職場のハラスメント対策はどうすればいい?対策が必要な背景や企業が必要な取り組みについて解説
「ハラスメント」とは、嫌がらせという意味を持つ言葉です。近年は、パワーハラスメント(パワハラ)やセクシャルハラスメント(セクハラ)など、職場におけるさまざまなハラスメントが問題視されています。
職場でのハラスメントが横行すると、職場での秩序を維持できず業績の低下や離職率の増加につながります。そのため、企業としては十分なハラスメント対策を講じなくてはなりません。
令和2年6月1日には労働施策総合推進法が改正され、パワハラの防止策を講じることは企業の義務となりました。
今回は、職場で起こりやすいハラスメントの種類やハラスメント対策が必要な背景などに触れたうえで、企業がハラスメント対策のために必要な取り組みについても詳しく解説します。本記事を企業としてのハラスメント対策を検討する際にご活用いただけると幸いです。
目次
職場で起こりやすいハラスメントの種類
ハラスメント行為は、嫌がらせにより相手方に不快感や苦痛を与える行為で、放置すると従業員の退職や自殺、裁判など大きな問題につながる可能性が高いです。
職場で起こりやすいハラスメントの種類には、次のものが挙げられます。
・ パワーハラスメント(パワハラ)
・ セクシャルハラスメント(セクハラ)
・ マタニティハラスメント(マタハラ)
・ その他のハラスメント
ここでは、それぞれのハラスメントの内容や具体例を解説します。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワハラとは、上司や先輩といった職場内での優越的な関係を背景として、業務における適正な範囲を超えて精神的・身体的な苦痛を与えるなど労働者の職場環境を悪化させる行為のことです。
パワハラの具体例は、次のとおりです。
・ 殴る蹴るなどの身体的なハラスメント
・ 人格を否定する、大声で怒鳴りつけるなど言葉によるハラスメント
・ 必要もないのに職場から隔離する、会議に参加させないなど、
人間関係や業務から切り離すハラスメント
・ 適切な指導もないままに新人に過大な業務を課すハラスメント
パワハラは、適切な指導との区別が難しい場面もあります。本人が指導と認識していても、行き過ぎたものであればパワハラと認定されてしまう可能性もあるため注意が必要です。
セクシャルハラスメント(セクハラ)
セクハラとは、相手方の意に反する性的な言動により、精神的・身体的な苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為のことです。
セクハラの具体例は、次のとおりです。
・ 必要ないのに、相手方の身体に触れる行為
・ 職務上の立場を利用して性的関係を強要する行為
・ 相手方の性的な事実関係を尋ねる行為
・ 職場で性的な内容の噂話をする行為
・ 職場でわいせつな内容の雑誌や画像、動画などを閲覧する行為
セクハラは、男性の上司が女性の部下に対して行うものだけでなく、女性が男性に、同性同士、部下が上司に対して行う行為も対象となります。友人同士の噂話なら許されることも、職場ではセクハラと認定される可能性があるため、職場での言動には十分に注意しなくてはなりません。
マタニティハラスメント(マタハラ)
マタハラとは、妊娠、出産、育児などを理由に解雇、降格、減給するなどの不利益な扱いをしたり、嫌がらせをしたりすることをいいます。育児をする男性に対する嫌がらせは、パタニティハラスメント(パタハラ)と呼ばれます。
マタハラの具体例は、次のとおりです。
・ 妊娠した女性社員に退職をうながす行為
・ 産休をきっかけに減給したり降格したりする行為
・ 「妊婦だと仕事が楽で良いね」などの言葉を投げかける行為
・ 男性社員の育児休暇を取得させない行為(パタハラ)
なお、妊婦に対する安全面の配慮から業務内容を変更する行為はマタハラには当たりません。
その他のハラスメント
職場で起こりやすいハラスメントには、これまで挙げた以外にも次のものがあります。
・ アルコールハラスメント(アルハラ)
職場の飲み会でアルコールを強要する行為、一気飲みさせる行為など
・ ケアハラスメント(ケアハラ)
介護を理由に減給、降格させる行為、「介護があると早く帰れて良いな」などの言葉を投げかける行為
・ 時短ハラスメント(ジタハラ)
仕事量を減らさずに残業を禁止して、業務時間外での仕事を強要する行為など
ハラスメント対策が必要な背景
企業にとってハラスメント対策が重要なのは、ハラスメントを放置すると企業に大きなダメージを与える可能性があるからです。
ハラスメントが企業に与える具体的な影響としては、次のものが挙げられます。
・ 企業イメージのダウン
・ 離職率の上昇
・ 生産性の低下
・ 訴訟リスク
職場でのハラスメントが横行すると、職場の秩序が維持できなくなり、従業員がやる気を失ったり、離職したりする可能性が高まります。ハラスメントの事実が公表されると、企業イメージのダウンは避けられず、求職者も減り、顧客や取引先からの信用も失ってしまうでしょう。
さらに、ハラスメントが法令違反や安全配慮義務違反の行為であった場合、従業員からの損害賠償請求という訴訟リスクを抱えることにもなります。
ハラスメントによる影響が大きくなれば、企業経営そのものを揺るがすほどの問題となるため、企業としては真摯にハラスメント対策に取り組む必要があるのです。
ハラスメントが起こる理由
ハラスメント対策に取り組むには、まずはハラスメントが起こる理由に目を向ける必要があります。
ハラスメントが起こる理由としては、個人の認識不足によるものと、会社の風土によるものが考えられるでしょう。
ここでは、個人によるもの、会社の風土によるもの、それぞれの理由について深掘りして解説します。
個人の認識不足によるもの
ハラスメントを行う者が自身の行為をハラスメントと認識していなければ、ハラスメントは起きてしまいます。
どのような行為がハラスメントに該当するのかを知るとともに、自分自身の行為がハラスメントに該当するか否かを客観視して判断できなければ、知らず知らずのうちにハラスメントを行ってしまう可能性があるのです。
ハラスメントに当たるか否かは、「自分なら大丈夫」と主観で判断するのではなく、客観的な基準で判断する必要があります。
会社の風土によるもの
プレッシャーやストレスの多い職場や閉鎖的な職場ではハラスメントが起こりやすいです。
業務内容や達成目標などを理由にプレッシャーやストレスの多い職場では、従業員のスキル不足や人手不足などにより特にパワハラやジタハラが起こりやすい状況にあります。
また、閉鎖的な職場では、責任者の権限が強大となる可能性が高く、権限を背景としたハラスメントが起こりやすいです。
企業がハラスメント対策に必要な取り組み
ハラスメント対策に取り組むには、個人個人のハラスメントについての理解を深めるとともに、ハラスメントが起こりにくい会社風土・組織を構築する必要があります。
法律では、令和2年6月1日の労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などの改正により、職場での各種ハラスメントを防止するための措置を講ずることが義務付けられました。
具体的な対策としては、次の事項が挙げられます。
・ ハラスメント指針の理解・周知
・ 相談窓口の設置
・ 社内研修の実施
ここでは、それぞれの対策の内容を具体的に解説します。
ハラスメント指針の理解・周知
企業は、ハラスメントに該当する言動の内容とハラスメント行為者への対応方針を明確にして、それを従業員に理解・周知させる必要があります。
ハラスメントを防止するには、個人個人にハラスメントの内容を理解させなくてはなりません。そのうえで、ハラスメントを行った場合の処分内容を認識させ、各従業員のハラスメント防止に対する意識を高めていくことが求められます。
相談窓口の設置
相談窓口は、相談者のプライバシーに配慮した相談しやすい窓口でなくてはなりません。
窓口の担当者が都度変更されるのでは客観性が担保できないため、担当者はあらかじめ定めたうえで、従業員に周知することが求められます。担当者は、専門の外部機関に委託するのが望ましいです。
担当者には、相談の内容に応じての適切な対処や、ハラスメントに該当するか微妙な事案についても広く相談を受け付けることが求められます。
社内研修の実施
従業員のハラスメントに対する理解を深めるには、社内研修の実施も効果的です。
社内研修では、企業におけるハラスメント指針を理解させるとともに、相談窓口の案内など企業におけるハラスメント対策を説明する必要があります。ハラスメント撲滅のためには、定期的な社内研修により、従業員が常にハラスメントへの意識を持てるようにすべきです。
まとめ
令和2年6月の法改正により、企業にはハラスメント対策が義務付けられました。ハラスメントは、企業経営を揺るがす原因ともなり得る問題であるため、企業には適切な対応が求められます。
ハラスメント対策としては、従業員のハラスメントに対する理解を深めるとともに、ハラスメントが起こりにくい組織づくりを進めていく必要があります。対策は、一朝一夕で完了するものではなく継続的な取り組みが必要です。
この機会に、ハラスメント対策を基本から見直して、健全な企業体制を作り上げましょう。
《ライタープロフィール》
てん@法律関係ライター(佐藤 孝生)
元弁護士としての経験を活かし、法律問題をわかりやすく伝える記事を中心に執筆活動を行う。
弁護士時代には、企業法務、労働問題、離婚、相続、交通事故などを幅広く経験。
現在は「読者の困りごとに寄り添う記事」をモットーに、法律問題をわかりやすく伝える記事を中心に執筆に取り組んでいる。