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採用における助成金にはどのような種類がある?申請の手順や制度を利用できないケースを紹介

採用における助成金にはどのような種類がある?申請の手順や制度を利用できないケースを紹介

企業が業界内の競争に打ち勝ち、成長し続けるためには、優秀な人材をどれだけ獲得できるか、ということが重要な課題です。一方で、採用に対して、十分な費用をかけることができなければ、その課題を解決することは難しくなるでしょう。
人材採用における助成金は、国や自治体などが各企業に対して、人材確保にかける費用の一部または全額を助成する制度です。そのため、自社に見合った助成金制度を活用することで、採用にかかる費用を抑えることが可能となります。
本記事では、採用における各助成金の概要と、助成金を受けるまでの流れについて解説していきます。積極的な採用活動をおこなうためにも、自社に活用できそうな助成金を検討しながら、ご覧ください。

採用の助成金とは

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助成金とは、返済の必要がない支援金のことで、多くの場合は、国や自治体などから支給されます。助成金のうち、人材採用における助成金は、企業が人材確保にかける費用の一部または全額を助成する制度で、その多くは厚生労働省によって管理されています。

ただし、助成金を受け取るためには、要件を満たしたうえで、所定の方法による申請が必要です。また、目的に応じたさまざまな助成金が用意されているため、概要を確認したうえで、自社の採用・雇用の状況に合った制度を選択することが大事です。

ここからは人材採用における助成金の概要を紹介していきます。どのような助成金であれば、自社で活用できそうかどうか、検討してみてください。

採用における助成金の種類

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採用の助成金の種類をそれぞれ紹介します。

雇用関係を維持するための助成金

・雇用調整助成金
雇用調整助成金は、経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度です。
《参考サイト》
雇用調整助成金|厚生労働省

・産業雇用安定助成金
産業雇用安定助成金は、新型コロナの影響を受けている企業が、在籍型出向によって従業員の継続的な雇用に努めた場合に利用できる制度です。コロナ禍での雇用維持促進を目的として、2021年から新設されました。出向元・出向先の双方に対し、賃金や経費の一部が助成されます。
《参考サイト》
産業雇用安定助成金|厚生労働省

再就職の支援に関する助成金

・労働移動支援助成金(再就職支援コース)
事業の規模を縮小するなど、やむを得ない理由で離職させる従業員に対して、再就職を支援した場合に利用できる助成金です。「職業紹介事業者への委託」や「求職活動に専念するための休暇付与」などが助成の要件となります。
《参考サイト》
労働移動支援助成金(再就職支援コース) (mhlw.go.jp)

・労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)
「再就職援助計画」「求職活動支援書」の対象者を、離職の翌日から3ヶ月以内に雇用した企業が助成対象です。なお、助成を受けるには、無期雇用の従業員として雇用する必要があります。
《参考サイト》
労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)|厚生労働省

中途採用の拡大支援に関する助成金

・中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース) 
中途採用の拡大を目的として、雇用管理制度を整備した場合に利用できます。具体的には、労働条件や人事評価、福利厚生などの整備が対象となります。
《参考サイト》
中途採用拡大コース|厚生労働省

・中途採用等支援助成金(UIJターンコース)
東京圏からの移住者を採用した企業に、採用経費の一部を助成する制度です。「採用活動の計画書作成・認定」や「所定のマッチングサイト経由で応募した労働者」など、助成を受けるためにはいくつかの要件があります。
《参考サイト》
UIJターンコース|厚生労働省

求職者の雇い入れに関する助成金

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求職者の雇い入れに関する助成金には、「特定求職者雇用開発助成金」と「トライアル雇用助成金」「地域雇用開発助成金」の3種類があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

1)特定求職者雇用開発助成金
・特定就職困難者コース
ハローワークの紹介により、特定就職困難者を継続的に雇用する場合に利用できる制度です。「特定求職者」とは、年齢や障害の有無などにより、就業機会の確保が難しい労働者をいいます。
《参考サイト》
特定就職困難者コース|厚生労働省

・生涯現役コース
ハローワークなどの紹介により、65歳以上(雇入れ日の満年齢)の労働者を雇用する場合に利用できる助成金です。ただし、1年以上雇用することが確実でなければいけません。
《参考サイト》
生涯現役コース|厚生労働省

・被災者雇用開発コース
東日本大震災による被害を受けた労働者の雇用にあたって利用できる助成金です。具体的には、ハローワークなどの紹介により、所定労働時間20時間/週の労働者を雇用する場合に対象となります。
《参考サイト》
被災者雇用開発コース|厚生労働省

・発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
発達障害者や難治性疾患患者を雇用する際に利用できる助成金です。事業主には、雇用した従業員に対する配慮事項をハローワークに報告する義務があり、雇用から6ヶ月後にはハローワーク職員による現場確認があります。
《参考サイト》
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース|厚生労働省

・就職氷河期世代安定雇用実現コース
就職氷河期(一般的には1993年~2005年)に就業機会に恵まれず、キャリアを形成できなかった労働者を正規雇用する際に支給される助成金です。雇用する労働者は、雇用開始日以前1年間で、正規雇用の経験がないことが要件です。
《参考サイト》
就職氷河期世代安定雇用実現コース|厚生労働省

・生活保護受給者等雇用開発コース
ハローワークや自治体から通算3ヶ月以上の支援を受けている者を雇用する場合に支給されます。対象となる労働者は、自治体からハローワークなどに就労支援の要請があった、生活保護受給者や生活困窮者に限ります。
《参考サイト》
生活保護受給者等雇用開発コース|厚生労働省

・成長分野人材確保・育成コース
デジタル・グリーン分野及びこれに関連する分野(以下、成長分野等)の業務に従事させる事業主が、就職困難者を継続して雇用する労働者として雇い入れ、人材育成や職場定着に取り組む場 合に、特定求職者雇用開発助成金の他のコースより高額の助成金を支給します。
《参考サイト》
特定求職者雇用開発助成金(成長分野人材確保・育成コース) |厚生労働省 (mhlw.go.jp)


2)トライアル雇用助成金
・一般トライアルコース
職業経験やスキルなどを理由に就職が困難な求職者を、ハローワークなどの紹介によりトライアル雇用した場合に利用できる助成金です。なお、トライアル雇用は原則3ヶ月とし、1ヶ月単位で助成金が給付されます。
《参考サイト》
一般トライアルコース|厚生労働省

・ 障害者トライアルコース、障害者短時間トライアルコース
障害者トライアルコースは、就労経験のない障害者や、離職期間が6ヶ月以上の障害者を雇用する場合などに利用できるコースです。短時間トライアルコースは、3ヶ月~12ヶ月の期間にわたって、障害者をトライアル雇用した場合に利用できます。
《参考サイト》
障害者トライアルコース・短時間障害者トライアルコース・|厚生労働省

・新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース、新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコース
新型コロナウイルスの影響を受けた労働者の雇用機会を確保するために、2021年から新設されたコースです。コロナの影響でやむを得ず離職し、「離職期間が3ヶ月以上」かつ「未経験の職業に就く」労働者を雇用する場合に利用できます。ただし、トライアル雇用後に無期雇用に転換する前提での採用が要件です。
《参考サイト》
新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース・新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコース|厚生労働省

・若年、女性建設労働者トライアルコース
建設業の中小企業が、35歳未満の若手労働者や女性労働者をトライアル雇用する場合に利用できるコースです。トライアル期間は最大3ヶ月とし、建設工事の現場作業に従事させる必要があります。
《参考サイト》
若年・女性建設労働者トライアルコース|厚生労働省


3)地域雇用開発助成金
 ・地域雇用開発コース
「同意雇用開発促進地域」や「過疎等雇用改善地域」など、就業機会の確保が難しい地域の企業を対象とした助成金です。雇用に向けた施設・設備の整備、対象労働者によって助成金額が上がります。
《参考サイト》
地域雇用開発コース|厚生労働省

 ・沖縄若年者雇用促進コース
沖縄県における事業所の設置や整備にあたって、県内に住む35歳未満の労働者を雇用する場合に利用できる助成金です。
《参考サイト》
沖縄若年者雇用促進コース|厚生労働省

採用の助成金の申請方法と支給条件

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採用の助成金の申請方法と支給までの流れ、支給を受けるための条件を紹介します。

採用の助成金の申請方法

(1)申請の計画を立てる
まず、円滑に申請作業を進めるためにも、事前に計画を立てることが大切です。特に、採用にかかる助成金には多様な種類があるため、申請する助成金の種類に応じた申請手順を確認する必要があります。期限内に適切な申請をするためにも、助成金の種類を問わず事前に計画を立てておきましょう。

(2)ハローワークに計画を申請する
次に、助成金の種類に応じて作成した申請計画は、基本的に労働局かハローワークに提出します。

(3)取組みを実行する
そして、計画提出後は、その計画通りの取り組みを実行します。

(4)助成金を申請する
最後に、計画書にある取り組みを実行後、ハローワークか労働局に助成金の申請をおこない、審査を通過すれば助成金が支給されます。

採用の助成金の支給条件

助成金の申請方法は上記のとおりですが、その前提として、次の(1)~(3)すべての要件を満たす必要があります。

(1)雇用保険適用事業所の事業主であること
助成金は、企業が支払っている雇用保険の一部が財源になっています。したがって、労働者を1人でも雇っている事業主の方は、個人法人関係なく、雇用保険の加入手続きが必要となります。新規で労働者を雇用した場合、ハローワークにて雇用保険の被保険者資格取得の届出をおこなう必要があります。

(2)支給のための審査に協力すること
公的な資金を活用するため、申請した内容で適切に実施されているかどうかの審査がおこなわれる場合があります。そのため、万が一の審査に対応するためにも適切に書類管理をおこなっておく必要があります。具体的には、次の3点について対応ができるようにしておきましょう。
① 支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等を整備、保管すること
② 支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等の提出を、
    管轄労働局から求められた場合に応じること
③ 管轄労働局等の実地調査をおこなうこと

(3)申請期間中に申請をおこなうこと
当然のことですが、申請期間内に申請をおこないましょう。申請期間をすぎて申込をしても受付はしてもらえません。また、自治体によっては、書類提出方法が「郵送」のみ、または「持参」のみという場合もあります。持参のための事前受付予約が必要な場合もあるため、申請書類は余裕を持って提出しましょう。

採用の助成金制度を利用できないケース

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次の(1)~(9)いずれかに当てはまる事業主の方は、採用に関する助成金の受給ができませんので注意が必要です。主に、法律に抵触する行為や、公序良俗に反する行為、加えて反社会的勢力に関わっている場合などが対象となります。

(1)
平成31年(2019年)4月1日以降に雇用関係助成金を申請し、不正受給による不支給決定又は支給決定の取り消しを受けた場合、当該不支給決定日又は支給決定取消日から5年を経過していない事業主

なお、支給決定取消日から5年を経過した場合であっても、不正受給による請求金を納付していない事業主は、納付日まで申請できません。

(2)
平成31年(2019年)4月1日以降に申請した採用に関する助成金について、申請事業主の役員等に他の事業主の役員等として不正受給に関与した役員等がいる場合

この場合も、他の事業主が不支給決定日又は支給決定取消日から5年を経過していない場合や支給決定取消日から5年を経過していても、不正受給に係る請求金を納付していない場合は、申請できません。

(3)
支給申請日の属する年度の前年度より前の、いずれかの保険年度の労働保険料(雇用保険料)を納入していない事業主

ただし、支給申請日の翌日から起算して2ヶ月以内に、滞納分が精算されれば問題ありません。

(4)
支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、労働関係法令の違反があった事業主

(5)
性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれら営業の一部を受託する営業をおこなう事業主

(6)
事業主又は事業主の役員等が、暴力団と関わりのある場合

(7)
事業主又は事業主の役員等が、破壊活動防止法第4条に規定する暴力主義的破壊活動をおこなった又はおこなう恐れのある団体に属している場合

(8)
支給申請日、または支給決定日の時点で倒産している事業主

(9)
不正受給が発覚した際に都道府県労働局等が実施する事業主名等の公表について、あらかじめ同意していない事業主

上記は事業主の共通の要件ですが、そのほかにも、助成金ごとに「就業規則に新たな規定を盛り込み、労働基準監督署へ提出すること」「対象者を社会保険(雇用保険)被保険者として適用させていること」など、個別要件がある場合もあるため、募集要項は細部まで読みこみましょう。

《参考サイト》
厚生労働省:各雇用関係助成金に共通の要件等

まとめ

これまで紹介してきたとおり、採用における助成金を活用することで、人材確保に要する費用を抑えることが可能です。

助成金の申請に際しては、希望する助成金の申請手順を確認したうえで、労働局かハローワークに計画書を提出したうえで、その計画を実行します。そのあと、助成金の申請をおこない、審査で承認を受けることができれば助成金を受け取ることができます。

ただし、法律に抵触する行為や、公序良俗に反する行為をおこなった場合、加えて反社会的勢力に関わっている場合などについては、採用に関する助成金の受給ができませんので注意が必要です。

制度内容にかかる詳細の確認に手間がかかる一面もあるかもしれませんが、このコラムを参考に、採用にかかる助成金の活用を検討してみてください。

ライタープロフィール
Toru(ライター)
MBA予備校や転職メディア向けのブログ、コーチング本など、主にビジネス系の書籍や記事のライティングを行う。