内定通知書とは?
応募者に内定が決まった旨を伝える方法として、内定通知書を送付する企業は多く存在します。しかし、内定通知書の送付後に内定を取り消したい場合、客観的に認められる自由がなければ取り消しできません。
内定通知書の記載内容は応募者によって変わるわけではないため、テンプレートを作成しておけば効率的に作成できます。本記事では、内定通知書の概要や法的効力のほか、応募者とやり取りする文書や内定通知書の記載内容、送付時の注意点について解説します。
目次
内定通知書とは?
内定通知書とは、応募者に自社での採用が内定した旨を伝える文書です。自社と応募者で雇用契約を締結する合意がされたことを示す目的もあります。内定通知書は必ず送付しなければならない文書ではありません。
中途採用の場合は入社までの期間が短いため、送付されないケースがありますが、新卒採用では多くの企業が送付しています。
内定通知書の法的効力
内定通知書の送付は、法的に義務づけられているものではありません。しかし、過去の判例では内定通知書を送付し応募者が受け取った時点で、企業と応募者で労働契約が成立したと認められたことがあります。
そのため、内定通知書を出した後に内定を取り消した場合、正当な理由がなければ解雇に相当し、労働契約法第16条に示されている解雇権の乱用に該当します。ただし、内定通知書や誓約書といった書類に内定取り消しが認められる事由が記載されており、応募者との間で合意があれば内定取り消しが可能です。
内定が取り消しできる事由として挙げられるのは以下のケースです。
・ 学校を卒業できなかった
・ 就労までに業務上必要とした免許や資格が取得できなかった
・ 健康を著しく害し勤務に重大な支障がでる恐れがある
・ 履歴書や誓約書に重大な虚偽の記載があった
・ 恥罪を犯した
ほかにも、客観性や合理性があり、社会通念上取り消し事由として相当であると認められるものが該当します。
参照元:裁判例検索「裁判例結果詳細 最高裁判所判例集事件番号 昭和52(オ)94」
内定通知書と採用通知書、内定承諾書、労働条件通知書の違い
企業が応募者とやり取りする文書には、内定通知書以外に以下のものがあります。
・ 採用通知書
・ 内定承諾書
・ 労働条件通知書
それぞれに役割があり、法的な効果も異なります。ここでは、それぞれの文書の概要や内定通知書との違いについて解説します。
採用通知書
採用通知書とは、応募者に採用することを伝える文書です。内定通知書との違いは、通知内容が「内定」か「採用」かです。採用通知書も内定通知書と同様に、必ず送付しなければならない書類ではありません。
そのため、内定通知書と採用通知書を兼用している場合や、採用通知書を送付しない場合もあります。企業の採用プロセスによって取り扱いが異なります。
内定承諾書
内定承諾書は、内定を得た応募者が入社することを承諾する意思を示す文書です。内定通知書が企業から応募者に送付する文書であるのに対し、内定承諾書は応募者から企業に送付します。
内定通知書を送付する際に、返信用封筒とともに内定承諾書を同封するのが一般的です。内定承諾書も内定通知書と同様に、必ず送付しなければならない書類ではありません。ただし、内定承諾書で内定する意思を示してもらうことにより、内定辞退を減らす効果が期待できます。
労働条件通知書
労働条件通知書は、内定を得た応募者に労働条件を伝える文書です。労働基準法第15条により労働条件を通知することは義務づけられており、多くの企業で、内定通知書に同封して送付したり、内定通知書に労働条件を記載したりしています。
伝える必要がある労働条件は以下のとおりです。
1. 契約期間(期間の定めの有無)
2. 就業場所や業務内容
3. 勤務時間や始業及び終業時刻、休憩時間、時間外労働の有無
4. 休暇や労働者を2組以上に分けて就業させる場合の就業時点転換に関する事項
5. 賃金の決定や計算方法、支払い方法
6. 昇給に関する事項
7. 解雇の事由を含む退職に関する事項
8. 退職手当が適用される労働者の範囲
9. 退職手当の決定や計算方法、支払い方法
10. 退職手当を除く臨時に支払われる賃金や賞与、手当
11. 労働者に負担させるべき食費や作業用品などに関する事項
12. 安全及び衛生に関わる事項
13. 職業訓練に関わる事項
14. 災害補償や業務外の疾病の扶助に関する事項
15. 表彰及び制裁に関する事項
16. 休職に関する事項
8以降については、企業側がこれらの事項に関する定めをしない場合は、明示する必要はありません。
参考:厚生労働省「採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。」
内定通知書に記載する内容
内定通知書には法的な定めがないため、記載する内容にも決まりはありません。ただし、多くの企業が内定通知書を発行しており、記載内容も共通しています。一般的に記載される内容は以下のとおりです。
・ 日付
・ 宛名
・ 差出人名
・ タイトル(内定通知書)
・ 頭語・結語
・ 挨拶
・ 応募に対するお礼
・ 内定した旨の通知
・ 同封書類の内容説明
・ 入社予定日
・ 返送書類の期限日
・ 返送書類の宛先
・ 担当の連絡先
内定式がある場合は、その旨も記載します。同封書類の枚数を記載することにより、応募者が確認できます。返送が必要な書類があれば、返信用封筒も同封すると良いでしょう。
内定通知書の例文
内定通知書に記載する内容は、応募者に限らず共通しているはずです。以下のような文章を作成し、テンプレートとして使用すれば、毎回作成する必要がなくなります。
【頭語・挨拶】
拝啓、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
【応募に対するお礼】
このたびは弊社の採用試験に応募いただき、誠にありがとうございました。
【内定した旨の通知】
厳正なる選考の結果、〇〇様の採用を内定いたしましたので、お知らせいたします。
【同封書類の内容説明】
つきましては、同封した書類をご確認いただき、必要事項の記入並びに署名、押印のうえ、期日までにご返送ください。
【挨拶・結語】
ご不明な点などありましたら、人事部採用担当の〇〇まで、ご遠慮なくお問い合わせください。
敬具
【入社予定日・返送書類の期限日・返送書類の宛先】
(記)
1. 入社予定日:〇〇年〇〇月〇〇日
2. 勤務先:〇〇本社〇〇部署
3. 雇用条件:別紙記載
4. 同封書類
〇〇1通
〇〇1通
〇〇1通
5. 返信期限:令和〇〇年〇〇月〇〇日
【担当の連絡先】
お問い合わせ先
人事部:〇〇 〇〇
電話番号:〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
Email:〇〇〇〇〇〇@〇〇〇〇
上記の文章はあくまでもサンプルです。自社で伝えたい内容や同封する文書に合わせて、カスタマイズしましょう。
内定通知書の注意点
内定通知書を送る際の注意点として、以下の3つが挙げられます。
・ 宛先を間違わない
・ 書留で送付する
・ 10日後までに送付する
ここでは、それぞれの注意点について解説します。
宛先を間違わない
内定通知書を送る際の注意点として、宛先を間違わないことが挙げられます。内定者が複数いたり、他の応募者と名前が似ていたりした場合、宛先を間違うケースがあります。テンプレートの宛先を変更し忘れるケースもあるでしょう。
宛先を間違えることは、応募者に対して失礼にあたるだけでなく、個人情報の漏えいにもつながりかねません。応募者の人生や個人情報というセンシティブな内容を取り扱っていることを理解し、宛先を確認することが大切です。
ダブルチェックの実施や作成時にアラートを出すといった、組織として間違いに気づけるように仕組みを作ると良いでしょう。
書留で送付する
書留で送付することもポイントです。内定通知書を郵送した場合、他の郵便物にまぎれてしまうケースがあります。応募者が内定通知書が送られてきたことに気づかなかった場合、本人に入社意志があるのにもかかわらず、入社に至らない可能性もあるかもしれません。
書留で送付することにより、送達の確認ができます。内定通知書を送付した旨を、メールやSNSなどの連絡手段で伝えておくことも有効です。
10日後までに送付する
応募者は、採用結果の連絡が来なければ不安を募らせます。複数の企業に応募している場合、先に内定通知が来た企業に入社を決めてしまうこともあるでしょう。そのため、内定が決まった時点で応募者に通知することが大切です。最終試験後、10日までを目安に送付すると良いでしょう。
ただし、新卒採用の場合、卒業・修了年度の10月1日以降でなければ内定を伝えられないため、注意が必要です。
内定通知書はメールでも可能?
内定通知書の送り方には決まりはありません。そのため、近年では内定通知書をメールで送付する企業が増加しています。メールであれば、郵送よりも早く内定を伝えられるだけでなく、手間やコストも削減できます。
メールで内定通知書を送る際は、以下の点に注意しましょう。
・ メールで内定通知をする旨を応募者に事前に伝えておく
・ メールの件名は、内定通知であることがわかるものにする
・ 送信先が間違っていないか確認する
・ 開封確認リクエストを設定して送る
送信先の間違いは、メールで内定通知書を送る際に起こりがちなエラーです。特に不採用の応募者に内定通知書を送ってしまった場合、大きなトラブルに発展する可能性もあるでしょう。
メールを送信する前に、宛先が正しいかどうかを確認するといった、エラー防止対策を講じることが大切です。
まとめ
内定通知書とは、応募者に採用が内定したことを伝える文書です。必ず送付しなければならないわけではないものの、応募者の入社意思を確認するため、多くの企業が使用しています。
ただし、過去の判例では、内定通知書を応募者が受け取った時点で、労働契約が成立したと認められました。内定通知書が持つ効力を理解したうえで、採用する意思がある応募者にのみ送付する必要があります。
内定通知書に記載する内容には法的な決まりはないものの、記載すべき内容は応募者によって変わるわけではありません。効率的に内定通知書を作成するためにも、テンプレートを作成しておくと良いでしょう。
内定通知書を送る際に、よくあるエラーのひとつとして、宛先間違いが挙げられます。組織として、間違いに気づけるような仕組みを作ることが大切です。
《ライタープロフィール》
ライター:田仲ダイ
エンジニアリング会社でマネジメントや人事、採用といった経験を積んだのち、フリーランスのライターとして活動開始。現在はビジネスやメンタルヘルスの分野を中心に、幅広いジャンルで執筆を手掛けている。