扶養範囲内で働くことができる年収とは?「年収の壁」について解説

扶養範囲内で働くことができる年収とは?「年収の壁」について解説

扶養内で手取りを減らさないような働き方をしたいという声は珍しくありません。扶養内で働くと、税金面での優遇や社会保険料の負担がないといった恩恵を受けられます。ただし、そのためには年収や月収が一定の範囲内に収まるように注意が必要です。

本記事では以下のポイントについて解説します。

● 扶養範囲内とは
● 扶養範囲内に影響する年収の壁
● 配偶者控除・配偶者特別控除について
● 配偶者控除・配偶者特別控除について
● 扶養に入るメリットとデメリット
● 扶養内で働くときの留意点

扶養範囲内・扶養内勤務とは

扶養範囲内で働くことができる年収とは?「年収の壁」について解説_1

まずは扶養範囲内や扶養内勤務がどのようなことを指すのかについて見ていきます。

概要

扶養の範囲内とは、会社員や公務員の配偶者や親族が税金や社会保険に関して特定の条件を満たすことで「扶養される者」として認められる状態を表します。
扶養の概念は税法上と社会保険上の2つの観点から説明され、扶養に該当すると税金や社会保険料の負担が軽減される仕組みです。以下に説明するように、税法上・社会保険上でそれぞれ扶養の条件が決まっており、その範囲内で働くことを一般的に扶養内勤務と呼んでいます。

税法上の扶養控除とは

税法上の扶養控除とは扶養家族が一定の収入以下である場合に、納税者(主たる生計維持者)の所得税や住民税が軽減される仕組みです。扶養控除を受けるためには、扶養される家族の年収が103万円以下であることが一般的な目安となります。この収入基準を満たすことで扶養控除が適用され、納税者の税負担が減少します。

扶養控除の対象者を「扶養親族」と呼び、納税者と生計を一にしている16歳以上の子どもや親などが該当します。ここに配偶者は含まれません。控除額は、扶養親族の年齢や同居の有無等によって異なります。

配偶者に関する税法上の優遇措置について、詳しくは後述の「201万の壁」や「配偶者特別控除」にて説明します。

【参考】:国税庁|No.1180 扶養控除

社会保険上の扶養とは

社会保険上の扶養とは、主に会社員や公務員として健康保険や厚生年金の保険料を支払っている人(被保険者)が、家族を自分の社会保険に加入させることができる仕組みです。これにより、扶養される側の家族(被扶養者)は、社会保険料を支払うことなく一定の保険給付を受けられます。社会保険上の扶養に入るためには、被保険者と生計を同じくしており、年収が130万円未満でなければなりません。

ただし、60歳以上や一定の障害がある方の場合は、この基準が180万円未満まで引き上げられます。被扶養者の範囲については下表で詳しく説明します。

被扶養者の範囲

対象者

被保険者の直系尊属(親や祖父母)、配偶者(事実婚含む)、子、孫、兄弟姉妹であり主として被保険者に生計維持されている者

被保険者と世帯を同じくし、主として被保険者に収入によって生計維持されている次の者

・被保険者の三親等以内の親族(直系尊属や配偶者、子、孫、兄弟姉妹を除く)
・被保険者の配偶者で、法律上の婚姻届をしていないが事実婚関係にある人の父母および子
・事実婚の配偶者が亡くなった後の父母および子

同居要件

なし

あり

このように、扶養に入れる者の範囲は被保険者とその配偶者の親族で三親等以内の者、または同一生計にある人に限られます。また、同居している場合と別居している場合で収入の基準が異なり、それぞれの生活実態に基づいて判断されます。 

【参考】:全国健康保険協会|被扶養者とは?

扶養範囲内に影響する年収の壁

扶養範囲内で働くことができる年収とは?「年収の壁」について解説_2

本章では2024年10月に控えた最新の法改正の情報も交えて、扶養に関する年収の壁について解説していきます。

98万円の壁

98万円の壁とは、住民税が非課税となるひとつの目安となるものです。年収が98万円以下の場合には、住民税がかかりません。具体的には以下の計算式のとおりです。

給与所得控除額:65万円+住民税基礎控除額:33万円=98万円

となるため、住民税が課税されない仕組みとなっています。

103万円の壁

年収103万円未満は、所得税がかかりません。税額を決定する際の計算に用いる給与所得控除55万円に加え、基礎控除が48万円となっているためです。この合計103万円を超えなければ、所得税は発生しないこととなっています。103万円の壁は税法上の扶養にあたり、パート等で働く人にとって納税義務が発生するかどうかのひとつの目安です。年収103万円を超えた場合、超えた部分に対して課税されます。

106万円の壁

「106万円の壁」とは、パートタイムやアルバイトで働く人が年収106万円を超えると、勤務先の社会保険に加入する義務が生じるボーダーラインを指します。適用条件の詳細は以下のとおりです。

● 勤務先の従業員数が101人以上(2024年10月からは51人以上)
● 月額の所定内賃金が88,000円以上
● 週の所定労働時間が20時間以上
● 雇用期間が2ヶ月を超える見込みがあること
● 学生でないこと

2022年9月までは、この「106万円の壁」は従業員数が501人以上の企業に限定されていましたが、2022年10月からは従業員数101人以上の企業にも適用範囲が拡大されています。
さらに2024年10月からは、法改正により社会保険の適用範囲がよりいっそう拡大されます。これにより多くのパートタイム労働者が社会保険の加入対象となる見込みです。なお、ここでの「従業員数」とは、厚生年金保険に加入している従業員の数を言います。

130万円の壁

年収130万円を超えた場合、社会保険の扶養から外れます。前述の「社会保険上の扶養」に記載したとおり、社会保険の被扶養者の条件が年収130万円未満となっているためです。

社会保険上の扶養から外れた場合、自分の勤務先の社会保険に加入するか、国民健康保険や国民年金に加入しなければなりません。

150万の壁

「150万円の壁」は税法上の配偶者特別控除に関するものです。配偶者の年収が150万円以下であれば、主たる生計維持者の税額計算時に最大38万円の控除を受けられますが、150万円を超えると控除額が減少していきます。
つまり150万円の壁とは、配偶者特別控除の額が減り始めるひとつの基準となるものです。

201万円の壁

201万円の壁は、配偶者特別控除が適用されなくなるボーダーラインです。配偶者の年収が150万円を超えると徐々に控除額が減少し、201万円に達すると配偶者特別控除がゼロになります。

【参考】
国税庁|No.1180 扶養控除
国税庁|No.1191 配偶者控除
国税庁|No.1195 配偶者特別控除
厚生労働省|社会保険適用拡大特設サイト 対象となる事業所・従業員について

配偶者控除・配偶者特別控除とは

扶養範囲内で働くことができる年収とは?「年収の壁」について解説_3

ここまで扶養の内容や範囲について説明しましたが、前述の「税法上の扶養控除」の対象者に配偶者は含まれません。本章では、税法上の扶養を考えるうえで勘違いされやすい配偶者に関する控除制度について解説します。

配偶者は扶養控除の対象ではない

税法上の扶養控除には配偶者も該当すると思われがちですが、配偶者は扶養控除の対象ではありません。その代わり、「配偶者控除」「配偶者特別控除」という制度が設けられています。一定の要件を満たした配偶者がいる場合、納税者の税負担が軽減されるものです。

配偶者控除の適用条件

配偶者控除を受けるには、次の条件を満たす必要があります。

1. 納税者本人の1年間の合計所得金額が1,000万円(年収1,195万円)以下であること
2. 配偶者が12月31日時点で以下の4つの要件をすべて満たすこと
 2.1. 民法規定による配偶者であること(内縁関係は対象外)
 2.2. 納税者本人と生計を一にしていること
 2.3. 年間の合計所得金額が48万円以下(給与収入がある場合103万円以下)であること
 2.4. 青色申告者の事業専従者としてその年に一度も給与の支払を受けていない
       あるいは白色申告者の事業専従者でないこと

これらの条件を満たすことで、納税者の所得から最大38万円が控除されます。

配偶者特別控除の適用条件

配偶者特別控除は配偶者の年収が103万円を超えた場合に、その所得に応じて段階的に適控除が受けられます。具体的な適用条件は以下のとおりです。
1. 納税者本人の1年間の合計所得金額が1,000万円(年収1,195万円)以下であること
2. 配偶者が12月31日時点で以下の4つの要件をすべて満たすこと
 2.1. 民法規定による配偶者であること(内縁関係は対象外)
 2.2. 納税者本人と生計を一にしていること
 2.3. 年間の合計所得金額が48万円超133万円以下(年収が103万円を超え201万円以下)であること
 2.4. 青色申告者の事業専従者としてその年に一度も給与の支払を受けていない
         あるいは白色申告者の事業専従者でないこと
3. 配偶者自身が配偶者特別控除を適用していないこと
4. 配偶者が「給与所得者の扶養控除等申告書または従たる給与についての扶養控除等申告書」に記載された「源泉控除対象配偶者がある居住者」として源泉徴収されていないこと
5. 配偶者が「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」に記載された「源泉控除対象配偶者がある居住者」として源泉徴収されていないこと

配偶者特別控除は配偶者の所得に応じて段階的に適用されるため、配偶者の収入が増えても一定の控除が受けられる点が特徴です。注意点として、配偶者特別控除は夫婦間でお互いに控除を受けることができません。それぞれが配偶者特別控除の要件を満たしていたとしても、いずれかの納税者(通常は主たる生計維持者)のみ控除が適用されます。

【参考】
国税庁|No.1191 配偶者控除
国税庁|No.1195 配偶者特別控除

扶養内で働くメリット・デメリット

扶養範囲内で働くことができる年収とは?「年収の壁」について解説_4

本章では、扶養内で働くことのメリット・デメリットを整理していきます。

扶養の範囲内で働くメリット

納税者(生計維持者)の税負担軽減
配偶者が扶養範囲内に収まるように働くことで、納税者である主たる生計維持者の税負担が軽減されます。配偶者の年収が201万円までは、税法上の配偶者特別控除が適用され、1万円から最大38万円まで納税者の所得控除が受けられます。また、配偶者や扶養親族自身も年収98万円以下であれば住民税がかからないといったメリットがあります。

社会保険料の負担免除
社会保険の被保険者の扶養に入ることで、被扶養者は保険料を自分で負担する必要がなくなります。通常は、自身の勤務先の社会保険や国民健康保険に加入しなければなりませんが、扶養に入るとその必要がなくなるためです。

国民年金保険の第3号被保険者になれる
扶養に入ると、被扶養者である配偶者のうち20歳以上60歳未満の人は国民年金の第3号被保険者として扱われます。扶養者である被保険者が会社員や公務員などで厚生年金に加入している場合に適用されるもので、加入期間によっては、被扶養者は国民年金保険料を負担せずに将来の老齢基礎年金の受給権が得られる可能性があります。

社会保険の扶養に入るデメリット

傷病手当・出産手当が支給対象外
社会保険の被扶養者の場合、健康保険から提供される一部の給付を受けることができません。具体的には、傷病手当金や出産手当金が挙げられます。これらは健康保険の被保険者本人にしか支給されないため、扶養されている家族が病気やケガ、出産をしてもこれらの手当を受け取ることはできないのです。

厚生年金の受給が対象外
扶養に入っている配偶者は厚生年金保険に加入ができないため、将来的に受け取れる年金は老齢基礎年金のみとなり、老齢厚生年金は受け取れません。そのため、厚生年金に加入している場合と比べて受給額が少なくなります。老後の収入が減少するリスクがあるため、将来的な生活設計においてこの点を十分に考慮する必要があります。

【参考】:厚生労働省|令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況

扶養内で働くときの留意点

扶養範囲内で働くことができる年収とは?「年収の壁」について解説_5

扶養内で働くためにおさえておきたいポイントとして、月収に上限があることを意識する必要があります。
月収が一定額を超えると所得税や住民税の課税や社会保険の扶養から外れることになります。職場には扶養内に留まりたい旨をしっかり伝え、自身の収入を把握することが大切です。

また、通勤手当が固定で支給されている場合、その金額は給与所得に含まれます。通勤手当を含めた総収入が扶養の範囲を超えないように注意しなければなりません。扶養内で働いていても、副業やその他の収入がある場合には、年末調整だけでなく確定申告も必要となるケースがあります。副業等の主な勤務先以外で得た年間の収入が20万円以下であれば確定申告が免除されますが、それ以上の収入がある場合には、年末調整とあわせて確定申告が必要です。

まとめ

物価高や円安など家庭生活に与える影響も大きい昨今、「手取りを極力減らしたくない」と考えるのは自然な流れと言えます。扶養に入りながら働くことは、保険料負担減や手取り額が減らないといったメリットがある一方で、一定の保険給付や将来の年金額に影響があるというデメリットも存在します。目先の生活だけでなく老後のライフプランを考慮した長期的な視点が重要です。

ライター:西本 結喜(監修兼ライター)
結喜社会保険労務士事務所 代表。金融、製造、小売業界を経験し、業界ごとの慣習や社風の違いを目の当たりにしてきたことから、クライアントごとのニーズにあわせ、きめ細やかな対応を心がけている。

話題のキーワード

    もっと見る

    お悩み解決!派遣コラム

    お仕事検索

    エリアから探す開閉

    職種から探す開閉

    業種から探す開閉

    こだわりから探す開閉