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産休手当(出産手当金)とはどのようなもの?

産休手当(出産手当金)とはどのようなもの?

「産休手当(出産手当金)を受け取るための条件は?」
「産休手当(出産手当金)を受けるための手続き方法を知りたい」
「産休手当(出産手当金)はいくらくらいもらえるの?」

女性にとって人生の転機のひとつとなる妊娠・出産ですが、産前産後休業中の収入の減少に不安を抱える人も少なくありません。
産休手当は、正式には「出産手当金」と呼ばれ、一般的に会社員等として働き、ご自身が健康保険の被保険者に該当している場合、一定の条件を満たすことで受給が可能です。
 
本記事では、産休手当(出産手当金)について以下のポイントに沿って解説します。
 
□   産休手当(出産手当金)とは?
□   産休手当(出産手当金)の受給条件
□   産休手当(出産手当金)の手続き方法
□   産休手当(出産手当金)のもらえる金額
□   退職したあとも申請できる?

産前産後休業期間中は給与が出ないことが多いため、産休手当(出産手当金)は生活を支える大事な収入源の一つになります。ぜひ最後まで読んで、産休手当(出産手当金)に関する不安を解消してください。

産休手当(出産手当金)とは

産休手当(出産手当金)とはどのようなもの?_1
まずは、会社等に勤める女性が出産する際にもらえる手当としては、産休手当と出産育児一時金というものがあります。本章では、産休手当の概要と、混同されやすい出産育児一時金との違いについて解説します。

制度概要

産休手当は、前述のとおり、正式には「出産手当金」といいます。健康保険の被保険者となっている女性本人が、出産のために会社を休んだ期間に対して支給される手当です。

労働基準法第65条では、出産予定の女性が、出産予定日を基準として産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の期間に休業を請求した場合には、その者を就業させてはいけないと定められています。また、産後8週間(医師が認めた場合は6週間)が経過しない女性を就業させることも同法によって禁じられています。

この期間の収入減少を補うために支給されるのが、産休手当です。

出産育児一時金との違い

産休手当(出産手当金)と似た手当に、出産育児一時金があります。産休手当(出産手当金)が産前産後休業中の被保険者の収入減少を補うものであるのに対して、出産育児一時金は「出産」そのものに対して支給される給付です。

出産育児一時金については、被保険者本人の出産に限らず被扶養者の出産でも支給される点が特徴です。

  産休手当(出産手当金) 出産一時金
対象者 被保険者 被保険者の場合は出産育児一時金、被扶養者の場合は家族出産育児一時金
支給金額 休業日数や賃金額によってことなる 一律

出産育児一時金の支給額は令和5年4月に改正され、現在は一児につき50万円となっています。双子など多胎児の場合は生まれた子どもの数に応じて支給がおこなわれます。

ただし、以下のようなケースに該当する場合には一児あたりの支給額は48.8万円となる点に注意が必要です。

□   産科医療補償制度に未加入の医療機関で出産した場合
□   在胎週数が22週未満の分娩である場合

産科医療補償制度とは、何らかの理由で出産の際に重度の脳性麻痺になった子どもとご家族に対して経済的に保障をおこなう制度のことです。

産休手当(出産手当金)の受給条件

産休手当(出産手当金)とはどのようなもの?_2

本章では、産休手当(出産手当金)をもらうための条件について解説します。ご自身の状況が該当しているかどうか、確認してみてください。
産休手当(出産手当金)の受給には、以下の条件をすべて満たす必要があります。

□   妊娠4ヶ月(85日)以後の出産である
□   出産のために休業している
□   本人が健康保険に加入している(健康保険の被保険者である)
□   休業中に給与が支払われている場合、産休手当の額よりも低い金額である

ここでの「出産」とは、妊娠4ヶ月(85日)以上の分娩であると定義されており、流産や死産も含まれています。

産休手当(出産手当金)は、健康保険に加入している被保険者本人の産前産後休業をした日数に応じて支給されます。正社員のみならず、契約社員や派遣社員であっても上記の条件に該当していれば産休手当(出産手当金)は受けられます。

ただし、出産育児一時金とは違い、配偶者等の被扶養者の産前産後休暇に対して支給されるわけではないため注意が必要です。

また、休業した日について給与が支給されている会社もあります。その場合、支払われた給与額と本来の計算に基づいた産休手当(出産手当金)の差額分が支給され、給与が産休手当(出産手当金)の額よりも多い場合には支給されません。

産休手当(出産手当金)の受給手続き

産休手当(出産手当金)とはどのようなもの?_3

産休手当(出産手当金)の手続きは以下の手順でおこないます。今回は、全国健康保険協会に申請するケースを述べていきます。

1.    「健康保険出産手当金支給申請書」を入手し、被保険者自身の情報について記入する
2.    医師または助産師の記入および証明を受ける
3.    勤務先に提出し、事業主の記入および証明を受ける
4.    全国健康保険協会(協会けんぽ)に提出する

申請用紙は、全国健康保険協会(協会けんぽ)のホームページでダウンロード可能です。

1~2までをおこない勤務先に提出すると、その後の手続きは勤務先の人事部門等の担当窓口がおこなってくれることが多いですが、本人が申請をする場合でも、直接協会に足を運ぶ必要はなく郵送で手続きができます。

なお、産休手当(出産手当金)は、産前・産後の休業期間を合わせた1回の申請だけでなく、産前・産後それぞれを2回に分けて申請することも可能です。

ただし、2回に分けて申請する場合には、各申請ごとに事業主や医師・助産師の証明をもらう必要がありますので注意しましょう。

産休手当(出産手当金)はどのくらいもらえる?

産休手当(出産手当金)とはどのようなもの?_4

ここでは、実際にどれくらいの額の産休手当(出産手当金)をもらえるのか具体例を挙げながら説明していきます。全国健康保険協会の被保険者となっている女性を例にして見ていきましょう。

産休手当の支給額は、以下の計算式で求められます。

直近1年間における標準報酬月額の平均の30分の1✕3分の2✕支給日数

標準報酬月額とは賃金を1~50の等級に振り分けて表し、毎月の社会保険料を算出する際に用いられているものです。

①    まず、標準報酬日額を求めます。
240,000✕1/30=8,000円
②    標準報酬日額の2/3が支給日額となります。
8,000✕2/3=5,330円(10円未満は四捨五入)
③    この例では104日休業しているので、もらえる産休手当(出産手当金)の総額は以下のとおりです。
5,330✕104=554,320円

産休手当(出産手当金)は退職した後も申請できる?

産休手当(出産手当金)とはどのようなもの?_5

産休手当(出産手当金)は、退職した後も申請できる場合があります。本章では、以下の2つの場合について説明します。
□   産休手当(出産手当金)をもらえる状態だった女性が、申請を忘れていた場合
□   産休手当(出産手当金)の条件を満たしていた(または支給を受けていた)女性が、退職によって被保険者資格を喪失した場合

産休手当(出産手当金)の時効は2年

産前産後休業中や復職の際に申請を忘れてしまった場合でも、2年以内であれば前述の手順に従い申請書を提出することで、産休手当(出産手当金)の申請が可能です。

産休手当(出産手当金)の時効は2年間です。時効は、出産のために労務に服することができなかった日ごとにその翌日から起算されます。
休業当時に前述した4つの条件に当てはまっていれば、あとから申請する際に退職していても問題ありません。念の為、4つの条件を再度確認しておきましょう。

□  妊娠4ヶ月(85日)以後の出産である
□  出産のために休業している
□  本人が健康保険に加入している(健康保険の被保険者である)
□  休業中に給与が支払われている場合、産休手当(出産手当金)の額よりも低い金額である

退職後でも産休手当(出産手当金)をもらえる場合がある

出産にともなって退職した場合でも、退職後の休業について産休手当(出産手当金)が支給されるケースがあります。具体的には以下の条件を満たしていることが必要です。

□  健康保険の資格喪失日の前日までに被保険者期間が継続して1年以上ある
□  資格喪失時点で産休手当(出産手当金)をもらっているか、もらうための条件を満たしている

健康保険の資格喪失日は、退職日の翌日です。注意点としては、退職日に出勤していると「出産のために休業」しているという本来の条件を満たさないため、退職日以降の産休手当(出産手当金)はもらえなくなることをおさえておくとよいでしょう。

まとめ

本記事では産前産後休業をした際にもらえる産休手当(出産手当金)について説明しました。会社に在籍している女性だけでなく、出産のために退職した人でも、一定の条件を満たしていれば申請が可能な給付です。

産休手当(出産手当金)は、産前産後休業を取得する女性にとって、生活を支える一つの安心材料となります。各条件とご自身の状況と照らし合わせて、申請漏れのないように手続きしましょう。
 


《執筆監修者プロフィール》
西本 結喜/監修兼ライター


一般企業の人事職7年目。金融業界や製造業界を経験し、業界ごとの慣習や社風の違いを目の当たりにしてきた。現場で得た知識を深めたいと社会保険労務士試験に挑戦し、令和元年度合格。現在は小売業の人事職に従事しながら、独立開業に向けた準備を進めている。

参考記事

制度そのものについて
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/ninshin/sanzen_sango.html

労働基準法第65条について
https://jsite.mhlw.go.jp/ehime-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/hourei_seido/20404/2040414.html#:~:text=1.,2.

出産育児一時金について
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3280/r145/

申請手続きについて
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/hyogo/osirase/syussannpoint.pdf
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/honbu/g2/cat230/kenkouhokenkyuufu/k_shutte2304.pdf
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/honbu/event/kohoshizai/48_sogo_syutte.pdf

出産手当金の計算方法
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r311/
出産手当の時効について
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/file/kenpodenshi202204.pdf
退職後の申請について
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r311/#q7