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社会保険の適用拡大でどう変わった? 2022年改正のポイントやメリットデメリットを紹介

社会保険の適用拡大でどう変わった? 2022年改正のポイントやメリットデメリットを紹介

社会保険は、疾病や負傷、老齢、障害、死亡、失業等に対して、必要な保険給付をおこなう公的な保険制度です。一定の加入条件を満たした企業には、社会保険加入の義務があり、適用範囲となる企業や従業員、適用業種には随時改正がおこなわれています。

本記事では、2022年10月の社会保険の適用拡大に伴う影響や拡大への対応に加え、企業、従業員のメリット、デメリットなどについても詳しく紹介しているため、ぜひ参考にしてください。

社会保険の適用事業所

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健康保険や厚生年金保険などの社会保険については、次のいずれかに該当する適用業種の企業であれば、強制適用事業所として社会保険への加入が義務付けられています。

・適用業種である事業の事業所であって、常時5人以上の従業員を使用するもの
・国、地方公共団体又は法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの

また原則すべての業種の加入が義務付けられている労災保険や雇用保険と異なり、社会保険には、個人事業主の場合に非適用となる業種があります。非適用となる業種は次の通りです。

・農林業、水産業、畜産業等の第1次産業の事業
・理美容店、エステ等の理美容事業
・映画の制作又は映写、演劇等の興行の事業
・旅館、料理、飲食等の接客娯楽の事業
・神社、寺院、教会等の宗教の事業
・ 弁護士、弁理士、公認会計士等の法務の業務

参考:日本年金機構「適用事業所と被保険者」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150518.html

2022年10月の改正により、弁護士、弁理士、公認会計士等の法務の業務も適用業種になるなど、企業の規模だけでなく、業種という面でも社会保険の適用範囲は拡大されています。

社会保険の適用拡大とは

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正社員と異なり、アルバイトやパートなどの短時間労働者は、原則として社会保険に加入しませんが、一定の規模要件を満たした企業で働く短時間労働者であれば、社会保険へ加入する可能性があります。

2022年10月に社会保険の適用拡大がおこなわれ、事業所の規模要件や加入対象となる従業員の要件が緩和され、これまでより小規模な企業で働く短時間労働者であっても社会保険に加入できることになりました。

社会保険の加入条件

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一定の要件を満たした短時間労働者が、社会保険の加入対象となる企業のことを特定適用事業所と呼びます。現在の特定適用事業所は、適用事業所であって、使用される従業員数が、直近1年のうち6ヶ月以上500人を超えることを要件としています。

また1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上という要件を満たす短時間労働者であれば、特定適用事業所であるか否かを問わず、社会保険に加入することになります。しかし4分の3要件を満たさない短時間労働者の場合には、特定適用事業所に使用され、一定の要件を満たす必要があります。

2022年10月の改正では、対象となる短時間労働者についても、これまで必要であった1年以上の雇用見込みが2ヶ月以上の雇用見込みに変更される予定です。そのため、2022年10月からの社会保険加入要件は次のようになります。

・1週間の所定労働時間が20時間以上であること

実際の労働時間が2月連続で20時間以上となり、引き続き同様の状態が続くか、続く見込みである場合は、実際の労働時間が20時間以上となった月の3月目から社会保険の適用を受けます。

雇用契約や就業規則で、1週間の所定労働時間が20時間未満と定められている場合でも適用を受けることがあることに注意してください。

・ 同じ企業に継続して2ヶ月以上雇用される見込みがあること

2ヶ月以上の雇用見込みは施行日時点で判断します。また当初は2ヶ月以上の雇用見込みがなかった場合でも、継続して2ヶ月以上の雇用が見込まれることになった時点で社会保険の適用を受けることになります。

雇用契約が2ヶ月未満であっても、更新する旨明示されている場合や、同様の労働契約で更新した実績があれば適用対象となります。これは現行の1年以上の雇用見込みにおいても同様の考え方です。

・賃金月額が88,000円以上であること

賞与や時間外割増賃金、深夜割増賃金、休日割増賃金は含みません。また慶弔見舞金等の臨時に支払われる賃金や精皆勤手当、通勤手当、家族手当も除外して計算します。

・学生でないこと

学校教育法に規定する高等学校の生徒、大学の学生などの昼間学生は社会保険に加入することができません。これに対して夜間部の大学生や定時制の学生、休学中の学生などは要件を満たせば、社会保険の適用を受けることになります。また卒業見込み証明書を持ち、在学中に就職をして、卒業後も同じ企業で働く予定の学生も適用対象です。

参考:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.html

参考:日本年金機構「短時間労働者に関する健康保険・厚生年金保険の適用拡大に関するQ&A集」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.files/04.pdf

社会保険の適用拡大の対象企業

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社会保険の適用拡大の対象企業について説明します。
まず、常時500人を超える従業員を使用している企業には、2016年の改正により既に社会保険の適用が拡大されています。また、2022年10月からは、特定適用事業所の規模要件が500人超から100人超に変更され、大幅に社会保険の加入対象となる短時間労働者が増える見込みです。

そして、2022年10月の改正に続き、2024年10月からは常時50人を超える従業員を使用している企業にも社会保険の適用が拡大される予定です。現在の500人超に比べると10分の1の規模の企業にまで、社会保険の適用が拡大されることになるため、対象となる企業は非常に多くなります。そのため、パートやアルバイトなど短時間労働者を使用する企業にとっては、2024年を見据えた対応が必要となってきます。

社会保険の適用拡大のメリット、デメリット

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社会保険の適用拡大には、企業と従業員それぞれにメリット、デメリットが存在します。企業にとっては、福利厚生のアピールができることがメリットであり、従業員にとっては保障が手厚くなることなどがメリットとしてあげられます。デメリットとしては企業、従業員ともに保険料の負担が増加することが大きいです。

次からは、企業と従業員それぞれのメリット、デメリットについて詳しく紹介していきます。

企業のメリット

社会保険の適用拡大により、これまでより社会保険の加入対象である企業の範囲が広がります。健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険すべてに加入できる社会保険完備の企業は、そうでない企業よりも保障が手厚くなるため、求職者にとって魅力的です。

そのため、改正により社会保険の適用を受けることになる企業は、優秀な人材を集めやすくなるというメリットが生まれるでしょう。

企業のデメリット

社会保険の適用拡大は企業にとって、メリットだけでなくデメリットとなる側面もあります。企業にとってのデメリットは次の通りです。

・保険料の負担や管理コストが増える

適用拡大によって社会保険に加入することになれば、健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料を支払う必要があります。社会保険料は企業と従業員が2分の1ずつ折半して負担しており、企業の負担は従業員の給与の約15%が目安です。

適用拡大による社会保険料の負担増は、企業の経営に重くのしかかってくるため、非常に大きなデメリットとなっています。また適用拡大によって加入対象となる従業員が増加するため、これまでより社会保険料の計算や支払いなど事務的な管理コストが増加することも、デメリットの一つとなります。

・ 従業員の労働時間や労働日数が減少する可能性がある

配偶者の扶養に入っている従業員は、扶養の対象となる年収130万円以内に給与を抑えていることが多いです。しかし2022年10月の改正によって、勤め先の企業が、特定適用事業所の要件に該当する場合には、年収106万円以下が扶養対象となる要件に変更されます。

そのため、扶養に入ったまま働きたい従業員に対しては、労働時間や労働日数の減少で対応せざるを得ません。従業員の労働時間や労働日数が減少すれば、シフトの組み直しや人員配置の見直しなどをおこなう必要があり、企業にとってのデメリットとなっています。

従業員のメリット

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社会保険の適用拡大は、企業だけでなく従業員にもメリットがあります。主なものは次の通りです。

・ 保障が充実する

社会保険の適用拡大による従業員側のメリットで最大のものは、保障の充実です。公的年金は、国民年金と厚生年金の2階建てになっており、社会保険に加入することで、国民年金の基礎年金だけでなく、2階部分の厚生年金も生涯にわたり、受け取れるようになります。

老後に備える老齢年金はもちろんのこと、障害を負った時や死亡の際に支給される障害年金、遺族年金も2階建てとなるため、もしもの時の備えが手厚くなり、従業員は安心して働けるようになります。また健康保険への加入によって、病気やけがで働けない場合に支給される傷病手当金や、出産に伴う休業に対して支給される出産手当金の対象となることもメリットの一つです。

・ 扶養基準を気にせず働ける

扶養の対象となる年収基準は、130万円となっており、多くのパートやアルバイトは、この年収基準を満たすように調整して働いています。しかし、適用拡大により勤め先の企業が特定適用事業所となった場合には、年収基準を満たさなくなり扶養の対象から外れることもあり得ます。

扶養から外れることは、保険料の負担が発生することになり、デメリットの面もありますが、一方で年収基準を気にせず、これまで以上に働けるようになるというメリットにもなり得ます。

従業員のデメリット

社会保険の適用拡大は、従業員にとって保障が手厚くなるという大きなメリットとともに、次のようなデメリットもあります。

・手取り給与が下がる

企業にとっても保険料の負担は大きなデメリットですが、折半負担する従業員にとっても同様にデメリットとなっています。適用拡大後も拡大前と同様の給与であれば、当然に保険料の負担分は、手取り給与が下がることになり、特に配偶者の扶養に入っていた従業員にとって大きな影響として現れます。

・扶養対象となる年収基準が厳しくなる

既に紹介しましたが、社会保険の適用拡大により、特定適用事業所となると扶養対象となる年収基準が130万円から106万円に引き下げられます。そのため、従業員にとっては、年収を下げて扶養のままでいるか、保険料を負担するかの選択を迫られることになり、いずれを選んでも収入減につながってしまい、デメリットとなっています。

・ 国民年金の第3号被保険者でなくなる

国民年金には、自営業者などの第1号被保険者と、会社員や公務員といった勤め人である第2号被保険者の他に、第2号被保険者によって生計を維持されている第3号被保険者の3つの区分があります。第3号被保険者は自ら保険料を納める必要がなく、老齢年金も第3号被保険者であった期間分は、満額が支給されるなど、メリットが多い制度です。

しかし、社会保険の適用拡大により、厚生年金保険に加入することになると、第3号被保険者から第2号被保険者に種別が変更され、第3号被保険者のメリットを受けることができなくなってしまいます。

企業ができる社会保険の適用拡大の事前対応

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2022年10月の社会保険適用拡大により、特定適用事業所の対象がこれまでの500人超規模の企業から100人超規模の企業まで大幅に拡大することになるため、対象となる企業は、事前に対応しておくことが必要です。

具体的には、対象となる従業員をあらかじめリストアップして確認しておくことや、増加する社会保険料の負担を算出し、資金計画を立てて保険料の支払いに備えることなどがあげられます。

また、従業員に対して、社会保険適用拡大の理解を得るための説明をおこなうことも大切です。社会保険の加入条件は複雑であり、従業員が理解しているとは限りません。そのため、対象となると思っていなかった従業員から扶養対象でなくなったなどの苦情が出ないように、しっかりと制度を説明し、扶養に入ったままでいるかどうかという選択肢を与える必要があります。

まとめ

2022年10月の改正による社会保険の適用拡大は、対象となる企業が大幅に増加することもあって、企業と従業員双方に大きな影響を与えます。本記事では、社会保険の適用拡大に伴う加入条件の変更や、拡大への対応、メリット、デメリットについて紹介をしてきました。

しかし適用拡大は、企業と従業員双方にメリット、デメリットがあり、一概に良いとも悪いとも言い切れないものです。また今回の改正では、今まで加入の対象ではなかった従業員が対象となる可能性が高く、事前の対応が必要となっています。

特に、影響の大きいパートやアルバイトなど短時間労働者を多く使用している企業では、本記事で紹介した改正内容をしっかりと抑えて、適切な対応の準備を整えるようにしましょう。

ライタープロフィール
涌井好文/涌井社会保険労務士事務所代表
平成26年より神奈川県で社会保険労務士として開業登録を行い、以後地域における企業の人事労務や給与計算のアドバイザーとして活動を行う。近時はインターネット上でも活発に活動しており、クラウドソーシングサイトやSNSを通した記事執筆や監修を中心に行っている。