労災発生!?あらかじめ対策をとるべき基本事項について
働く上で、労働者の健康と安全は何よりも優先されるべきであり、使用者と労働者は自ら積極的に危険作業や有害物質への対策を進め、安全衛生水準の向上に努めることが求められています。近年は、メンタルヘルスやハラスメントなど社会問題として世間の関心も高まっています。ここでは、労災の種類や労災と認定された例、労災がもたらす損害などをご紹介し、使用者がどのような対策をとるべきかを検証いたします。
労災の種類について
労働安全衛生法は、労災について「業務に起因して、労働者の負傷し・・・」とうたっています。昭和48年の労働者災害補償法の改正により、業務災害に加え、通勤災害についても労災の適用が認められるようになりました。では、業務災害と、通勤災害について詳しくみていきましょう。
●その1~業務災害について~
業務災害とは、労働者の業務に起因する傷病等を意味します。その認定基準は、業務と身体を加害する事象との関係と、災害等と傷病等との関係があるかどうか(業務起因性)と、労働者が業務に就いている状態、労働者が労働契約に基づいて使用者の支配下にある状態での災害かどうか(業務遂行性)によるとされています。
労災と疑われる事態が発生した場合、使用者は労働者死傷病報告書を用いて、労働基準監督署に遅滞なく報告する義務があります。報告書を受けた労働基準監督署は、現場の見学などを行い、業務遂行性と業務起因性に照らし合わせ、労災とするか私病とするか判断します(労災認定)。
<POINT>
労災認定されるか否か判断するのは労働基準監督署長です。 労災と疑われる事態が発生した場合、迅速に報告することが使用者の責務です。
ケーススタディ
◆労働災害と認められるケース
カッターで模造紙を切っている最中、押さえている手にカッターが触れ怪我をした
出張の移動中に交通事故に遭い負傷した
本来の業務ではなかったが、業務命令で作業したところ負傷した
◆労働災害と認められないケース
人間関係が悪く、仕事中に同僚に殴られて怪我をした
朝礼中に貧血で倒れ救急搬送された
仕事帰り、寄り道して友人と食事をした際、店で転倒し怪我をした
●その2~通勤災害について~
通勤災害は、通勤による労働者の傷病等を指します。この場合の「通勤」とは、就業に関し、
・ 住居と就業場所との間の往復
・ 就業場所から他の就業場所への移動
・ 単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
について、合理的な経路や方法で行うことを指します。
移動の経路を逸脱したり、中断した場合は、逸脱または中断の間およびその後の移動は「通勤」とはなりません。私的な宴会に参加するために通勤経路から外れた移動をしている最中に怪我をした、などは通勤災害として認められません。
ケーススタディ
◆労働災害と認められるケース
自家用車で通勤中、後続車両に追突され怪我をした
通勤電車を降車する際、後の乗客に押され転倒し怪我をした
徒歩で帰宅中、交差点にて自転車と出会い頭に衝突し怪我をした・・・etc
◆労働災害と認められないケース
自宅とは反対方向にある商店に向かっている最中、自動車に追突された
帰宅途上業務とは無関係な飲酒をし、その帰りに転倒し怪我をした・・・etc
業務上の疾病とは
業務上の疾病とは、使用者の管理下にある状態で有害因子(業務に含まれる、人体に有害な化学物質、身体に過度に負担がかかる作業そのもの、病原体など)にさらされたことにより発症することを指します。疾病とは、いわゆる「病気」と同様の事で、骨折やヤケドを「病気」と表現することと同様ですが「疾病」と表現することにより厳密な表現になります。
労働者が就業時間中に脳出血を発症したとしても、発症原因に足りる業務上の理由(過重労働など)が認められない限り、業務と疾病に因果関係は成立しません。一方、勤務していない時間における発症であっても、業務が原因で発症したと認められれば、業務と疾病に因果関係は成立し、業務上疾病と認められます。
一般的に下記3要件を満たせば業務上疾病と認められます。
① 労働の場に有害因子が存在していること
② 健康障害を起こしうるほどの有害因子にさらされたこと
③ 発症の経過および病態(有害因子にさらされた後に発症すべきであるという考え)
昨今、心的ストレスを原因として精神障害を発症し、業務が遂行できなくなるケースが多く発生しています。これらの中には、業務と関係している、また業務との間に因果関係が認められ、労災認定されるケースもあります。
労災がもたらす損害
安全衛生管理を怠り、労働災害が発生すると、以下のような様々な負担・処罰が発生する可能性があります。
労災がもたらす4つの損害
◆損害賠償
被災者・遺族から、損害賠償を請求されることがあります。労災保険は慰謝料や損害の全てを補填するものではないため、労災保険給付を超える損害は民事上の損害賠償の責任があります。
◆刑事罰
労働系の法律には罰則規定を設けている法律があります。
労働安全衛生法119条(6ヵ月以下の懲役又は50万円以下の罰金)
労働基準法117条(10年以下の懲役又は300万円以下の罰金)
刑法221条(業務上過失致死傷罪:5年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金)
◆行政処分
労働安全衛生法違反、労働災害発生の危険が切迫している場合は、機械設備の使用停止や作業停止などの行政処分を受けることがあります。また、官庁からの取引停止(指名停止)などの行政処分を受ける可能性もあります。
◆信用低下
被災者や遺族への補償、原因調査や設備改善などのコストが発生します。また、重大労災は時としてマスコミに取り上げられ、大きく報道されることがあります。これにより、企業の信用低下、ブランドイメージの失墜、取引先からの取引停止、売上減少、人材離れなども考えられ、間接コストを増大させてしまいます。