退職代行とは?退職代行経由で連絡がきた時の企業側の対応について
退職時の連絡に、退職代行サービスを利用する人が増えてきました。本人から連絡が来るのが当たり前と思っている企業にとって、いきなり退職代行業者から連絡がきた場合は驚きが隠せないかもしれません。
しかし、退職代行の需要が増加した理由や、利用したい理由を考えると、今後も利用者が増える可能性があります。本記事では、退職代行の概要や増加した背景、退職代行を利用したい理由とともに、退職代行サービスの流れや対応方法について解説します。
目次
退職代行とは
退職代行とは、従業員本人に代わって勤務先に退職の意思を伝えたり、退職手続きをサポートしたりするサービスです。退職手続きは本人がおこなうのが一般的ですが、職場環境や人間関係に問題を抱える人に向けて退職代行サービスを提供する組織が現れ、実際に利用する人も出てきています。
実は、退職代行サービス自体は「弁護士がおこなう業務のひとつ」として、10年以上前から存在していました。ただし「未払い残業請求の相談を受けて調査した結果、労働上の問題も発覚し、代わりに退職手続きまでおこなった」といったような、あくまでも労務上の問題における対応のひとつにすぎませんでした。
しかし、時代とともに退職代行の需要が増え、外部労働組合や民間企業のサービスとして退職代行を請け負うところが出てきています。
退職代行を行う3つの組織
弁護士の業務のひとつとして退職代行業務が存在していたように、退職代行サービス自体は近年できたものではありません。退職代行サービスをおこなう組織には、以下の3つが存在します。
企業と交渉権があるのは、弁護士や団体交渉権を持つ組織のみです。民間の退職サービスは、本人に代わって退職の意思を伝えることはできるものの、交渉を行う権限は持っていません。
退職代行ユニオンは、労働組合がない企業の労働者が加入できる外部労働組合であり、団体交渉権が認められています。ただし、裁判にもつれ込んだ場合は対応できません。
近年の需要の増加について
近年では、退職代行サービスの需要が高まっています。
ただし、厚生労働省の調査によると、過去25年間の大学卒の離職率には大きな変動はなく、離職率が退職代行サービスの需要増加につながっているわけではありません。需要の増加の理由として、以下の3つが挙げられます。
● メンタルヘルスの不調を理由とした退職希望者の増加
● 若年層の価値観の変化
● インターネットの普及
参考:厚生労働省「新規学校卒業就職者の在職期間別離職状況」
メンタルヘルスの不調を理由とした退職者希望者の増加
厚生労働省の調査によると、精神疾患を有する総患者数は増加傾向にあることがわかりました。退職代行EXITの調査によると、メンタルヘルスの不調を退職理由と選択した人は全体の約60%という結果になっています。
退職手続きは大きなストレスを受ける恐れがあるものです。精神疾患と診断された人のストレス回避策として、退職代行サービスが注目されています。
参考:厚生労働省「第13回 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会 参考資料」
参考:PR TIMES「【退職代行EXIT調査】Z世代の利用者の割合が約8割、メンタルヘルスの不調による退職が全体の約6割へ」
若年層の価値観の変化
若年層の仕事に対する価値観が変化したことも、退職代行サービスの需要が増加した理由に挙げられます。近年では、ワークライフバランスを重視する価値観が浸透し、自分の時間を大切にする人が増えてきました。
仕事に対する考え方も多様化し、キャリアの多様化や転職に対する抵抗感の低下といった変化も起きています。新たなキャリアに進むためのプロセスをスムーズに進めるため、効率的に退職手続きを踏める退職代行サービスへの需要が高まっています。
インターネットやSNSの普及
インターネットやSNSが普及してきたことも、退職代行サービスの需要増加につながっています。インターネットの普及により、スマートフォンがあれば退職代行サービスの情報を容易に取得できます。SNSや口コミサイトからは、サービスを利用した人の実体験や評価を知ることも可能です。
また、民間の退職代行サービスには、オンライン上で申し込みができる企業が多く存在しています。そのため、手続きの容易さも需要増加のひとつかもしれません。
退職代行を利用したい理由
退職代行を利用したい理由として、以下の3つが挙げられます。
● 退職の意思を言い出しにくい
● 企業側が退職させてくれない
● 給与・待遇面のトラブル対応
ここでは、それぞれの理由について解説します。
退職の意思を言い出しにくい
退職代行を利用したい理由として、退職の意思を言い出しにくいことが挙げられます。言い出しにくい理由として考えられるのは、以下の2つです。
● 上司に対して恐怖心を持っている
● 自分の意思を伝えるのが面倒と思っている
日常的に上司から高圧的な指導や叱責を受けている従業員は、上司に対して恐怖心を持っているものです。その恐怖心から、退職の意思を示すと「上司に罵倒されるかも」と思い、退職の意思を言い出せないと考えられます。
また、退職に対するやり取り自体を面倒に感じる人もいるようです。インターネットが普及した現代では、わからないことがあったとしてもインターネットで検索すれば知識を得られます。退職を考えた場合「退職 方法」と検索する人もいるでしょう。このように検索すれば退職代行サービスを使う方法が出てきます。
企業側が退職させてくれない
退職の意思を伝えても引きとめられる可能性があると思い、言い出せないケースもあります。これまでに退職の意思を伝えても引きとめられ、退職が遅れたり退職できなかったりした人を見てきた場合「同じように引きとめられるかもしれない」と考えるでしょう。
特に、自分の意思を主張するのが苦手な人や、上司に言い負かされると思っている人は、自分から退職の意思を伝えても退職できないと考えてもおかしくありません。その場合、自分に代わって退職手続きを代行してくれるサービスを利用しようと考えるのです。
給与・待遇面のトラブル対応
給与や待遇面でのトラブル発生により、退職代行サービスを利用するケースもあります。給与未払いや待遇悪化などの、企業とのトラブルが発生した場合、個人だけで交渉することは簡単ではありません。給与や待遇面でトラブルが発生したのであれば、同時に退職を考えてもおかしくありません。
企業との交渉には多くの場合、弁護士の利用を考えるはずです。弁護士は、日程交渉も含めた退職代行も対応できます。給与や待遇面でトラブルが発生している場合、退職手続きでもトラブルが発生することが考えられるでしょう。
そのため、弁護士に企業と給与や待遇面でのトラブルの交渉を依頼するとともに、退職手続きも代行してもらうのです。
退職代行サービス利用時の流れ
退職代行サービスを利用する際の一般的な流れは以下のとおりです。
1. 退職代行業者へ依頼
2. 情報共有と打合せ
3. 退職連絡と後処理
ここでは、それぞれの流れについて解説します。
1.退職代行業者へ依頼
退職代行サービスを利用する際は、従業員が退職代行業者に直接連絡して申し込みます。連絡時に、有給休暇や退職金の取り扱いや非弁のリスク(弁護士資格がないとできない業務行為にあたらないか)などの、基本的なサービス内容や条件を相談したうえで申し込みます。退職代行ユニオンや民間の退職代行サービスであれば、基本的に相談は無料です。
2.情報共有と打合せ
退職代行業務では、はじめに利用者の情報を共有します。必要となる情報は、以下のとおりです。
● 利用者の個人情報:氏名・生年月日・電話番号・住所・身分証の画像など
● 利用者の雇用に関する情報:雇用形態・勤続年数など
● 利用者が所属している企業の情報:会社名・連絡先・所属部署・退職条件など
利用者の情報を共有したら、打合せで退職代行業務の内容を決定します。打合せで決定する基本的な内容は、以下のとおりです。
● 退職連絡の決行日時
● 退職する理由
● 退職希望日
● 貸与品の有無
● 発行してほしい書類
● 私物の処分方法
● 有給休暇や退職金の取り扱い
3.退職連絡と後処理
連絡日が決まれば、決定した日時に退職代行業者から企業に利用者が退職を希望している旨を伝えます。この時点で、初めて退職代行業者と企業がコンタクトをとります。退職日やその後の対応についても、退職代行業者と企業でやり取りが必要です。
退職代行業者から連絡がきたときの企業側の対応
退職代行業者から連絡がきた場合、企業は落ち着いて対応しなければなりません。退職代行業者から連絡がきたときの企業側の対応手順は以下のとおりです。
1. 退職代行業者の身元確認
2. 本人確認を実施
3. 従業員に退職届の提出を依頼
4. 退職届を受理
5. 有給休暇の消化
6. 退職処理
ここでは、それぞれの対応について解説します。
1.退職代行業者の身元確認
退職代行業者から連絡がきたら、まずは業者の身元確認が必要です。前述したように、退職代行を行う組織は3種類あり、組織によって対応が変わります。業者を語った詐欺の可能性も考えられます。
そのため、退職代行の身元を確認し、どの組織から連絡が来ているのかを確認しましょう。弁護士事務所や退職代行ユニオンであれば、組織名や担当者名を聞いたうえで、正規の組織かどうかを確認します。
弁護士や退職代行ユニオンは、依頼者に代わって企業と手続きや交渉をする権利を持っています。そのため、弁護士事務所や退職代行ユニオンからの退職代行の連絡に対し、退職を認めなかったり交渉を拒否したりすることはできません。否認や交渉拒否をした場合、違法行為にあたる可能性があります。
一方、民間の退職代行サービスは、代弁権や交渉権は持っていないため、依頼者の退職意向を企業に伝えることしかできません。依頼者に代わって手続きや交渉を行った場合、違法行為(非弁行為)に該当します。そのため、民間の退職代行サービスからの退職代行連絡については、企業側は否認できます。
ただし、従業員が退職代行サービスを利用している時点で、従業員と円滑に交渉をすることは困難でしょう。スムーズに手続きをするためには、従業員との橋渡し役と割り切って対応するのが得策です。
2.本人確認を実施
退職代行業者の身元を確認したら、従業員の本人確認も行います。まれなケースとして、第三者が嫌がらせで退職代行を利用することがあります。もし嫌がらせにもかかわらず本人確認をしないまま手続きをしてしまった場合、企業側が嫌がらせに加担したとみなさる可能性があります。
退職代行業者から委任状や従業員の身分証明書のコピーを提示してもらい、従業員本人からの依頼であることを確認したうえで手続きをしましょう。
3.従業員に退職届の提出を依頼
本人確認ができたら、退職届の提出を依頼します。退職手続きをするうえで、従業員本人が作成した退職届の提出が必要です。ただし、従業員本人が作成した退職届を、退職代行業者が届けることは問題ありません。
退職代行業者から退職届が届いたら、内容に不備がないかを確認し、不備があれば再送を依頼しましょう。退職届に決められた様式がある場合は、事前に退職代行業者に伝えておく必要があります。
4.退職届を受理
退職届が届いたら受理し、手続きを進めます。民法第627条により、企業は正当な理由なく退職を拒否できません。従業員が退職を申し入れてから2週間後には雇用関係が終了します。
ただし、従業員と有期契約を締結している場合、原則として契約期間満了までは退職できません。しかし、パワハラをはじめとした「やむを得ない事情」がある場合は、契約期間満了前であっても退職できます。そのため、退職に至った理由と事実について確認しておくことが大切です。
また、退職代行業者を通じて従業員本人に引きとめをすることも得策ではありません。退職代行を利用している以上、従業員本人は企業に対してネガティブな感情を持っているケースが多いでしょう。退職を引きとめたところで考えを改める可能性は低いでしょう。
退職届を受理したら、退職代行業者を通じてその旨を従業員本人に伝えます。
参考:e-Gov法令検索「民法」
5.有給休暇の消化
退職届を受理したら、有給休暇の消化日数を確認し、消化させます。有給休暇は、退職後は取得できません。有給休暇を消化しなかった場合、労働基準法違反に該当する恐れがあるため、残りの有給休暇日数を計算したうえで退職日を設定する必要があります。
従業員が希望する退職日では有給休暇が消化できない場合、買い取りを求められるケースがあります。しかし、就業規則で規定されていなければ、有給休暇の買い取りはできません。有給休暇の買い取りを求められた場合は、就業規則を確認したうえで対応しましょう。
6.退職処理
退職日が決定したら、退職処理を進めます。PCや制服といった会社の貸与品や健康保険証の返却を、退職代行業者を通じて従業員本人に依頼します。退職代行を利用している以上、本人が直接届けに来ることはないでしょう。宅配便を利用して返却してもらうよう伝えましょう。
会社に私物が残っている場合もあります。その場合、処分方法を従業員本人に確認したうえで、必要であれば本人に郵送で届けましょう。退職後、源泉徴収票や離職票を郵送したら退職処理は完了です。
まとめ
退職代行とは、従業員本人の代わりに退職手続きを行うサービスです。退職代行サービス自体は10年以上前から存在していたものの、需要増加にともない弁護士事務所や外部労働組合、民間企業で退職代行を請け負うところが出てきました。
退職代行を利用したい理由として、退職の意思を言い出しにくいことだけでなく、企業側が退職を認めないケースや、給与や待遇面のトラブルが発生しているケースが挙げられます。
退職代行業者から連絡がきた場合、本記事を参考に、落ち着いて対応しましょう。
《ライタープロフィール》
ライター:田仲ダイ
エンジニアリング会社でマネジメントや人事、採用といった経験を積んだのち、フリーランスのライターとして活動開始。現在はビジネスやメンタルヘルスの分野を中心に、幅広いジャンルで執筆を手掛けている。