私らしく生きる。あたらしい働き方発見インタビュー ~Vol.2~誰のため、何のために仕事をしているのか考えることが私の原動力
今回お話を伺ったのは、忙しい女性たちの心強い味方。いつでも温かくておいしいスープが気軽に食べられるスープ専門店「スープストックトーキョー(以下、SST)」を展開する株式会社スープストックトーキョー取締役兼人材開発部部長の江澤身和(えざわ みわ)さん。パートナー(アルバイト)として入社した江澤さんがどのようにしてパートナーから社員、女性初の役員になったのか、その働き方と経緯についてお話しいただきました。
ゲストハウスオーナーになる夢を叶えるため、アルバイトから社員に。
― 最初にパートナー(アルバイト)として、SSTを選んだ理由を教えてください。
きっかけはすごく単純で、学生時代の友達がSSTでパートナーとして働いていたからなんです。友達のアルバイト先という感覚で、近くに行ったら食べに寄って、スープがおいしいことも知っていました。友達が楽しそうに働く姿を見ていたので、あまり迷いはなくここで働いてみようかなと思いました。
― それは学校を卒業してすぐのことですか?
短大を卒業した後もフリーターでさまざまなアルバイトを経験していました。就職活動をせずに、やりたいこともなく本当にぼーっとしていたんです。約半年、まるっきりアルバイトもしていないニートの時期もありました。雑貨屋さんでアルバイトをしていたのですが、次の就職先も決めずに辞めようとしていて。その時に、友達がニートになることを阻止すべく「とりあえずSSTにおいでよ」と言ってくれました。その友達が面接の日程まで全部決めておいてくれて、私は履歴書を持って行くだけ(笑)。
― 飲食業への興味はあったのですか?
当時は自分の中に「いつか叶えたい夢」があって、それを叶えるには飲食業で学びたいという想いがありました。その夢というのは、カフェが併設されているようなゲストハウス。でも、社会人経験もなく、経営の勉強も一切していなかったので、飲食店で店長をやりながら学びたいという気持ちはありました。
― SSTではパートナーとして入社した翌年に正社員になられたそうですが、きっかけは何だったんでしょう?
SSTで働く前にも、他の飲食店で「社員にならないか」とお声がけいただいたことがあったのですが、そこで社員になった先の将来が見えなくて、踏み出すことはできませんでした。
SSTでパートナーとして働いてみたら、働いている人たちがまったく会社員っぽくなかったんです。ひとりひとりが良い意味で、仕事をやらされている感がなくて、現状に対して、「もっとこうしたい」とか「これは何でこうなんだろう」と話す人が多くて、すごくかっこいいなと思いました。他の職場では、なんとなく上司に言われたことをやって、でも納得はしてないから愚痴を言う、という人はよく見てきたのですが、その愚痴ではなく、ちゃんと意見として上司に伝えたり、独自で新たな取組みをする人が新鮮に見えました。また、経営という視点で学びたい意欲がある人には、SSTの規模感は得るものが大きいなとも感じました。働いている人も個性豊かでおもしろい人が多いので、このメンバーとこれからも働きたいと思ったことが理由の一つです。
― 当時、まだゲストハウスを運営したいという夢も持っていましたか?
そうですね。正社員の採用面接の時にも、人事担当に「なぜうちで社員になりたいの?」と聞かれて「ゆくゆくはゲストハウスを運営したいという想いがあるので、ここで飲食の経験だけでなく、経営を学びたいんです」と話しました。その時の面接の後半は「じゃあ、どこでどういうふうにやっていこうか」という話になって(笑)。
でも、「どういうことやりたいの?」と聞いてくれたのに、漠然としか答えられず、やりたいと思っていただけでまだ何も自分の中で固まっていないことを痛感しました。
今があるのは、ただ目の前のことをやり続けた結果
― SSTでアルバイトから社員に採用されるために必要なことは何でしょう?
まずは一緒に働いている店長と、その上司であるエリアマネージャーの推薦が必要です。ただし、その推薦をもらうには、スキルはあまり問われません。一番は「SSTの社員になって何をしたいか」をはっきりと考えているかどうかというところ。SSTが好きという人は、パートナーかお客様。社員は「好き」だけでなく、ブランドの価値を創っていく存在。「私のやりたいこと・大事にしていることが、SSTのビジョンと重なる部分があるから社員になりたい」と語れる人が必要だと思っています。
― それは、自分の夢がSSTにいるからこそ叶えられる、ということですか?
具体的に起業をしたいという人もいますが、もっと小さなことでもいいんです。私たちの理念は「目の前の方の体温を上げること」なので、「一緒に働く人を笑顔にしたり、来てくれるお客様を楽しませたい。だから、SSTで社員として働きたいんです」という理由でもいいわけです。
個人的には今のSSTに不満があったり、「もっとこうしたほうがいい」と言ってくれる人が現れたらいいなとも思っています。
― パートナーから取締役になるには、多くの努力をされたと思います。ほかの人と比べて、努力したと思うことは何だと思いますか?
受け身というわけでもないのですが、正直私はあまり上昇志向がないんです。まさかこうなるとは思っていなくて、取締役や人材開発部部長に抜擢されたのも、私が一番驚きました。努力をしたというより、今やらなければいけない仕事を、どうやったら一緒に働いている人と楽しくできるか考えてきました。店長をやっていた時も、チームで何かを成し遂げることが楽しくて夢中でしたし、エリアマネージャーになった時もチームみんなの士気を高めて、私たちが届けたい想いをどうやったら届けられるのかを考え続けていました。本当にただ、目の前のことをやり続けていただけなんです。
何のためにやっているか、誰のためにやっているか、常に自分に問いかけることを大切にしています。
― そこを大切にしないと仕事を“こなす”という考えに陥ってしまいますよね。
「この仕事は何のためにやっているんだろう」とか「これは誰のためになっているんだろう」ということは、常に伝えるようにしています。私自身、納得できないと動けないという自分の性格もわかっているので、そこは昔から妥協せず大切にしていました。
― そこが江澤さんの強みですね。
結局どんな仕事をしている時でも、「メンバーが楽しく働けるには」とか「お客様に満足してもらったり、笑顔になってもらうには」ということをずっと考えてきました。あとは「もっとこうしたい、ああしたい」と常に言ってきました。例えば、過去には、新しく入社したパートナーへのオリエンテーションの設計などにかなり力を入れてきました。数ある企業やブランドの中から、SSTを選んでくれた一人にまず伝えたいのは「感謝」であって、初日にすべきことは、まず「ブランドを好きになってもらう」ことだと考えているんです。そのためにどんな内容やふるまい、資料でそうしたことを伝えられるかなどを徹底的に考え、設計をしました。そうやって「メンバーが楽しく働けるには?」を実際にカタチにしてきたという自負も多少なりとはあります。
悩みを吹っ切る方法は口に出して言うこと
― 女性が社会で活躍するために必要なことは何だと思いますか?
SSTは女性社員が多いのですが、残念ながら女性の管理職やマネージャーが多いわけではありません。私はSSTに関して、男性社会の土俵の上で活躍してる女性たちをモデルにするのではなく、女性の強さを活かしながら活躍していける道を作らないといけないなと思っています。とはいえ、女性にも男性にも平等な“人”としての土俵を作らないと、本当の意味で女性が活躍できる社会は作れないだろうなと感じています。私もまだまだ模索中で、変えていくのはなかなか難しいですね。
― 多様な働き方を推奨する、というのも一つの手ですね。
そうですね。SSTでは男性が育休を取ることもできますし、時短勤務もママだけではなく、介護をする人や自己研鑽のために勉強の時間が必要な人なども受け入れる体制にしています。全社員が対象になるので、「私はママじゃないし」と変に悲観的になることもなくフラットな制度として受け入れられています。
― ところで、江澤さんのお話を伺うと、かなり順風満帆な人生に見える人も多いと思います。大変だったこともありますか?
もちろんあります。私は十数年この会社で働いているのですが、2回転職したくらい方向転換を余儀なくされているんです。1回目は店長から法人営業部に異動になった時。今までの店長としての経験がまったく活かせず、求められることも違ったので、「私じゃないほうがいいんじゃないか」と悲観的になってすごく悩みました。あまり人に相談するのが得意ではなくて、悩みを抱え込んでいました。
― 誰にも相談はしなかったのですか?
相談できなかったんです。当時は人に自分の弱い部分を見せるのが、すごく苦手でした。それまでは順調だったのに、初めて仕事が苦手だと思ったり、向いてないと思ったり。かなり揺れていましたね。
― そこは、どうやって乗り越えたのですか?
上司に「私、この仕事向いてないと思います」と言ったんです。そうしたら上司が一言、「向いているか向いてないかは、自分で決めることじゃない。あなたは向いていると思うよ」と言ってくれたんです。私はすごく単純なので、「あ、私は向いているんだ」って(笑)。そこで初めて、私は「何のため」「誰のため」にやっているのかが見えないと頑張れないんだとわかりました。
― その切り替えが普通はなかなかできないですよね。
根本的に負けず嫌いなのと、すごく好きな会社なだけに、ネガティブな理由で辞めることはしたくないと思っていました。もし次に行くことがあるなら、それは前向きに何かにチャレンジする時にしたいと。
2回目の転機は、人材開発部の部長になった時。同じように全然うまくいかなくて、どうしていいかわからず悩みました。例えば、店舗で働くパートナーや社員に向けて、メッセージ欄付きのクリスマスカードを配りたいという提案をしたことがあります。それは、クリスマスに、一緒に働いている仲間にねぎらいと感謝の気持ちを伝たいと思ったから。ところが、「繁忙期なので、そういうツールは現場が混乱する」という意見もありました。その時に「私たちの仕事は何のために、誰のためにあるんですか?」と改めて素直に伝えました。悩みながらも大切なことを信じて伝えていこうと思ったのです。
― 悩んだ時にやることはありますか?
悩みが吹っ切れるのは、だいたい家でお風呂に入っている時です。お風呂に入りながらぶつぶつとひとりごとを言います(笑)。紙に書いたりするより口に出すほうが私には向いているみたいです。あとは、友達と話しながら、頭の中を整理します。私にとっては、口に出すことが一番のストレス発散です。
― 仕事をする上で一番大切にしていることは何ですか?
目の前のことを全力でやることです。適当にやってしまうと、結局次につながらないですよね。
― 最後にこれからの夢はありますか?
SSTで働くひとりひとりに、ここで働いたからこそ何か得るものがあったり、次につながるようなきっかけに出会ったりしてもらいたいです。そのためには、SSTで働く社員が楽しそうだったり、希望を持ってキラキラしていたり、仕事にやりがいを感じていたり。そういうところに魅力を感じて、人が集まってくるような会社にしたいと思っています。将来的には、SSTでゲストハウスのような宿泊事業ができたらいいですね(笑)。