医療の2024年問題とは?医師の働き方改革による影響と対策について
働き方改革は2019年から始まった取り組みで、一般企業に勤めている方であれば、その規制により働き方が変わったと感じるようになった方もいるでしょう。対して勤務医の働き方改革には、長い猶予期間が設けられてきました。
2024年4月からは勤務医に対する働き方改革が本格的にスタートしています。この記事ではこの法改正によって起こるとされている医療の2024年問題と、医療現場の課題、解決方法を紹介します。
目次
2024年問題とは
働き方改革における2024年問題の概要
働き方改革における2024年問題とは、これまで人手不足や物流・運送の増加などを理由に猶予期間が設けられてきた医療・物流業・建設業・砂糖製造業に時間外労働の上限規制が適用されることで、これまでのような運営ができず、売上・利益が減少すること、その業界に勤める方の収入が減少することによってさらに人手不足を誘発する可能性があることなどが挙げられます。
背景
医療・物流業・建設業・砂糖製造業以外の業界に向けては、2019年4月から働き方改革関連法が段階的に施行されています。少子高齢化で今後さらに労働力が減少していく日本では、これまでのような長時間労働が継続できなくなること、短時間であれば働けるシニア人材の活用、育児・介護と並行して仕事をする労働者の活用など、さまざまな人材の活用が急務であるため、働き方改革関連法を制定したという背景があります。
勤務医に対する働き方改革については、2024年4月に法改正があることは知られていたものの対応が追いつかず、先に挙げた2024年問題が今も懸念されています。
医療の2024年問題とは
現在の医療現場では、下記2つの問題が発生しています。
・人材不足の医療機関では勤務シフトの改善準備が未整備
・これまで上限が設けられていなかった勤務医に対する労働時間の上限が設定
上記問題により引き起こされる下記問題が「2024年問題」として挙げられています。
・これまで同等の医療行為を行うためにサービス残業を誘発する可能性
・搬送先がなく救急搬送が難しくなる可能性
・提供する医療の質が下がる可能性
勤務医も先ほど挙げた業界と同様に働き方改革の猶予期間が設けられてきましたが、2024年の4月からは労働時間の上限が設定されています。2024年4月以降に労働時間の上限を超えた場合は、医師からの面接指導と休憩時間の確保が義務付けられました。
医療の働き方改革実施の背景
医師の働き方改革の推進に関しては、常態化した長時間労働が背景にあります。一般企業に向けた働き方改革関連法が施行された2019年から、医師の働き方改革の推進に関する検討会が実施されていたのはご存じでしょうか。
検討会の検討事項にも医師の時間外労働の上限規制について、医事法制・医療政策において措置を要する事項が挙げられるなど、法律を整え早急に改善すべき事項と認識していることがわかります。
これらに対して早急に対応すべきという認識は、労働実態の調査から生まれたと推測されます。
平成28年度に常勤勤務医に対して実施した労働実態の調査では、「時間外・休日労働時間年1,920時間換算の医師は全体の9.7%」いることが判明しました。そして、「年1,860時間超の医師の割合の診療科別調査では、産婦人科が20.5%、救急14.1%、臨床研修医13.3%、小児科11.5%、内科10.1%」など、多くの医師が長時間の労働をしていることがわかっています。
これらの実態を受けて、医師の働き方改革は2024年4月と猶予期間を持つものの、確実に実行するために、医師の働き方改革の推進に関する検討会が開かれたと考えられます。2019年7月の初回開催から、2024年3月までの間に19回実施され、法の整備やさまざまな検討が実施されたことで、2024年4月の法改正が実現しています。
医師・看護師の働き方改革について
では、医師と看護師それぞれの働き方改革についてはどのような変化があったのか、詳しく解説します。
医師
医師については労働時間(時間外労働)の上限規制、一定の時間外・休日労働が見込まれる医師への面接指導義務化、一部を除いては休息時間の確保が義務化されました。
●労働時間の規制
時間外・休日労働の上限は、3つの水準に分けて設定されました。BやCの水準が適用されるには、医療機関が都道府県に申請をする必要があります。
• A水準 年間960時間 医療機関に雇用されている医師
• B水準 年間1,860時間 地域医療を確保するためにやむを得ず必要な場合、あるいは地域医療の確保のために派遣先の勤務も通算すると長時間労働となる場合
• C水準 年間1,860時間 医師としての技能向上のために必要な場合(臨床研修医・専攻医研修・専攻医卒業医師の技能研修などが該当)
●面接指導の義務化
月100時間以上の時間外・休日労働が見込まれる医師には、100時間以上になる前に面接指導を実施することが義務化されています。面接指導をおこなうのは管理者以外かつ面接指導実施医師養成講習会の受講修了をした医師のみで、実施しなかった場合は医療法違反となること、面接指導を実施せず月100時間以上の時間外・休日労働をさせた場合は労働基準法違反にもあたることが特徴として挙げられます。
面接指導のなかでは、該当医師の健康確保のための労働時間短縮・宿直回数の減少などの措置を講じる必要があります。これは副業・兼業先の管理者であっても、義務として発生します。
●休息時間の確保
休息時間の確保は、A水準の医師については努力義務となっていますが、B/C水準の医師に関しては休息時間の確保が義務化されています。勤務間インターバルと代償休息の2つの方法があります。
勤務間インターバルは、通常勤務の場合は次の勤務までに9時間以上のインターバルを設けること、当直の場合は18時間以上のインターバルを設けることが定められています。そのインターバル中に急な呼び出しがあって勤務をした場合は、翌月末の間に代償休息をしなければならないと決まっています。
代償休息というのは、上記勤務インターバルの間に急な呼び出しがあった場合、勤務した分の時間を翌月末までの間に付与するというものです。
●時間外労働の割増賃金率の引き上げ
医療業界の働き方改革に先立って、時間外労働の割増賃金率の引き上げが2023年4月からおこなわれています。月に60時間以上を超える時間外労働に係る割増賃金率を50%以上とするよう定められました。
これは働き方改革を始める以前の2023年から施行されているため、既に適用となっているものです。
看護師
看護師の働き方改革は2019年4月から先んじてスタートしており、時間外労働の上限が月45時間、年間360時間以内と定められています。特別な事情の場合は年間720時間位以内、月平均80時間以内、月100時間未満を守ることが義務化されました。
これらは一般企業と同じ、時間外労働上限制限ルールです。
しかし、医師が大幅に労働時間数を減らすにはタスクをシェアしなければなりません。特定行為に係る看護師の研修制度を修了している看護師については、医師の手順書に従って経口用気管チューブまたは経鼻用気管チューブの位置調整・ペースメーカの操作・管理、中心静脈カテーテルの抜去などの特定行為がおこなえるようになりました。これによって、医師の業務負担の軽減が期待されます。
医療現場における現状の課題
医療現場における現状の課題としては、時間外労働の多さと宿直・日直勤務による長時間労働が挙げられます。
時間外労働の多さ
時間外労働が多くなる理由として、年代問わず「患者対応やケア」を挙げる医師が多くいることが調査で判明しました。その他、緊急対応や事務作業などが理由に挙がることも多いです。
緊急対応(オンコール)による勤務時間外の急な呼び出しによって、勤務外の時間に呼び出されて勤務が発生するものの、代休が設定されないため長時間労働につながっていると想定されます。
宿直/日直勤務による長時間労働
また、宿直や日直勤務があることによって長時間の労働につながっているケースもあります。
宿日直には宿日直許可という特例で(労働基準法第41条第3号)労働時間規制が適用除外となるものがあります。
これは宿直や日直の間に労働があまりなく、十分な睡眠をとり得る勤務である場合とされています。しかし、睡眠がとれないまま通常勤務に戻るケースもあるため、実態としては長時間労働になっていたというケースです。
医療の2024年問題の解決にむけて
医療業界が抱える課題解決には、労働時間の管理と業務効率化が欠かせません。具体的にどう取り組んでいくべきかを紹介します。
労働時間の管理
働き方改革でも定められているように、夜勤・交代制勤務の勤務間隔を適切に管理することが重要です。医療機関と勤務医に対する実態調査では、病院側と勤務医側の取り組み認識に乖離があり、いずれも取り組み認識は病院側よりも医師側の認識が低い傾向にあることを考えると、まだまだ管理が十分とはいえない状況です。
医師にヒアリングをしつつ、適切な管理がおこなわれるよう、医療機関側が働きかける必要があるでしょう。
業務効率化
先ほど長時間労働の理由にも挙げられていた事務作業については、ICT(Information and Communication Technology)などのテクノロジー導入で改善できる可能性があります。
●事務作業のICT等のテクノロジー導入
カルテ・診断書・システムへの入力などの事務作業については、電子カルテシステムなどのICT利用で業務効率化ができる可能性が高いです。ペーパーレス化ができるだけでも、書類の管理や送付コスト、時間的なコストもなくなるため、大幅な時間短縮ができるはずです。
また、現在は地域連携が進んでいないことでアナログ対応をしなければならないケースも見られるため、地域で包括的に取り組むことも重要になってくるでしょう。
その他
その他の領域については、タスクシフティングと健康確保措置の適切な履行、国民への周知・啓発が挙げられます。
●タスクシフティング
これまで医師のみがおこなってきた業務を特定行為のように看護師へと渡す、あるいは薬剤師や医療クラークに渡すなど、タスクシフティングをしていく必要があると考えられます。
●追加的健康確保措置の適切な履行(面接指導/勤務間インターバル 等)
先に紹介した医療の働き方改革で実施が義務化されている面接指導や勤務間インターバルの適切な履行も大きな課題解決になるはずです。
どうしたら業務効率化ができるのか、それぞれの医療機関、医師が考えて取り組むことで、徐々に課題解決への道が拓けるでしょう。
●医療の働き方改革に関する国民への周知・啓発 等
医師を守る法律が適用されていること、昔のようにすべての業務を医師が担当するのではなく、看護師、薬剤師、医療クラークなどとともに仕事を分担していくことで労働時間を削減する必要があることを周知することも重要な対応です。
まずは周知することで知ってもらい、理解を促す啓発活動をおこなっていきましょう。
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001226467.pdf
まとめ
一般企業よりも長時間労働が常態化しており、人手不足により猶予期間を設けられていた医療業界ですが、2024年4月からは勤務医に向けた働き方改革が始まっています。それにより起こる2024年問題の詳細と、解決法について紹介しました。
大きく変化する必要がある領域ではありますが、医療機関・医師・看護師はもちろん、その他の医療職とも協力しながら、健康的に働ける労働環境を整え、医療現場の働き方改革を実現していきましょう。
<ライタープロフィール>
高下真美 / ライター
新卒で人材派遣、人材紹介企業に入社し、人事・総務・営業・コーディネーターに従事。その後株式会社リクルートジョブズ(現・株式会社リクルート)に転職し、営業として8年勤務後、HR系ライターとしてフリーランスへ転身。現在は派遣・人材紹介・人事系メディアでの執筆、企業の採用ホームページの取材・執筆の他、企業の人事・営業コンサルタントとして活動中。