手当にはどのような種類がある?各種支給要件や税金、注意点を解説
企業に所属する社員に対して、基本給とは別に「手当」が支給されるのが一般的です。手当には法律で支給が義務付けられているものや、企業が任意で支給しているものまで、さまざまな種類があります。本記事では、給与の内訳の仕組みや手当の種類と支給要件、税金の扱いなどを紹介します。
目次
手当とは
「手当」という言葉は、さまざまな場面で使われます。たとえば、児童の保護者に支給される児童手当、病気やケガで会社を休んだときに受ける傷病手当金のように、金銭が支給されるときに「手当」が用いられるのが一般的です。
今回の記事では、企業に所属する社員に対し、基本給とは別に支給される手当について解説していきます。この手当には、法律で支給が義務付けられている残業手当や休日手当といった法定の手当のほか、企業が任意で支給している手当があります。これらの手当の具体的な内容については、後ほど詳しく解説します。
給与の内訳の仕組み
まず、会社が社員に支払う給与の内訳についてご紹介をします。給与は大きく、「基本給」と「手当」の2つに分かれます。まずは、それぞれの違いを押さえておきましょう。
基本給
基本給という言葉は、一般的に手当を含まない給与のことを指します。厚生労働省の調査によると、基本給は仕事の内容や責任度合いをはじめ、業績・成果や年齢、勤続年数など、さまざまな要素を考慮して決められています。基本給の設定や昇給の時期は、企業ごとに異なります。
手当
基本給が、企業で働く人すべてに支払われるのに対し、手当は条件を満たす人にのみ支払われます。同じ会社に勤めている人であっても、その働き方や家族構成などによって受け取れる手当に差が出るのが一般的です。
法定の手当と企業ごとの手当
そして、手当には、法律で支給が義務付けられているものと、企業が任意で支給しているものがあります。
・法定の手当
法定の手当は、労働基準法に定めがあり、残業手当や深夜残業手当など、所定労働時間外に労働をした場合に支給されるものになっています。時間外労働をしたにもかかわらず手当を支給しない企業に対しては、労働基準監督署が監督指導を行っています。
・企業ごとの手当
一方、法定の手当以外の手当は、法律に定めがないため企業が必ず支払う必要はありません。しかし、社員の待遇向上や採用力の強化などさまざまな目的のために、多くの企業はさまざまな手当を設けています。たとえば、社員の健康増進を目的として非喫煙者に手当を支払う、勤続年数が一定に達すると手当を支払う、といった企業があります。
手当の種類と支給要件
ここからは、法定手当と諸手当に分け、主な種類と支給要件を紹介します。
法律で支給が義務付けられている法定の手当
■残業手当
労働基準法では、原則として1日8時間、1週40時間を法定労働時間と定めています。この法定労働時間を超えて労働させる場合、企業は割増賃金を支払う必要があり、これを一般的に残業手当といいます。残業手当は、通常の1時間あたりの賃金の125%以上にすることが義務付けられています。
■深夜残業手当
午後10時から翌日午前5時までの間に労働させることを深夜労働といいます。深夜労働を行った場合、企業は通常の賃金の125%以上の割増賃金を支払わなくてはいけません。この場合の割増賃金が、深夜残業手当です。
■休日出勤手当
休日労働を行った場合、通常の賃金の135%以上の割増賃金が休日出勤手当として支払われます。労働者を雇用する企業は、原則として週に1日以上の法定休日を設けなくてはいけません。この法定休日に仕事をするときは、休日出勤手当の対象になります。
企業が任意で支給する手当の一例
ここからは、法定の手当ではないものの、一般的に企業で取り入れられている手当の一部をご紹介します。これらの手当の金額などは企業によって異なりますが、基本的なルールを理解しておきましょう。
■通勤手当
通勤手当は、会社に通勤する際の交通費に対して支払われるものです。たとえば、社員が支払った通勤定期代や自動車通勤の実費などが通勤手当として補塡(ほてん)されます。なお、新幹線や特急を利用する場合など費用が通常より高くなる場合、一定の制限が設けられるのが一般的です。
通勤手当は法定手当のように思われるかもしれませんが、労働基準法で支給が義務付けられているわけではありません。しかし、一般的な企業では就業規則に通勤手当の定めを設けており、社員の通勤に自己負担が発生しないようにしています。
<参考記事>
通勤手当とは? 非課税・課税のルールや計算方法、支給までの流れを解説
■役職手当
役職手当は管理職手当などとも呼ばれ、役職ごとの責任の重さに着目して支払われます。どの役職に就くと役職手当が支給されるのかは企業によって異なります。
■職務手当
職務手当は、職務の責任や難易度などに応じて支払われる手当です。役職手当と似ていますが、役職によらず支給される点が違います。職務手当によって、難しい業務に対する社員のモチベーションアップが期待できます。
■危険手当
企業によっては、ケガなどの危険をともなう業務があります。そうした業務を行う場合に支払われるのが危険手当です。実際に仕事中にケガなどをすれば労災保険で補償を受けられますが、危険手当はケガなどの有無にかかわらず、特定の業務に従事すれば支払われます。
■住宅手当
住宅手当は住居費に対する補助として支払われる手当です。家賃の一部や持ち家の購入代金の一部など、支給のルールはさまざまです。また、「会社から3km以内に住む場合は家賃補助を行う」といった住宅手当が支払われることもあり、「近距離手当」などと呼ばれます。
■家族手当
家族のいる従業員に対して支払われる手当で、通常は扶養親族の人数に応じて金額が決まります。配偶者や第一子、第二子など、家族の構成によって手当の金額に差が設けられるのが一般的です。夫婦共働きの場合は、どちらか一方のみが家族手当を受け取れるのが基本となります。
■資格手当
職務に必要な資格を取得した場合や、資格取得のスクールに通う場合などに支給されます。従業員の資格取得へのインセンティブを高めることを目的とする手当です
手当の税金の扱い
法定手当か任意の諸手当かにかかわらず、手当は課税対象のものと非課税扱いのものに区分されます。基本的なルールを説明します。
課税対象の手当
上記で挙げた手当は原則として給与所得とみなされ、所得税、住民税の課税対象になります。したがって、手当を多く支給されると、それだけ税金が高くなります。次に説明する非課税対象の手当以外は、税金がかかるものと考えておきましょう。
非課税対象の手当
実費に対する清算または補充の必要がある以下のような手当は、所得税と住民税が非課税扱いになります。
■一定金額以下の通勤手当
交通機関の運賃や定期代などとして支給される通勤手当は、1ヶ月あたり150,000円が非課税の上限です。またマイカー通勤の場合は、その通勤距離に応じて上限が変動し、最大で月額31,600円までが非課税になります。
なお、交通機関で通勤をする場合、「合理的な通勤方法」でなくてはならない点に注意してください。たとえば、電車で通えば月10,000円で済むのに、タクシー通勤で月150,000円を負担したような場合、タクシー代金は全額非課税になりません。もしも深夜勤務などでタクシーしか交通手段がないのであればタクシー代でも非課税です。
■一定金額以下の宿直、日直手当
会社の指示を受けて、会社の見回りや緊急電話対応などを行うことがあります。こうした労働を日中に行うことを日直といい、宿泊して行うことを宿直といいます。
日直や宿直を行ったことにより手当をもらうと、「1回あたり4,000円」が非課税です。ただし、日直・宿泊のために食事が出る場合は、非課税限度は4,000円から食事代を引いた金額になります。また、日直・宿直を行ったあとに代休が設けられるときなど、一定の場合には非課税にならないので注意してください。
■必要と認められる範囲内での転勤や出張などに支給される手当
転勤や出張をするとき、交通費などの費用がかかります。こうした実費のために支給される手当は、「通常必要とされる金額」を限度として非課税です。また、出張の場合は、実費よりも高い金額が「日当」として払われることがありますが、この日当も非課税扱いになります。ただし、会社の旅費規定に日当に関するルールがあり、その旅費規定に基づいて精算手続きを行うことなどが必要です。
■一定の要件を満たす学資金
従業員に対して学資金を手当として支給する場合があります。この場合、「給与に加算して支給されたもの」「役員などと特別な関係がないこと」を条件として非課税扱いです。たとえば、会社が社長の子どもの学資を支払うような場合、非課税にはなりません。
手当の注意点
企業が手当を支給するときに、気をつけなくてはならない点がいくつかあります。
労働条件通知書や就業規則に記載
まずは、手当は賃金に関する重要事項ですから、あらかじめ条件などを労働条件通知書や就業規則に記載しなければいけません。労働基準法では、従業員に支払う賃金の計算方法などを就業規則に記載することが義務付けられており、この賃金には手当も含まれます。つまり、従業員に対して手当の情報をオープンにする必要があるのです。
ただし、就業規則に手当のルールを定めるときは慎重に考える必要があります。一度導入した手当をあとから減額するのは労働条件の不利益変更となるからです。労働契約法では、原則として不利益変更は認められません。会社の状況などによっては不利益変更が認められるケースはありますが、手当は簡単に減額できないことは認識しておきましょう。
特に気をつけたい届け出と税金の取り扱い
手当のうち、特に気をつけたいのが、残業手当などの法定手当です。法定の手当は時間外労働や休日労働、深夜労働に対して割増運賃を支払うものです。この時間外労働については、労働基準法第36条に定める労使協定(いわゆる「36協定」)の制限を受けます。時間外労働を行う業務の種類や上限などを、あらかじめ労使間で定め、所轄の労働基準監督署長に届け出を行わなくてはなりません。
次の注意点は税金の手続きに関するものです。手当を支給するときは、課税対象であるか非課税対象であるかを間違えないよう注意しましょう。本来は課税対象であるにもかかわらず非課税として処理をしていた場合、年末調整のやり直しなどの手間がかかってしまいます。
まとめ
今回の記事では、手当の基本的なルールを解説しました。手当の支給は社員のモチベーションに大きく影響を与えるものです。法律や支給条件などに注意しつつ、企業の状況に合った最適な手当の支給をおすすめします。
《ライタープロフィール》
小林義崇(ライター/元国税専門官)
2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、相続税調査や確定申告対応などに従事。2017年にフリーライターに転身。著書に「すみません、金利ってなんですか?」(サンマーク出版)、「イラスト図解 絶対トクする! 節税の全ワザ」(きずな出版)などがある。