職能資格制度とは? 制度の定義、メリットデメリットと具体例を紹介
職能資格制度は人事評価のための等級制度のひとつです。適切な人事評価は従業員のモチベーションやロイヤリティをアップさせるとともに、企業の安定と成長につながります。今回は日本で長く採用されてきた人事評価制度である職能資格制度について、どんな制度か、メリットやデメリット、運用の具体例などを紹介するとともに、今後に向けての課題にも触れていきます。
目次
職能資格制度とは
職能資格制度とは、「職務を遂行する能力」によって従業員を評価し、賃金体系の基となる等級を定める制度です。
職能資格制度は日本で生まれた評価制度で、現在も日本の多くの企業で主流となっています。戦後、日本の企業では終身雇用と年功序列の考え方が広まっていたところに「能力による評価」を取り入れ、1970年代ごろに定着していきました。
職能資格制度で評価の対象となるのは、特定の職務ではなく「あらゆる職務を遂行するための能力」です。また、職能資格制度における等級は、会社内での役職が何か、肩書きがあるかないかといった組織内の職位とは別に定められます。
職能資格制度がどのような制度かは、次に挙げる職務等級制度との比較によってより明確に理解できます。
職能資格制度と職務等級制度の違い
等級制度には職能資格制度のほかに職務等級制度があります。
職能資格制度が従業員の職務遂行能力を評価するのに対して、職務等級制度は職務ごとの達成度を評価します。遂行すべき職務は、営業、接客などの職務ごとに規定された「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」により明確に定義されます。職務等級制度はアメリカをはじめとする欧米で一般的な等級制度で、人種差別排除の観点からも人から切り離して職務だけを評価する方法が必要とされ、広まりました。
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ふたつの制度については大まかに「職能資格制度は人を評価し、職務等級制度は仕事を評価する」と位置づけられます。両者の違いをまとめたのが以下です。
職能資格制度と職務等級制度の比較 | ||
職能資格制度 | 職務等級制度 | |
エリア | 日本 | 欧米など |
評価の対象 | 人を評価 (メンバーシップ型) |
仕事を評価 (ジョブ型) |
評価の基準 | 個人の職務遂行能力 | 職務内容と達成度 |
特徴 | ・能力があると評価された場合に等級が上がる ・個人の勤続年数が上がることでも等級が上がる ・等級の降格はない |
・職務記述書に基づいて職務を評価 ・わかりやすく公正な成果主義 ・性別や年齢、勤続年数などの属人的要素は評価の対象外 |
目指す人物像 | ゼネラリスト | スペシャリスト |
能力に経験年数を加味して従業員の能力を評価する職能資格制度は、これまでの日本の企業風土に合っていたと考えられます。
職能資格制度のメリット
職能資格制度のメリットには、どのようなことが挙げられるのでしょう。
従業員が働きやすい環境を提供できる
職能資格制度の下では基本的に降格がなく、勤続年数によって等級が上がるので、従業員は安心して長く働き続けることができます。また、職務の範囲にかかわらず他の従業員に仕事を教えたり作業を分担したりすることも評価の対象となるので、臨機応変にチームで協力し合えることもメリットといえそうです。
企業の組織改編や人事異動に対応しやすい
1人が多様な職種・業務を経験する制度であるため、特定の部署で欠員が生じたときや大きな組織改編があったとき、人員の配置転換が容易です。外部から採用をしなくても、企業内で人材を確保しやすい制度といえるでしょう。
企業内で長期的に人材を育成できる
「年功序列」「終身雇用」を前提に、勤続年数を重ねるほど等級が上がる職能資格制度は、10年、20年などの時間をかけて熟練工や企業管理職などを育成する場合に適しているともいえそうです。
ゼネラリストを育成しやすい
日本企業では社員を新卒採用し、企業内で多様な部署・職種を経験させる「ジョブローテーション」によりゼネラリストを育成する方法をとってきました。このような企業慣習に職能資格制度が適していたといえるでしょう。
職能資格制度のデメリット
一方で、職能資格制度には以下のようなデメリットもあります。
能力と賃金のミスマッチが起こりやすい
職能資格制度の評価基準となる主な要素は、従業員の能力と勤続年数です。能力を評価することが難しい一方で勤続年数によって等級が上がるので、結果として年功序列に近くなり、能力と賃金のミスマッチが生じる可能性があります。能力に賃金が見合っていないという不公平感を抱いた従業員のモチベーションが下がるおそれもあります。
管理が複雑・あいまいで担当部署の負担が大きい
職能資格制度では従業員個人の能力を評価しますが、能力と役職を切り離してそれぞれの面から評価を行うために管理が複雑になりやすく、人事担当部署にとって負担となることもあります。基準があいまいな担当者の主観に左右される可能性を排除するため、第三者の意見を取り入れるなどの工夫も必要です。
人件費が高くなりやすい
等級は下がらない原則なので、勤続年数の長い従業員が増えれば総人件費は上がります。企業が成長しているときは問題ないですが、そうでない場合は企業にとって負担となるでしょう。
多様な働き方への対応が難しい
2020年以降のコロナ禍では、リモートでおこなうべき一人ひとりの業務の線引きがあいまいなため、在宅勤務への移行がスムーズにいかないという問題が生じました。
このほか、育児や介護のための時短勤務、ワークシェアリングなどを導入していくためにも職能資格制度の見直しが必要となっています。今後は職務を明確にする「職務記述書」などを取り入れて、多様な働き方を適切に評価できるよう制度改革をしていくことが求められるでしょう。
職能資格制度の具体的な運用例
日本では多くの企業が職能資格制度を採用していますが、その具体的な運用の仕方はそれぞれ違います。多くの企業で導入されている運用方法について紹介します。
・等級数
8等級程度が平均的です。大企業の場合は8~10等級、中小企業では6~8等級程度と企業規模によって少し差があります。新入社員が入社すると1等級から始まり、最上位の等級は部長職などに相当します。
・資格要件
各等級に昇級するための資格要件を定めます。具体的で明確な要件を定める必要があります。
・対応職位
4~5等級程度から指導・監督能力が必要とされ、7等級程度以上で管理職に相当します。等級の該当者が必ずその職位に就くわけでなく、対応職位に就くために等級が必要条件となります。
これらをふまえ、等級資格制度の枠組みを定めた一例が以下です。
職能資格制度の等級の例(8等級の場合) | ||||
等級 | 職能 | 定義 | 経験年数 | 対応職位 |
8等級 | 管理・専門機能 | 管理・事業統率 | 12~ | 部長 |
7等級 | 管理 | 10~ | 課長 | |
6等級 | 指導・監督機能 | 監督・企画 | 3~ | 係長 |
5等級 | 指導・監督 | 3~8 | 主任 | |
4等級 | 指導 | 2~6 | チーム長 | |
3等級 | 一般業務 | 定型判断 | 2~6 | |
2等級 | 熟練定型 | 2~5 | ||
1等級 | 定型業務 | 2~4 |
また、上記に加え、従業員を正当に評価するための資格要件を企業ごとに具体的かつ詳細に定める必要があります。資格要件とは、たとえば3等級の場合なら、
「上司の指示と自らの経験知識に基づく判断により、下級の者を指導しながら定型業務を適切に遂行できる」
などと定められます。
資格要件に基づき、人事評価もふまえて等級付けをおこないます。一般的に、職能の評価基準としては以下が用いられます。
・成績評価
具体的な数字に表れる目標達成率、仕事の正確さ、業務効率の良さなどを評価します。
・能力評価
業務遂行のベースとなる能力や成長度合いを評価します。項目としては理解力、企画力、提案力などが挙げられます。成績評価に表れなかったもののスキルアップや努力がみられた場合にもこちらで評価します。
・情意評価
意欲、態度などを評価します。協調性、積極性などが項目となります。
まとめ
職能資格制度は日本の企業に広く浸透している等級制度です。ゼネラリストを育成しやすい、企業内での配置転換がしやすいといった制度のメリットを理解して自社の基準を定め、適切に運用をすることにより、従業員のモチベーションがアップするとともに、企業の成長基盤が整います。
ただし、職能資格制度には働き方の多様化への対応が難しいなどの課題もあります。今後は在宅や時短勤務などに対応できるよう、個々の職務への評価をより明確にしていく必要があります。
ライタープロフィール
ライター:ほんだ・こはだ
子育て休業時に書籍を執筆したことをきっかけにライター業をスタート。IT、飲食、不動産などで企業のオウンドメディアを多数執筆し、SEOライティングなどで活動中。オフタイムの息抜きは商店街や駅ナカ散策。