。 |
②グループワーク | 退屈に感じる作業を例に用いて、「仕事のやり方の工夫」「周りの人への工夫」「考え方の工夫」によって「やりがい」が持てるか話し合う |
③各自でジョブクラフティング計画を設計 | 各自で日常業務を振り返り、「仕事のやり方の工夫」「周りの人への工夫」「考え方の工夫」の3つの視点でジョブクラフティング計画を設計する。 |
参考:ジョブクラフティングの3分類
ジョブクラフティング研修では、仕事の見直し方を「仕事のやり方の工夫」「周りの人への工夫」「考え方の工夫」の3つに分類して伝えると、従業員にも理解されやすく、計画も設計しやすくなります。
分類 | やること | 具体例 |
仕事のやり方の工夫 | 業務内容の充実や、作業がやりやすくなるような、仕事のやり方の工夫 | ・ムリ・ムダ・ムラの見直し ・To doリストの作成 ・自分の勉強時間を確保する |
周りの人への工夫 | 周りの人との関わり方を調整することで、自分の働きやすさや仕事のやりがいを高める工夫 | ・先輩や同僚に自ら相談する ・他部署の人の話を聞く ・お客様と積極的に関わる |
考え方への工夫 | 自社のビジョンや理念、自身の仕事の意味や意義、働く動機や目的などを改めて考える | ・仕事の目的とは何か改めて振り返る ・自社の仕事が社会に与える意味を考える ・自分の仕事が組織に意義をとらえ直す |
ジョブクラフティングの注意点
ジョブクラフティングの成果を上げていくためには、自社の体制や考え方も見直すことが重要となります。ジョブクラフティングを実施するうえで注意すべき4つのポイントを紹介します。
従業員の自主性を尊重し、主体性を発揮できる機会をつくる
ジョブクラフティングの成果を上げるためには、従業員の自主性を尊重し、主体性を発揮できる機会を設けることが必要です。「仕事にやりがいを見つけましょう」と伝えるだけで、従業員が考えたアイデアをすべて却下したり、上から「あれやれ」「これやれ」と命令・指示をしてしまったら、従業員のモチベーションは上がりません。「やらされ感」をなくしていくためには、上意下達の組織構造を見直す必要があります。
仕事が属人化しないようフィードバックの機会を設ける
ジョブクラフティングは、仕事が「属人化」してしまう可能性があります。属人化とは、特定の従業員が担当している業務内容や進め方が当人以外にはわからなくなってしまうこと。企業としては、特定人物に依存することなく仕事を遂行でき、業務品質の担保や生産性の向上を図る「標準化」を目指す必要があります。仕事が属人化しないようフィードバックの機会を設け、組織力の向上も図れるように注意しましょう。
チームワークが重要な業務においては効果が発揮されにくい
ジョブクラフティングは、個人としてのやりがいを獲得するための手法です。そのためチームワークが重要な業務では、効果が発揮されにくくなります。例えば、工場の製造ラインの仕事において、従業員の個性や多様性を重視してしまったら、協調性が失われ、業務が通常におこなわれなくなってしまうかもしれません。ジョブクラフティングを活かすべき業務や場面を見極め、適切な指導・運用をすることも重要となります。
従業員の目標や仕事を見つめ直した結果を共有できる場を設ける
ジョブクラフティングの効果を発揮するためには、他の業務と同様にPDCAを回していくことが必要です。従業員の目標や仕事を見つめ直した結果を共有できる場を設け、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)のサイクルを繰り返しおこなうことで、ジョブクラフティングはより高い効果が期待できます。研修やセミナーを定期的に開催するなど、個々の成果をシェアし、より良く改善していきましょう。
まとめ
「企業は人なり」という言葉があるように、従業員のモチベーションの向上は、会社の業績アップにもつながります。とはいえ「やる気を出せ」と命令するだけでは、従業員のモチベーションは上がりません。
ジョブクラフティングは、従業員が自発的にモチベーションを上げるための手法です。適切に運用することで、パフォーマンスやエンゲージメント、人間関係の改善による組織力の向上など、さまざまなメリットが期待できます。従業員の定着率アップや生産性の向上のためにも、実施してみてはいかがでしょうか。
ライタープロフィール
鈴木にこ(ライター)
求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。派遣・新卒・転職メディアの編集協力、ビジネス・ライフスタイル関連の書籍や記事のライティングをおこなう。