派遣で就業中に契約解除はできるの?
「契約」の重み
派遣会社との雇用契約において、どうしてもやむをえない事情がある場合には、契約期間中であっても契約を解除することは法的には可能です。ただし「なぜ辞めたいのか」について、派遣先企業に対しても派遣会社に対しても合理的に説明できる理由があるかどうかが、大きなポイントとなります。
社会人にとって「契約」はたいへん大きな意味を持っています。法律的な拘束力があり、履行できない場合は時には社会的なペナルティを受けることもあります。
派遣先企業は派遣会社との派遣契約を、一方的な理由で破棄することが認められていません。派遣契約の解除は、たとえば自社の社員も人員整理しないと倒産の可能性がある場合が考えられます。一方で派遣会社が派遣スタッフとの雇用契約を解除するには懲戒解雇されても仕方のない問題を起こしたなど、社会的にも納得できる理由が必要です。
また平成24年の派遣法改正では、万が一、派遣先企業の事情で派遣契約が途中解除された結果、派遣スタッフが派遣会社に解雇される事態となっても、派遣スタッフが多大な不利益を被らないように、派遣先企業の義務も課されました。「派遣労働者の新たな就業機会の確保」「休業手当などの支払いに要する費用の負担」といった派遣先企業の義務の設定は、派遣契約の重さを表しており、派遣契約に基づいて雇用されている派遣スタッフを保護しているといえるでしょう。
したがって、派遣契約と連動して締結されている、派遣スタッフと派遣会社間の雇用契約は、派遣会社側からは簡単に破棄できません。雇用契約法第17条には、「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」と記されており、使用者側の事情でどうしても解雇しなくてはならない場合には、派遣スタッフは相当の補償を請求できます(民法第628条)。派遣契約(とそれに連動している雇用契約)とは、それほど重みのあるものです。同じように派遣スタッフとして働いている当人にとっても、「お仕事が面白くない」「職場の雰囲気にあわない」などの理由だけでは、契約解除は難しい場合が多いと認識しておきましょう。
派遣会社と慎重に話しあいを
では派遣における雇用契約を解除する際の「やむをえない事情」とはどのようなものでしょうか。たとえば長期療養が必要な病気にかかった場合などは、社会通念上「やむをえない」と認められるでしょう。一方「お仕事の内容が事前に聞いていた説明と違う」というようなケースならいかがでしょうか。おそらく即座に「派遣契約の解除はやむをえない」とはいえないかもしれません。
派遣契約(とそれに連動した雇用契約)は派遣先と派遣会社、そして派遣会社と派遣スタッフそれぞれの合意によって成立しています。契約が正しく履行されていないのであれば、それを是正するよう求めるのも労働者の権利。こういった時には、雇用契約を締結しているのは派遣会社ですので、派遣先企業の上司に直接伝えるのではなく、まずは派遣会社の担当者に事情を説明しましょう。きっと状況が改善されるよう適切なサポートが受けられるはずです。
じつは、このような労働条件の食い違いがある場合、企業サイドと話し合える派遣会社のサポートスタッフの存在が派遣業務の大きなメリットになります。たとえばアルバイトなどの直接雇用で、同様の状況が起こった場合、会社との交渉は自分でしなければならないからです。実際、会社との話し合いのテーブルにもつけず、泣き寝入りしてしまう直接雇用のアルバイトの方の悲劇が報道されることがあります。
派遣会社は派遣スタッフが就労しやすいようサポートをおこない、派遣スタッフは重要な契約をしっかり守る。そのような双方の協力関係によって、派遣スタッフの労働環境はよりよくなっているといえるでしょう。
問題解決のために前向きな努力を
派遣スタッフであろうとなかろうと、職場やお仕事内容に問題を感じるということは、お仕事をしていればだれにでも起こりうることです。問題から目をそむけてしまうよりは、きちんと話しあい、解決のための方法を探したいもの。それが社会人としての責任ではないでしょうか。
ご自身の将来のためにも、もしこういった事態に直面した際には、雇用契約解除に踏み切るよりも前に、まずは派遣会社の担当者と一緒に前向きに問題解決に取り組みましょう。双方の勘違いや思い違いなどで問題となっているケースもあります。話し合ってみれば、とても働きやすい環境だったということも少なくありません。問題解決に向けて一歩を踏み出すことが、結果として、あなたを守り、ご自身の成長や成功にも結び付いていくのではないでしょうか。