
トライアル雇用とは?種類・助成金申請の流れについて解説

トライアル雇用とは、スキル・知識不足などによって就職が困難な人の雇用を支援する制度で、厚生労働省や各都道府県の労働局・ハローワークが連携して支援しています。働く意欲を持つ人への雇用機会を提供するだけでなく、事業者には助成金の支給によって採用コストを削減できるメリットがあります。
本記事では、トライアル雇用の種類やメリット・デメリット、助成金申請の流れについて解説します。
目次
トライアル雇用とは

トライアル雇用とは、「職業経験が不足している」「スキル・知識がない」といった理由から就職が困難な人に対して、試行雇用から正規雇用へと移行することを支援する制度です。まずは、制度の概要について学んでいきましょう。
トライアル雇用の目的
トライアル雇用は、ブランクや知識・経験不足などの事情によって就職が困難な人を短期で試用雇用し、その適正や能力などを把握した上で正規雇用へと移行するきっかけをすることを目的としています。企業側のメリットとして、労働者の適正などを確認した上で無期雇用へと移行できる点や、助成金により採用コストを削減できる点が挙げられます。
制度の対象者は「ライフイベントやその他の事情で離職し、その後就職先が見つかっていない」「なかなか安定した就職先が見つからず転職を繰り返している」といった人などが該当します。原則として3ヶ月間は試行雇用とし、その後無期雇用へと移行する仕組みです。
試用期間・研修期間との違い
事業者が新しい人材を雇用する際、「試用期間」を設けるところもあります。
試用期間とトライアル雇用はよく似た制度ですが、まず「期間」が大きく異なるポイントです。トライアル期間は「3ヶ月間」と明確な期間が定められている一方、試用期間は1ヶ月~半年など事業者側が自由に設定することができます。
また、雇用継続義務の有無も異なるポイントです。
トライアル雇用は、3ヶ月経過後に適性やスキルなどを見極めて、無期雇用へ移行するかを判断できます。「必ず正規雇用に移行しなければならない」というわけではないため、試行雇用の期間を終えたら雇用を継続しないことも可能です。
一方、試用期間についてはすでに正規の雇用契約を締結しているため、事業者側が自由に解雇することはできません。もし試用期間中や経過後に解雇したい場合は、正当な事情が必要で、さらに解雇予告や解雇通知書などの手続きが必要です。
なお、他にも似た言葉として「研修期間」がありますが、研修期間には具体的な定義はなく、一般的には「本採用後に仕事のスキルや流れを学ぶ期間」として使われています。
トライアル雇用の種類

トライアル雇用での助成金制度には、どのような求職者を雇用するかによって「一般トライアルコース」「障害者トライアルコース」「障害者短時間トライアルコース」の3つのコースがあります。
コース |
助成金 |
一般トライアルコース |
支給対象者1人につき月額4万円(最長3ヶ月間) |
障がい者トライアルコース |
・原則として、月額4万円(最長3ヶ月間) |
障がい者短時間トライアルコース |
支給対象者1人につき月額最大4万円(最長12ヶ月間) |
それぞれ対象となる条件や助成金の支給額について紹介していきましょう。
一般トライアルコース
一般トライアルコースでは、下記のいずれかに当てはまる人を雇用したときに助成金の支給を受けることができます。
・過去2年以内に、2回以上の離職や転職を繰り返している |
参考:厚生労働省「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」
助成金は、雇用した日から1ヶ月単位で最長3ヶ月が支給期間となります。支給対象者1人につき月額4万円が支給され、対象者がシングルマザーやシングルファザーの場合は月額5万円へと助成金が増額される仕組みです。
ただし「本人の都合によって退職した」など雇用期間が1ヶ月未満の場合は、就労した日数に基づいて助成金が支給されます。
障がい者トライアルコース
障がい者トライアルコースでは、「障害者雇用促進法に規定する障がい者」をトライアル雇用した事業者が対象となります。助成金の対象となる条件は下記の通りです。
・就労の経験のない職業に就くことを希望している |
なお、障害の原因や障がいの種類は問いません。
また、助成金の支給額や支給期間は雇用する対象者によって異なります。
・原則として、月額4万円を3ヶ月間支給 |
参考:厚生労働省「障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース」内、「支給要領」
ただし、一般トライアルコースと同様に「本人の都合によって退職した」など雇用期間が1ヶ月未満の場合は、就労した日数に基づいて助成金が支給されます。
障がい者短時間トライアルコース
障がい者の雇用については、短時間労働の雇用を対象とした助成金制度もあります。求職者が「すぐに長時間働くことが難しい」という場合は、障がい者短時間トライアルコースの活用が可能です。
対象となる労働者は障がい者トライアルコースと同様ですが、障がい者短時間トライアルコースでは、その労働時間を週10時間以上20時間未満としています。そして対象者の職場適応状況や体調などに応じ、週20時間以上働くことを目指しています。
助成金は支給対象者1人につき月額最大4万円で、最長12ヶ月間支給を受けることができます。
トライアル雇用助成金申請の流れ

トライアル雇用の助成金は所轄のハローワークを通じて支給申請を行います。ここからは、申請できる事業者の条件や支給申請の流れ、注意点について解説していきましょう。
トライアル雇用助成金を申請できる事業主の条件
事業者がトライアル雇用助成金の支給を受けるためには、主に下記の条件を満たす必要があります。
・ハローワークからの紹介を受けて対象者を雇用した |
助成金の支給には、定められた要件を全て満たす必要があります。「支給対象事業主要件票」にて一覧で確認できますので、自社が該当するかどうかチェックしてみましょう。
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)支給対象事業主要件票
助成金支給申請の流れ
トライアル雇用の助成金申請は、下記の流れによって手続きをおこないます。
STEP1:ハローワークへ求人票を提出 |
それぞれどのような手続きをおこなうのか、くわしく紹介していきましょう。
STEP1:ハローワークへ求人票を提出
トライアル雇用助成金の制度では、ハローワークを通じて求職者の紹介を受ける必要があります。まずは、トライアル雇用求人をハローワークへ提出しましょう。
その際、求人情報は下記の条件を満たしている必要があります。
・無期雇用とトライアル雇用のいずれによる応募も可能である |
なお、すでにハローワークへ求人を出している場合、後からトライアル雇用求人へ切り替えることも可能です。
STEP2:対象者の紹介を受け面接・採用
ハローワークを通じて求職者の紹介を受けたら、採用試験を実施します。採用試験は書類選考にて行うことも可能ですが、トライアル雇用ではなるべく面接による選考が推奨されています。
STEP3:ハローワークに実施計画書等の書類を提出
採用を決定してトライアル雇用がスタートしたら、事業者は2週間以内にハローワークに「実施計画書」を提出しなければなりません。
実施計画書とは、事業者の所在地やトライアル雇用の対象者、実施内容、求人番号などを記載したものです。所定の書式がありますので、期日内に記入して提出しましょう。
その際は「トライアル雇用期間が確認できる雇用契約書」や「労働条件通知書」の写しについても提出してください。
なお、実施計画書は助成金の支給申請の際にも必要となりますので、必ず社内で保管しておきましょう。
STEP4:条件に応じた助成金の支給
トライアル雇用期間を超えたら、助成金の支給申請手続きを行います。
申請手続きは、トライアル雇用終了日の翌日から2ヶ月以内に所轄のハローワークや労働局あてに必要書類を提出する必要があります。
必要となる書類は下記の通りです。
・トライアル雇用結果報告書兼トライアル雇用助成金支給申請書 |
必要書類が揃っていないと、助成金の支給が受けられない場合があります。申請手続きを行う際は必ず書類に漏れがないか確認するようにしましょう。
その後、申請が承認されたら助成金が支給される流れです。
トライアル雇用助成金申請のポイント・注意点
雇用した対象者によっては、トライアル雇用助成金と他の助成金を併用できる可能性があります。
たとえば、シングルマザーやシングルファザー、中国残留邦人等永住帰国者を試行雇用期間後も引き続き雇用する場合は、「特定求職者雇用開発助成金」の一部を受給することができます。
くわしくは所轄のハローワークや労働局にて確認しましょう。
トライアル雇用の企業側のメリット

事業者がトライアル雇用を活用することには、下記のようなメリットがあります。
採用のミスマッチ防止
人材採用では、雇用後に「求める人材とマッチしなかった」と感じることも少なくありません。しかし、一度雇用契約を締結すると事業者側から自由に解雇することはできません。
その点、トライアル雇用では原則3ヶ月の試行雇用期間を設けることで、その間に対象者のスキルや適性を見極めることができます。
もしミスマッチを感じた場合でも雇用を継続しない判断を下すことができ、採用のミスマッチによるリスクを防げるメリットがあります。
助成金による採用コストの削減
トライアル雇用では助成金の支給を受けられるのも大きなメリットです。
新たな人材を採用する際は、求人広告費や選考にかかる人的コスト、研修費用など多くのコストが発生します。「人手を増やしたいけど、採用にかかる費用がネックだ」と感じている事業者は多いかもしれません。
その点、トライアル雇用では条件を満たすと助成金の支給を受けることができます。
そのため、事業者はコストを抑えながら人材確保ができるメリットがあります。
任期満了の際に契約解除できる
トライアル雇用は、試行雇用期間終了後の無期雇用への移行は義務ではありません。万が一スキルや適性にミスマッチを感じる場合は、無期雇用への移行を行わず契約を終了することも可能です。
そのため、事業者は3ヶ月の試行雇用期間の間に人材を見極めたうえで本採用を行うかどうかを判断することができます。
トライアル雇用の企業側のデメリット

一方で、トライアル雇用には事業者にとって下記のようなデメリットもあります。
受け入れ体制の整備や教育・研修の準備が必要
トライアル雇用によって人材を受け入れる場合、事業者側は受け入れ体制の整備や、教育・研修などの準備が必要になります。これは、トライアル雇用者が短期間で業務に適応し、十分な能力を発揮できるようにするためです。
また、トライアル雇用者の教育に専任の担当者を設ける場合、他の従業員の業務負担が増加する懸念があります。
トライアル雇用制度のメリットを享受するためには、事前に具体的な教育計画を立てておくことが大切です。
即戦力人材の採用には向いていない
トライアル雇用で対象となるのは、一定期間仕事のブランクがある人や、なかなか定職が見つからずに転職を繰り返している人です。事業者側は即戦力となるような人材を求めるのではなく、働く意欲や潜在的なスキルを引き出しながら、長期的な戦力として育てていく姿勢が必要となります。
したがって「退職したベテラン社員の穴を今すぐに埋めてほしい」「即戦力として営業を任せたい」といった目的での採用には向いていないでしょう。
トライアル雇用を利用する際は、あくまで長期間かけて人材を育てていく意識を持つことが大切です。
事務対応に手間がかかる
トライアル雇用では、助成金の支給申請のための事務手続きが発生します。
まず、試行雇用期間がスタートした後は、2週間以内にハローワークへ実施計画書を提出しなければなりません。試行雇用期間が終了した後も、2ヶ月以内に支給申請書などの書類を提出する必要があります。
通常の採用手続きに加えて助成金申請のための事務手続きが増えるため、担当者の業務負担が増加することが懸念されます。特に、複数のトライアル雇用者を受け入れる場合はなおさらでしょう。
トライアル雇用の制度を利用する際は、事前に業務効率化のための施策を検討しておくことが重要です。
トライアル雇用の求職者側のメリット

トライアル雇用は、求職者側にとって下記のようなメリットがあります。
・ブランクがある人や未経験者でも応募しやすい |
通常の採用では、スキルや経験を重視されることがあります。しかしトライアル雇用では一定期間離職している人や未経験者を対象としているため、「業界経験がないけど興味がある」といった仕事にチャレンジしやすくなります。
また、トライアル雇用者は実際の業務を通して自分の能力を示すことができ、事業者は求職者の適性を判断しやすくなります。そのため、本採用につながる期待がある点も大きな魅力です。
トライアル雇用の求職者側のデメリット
一方、トライアル雇用は求職者にとって下記のようなデメリットも存在します。
・期間終了後に本採用になるとは限らない |
トライアル雇用は本採用につながる期待があるものの、必ずしも無期雇用へ移行できるわけではありません。事業者が雇用を継続しないと判断した場合は、試行雇用期間をもって契約が終了となります。
また、トライアル雇用期間中は、他の求人に応募することができません。もし無期雇用へ移行できない場合は、また1から就職活動に取り組む必要があることを理解しておきましょう。
まとめ
トライアル雇用は原則3ヶ月の試行雇用期間を設けることで、事業者・求職者双方のミスマッチを防ぐ効果があります。事業者側には助成金が支給されるため、採用コストを削減できるのも大きなメリットです。
「未経験やブランクなどのスキル面に不安がある」「採用コストがかさんでいる」という事業者は、トライアル雇用制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
執筆者:椿 慧理
フリーライター。新卒後に入行した銀行で10年間勤務し、個人・法人営業として金融商品の提案・販売を務める。現在は銀行で培った多様な経験を活かし、金融・人材ライターとして幅広く活動中。2級ファイナンシャル・プランニング技能士、1種外務員資格、内部管理責任者資格を保有(編集:株式会社となりの編プロ)