派遣の指揮命令者とは?役割・選び方・気をつけるポイントを解説
派遣の指揮命令者とは、派遣先会社で派遣スタッフに対して業務の指示や管理をおこなう担当者を指します。派遣スタッフが円滑に業務を進めるためには、この指揮命令者の関わりが非常に重要です。適切な指揮命令者を選定することで、業務の効率化や派遣スタッフの働きやすさが向上し、派遣先会社のコンプライアンス遵守にもつながります。
本記事では、指揮命令者の役割や適任者の選び方、また、気をつけるポイント等について詳しく解説します。
目次
派遣の指揮命令者とは
派遣スタッフの受け入れには指揮命令者の選任が必須です。本章では、指揮命令者の概要や役割を詳しくみていきます。
指揮命令者とは
派遣の指揮命令者とは、派遣先会社において派遣スタッフに対し業務指示や指揮をおこなう人物を指します。これは労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)第26条において、派遣スタッフを受け入れる際は派遣先が指揮命令権を持ち、業務遂行に関する指示をおこなう責任があると定められているためです。
派遣スタッフは、派遣元会社との間で雇用契約を結んでいますが、実際の業務においては派遣先の指揮命令者から指示を受けて働くことになっています。指揮命令者は、派遣スタッフに具体的な作業内容や手順といった業務内容に関する指示をおこなうだけではなく、派遣スタッフの勤怠管理等のさまざまな役割を担っています。
指揮命令者の役割
指揮命令者の主な役割は次の3つです。
● 派遣スタッフへの業務の指示や指導
● 派遣スタッフの勤怠管理
● 就業する環境のチェック・整理
それぞれ詳しく解説します。
派遣スタッフへの業務の指示や指導
指揮命令者の重要な役割のひとつが、派遣スタッフへの業務の指示や指導です。指揮命令者は派遣スタッフに対し、具体的な業務内容や作業手順に関する指示をおこないます。これは、派遣元会社が雇用管理を担う一方で、派遣先会社は実際の業務管理をおこなうという労働者派遣法の枠組みに基づくものです。指揮命令者は、日常的な業務の割り振りや作業の進め方を指示するだけでなく、必要に応じて適切な指導やサポートもおこないます。
派遣スタッフの勤怠管理
ここで述べる勤怠管理は、実際の就業場所となる派遣先会社における派遣スタッフの労働時間や出勤状況の確認・管理を指しています。具体的には、出退勤の確認、残業の管理、休暇の取得状況の把握等です。
労働時間の適切な管理は、労働基準法に準拠し、派遣スタッフの健康と働きやすい環境を守ることにつながります。特に残業や深夜労働に関しては、過剰労働が発生しないよう注意が必要です。また、派遣元会社と連携して正確な勤怠情報を共有することも、適正な労務管理のためには重要となります。
就業する環境のチェック・整理
指揮命令者には、安全衛生管理を含め、派遣スタッフが効率的かつ安全に業務を遂行できるよう環境を整える責任もあります。
例えば、作業場所の安全確認、機材や設備の適切な配置、作業に必要なツールや資料の提供といった事項です。また、派遣スタッフが快適に業務をおこなえるよう、照明や温度管理などの作業環境の整備も重要です。これらは労働安全衛生法に準じて対応する必要があり、労働者の健康と安全を守るため、事故や怪我が起こらないように定期的なチェックや改善を実施します。
【参考】
厚生労働省 職業安定局|労働者派遣事業関係業務取扱要領13頁「指揮命令の意義」ほか
e-GOV 法令検索|労働者派遣法第26条
他の役職との違い
派遣先責任者との違い
派遣先責任者は、派遣契約全体の管理をおこなう役職であり、派遣先会社全体の派遣スタッフの受け入れや法令遵守を監督します。具体的には派遣契約が適正に運用されているか、派遣スタッフの勤務条件が労働者派遣法に準じているか、派遣元との契約内容が守られているか等を確認し、全体的な管理責任を負います。
労働者派遣法では、派遣先会社は派遣先責任者を選任し、契約管理や法令遵守の責任を持つことが義務付けられています。
一方で指揮命令者は、業務現場での直接的な業務指示や派遣スタッフの管理を担当します。業務の効率化や作業の進行に関する具体的な指示をおこない、スタッフが日常業務を遂行する際のサポート役です。
指揮命令者は「日々の業務指示と管理」、派遣先責任者は「契約管理や法令遵守」に焦点を当てており、それぞれ異なる視点から派遣スタッフの就労をサポートしています。
【参考】
厚生労働省|派遣元と派遣先との連携
厚生労働省|派遣先責任者講習
派遣先苦情処理等の申出先担当者との違い
派遣先苦情処理等の申出先担当者は、派遣スタッフからの苦情や問題が発生した場合に、その申出を受けつけ、解決に向けて対応する役割を担っています。派遣先会社は、労働者派遣法に基づき、派遣労働者の苦情を受け付ける窓口を設置することが義務付けられており、この窓口が「派遣先苦情処理等の申出先担当者」です。
この担当者は、派遣スタッフからの相談があった際、派遣元と連携して問題の解決を図り、労働者の権利が守られるように動きます。ここでいう苦情には、労働条件、業務環境、ハラスメントといった問題が含まれます。
指揮命令者は、先に述べたように、日々の業務で派遣スタッフと直接的に接触し、指示を与える役割を持つため、現場でのコミュニケーションが頻繁です。一方、苦情処理等の申出先担当者は苦情や問題が発生した際に対応するため、日常的に派遣スタッフと接触することは少なくなります。苦情処理等の申出先担当者は問題解決や派遣元会社との調整をおこなうため、法的な問題や労働条件に関する問題にも対応するのが特徴です。
指揮命令者は派遣先責任者や派遣先苦情申出先の担当者と兼任できるのか
指揮命令者が派遣先責任者と兼任することは可能です。これは派遣先会社の規模や人員構成による側面もあります。例えば、管理者の数が限られている等の理由で指揮命令者が派遣先責任者と兼任となっていても、法律上の問題はありません。
一方、派遣スタッフの権利保護という観点から、指揮命令者と派遣苦情申出先担当者は別々の人物にすることが望ましいです。苦情申出先担当者は、派遣スタッフからの不満や問題を受けつけ、公正かつ客観的に対応する役割を担います。指揮命令者は業務上の指示や管理をおこなう立場であるため、派遣スタッフが指揮命令者に対して苦情を申し立てるケースも想定されます。この場合、同じ人物が苦情を処理する立場にあると、問題を訴えにくくなるリスクが高まり、結果として、公平な苦情処理がおこなわれない事態に繋がりかねません。
労働者派遣法でも、苦情処理体制を整えることが企業の責務とされており、適切な対応が求められています。
【参考】厚生労働省|派遣先の講ずべき措置等
指揮命令者の選び方
派遣先が雇用する人でなければならない
前述のとおり、派遣スタッフは派遣元会社から指示を受けるのではなく、派遣先会社の指揮命令者から業務の指示を受けます。そのため、指揮命令者は派遣先会社の社員等、派遣先に所属する人を選ばなければなりません。これは、二重派遣を防止するためです。二重派遣とは簡単にいうと、派遣スタッフが派遣先会社ではなく、第三者から指示を受けて働く状態のことです。つまり、指揮命令者は、必ず派遣先会社が雇用する人から選任する必要があります。
【参考】厚生労働省|派遣スタッフ活用のポイント
同一部署の人が適している
同じ部署に所属する指揮命令者は、業務内容や現場の状況をよく理解しているため、適切な指示を迅速におこないやすく、派遣スタッフとのコミュニケーションも円滑に進められます。これにより、部署全体の業務効率が向上し、派遣スタッフにとっても働きやすい環境が整うため、同じ部署の人が指揮命令者として適しているといえます。
派遣スタッフの業務内容について理解し指示や管理のできる方
派遣スタッフの業務内容をきちんと理解し、適切に指示や管理ができる指揮命令者を選ぶことは、派遣スタッフの業務効率や労働環境の向上に直結します。指揮命令者が業務を熟知していることで、派遣スタッフが迷わずに業務を遂行でき、トラブルの早期発見・解決やスキルアップのサポートが可能となります。
【参考】スタッフサービスグループ|よくあるご質問
常駐している社員を選任するのがベスト
常駐している社員であれば、現場での業務の流れや派遣スタッフの作業状況をリアルタイムで把握することができます。例えば、派遣スタッフが抱える問題や業務の進捗状況をすぐに確認し、必要な指示やサポートを適時におこなえるため、スムーズな業務進行が期待できます。常に現場にいることで、細かい変化にも迅速に対応できる点が大きな利点です。
常駐していない社員を選ぶこともできますが、上記の点を踏まえると常駐している社員を選任することが望ましいでしょう。
指揮命令者の変更は可能
指揮命令者の変更は可能ですが、変更時には以下の対応を取る必要があります。
1. 派遣スタッフへの周知
2. 派遣責任者や派遣会社等の周囲への周知
3. 関連書類の変更
指揮命令者が変更された場合、まず派遣スタッフに対して新しい指揮命令者を明確に伝えることが必要です。派遣スタッフは業務上、指揮命令者の指示を受けるため、誰が新しい指揮命令者であるかを早急に知らせることで、業務が混乱するのを防ぎます。また、派遣スタッフが疑問や困難に直面した場合に誰に相談すべきかを明確にすることができます。
指揮命令者の変更は、派遣先責任者や派遣元会社にも速やかに周知しなければなりません。派遣元会社は派遣スタッフを管理する立場にあることから、誰が現場で指示を出しているかを把握しておく必要があるためです。そのほかにも、派遣契約の一部として、指揮命令者の情報が重要な要素になることもあるため、変更があった場合には必ず報告します。
指揮命令者の変更に伴って、関連書類の変更もおこないます。例えば、派遣契約書や指揮命令者に関する内部書類などがこれに該当します。書類上で正確な指揮命令者が記載されていないと、労務管理上のトラブルに繋がるおそれもあるため、早急に対応しましょう。特に労働者派遣契約書の記載事項に関しては、契約内容の整合性を保つためにしっかりと対応することが重要です。
【参考】厚生労働省|労働者派遣契約
指揮命令者が気をつけるポイント
派遣スタッフが安心して業務に取り組み仕事を円滑に進められるよう、指揮命令者は以下の3つのポイントをおさえておきましょう。
派遣スタッフの担当業務整理等の受け入れ体制を整えておく
指揮命令者は、派遣スタッフがスムーズに業務に取り組めるよう、受け入れ態勢をしっかりと整えておく必要があります。具体的には、派遣契約に基づいた担当業務を明確にし、業務の内容や手順、必要なツールや設備の準備を事前に済ませておくといった内容です。業務の目的や範囲が曖昧な状態だと、派遣スタッフは何をすべきか迷ってしまい、作業効率の低下やミスに繋がる可能性があります。事前に担当業務を整理し、わかりやすく説明できる状態を作っておきましょう。
さらに、現場のフォローアップ体制を構築しておくことで、派遣スタッフが業務中に直面する疑問やトラブルにも迅速に対応できるようにします。定期的なフィードバックやサポートを行い、問題が発生した際にもすぐにフォローアップできる環境を整えることが、現場全体の業務効率向上に繋がります。
指揮命令者であることを周知しておく
指揮命令者が誰なのか、派遣スタッフや関係者に周知しましょう。指揮命令者が現場の業務を管理し、派遣スタッフに適切な指示をおこなう役割を担っているということを、事前に明確にしておくことで、業務上の混乱やトラブルを防ぐことができます。周知は口頭だけでなく、文書やメールを用いて正式に伝えることも効果的です。
業務の指示は派遣契約の範囲でおこなう
派遣スタッフへの業務指示は、派遣契約に定められた範囲内でおこなわなければなりません。派遣契約では担当する業務や作業範囲が明確に定められており、この範囲を超える業務指示は違法となる可能性があります。契約の範囲を超えた指示がないか、指揮命令者は常に契約内容を確認しながら業務指示をおこないましょう。仮に派遣契約の範囲外の業務が必要になった場合は、派遣元会社と適切に協議し、契約内容の変更手続きをおこなうことも選択肢のひとつです。
まとめ
派遣の指揮命令者は、派遣スタッフの業務遂行をスムーズに進めるためのキーパーソンです。適切な人物を選任することで、業務の効率化や派遣スタッフが安心して働ける環境が整い、派遣先会社の法令遵守にもつながります。本記事のポイントをおさえて、派遣スタッフと企業が相互に信頼できる職場環境を築いていきましょう。
<ライタープロフィール>
西本 結喜(監修兼ライター)
結喜社会保険労務士事務所代表。貿易事務や人事部門、経理など複数の企業でさまざまな部署を経験し、部門ごとのスタンスの違いについて深い理解も持ち合わせている。多様な現場で培った経験を活かし、複雑な労務問題にも柔軟に対応。クライアントと共に成長できる仕事にやりがいを感じている。